内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

inu

文字の大きさ
上 下
50 / 91
暖衣飽食の夢

47. 厳戒態勢

しおりを挟む
セイファー歴 756年 8月25日

この日、セルジュは不傾館の前の土地を一心不乱に耕していた。前回のアシュティア村の前と同様にこれからビーグとカブラを育てるためである。

「おら! ちんたらすんな! さっさと走れ!!」

遠くからバルタザークの声が聞こえてきた。何だか去年と同じだとセルジュは既視感に苛まれた。と言うのもセルジュは新しく兵を十名ばかし雇うことにした。

本当は雇うつもりはなかったのだが、アシュティア村とコンコール村で食い減らしのために、数人の子そもが捨てられそうになってしまったのだ。

そうなっては流石に忍びないと思い、無理を承知でセルジュは皆を常備兵へと取り立てることにしたのだ。家計は既に火の車なのに、油を注いだ形となってしまったが死なれるよりはマシだろう。

バルタザークからは二部隊も見ることが出来ないとの苦情が上がったので、新しく入った新兵たちはずっと走らせることにした。戦場で生き残る逃げ足を鍛えるのだ。

「俺たちも死ぬほど走ったなぁ」

そう言いながら鍬を振るうジェイク。今日は非番と言うことでセルジュに引っ張って連れてこられたのであった。

「現実逃避してないで、さっさと耕してよ」
「ってもよぉ、ここ全部だろ?」
「うん」

ジェイクが示したココと言う場所はサッカーのフィールドの半分はあるだろう。それを二人で人力で耕そうと言うのだ。ジェイクが嫌になるのも頷くことが出来る。

「二人じゃないぞ。後からジョイとジョルトも加わってくれる約束だからな。ほら、ぼさっとしてないで耕す!」

こうしてみんなの力を借りて九月に入る前に館の前の土地を耕すことに成功したのであった。



セイファー歴 756年 9月2日

セルジュは一人で種を蒔いていた。と言うのも他の面々を借りることが出来なかったからである。借りれなかったのはセルジュのイヤな予感が的中してしまったせいだ。

「はぁ」
「お疲れ様です。坊ちゃま」

ドロテアが汗にまみれたセルジュの首筋を拭う。セルジュはそのまま顔をあげるとドロテアが額から頬までを優しく拭いてくれた。

「全くだよ。まさかスポジーニ東辺境伯領に賊が現れるなんて夢にも見なかったよ」
「こちらにこないと良いんですけど」

スポジーニ領に賊が現れたのである。どこからやって来たのかはわからないがアシュティア領から一番近いデレフ村か襲われたと一昨日に知らせが入った。そのため、バルタザークたちは厳戒態勢を敷いて北側へと向かっているのだ。

「アシュティア村のムグィラはここに運び終わった?」
「ええ。当面の分以外はこちらに運び込んだとのことです」

セルジュは今年の収穫の八割を不傾館の食糧庫で保管することにした。何も税率を上げたわけではない。万が一、襲われた時のことを考えてである。雪が降る前に三割、雪が解けた後に三割の食糧を返す約束だ。

これはコンコール村でも同様の措置を取ることにした。いわば配給制みたいなものである。もちろん、今回だけの特例措置であるが。

種蒔きはドロテア指導の下、ホップズやレスリーはもちろんオデットやクララにも手伝ってもらうことにした。お陰で早く終わりそうだとセルジュは歓喜した。いくら若いと言えど、腰が痛くなってきたのだ。

「いやはや、精が出ますねぇ、はい」

腰が痛くなったので館の方へと戻ると、そこにはビビダデが荷馬車に腰掛けていた。

「ビビダデか。丁度良いね、食い物を売ってくれ」
「はいはい、そう言われると思いましたですよ」

そう言ってビビダデが取り出したのはムグィラの袋であった。中にはムグィラがニ〇キロほど入ってるだろう。全部で十袋はあった。つまり、大樽一杯分だ。

「このムグィラ、今ならなんと一袋金貨一枚でお売りしますよ」

セルジュはまさかの値段に炒めた腰を抜かすところであった。相場の百倍以上の値段である。いくら何でもそれは高いと感じていた。

「いや、買わないのであれば構わないです。余所に売りますので、はい」
「ちょっと待って! ……わかった。それで買おう」

館から金貨を十枚持って来てビビダデに渡す。せっかく余裕が出てきたと思っていたが、気を抜いた瞬間に一気に持って行かれてしまう怖さをセルジュは感じていた。

「次の飢饉では気を付けてくださいね」
「肝に銘じておくよ」
「おや、飢饉が起きないように祈るわけではないのですね」
「飢饉なんて起きないようにすることはできないからね。せめて自領だけでも護れるようにするさ」

セルジュはこの苦い経験を今後の糧にすべく、領の拡大計画と農業計画を見直すことにするのであった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...