内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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暖衣飽食の夢

54. 誤解

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セイファー歴 756年 9月11日

ジョイたちが戻ってきた。どうやら走ってきたようで館に着いた瞬間に倒れ込んでしまった。ジョイがセルジュたちに何か伝えようとしているが声が出ない。

「落ち着けって。ほら、水だ」

ジェイクが水の入った器をジョイに渡す。それを一気に飲み干して深呼吸をしてからジョイは大きな声で報告した。

「た、大変なことになりましたぁー!」



ヴェルグとボルグを兵舎へと運び、セルジュとバルタザーク、ジョイとジョルトの四人は執務室に集まった。

「なるほど。話は分かった。つまり、ボクたちが討伐した賊がベルドレッド南辺境伯の配下のもので、スポジーニ陣営が報復に躍起になっている、と」
「うん、そうだよセルジュ」

セルジュが内容を確認してジョイがその内容を肯定する。ここでバルタザークとジョルトが口を挟んできた。

「となると、オレの考えが間違っていたってことか?」
「いえ、私もベルドレッド南辺境伯閣下の元に居りましたが、かような輩は見たことがございません」
「え?」

ジョルトの出自を知らないジョイが頭に疑問符を浮かべているが、セルジュは無視することにした。今、話を横道に逸らしたくないという思いからだ。

「ジョルト。悪いんだけどベルドレッド南辺境伯に確認をとって来てくれない? 実物が無くて困ると思うけど特徴を説明して何とか理解してもらって。逼迫した状況だと言うことを理解してもらってね」
「かしこまりました」

ジョルトは二つ返事で了承すると踵を返して執務室から退出した。早速向かうようだ。

「バルタザーク。最悪、どうなると思う?」
「そりゃ、最悪は戦だろうよ。こうなっちまっては東さんには大義名分があるからな。南さんに賠償を求めるだろうさ。そこで済めば御の字。済まなけりゃ……」

セルジュは頭を抱えた。父を失った戦が再び起ころうとしている事態に対して。

「……もし、戦となったら何人ぐらい引き連れて参戦すれば良いだろ」
「坊の爵位と領土から言うと一〇人は必須だな」
「そうか。じゃあ、今のうちから傭兵の手配をしなくちゃ。最低でも五人は必須だ。頼める?」
「わかった。知り合いのとこに声を掛けてみよう」

セルジュは戦には子どもたち――自分が子どもなのは置いていて――を連れて行きたくないと考えていた。となると、セルジュにバルタザーク、ダンドンとドージェとデグの三人で五人だ。半分足りない。

セルジュはバルタザークにスポジーニ東辺境伯からもらった報奨金を全て渡した。

「まだ戦と決まったわけじゃないけど準備しておいて損はないな」

『必ず最悪を想定して準備しろ』

父の言葉が思い出される。セルジュはこの事実を隣のリベルトにも伝えることにした。



セイファー歴 756年 9月12日

「それは事実か!?」

ベルドレッド南辺境伯がモパッサとその後ろにいるジョルトに詰め寄る。モパッサの長髪から垣間見れる瞳から当人の動揺が窺い知れる。

「誠にございます。現に我が主のセルジュ卿は戦の準備に取り掛かっております」

そのモパッサに代わって返答したのがジョルトだ。本来であれば許されない行為ではあるがジョルトはモパッサにも恩がある。半ば気を利かせた形となった。

「むぅ。俄かには信じがたいがな。どんな人物だと申した?」
「はっ。それは……」

ジョルトが状況を説明しようとしたところでベルドレッド南辺境伯の元に一人の衛兵が駆け寄ってきた。

「至急のご報告です! 城門前にスポジーニ東辺境伯の家臣であるダドリック殿が兵を引き連れて参られました!」

兵は神速を貴ぶとは正にこのことだろう。スポジーニ東辺境伯側はベルドレッド南辺境伯側に準備をさせない為に馬を乗り潰してきたのだ。ベルドレッド南辺境伯が重い口を開く。

「……要件は?」
「村を襲撃した件に関して、とのことです」

衛兵の回答を聞いてジョルトの発言が真実だと理解したベルドレッド南辺境伯は頭を抱えてイスに深く座り込んだ。

「応接間に通せ。今さら追い返すわけにもいかん」

ベルドレッド南辺境伯は頭を切り替えて服を正し、モパッサと共に応接間へと赴く用意をする。

「どうやら其方の報告は正しかったようだな」

ベルドレッド南辺境伯がジョルトに視線を移してそう呟く。ジョルトはただ頭を下げるばかりだ。そこでモパッサがベルドレッド南辺境伯に尋ねた。

「して、如何しましょう」
「どうするも何も向こうの言い分を聞いてみないことには何とも言えん」

ベルドレッド南辺境伯は置いてあった水を一気に飲み干してから、モパッサを連れて応接間へと足を向けていった。
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