52 / 91
暖衣飽食の夢
49. 殲滅作戦
しおりを挟む
セイファー歴 756年 9月7日
バルタザークが不傾館へと戻ってきた。そして戻ってくるなり兵士全員に休息を与え本人も自室に戻って高いびきをかき始めた。
事態が呑み込めず右往左往しているセルジュに遅れて到着したジェイクたちが事情を説明する。もちろん、青年も連れて。
「なるほど。アシュティア領の領主を務めておりますセルジュ=コンコール=アシュティアです。どこのどなたか存じ上げませんが助太刀ありがとうございました」
「いえいえ。偶々通りがかっただけです。さすがに子どもに人殺しはよろしくないとお節介ながら手助けした次第で。本当は領主に文句の一つでもと思ったのですが、領主さまも子どもではありませんか」
青年はおどけたような表情をする。なんだか掴みどころのない人物だ。
「人が足りてなくてね。ええと……名前は?」
「名乗るほどの者では。それでは急いでおりますので」
青年は言ってみたい台詞ランキングで必ず上位に食い込むであろう台詞を残して足早に去って行った。
「せめて何か恩返ししたかったんだけどなぁ」
「本人が要らないと言ってるのですから良いではありませんか。それより報告を続けても」
「あ、うん」
セルジュが不満そうに口を尖らすと、それを嗜めるようにジョルトが言い放って報告を続けた。賊は全員で十五人であることと五人を倒したことを告げた。
「それであの馬鹿が持ってるのが賊の剣と言う訳か」
ジェイクが賊から奪ってきた剣を一心不乱に磨いている。その剣は少し重たいが刀身は鏡の様に磨かれており一目で良いものだとわかる。ジョイはそんなジェイクを兵舎まで引き摺り無理やり休息をとらせていた。
「村へ報復する可能性は無い?」
「全くないとは言い切れませんが、彼の拠点には豊富に食糧があったので考えにくいでしょう」
かなり分の悪い賭けだとセルジュは感じていた。アシュティア村に兵士はおらず、攻め込まれてはこちらの分が悪い。だが、これはセルジュの杞憂に終わった。と言うのも普通であれば退いたバルタザークたちはアシュティア村に駐留していると考え、賊たちが手を出すのは躊躇われるだろう。
「問題は残り一〇人をどう片付けるか、ですね」
「うん、でもそれはバルタザークに任せよう。ジョルトも備えて休んでおいて」
「はっ」
ジョルトは短い返事を返して兵舎へと向かっていった。セルジュはこれに関してはもう関わるつもりはない。バルタザークを信じて一任するつもりであった。
「さぁ日が傾いてきた。今日で終わらせるぞ!」
バルタザークは全員を集めて開口一番にこう叫んだ。二十三人の兵士たちを集めてバルタザークは自身の考えをみんなに伝えた。
「いいか、まずはジョイと新兵の十一人で敵の前へと進みでる。そして新兵たちは一目散に逃げ帰れ。奴らは絶対に追ってくるから隠れていた残りの十二人の弓で蜂の巣にしてやれ」
「「はいっ!」」
統制のとれた返事が兵舎に響き渡る。それを踏まえて二十三名が準備を一斉に始めた。新兵は死傷率を少しでも下げるために装備を厚めにして武器を少なくする。
逆に十三人の仕留め役はというと矢を大量に所持していた。これで準備は万端である。
「よし、じゃあアシュティア村まで移動開始! 駆け足!!」
バルタザークの指示のもと月明りだけが照らす中、隊列を維持しながらアシュティア村まで駆けて行った。幸いにも村はまだ襲撃されていなかったので、村を拠点として賊の居場所を探ることにした。
前回同様、バルタザークは二人一組にして付近を捜索させた。賊は一時間もしないうちに見つかった。と言うのも、前回と同じ場所に居たからだ。
その報告を聞いたバルタザークは兵を潜ませる地点を探すことにした。兵を半分に分けて向かい合わせにすると同士討ちの危険がある。
そのため、深めの茂みの中に兵をLの字に配置して潜ませた。もちろん自分もここに隠れるつもりである。そしてジョイに指示を出すと、ジョイは新兵を引き連れて賊の前にわざと姿を現したのであった。
