内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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暖衣飽食の夢

53. ダンドンの熱意

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「気を取り直してダンドンの模擬戦を行いましょうか」

セルジュが明るい声で仕切り直した。しかし、それを打ち消すようにバルタザークが小声で呟く。

「やらなくて良いんじゃねぇか」

事実、セルジュもそう思っていた。しかし、ここまで来てしまったのだから引き返すことはできないだろう。

「じゃあ次はダンドンだね。こっちは誰がやる?」
「オレがチャチャっと終わらせてくるわ」

バルタザークが中庭の中心に進み出た。それを見てダンドンも進み出て剣を正眼に構える。それに対しバルタザークは剣をだらんと持っているだけだ。

「はい、開始」

セルジュが開始を宣言すると同時にダンドンが素早いダッシュで距離を詰める。低い姿勢でバルタザークの懐に潜り込んで切り上げた。

バルタザークはそれを身を反らして躱し、木剣を雑に横薙ぐ。ダンドンはその横薙ぎを剣を使って上手く上部へと逸らして距離を取った。

「ほう、お前さんはちょっとはやるようだな」
「伊達に歳をとってるわけではないのでね」

バルタザークは剣を構え直した。木剣を横に寝かせた構えだ。そこからプロボクサーも驚愕のダッシュで距離を詰めると、その長い腕を生かしてダンドンの左胸を一突きした。

「ぐっはっ!」

そのまま後ろに突き飛ばされるダンドン。やっとスッキリとする勝敗がついた瞬間でもあった。

「そこまで! 勝者、バルタザール!!」

セルジュが高らかに宣言する。どうやらダンドンはすぐに起き上がれないようであった。ドージェとデグが介抱に向かう。

「お疲れさま。どう?」

セルジュは戻ってきたバルタザークに尋ねる。バルタザークは木剣で肩を叩きながら答えた。

「んー、まぁ弱いわな。雇う価値は無いだろうよ」
「そうか、わかった。じゃあ、ボクの好きなようにして良い?」
「そりゃな。お前が領主だ。最終的な決定権は任せる」

バルタザークはそれだけを言い残して館の中へと戻っていた。セルジュは二人にも話を聞く。

「ジェイク、ジョルト。どうだった?」
「そうですね。素直な槍捌きだとは思いました。研鑽も積んでいるのでしょうが、お世辞にも強いとは言い難いですね」
「まぁ……タフさには定評があるんじゃねーの?」

二人ともお世辞にも高評価と言う訳ではないようであった。セルジュはドージェに目が覚めたら館に来るよう伝えてから執務室へと戻った。

ダンドンたちがやって来たのはセルジュたちが館に戻って数分後であった。ダンドンは身を縮こめながら執務室に入室する。

ダンドンはセルジュが話しかける前に深々と頭を下げながら自身の自惚れを反省した。薄くなっているのか頭皮が見えている。

「優秀な人材などと言う自惚れ、恥じ入る思いでございます」

これに驚いたのはセルジュであった。まさか素直に頭を下げるとは思ってもみなかったからだ。人間、歳をとると素直に成れなくなってくるものである。しかし、ダンドンは違っていた。

「頭をあげてください。私はお三方を召し抱えたいと思っております」

この言葉にはその場にいた全員が驚きを隠せなかった。バルタザークは少し苛立っていただろう。しかし、セルジュとて是が非でも囲い込みたいわけではない。

「とは言え、ボクも貧乏領主なのでお給金などは払えません。払えませんが、衣食住の保証はしましょう。これで良ければ……」
「構いません! ぜひ、是非に!」

セルジュが全てを言い終わる前にダンドンはじめとする三人はセルジュに対して跪き頭を下げたのであった。後ろの二人も頭を下げたという事は総意と見て良いのだろう。

セルジュはジョルトに三人に部屋を割り当てるよう命じた。今回は三人で一部屋だ。少し狭いが我慢してもらうことにしよう。

ジョルトがあてがう部屋を決めて三人を案内しながら執務室を退出する。そして、ジョルトと三人が退出した後にジェイクが当然の文句をセルジュに投げ掛けた。

「なんであんな奴ら採用したんだ? 全然弱っちぃ奴らじゃん!」

黙ってはいたがバルタザークも同じ思いである。これは誤解を解いておかねばならないと考えたセルジュは自身の考えを二人にしっかりと伝えることにした。

「うん、『まずは隗より始めよ』と言ってね、凡庸な人間が重用されていたら仕官先を探している人物はどう思う?」
「そりゃあ自分の方が優秀だって売り込みに来るだろ」
「そういうこと。より優秀な人材を確保するための、いわば餌みたいなもんだよ。それに基礎はあるようだから邪魔にはならないだろう」

こう説明し、セルジュは二人を納得させた。しかし、セルジュには三人を採用した理由は他にもあった。そしてセルジュは三人を採用して良かったと思うのであった。
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