内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

暖衣飽食の夢

６０. 降伏宣言

「私はトットと申します！　隊長は何処に御座おわしますか！？」
「オレが隊長のバルタザークだ！　如何した！？」

トットの叫びにバルタザークが応える。すると、トットはバルタザークの元へと走り寄って跪き、合掌した。

「何用だ」

最初に口を開いたのはバルタザークであった。出来る限り冷酷な声色でトットに尋ねる。

「はい。降伏いたしたくお声を掛けさせていただきました」

バルタザークはやっとか、と思った。が、それと同時に今更かよとも思ってしまった。

「最初は突っぱねておいて、旗色が悪くなったら『降伏します』はムシが良すぎるんじゃないか？」

しかし、それでは泥沼になるとバルタザークも理解している。窮鼠猫を噛む。追い詰め過ぎては何事も良くない。

「……まぁ、降伏は認めてやるよ。条件は食糧と有り金を全部寄越せ」
「なっ！　それでは我々が飢え死ぬではありませんか！？」
「それは知らん。領主にでも泣きつけ。そのための税を払ってるんだろ。最初の降伏勧告を受け入れないからだ」

それ以後、トットは口を噤み「少し相談させてください」と言って村人たちの元に戻ろうとする。

「それは構わんが、オレは気が長い方ではないぞ。もう日も傾いてきたな。九の月も終わりの方になると日が短い。日暮れ前には片付けるつもりだ。わかるな？」

トットは一礼すると村人たちの元へと戻っていった。入れ替わりにコスタがバルタザークの元へと来る。

「受け入れると思うか？」
「さあな。どちらにしろ、オレたちのやる事には変わりは無ぇ。食糧を根こそぎ奪い取って陣地に変える、それだけだ」
「なんじゃ。村人たちは奴隷として連れて行かんのか？」

敗戦の村人は捕らえられて奴隷として売られる。これはどの時代でも同じ世の習わしである。しかし、今はそれをしたくてもできない状況にあった。

「馬鹿言え。この状況でそんなもん連れてったら無駄に食料を消費するだけだ。欲しいなら自分の食い扶持を減らすんだな」

そう言うとコスタは口を噤んでしまった。そうこうしているうちにトットがこちらへと戻ってきた。

「わかりました。その条件で降伏いたします」
「わかった。こちらも手荒な真似はしたくないんでな。広場で大人しくしていてくれ」

バルタザークは反対側に居るフィーゴとゲティスも招集した。それは今後の流れを確認するためであった。