バルタザークが不傾館へと戻ってきた。そして戻ってくるなり兵士全員に休息を与え本人も自室に戻って高いびきをかき始めた。
事態が呑み込めず右往左往しているセルジュに遅れて到着したジェイクたちが事情を説明する。もちろん、青年も連れて。
「なるほど。アシュティア領の領主を務めておりますセルジュ=コンコール=アシュティアです。どこのどなたか存じ上げませんが助太刀ありがとうございました」
「いえいえ。偶々通りがかっただけです。さすがに子どもに人殺しはよろしくないとお節介ながら手助けした次第で。本当は領主に文句の一つでもと思ったのですが、領主さまも子どもではありませんか」
青年はおどけたような表情をする。なんだか掴みどころのない人物だ。
「人が足りてなくてね。ええと……名前は?」
「名乗るほどの者では。それでは急いでおりますので」
青年は言ってみたい台詞ランキングで必ず上位に食い込むであろう台詞を残して足早に去って行った。
「せめて何か恩返ししたかったんだけどなぁ」
「本人が要らないと言ってるのですから良いではありませんか。それより報告を続けても」
「あ、うん」
セルジュが不満そうに口を尖らすと、それを嗜めるようにジョルトが言い放って報告を続けた。賊は全員で十五人であることと五人を倒したことを告げた。
「それであの馬鹿が持ってるのが賊の剣と言う訳か」
ジェイクが賊から奪ってきた剣を一心不乱に磨いている。その剣は少し重たいが刀身は鏡の様に磨かれており一目で良いものだとわかる。ジョイはそんなジェイクを兵舎まで引き摺り無理やり休息をとらせていた。
「村へ報復する可能性は無い?」
「全くないとは言い切れませんが、彼の拠点には豊富に食糧があったので考えにくいでしょう」
かなり分の悪い賭けだとセルジュは感じていた。アシュティア村に兵士はおらず、攻め込まれてはこちらの分が悪い。だが、これはセルジュの杞憂に終わった。と言うのも普通であれば退いたバルタザークたちはアシュティア村に駐留していると考え、賊たちが手を出すのは躊躇われるだろう。
「問題は残り一〇人をどう片付けるか、ですね」
「うん、でもそれはバルタザークに任せよう。ジョルトも備えて休んでおいて」
「はっ」
ジョルトは短い返事を返して兵舎へと向かっていった。セルジュはこれに関してはもう関わるつもりはない。バルタザークを信じて一任するつもりであった。
「さぁ日が傾いてきた。今日で終わらせるぞ!」
バルタザークは全員を集めて開口一番にこう叫んだ。二十三人の兵士たちを集めてバルタザークは自身の考えをみんなに伝えた。
「いいか、まずはジョイと新兵の十一人で敵の前へと進みでる。そして新兵たちは一目散に逃げ帰れ。奴らは絶対に追ってくるから隠れていた残りの十二人の弓で蜂の巣にしてやれ」
「「はいっ!」」
統制のとれた返事が兵舎に響き渡る。それを踏まえて二十三名が準備を一斉に始めた。新兵は死傷率を少しでも下げるために装備を厚めにして武器を少なくする。
逆に十三人の仕留め役はというと矢を大量に所持していた。これで準備は万端である。
「よし、じゃあアシュティア村まで移動開始! 駆け足!!」
バルタザークの指示のもと月明りだけが照らす中、隊列を維持しながらアシュティア村まで駆けて行った。幸いにも村はまだ襲撃されていなかったので、村を拠点として賊の居場所を探ることにした。
前回同様、バルタザークは二人一組にして付近を捜索させた。賊は一時間もしないうちに見つかった。と言うのも、前回と同じ場所に居たからだ。
その報告を聞いたバルタザークは兵を潜ませる地点を探すことにした。兵を半分に分けて向かい合わせにすると同士討ちの危険がある。
そのため、深めの茂みの中に兵をLの字に配置して潜ませた。もちろん自分もここに隠れるつもりである。そしてジョイに指示を出すと、ジョイは新兵を引き連れて賊の前にわざと姿を現したのであった。
0
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる