45 / 91
閑話
冷たいゴハン計画
しおりを挟む
アシュティア領の朝は早い。いや、むしろ過去現代問わずに農業従事者で朝が遅い者など居るのだろうか。セルジュも日が昇ると同時に起床した。
何故ここまで早く起きれるのかと言うと、陽が落ちるとすぐに眠りにつくからである。夜に作業をするには明かりを灯さねばならず、その燃料の確保だって毎日続けてしまえば馬鹿にならない量だ。
大きく伸びをして顔を洗い歯を磨く。そしてそのままセルジュは執務室へと向かって自分の机の上を見る。
「今日も今日とて仕事が溜まってるなぁ」
南北を繋ぐ街道の整備と新しく開通させるウィート領への街道の整備を早急に行わなければならない。なぜ父はこれを放置していたのかと疑問に思う。今となっては尋ねる術はないが。
それから今年の収穫の予想を立てて不足分や余剰分の扱いを決めなければならない。となると村長のところへと赴いて作物の生育状況を訪ねねばなるまいとも考えていた。
席について仕事にとりかかろる。が、どうにもやる気が起きない。これは焼けつくような暑さとお腹が空いているからだろうとセルジュは結論付けた。
その時、タイミングよくドロテアが朝食を運んできてくれた。いつも通り野菜とダンプリングの『暖かい』スープだ。どうしても野菜から出汁を効率的に取るには煮出すしかなく、それを冷たくする方法が無いのだ。
「今日も『熱い』なぁ」
「ええ。『暑い』ですね」
よく見るとドロテアは露出の多い恰好をしている。上半身は胸部だけを覆う布を纏い、下半身はミニのスカートと煽情的な恰好をしているのにセルジュにそう言った欲が湧かないのは身体が思考に追いついていないからだろう。
そう考えると前世の幼少のころに観ていたジャガイモ頭の幼稚園生は相当ませていたのだと今になってわかる。そんなことを考えていると朝食に手が付いていないことをドロテアに咎められ、仕方なくスープを口に運ぶのであった。
「ねぇ。ドロテア」
「なんです? 坊ちゃま」
食事の手を止めてドロテアに質問をする。これはセルジュの苦肉の引き延ばし策だ。この間に少しでも朝食が冷めてくれることを願う。
「今、村の全員がドロテアみたいな恰好をしているの?」
「え? ああ、はい。暑いですからね。その、変ですか?」
「いや、良く似合ってると思うよ」
セルジュはドロテアの回答を聞いて来年はベビーブームが到来するだろうと睨んでいた。
「私は良い大人なので隠すところは隠していますが、子どもたち何てほぼ全裸ですよ。坊ちゃまは暑くないんですか?」
「暑いけど、領主がそんな恰好をしていたら示しがつかないだろ」
「その姿の方が示しがつきませんよ」
セルジュは今日も今日とて机に突っ伏している。確かにこれではだらしがないと嗜められるのも仕方ないだろう。
「良し! 今日は冷たい食事を模索するぞ!!」
セルジュはまたもや思い付きで不傾館を飛び出して行ってしまった。もうドロテアは慣れたものである。いってらっしゃいませとセルジュを見送っていた。
涼を取る方法として考えられるのが風と水である。まずは風の方だが団扇や扇子を用いて風を送って涼しむ。しかし、これだと扇いでいる人間が披露して汗だくになってしまうだろう。
出来れば水、欲を言えば氷で涼を取りたい。まずは山だ。東に聳えているグレン山脈の頂上は夏だというのに白銀の箇所が散見される。アレは明らかに雪だろう。また、山頂に近づけば近づくほど気温は下がるので快適に過ごせるが向かうことが出来ないため却下だ。
次に思いつくのが滝だ。滝からは常に水が流れているため水そのものの温度が上がらない。また、常に空気が水滴の気化熱で冷やされるから涼しくなると言う訳だ。気化熱つながりでいくと打ち水も有効だ。
つまり、水を絶えず流し続ければ水温は上昇しにくいのだ。この水堀は溜まっているからいけない。なのでセルジュは川と水堀を繋ぐ水路を拡張することにした。己の安寧のために。
そうと決まってからのセルジュの行動は早かった。スコップを取り出して水路を深く掘っていく。足は水に浸かっているのに額からは大量の汗が吹き出る。
「おう、セルジュ。こんな暑い中、なにやってんだ?」
「大変ですね。お手伝いしましょうか」
そんな中、セルジュの前に現れたのはジェイクとジョルトの珍しい組み合わせであった。どうやら先程まで二人で稽古をしており、その稽古終わりに水浴びに来たようだ。セルジュはこれ幸いと二人に手伝いをお願いした。
すると、もちろんジョルトは二つ返事で快諾。ジェイクはジョルトが快諾したのを見ると慌てて手伝い始めたのだ。
