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暖衣飽食の夢
47. 厳戒態勢
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セイファー歴 756年 8月25日
この日、セルジュは不傾館の前の土地を一心不乱に耕していた。前回のアシュティア村の前と同様にこれからビーグとカブラを育てるためである。
「おら! ちんたらすんな! さっさと走れ!!」
遠くからバルタザークの声が聞こえてきた。何だか去年と同じだとセルジュは既視感に苛まれた。と言うのもセルジュは新しく兵を十名ばかし雇うことにした。
本当は雇うつもりはなかったのだが、アシュティア村とコンコール村で食い減らしのために、数人の子そもが捨てられそうになってしまったのだ。
そうなっては流石に忍びないと思い、無理を承知でセルジュは皆を常備兵へと取り立てることにしたのだ。家計は既に火の車なのに、油を注いだ形となってしまったが死なれるよりはマシだろう。
バルタザークからは二部隊も見ることが出来ないとの苦情が上がったので、新しく入った新兵たちはずっと走らせることにした。戦場で生き残る逃げ足を鍛えるのだ。
「俺たちも死ぬほど走ったなぁ」
そう言いながら鍬を振るうジェイク。今日は非番と言うことでセルジュに引っ張って連れてこられたのであった。
「現実逃避してないで、さっさと耕してよ」
「ってもよぉ、ここ全部だろ?」
「うん」
ジェイクが示したココと言う場所はサッカーのフィールドの半分はあるだろう。それを二人で人力で耕そうと言うのだ。ジェイクが嫌になるのも頷くことが出来る。
「二人じゃないぞ。後からジョイとジョルトも加わってくれる約束だからな。ほら、ぼさっとしてないで耕す!」
こうしてみんなの力を借りて九月に入る前に館の前の土地を耕すことに成功したのであった。
セイファー歴 756年 9月2日
セルジュは一人で種を蒔いていた。と言うのも他の面々を借りることが出来なかったからである。借りれなかったのはセルジュのイヤな予感が的中してしまったせいだ。
「はぁ」
「お疲れ様です。坊ちゃま」
ドロテアが汗にまみれたセルジュの首筋を拭う。セルジュはそのまま顔をあげるとドロテアが額から頬までを優しく拭いてくれた。
「全くだよ。まさかスポジーニ東辺境伯領に賊が現れるなんて夢にも見なかったよ」
「こちらにこないと良いんですけど」
スポジーニ領に賊が現れたのである。どこからやって来たのかはわからないがアシュティア領から一番近いデレフ村か襲われたと一昨日に知らせが入った。そのため、バルタザークたちは厳戒態勢を敷いて北側へと向かっているのだ。
「アシュティア村のムグィラはここに運び終わった?」
「ええ。当面の分以外はこちらに運び込んだとのことです」
セルジュは今年の収穫の八割を不傾館の食糧庫で保管することにした。何も税率を上げたわけではない。万が一、襲われた時のことを考えてである。雪が降る前に三割、雪が解けた後に三割の食糧を返す約束だ。
これはコンコール村でも同様の措置を取ることにした。いわば配給制みたいなものである。もちろん、今回だけの特例措置であるが。
種蒔きはドロテア指導の下、ホップズやレスリーはもちろんオデットやクララにも手伝ってもらうことにした。お陰で早く終わりそうだとセルジュは歓喜した。いくら若いと言えど、腰が痛くなってきたのだ。
「いやはや、精が出ますねぇ、はい」
腰が痛くなったので館の方へと戻ると、そこにはビビダデが荷馬車に腰掛けていた。
「ビビダデか。丁度良いね、食い物を売ってくれ」
「はいはい、そう言われると思いましたですよ」
そう言ってビビダデが取り出したのはムグィラの袋であった。中にはムグィラがニ〇キロほど入ってるだろう。全部で十袋はあった。つまり、大樽一杯分だ。
「このムグィラ、今ならなんと一袋金貨一枚でお売りしますよ」
セルジュはまさかの値段に炒めた腰を抜かすところであった。相場の百倍以上の値段である。いくら何でもそれは高いと感じていた。
「いや、買わないのであれば構わないです。余所に売りますので、はい」
「ちょっと待って! ……わかった。それで買おう」
館から金貨を十枚持って来てビビダデに渡す。せっかく余裕が出てきたと思っていたが、気を抜いた瞬間に一気に持って行かれてしまう怖さをセルジュは感じていた。
「次の飢饉では気を付けてくださいね」
「肝に銘じておくよ」
「おや、飢饉が起きないように祈るわけではないのですね」
「飢饉なんて起きないようにすることはできないからね。せめて自領だけでも護れるようにするさ」
セルジュはこの苦い経験を今後の糧にすべく、領の拡大計画と農業計画を見直すことにするのであった。
この日、セルジュは不傾館の前の土地を一心不乱に耕していた。前回のアシュティア村の前と同様にこれからビーグとカブラを育てるためである。
「おら! ちんたらすんな! さっさと走れ!!」
遠くからバルタザークの声が聞こえてきた。何だか去年と同じだとセルジュは既視感に苛まれた。と言うのもセルジュは新しく兵を十名ばかし雇うことにした。
本当は雇うつもりはなかったのだが、アシュティア村とコンコール村で食い減らしのために、数人の子そもが捨てられそうになってしまったのだ。
そうなっては流石に忍びないと思い、無理を承知でセルジュは皆を常備兵へと取り立てることにしたのだ。家計は既に火の車なのに、油を注いだ形となってしまったが死なれるよりはマシだろう。
バルタザークからは二部隊も見ることが出来ないとの苦情が上がったので、新しく入った新兵たちはずっと走らせることにした。戦場で生き残る逃げ足を鍛えるのだ。
「俺たちも死ぬほど走ったなぁ」
そう言いながら鍬を振るうジェイク。今日は非番と言うことでセルジュに引っ張って連れてこられたのであった。
「現実逃避してないで、さっさと耕してよ」
「ってもよぉ、ここ全部だろ?」
「うん」
ジェイクが示したココと言う場所はサッカーのフィールドの半分はあるだろう。それを二人で人力で耕そうと言うのだ。ジェイクが嫌になるのも頷くことが出来る。
「二人じゃないぞ。後からジョイとジョルトも加わってくれる約束だからな。ほら、ぼさっとしてないで耕す!」
こうしてみんなの力を借りて九月に入る前に館の前の土地を耕すことに成功したのであった。
セイファー歴 756年 9月2日
セルジュは一人で種を蒔いていた。と言うのも他の面々を借りることが出来なかったからである。借りれなかったのはセルジュのイヤな予感が的中してしまったせいだ。
「はぁ」
「お疲れ様です。坊ちゃま」
ドロテアが汗にまみれたセルジュの首筋を拭う。セルジュはそのまま顔をあげるとドロテアが額から頬までを優しく拭いてくれた。
「全くだよ。まさかスポジーニ東辺境伯領に賊が現れるなんて夢にも見なかったよ」
「こちらにこないと良いんですけど」
スポジーニ領に賊が現れたのである。どこからやって来たのかはわからないがアシュティア領から一番近いデレフ村か襲われたと一昨日に知らせが入った。そのため、バルタザークたちは厳戒態勢を敷いて北側へと向かっているのだ。
「アシュティア村のムグィラはここに運び終わった?」
「ええ。当面の分以外はこちらに運び込んだとのことです」
セルジュは今年の収穫の八割を不傾館の食糧庫で保管することにした。何も税率を上げたわけではない。万が一、襲われた時のことを考えてである。雪が降る前に三割、雪が解けた後に三割の食糧を返す約束だ。
これはコンコール村でも同様の措置を取ることにした。いわば配給制みたいなものである。もちろん、今回だけの特例措置であるが。
種蒔きはドロテア指導の下、ホップズやレスリーはもちろんオデットやクララにも手伝ってもらうことにした。お陰で早く終わりそうだとセルジュは歓喜した。いくら若いと言えど、腰が痛くなってきたのだ。
「いやはや、精が出ますねぇ、はい」
腰が痛くなったので館の方へと戻ると、そこにはビビダデが荷馬車に腰掛けていた。
「ビビダデか。丁度良いね、食い物を売ってくれ」
「はいはい、そう言われると思いましたですよ」
そう言ってビビダデが取り出したのはムグィラの袋であった。中にはムグィラがニ〇キロほど入ってるだろう。全部で十袋はあった。つまり、大樽一杯分だ。
「このムグィラ、今ならなんと一袋金貨一枚でお売りしますよ」
セルジュはまさかの値段に炒めた腰を抜かすところであった。相場の百倍以上の値段である。いくら何でもそれは高いと感じていた。
「いや、買わないのであれば構わないです。余所に売りますので、はい」
「ちょっと待って! ……わかった。それで買おう」
館から金貨を十枚持って来てビビダデに渡す。せっかく余裕が出てきたと思っていたが、気を抜いた瞬間に一気に持って行かれてしまう怖さをセルジュは感じていた。
「次の飢饉では気を付けてくださいね」
「肝に銘じておくよ」
「おや、飢饉が起きないように祈るわけではないのですね」
「飢饉なんて起きないようにすることはできないからね。せめて自領だけでも護れるようにするさ」
セルジュはこの苦い経験を今後の糧にすべく、領の拡大計画と農業計画を見直すことにするのであった。
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