内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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暖衣飽食の夢

52. 仕官

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時を同じくしてアシュティア領。
ジョイたちを見送ったセルジュの元にある一団がやって来た。その数は三人である。

「ここの領主であるセルジュ殿にお目通り願いたい」

この集団の代表であろう男性が館の前を掃除していたドロテアの前に進み出でてそう願い出た。ドロテアは軽く頭を下げて館の中にいるセルジュの元へと駆け出した。

「あのー、お坊ちゃま?」
「ん? なに」

セルジュは執務室で木を彫っていた。何やら駒を作っているようだ。

「表に坊ちゃまに会いたいという集団が来ているんですけど」
「えー。わかった。応対しておくからドロテアはバルタザークを連れて来てくれないかな」

セルジュは用心のために手近に居たジェイクほか三名を連れて表に出る。すると確かに中肉中背の男が三人、所在なさげに佇んでいた。

「私が領主のセルジュです。何か御用でしょうか」

話には聞いていたのだろう。三人は驚くこともなくセルジュに向かってこう述べた。

「お初お目に掛かります。私はダンドンと言う者です。こっちがドージェでこっちがデグ」

ダンドンと言う男は三十代の半ばくらいだろうか。表情には覇気が無く疲れたサラリーマンのようであった。前髪が簾のようになってきている。余程苦労したのだろう。

そして右後ろに控えているのがドージェ。身体が大きい。ただその大きいベクトルがガッシリではなくポヨポヨなのが問題だ。食費が掛かりそうな身体つきだとセルジュは思った。

最後がダンドンの左後ろに居るデグ。彼は常に髪を弄っている。どうやらセットが不満のようだ。彼がまとっている服は独特で胸元が大きく開いている。

「行商の方から優秀な人材を募集していると伺いましてな。これはと思い馳せ参じた次第に」

セルジュは得心がいった。昨年の初夏に募集していた話を聞きつけてここまできたのだろう。確かに人材は十全ではない。話だけは聞いてみることにする。丁度、その時にバルタザークがセルジュの元へと合流した。

「それでは皆一様に腕に覚えがあると言うことでしょうか」
「ええ、それはもちろんでございます!」
「じゃあ、その腕を少し見せてもらおうかな」

セルジュたちは場所を不傾館の入口から中庭へと場所を移した。もちろん模擬戦を行うためである。

「皆さんの得物は?」
「私は剣で」
「オラはメイスだよ」
「我は槍だ」

セルジュはそれぞれに木製の武器を渡していく。ただ、メイスのようなものが無かったため、ドージェには木の棒で我慢してもらった。

「よし、じゃあまずは誰から行く?」

セルジュはバルタザークに話しかける。どうやらチームダンドンはデグが先鋒のようだ。

「よし、じゃあジョルト。行って来い」
「はい」

チームバルタザークの先鋒はジョルトになったようだ。ジョルトはどんな武器でもそれなりに戦えるオールラウンダーだが、今回も相手と同じ得物を選んだようだ。

「じゃあ、始め!」

セルジュが合図を出すとデグが素早い突きを繰り出した。それを難なく避けるジョルト。デグは連続で突きを繰り出しジョルトがそれを避けるという構図で落ち着いた。セルジュはその趨勢をハラハラしながら見守っていたがバルタザークは余裕の表情だ。

終いには「勝負あったな。これはジョルトの勝ちだ」などと言い出す始末。セルジュはその真意をバルタザークに尋ねることにした。そして帰ってきた言葉がこれだ。

「お前にゃわからんだろうが、ジョルトには相手の筋が良く見えている。危なげなく避けているな。このままだとナルシスト野郎は疲弊して終わりだぞ」

しかし、デグに奥の手などは無く、意気が上がる寸前で大きく距離を取った。肩で呼吸をしているのがセルジュの場所からでもわかった。

「キミ、中々やるようだね。ここはキミに価値を譲ってあげるよ。なんと言っても我は大人だから、な」

そう言うとデグは槍を持ったままセルジュの元へと向かってきた。呆気にとられているジョルト。本人もこんな終わり方をするとは思ってもみなかったようだ。

「えーと、ジョルトの勝ちってことで良いのかな。じゃあ次は……」

デグは一生懸命髪型を直していた。セルジュはそんなデグには目もくれず次の対戦相手に目をやる。順番的にはドージェだろう。そう考えていたらやっぱりそうだった。

「よし、じゃあこっちはお前だ。派手にぶちかませ!」
「うっす!」

そう言ってバルタザークに背中を叩かれたのはジェイク。よろけながらもドージェの眼前に相対しガンを飛ばす。ドージェは恐らく優しい人物なのだろう。目を合わせずにメイスを構える。

「はーい。では、始めー」

セルジュの声にもどことなくやる気が感じられない。しかし、そのセルジュのやる気とは裏腹にジェイクは開始の合図とともにドージェへと襲い掛かっていった。

「うおぉぉらっしゃ!」

ジェイクは自身と同じくらい大きな剣をドージェ目掛けて振り下ろす。ドージェもその体躯に見合った力でジェイクの攻撃を弾き返した。

「お、やっとまともな模擬戦になって来たな」

バルタザークがそう溢す。セルジュもその通りだと一人静かに頷いていた。

今度は先程とは打って変わってジェイクが主導権を握っているようだ。袈裟斬り、薙ぎ、突きとバリエーション豊かにドージェを攻め立てる。

そこで、セルジュはあることに気が付いた。良く目を凝らしてみるとジェイクの攻撃がドージェに当たってるではないか! ジェイクの突きがドージェのお腹に深々と刺さる。刺さるが、所詮は木剣。

「いたぁい」

とドージェが言うだけである。しかし、何事もなかったかのようにジェイクの攻撃を防ぐ――いくつかは防ぎきれてないが――ドージェ。

「ストップ! ストーップ!!」

たまらずセルジュは双方に一時停止を申し付けた。

「なんだよ。今、良いとこなんだぞ?」

ジェイクが額の汗を拭いながらセルジュに文句を垂れる。しかし、セルジュとしてはそれを許容している場合では無いのだ。

「えーと、ドージェさん? ジェイクの攻撃、いくつか当たってましたよね?」
「うん。いたいぃ」

だろうな、とセルジュは思った。ドージェのお腹に赤い線が入っている。ジェイクの斬線の後だろう。ここでセルジュは悩んだ。それはこの模擬戦を止めるか否かである。

これが真剣であればドージェは切られていただろう。しかし、実戦であればドージェは鎧と身に着けているに違いない。であれば、斬撃は鎧に弾かれているはずだ。

「ドージェさん。鎧を身に着けてもらって良いですか?」
「鎧、ない。身体に合わない」
「「・・・・・・」」

一同、開いた口が塞がらなかった。鎧が無いにも関わらず戦場へ赴いていたのだろうか。その心胆は素直に称賛に価するとセルジュは感じていた。

「とりあえず模擬戦は中止で」

セルジュは軽い立ち眩みに見舞われたのであった。
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