「この水路を深く広くする作業は何の意味があるんだ?」
このジェイクの質問に「単にボクが涼を取りたいがため」とは口が裂けても言えないセルジュ。苦心しながらも言葉を口に出した。
「あー、水を入れなけないと堀の水が淀んで臭くなっちゃうからね。飲み水にも使ってるし、きれいな水をたくさん供給するために水路を深くしてるんだ」
「なるほどなー。セルジュは何でも知ってるのな!」
ジェイクはセルジュの言葉をあっさりと信用して水路を拡張していく。しかし、いくら三人いたとしても四キロにも及ぶ長い水路を一日だけで太くすることは不可能だ。そこでセルジュは一計を案じることにした。
「ジェイク。ちょっと暇してる子どもたちを連れてきてくんない?」
「え? あぁ、わかった」
ジェイクはすぐに子どもたちを連れてきてくれた。その数はざっと十数名。セルジュの計画はこうだ。この子どもたちに水遊びと称して作業をさせるという、なんとも子どもの純真さを逆手に取ったあくどい手法である。
「ボクとジョルトは子どもたちが遠くに行ってしまわないかの見張りね」
「承知しました」
「え? オレは?」
「ジェイクは子どもたちのさぎょ……遊んどいでよ」
「うぉっしゃぁー! ラッキー」
そう言ってジェイクは水路へと駆けだしていった。その様子を見ていたジョルトが一言。
「やっぱり馬鹿ですね、アイツ」
ジェイクの子どもたちを統率する能力のお陰で水路は無事に広くなった。それはセルジュにとって意外な発見であったようだ。
何故ここまで早く起きれるのかと言うと、陽が落ちるとすぐに眠りにつくからである。夜に作業をするには明かりを灯さねばならず、その燃料の確保だって毎日続けてしまえば馬鹿にならない量だ。
大きく伸びをして顔を洗い歯を磨く。そしてそのままセルジュは執務室へと向かって自分の机の上を見る。
「今日も今日とて仕事が溜まってるなぁ」
南北を繋ぐ街道の整備と新しく開通させるウィート領への街道の整備を早急に行わなければならない。なぜ父はこれを放置していたのかと疑問に思う。今となっては尋ねる術はないが。
それから今年の収穫の予想を立てて不足分や余剰分の扱いを決めなければならない。となると村長のところへと赴いて作物の生育状況を訪ねねばなるまいとも考えていた。
席について仕事にとりかかろる。が、どうにもやる気が起きない。これは焼けつくような暑さとお腹が空いているからだろうとセルジュは結論付けた。
その時、タイミングよくドロテアが朝食を運んできてくれた。いつも通り野菜とダンプリングの『暖かい』スープだ。どうしても野菜から出汁を効率的に取るには煮出すしかなく、それを冷たくする方法が無いのだ。
「今日も『熱い』なぁ」
「ええ。『暑い』ですね」
よく見るとドロテアは露出の多い恰好をしている。上半身は胸部だけを覆う布を纏い、下半身はミニのスカートと煽情的な恰好をしているのにセルジュにそう言った欲が湧かないのは身体が思考に追いついていないからだろう。
そう考えると前世の幼少のころに観ていたジャガイモ頭の幼稚園生は相当ませていたのだと今になってわかる。そんなことを考えていると朝食に手が付いていないことをドロテアに咎められ、仕方なくスープを口に運ぶのであった。
「ねぇ。ドロテア」
「なんです? 坊ちゃま」
食事の手を止めてドロテアに質問をする。これはセルジュの苦肉の引き延ばし策だ。この間に少しでも朝食が冷めてくれることを願う。
「今、村の全員がドロテアみたいな恰好をしているの?」
「え? ああ、はい。暑いですからね。その、変ですか?」
「いや、良く似合ってると思うよ」
セルジュはドロテアの回答を聞いて来年はベビーブームが到来するだろうと睨んでいた。
「私は良い大人なので隠すところは隠していますが、子どもたち何てほぼ全裸ですよ。坊ちゃまは暑くないんですか?」
「暑いけど、領主がそんな恰好をしていたら示しがつかないだろ」
「その姿の方が示しがつきませんよ」
セルジュは今日も今日とて机に突っ伏している。確かにこれではだらしがないと嗜められるのも仕方ないだろう。
「良し! 今日は冷たい食事を模索するぞ!!」
セルジュはまたもや思い付きで不傾館を飛び出して行ってしまった。もうドロテアは慣れたものである。いってらっしゃいませとセルジュを見送っていた。
涼を取る方法として考えられるのが風と水である。まずは風の方だが団扇や扇子を用いて風を送って涼しむ。しかし、これだと扇いでいる人間が披露して汗だくになってしまうだろう。
出来れば水、欲を言えば氷で涼を取りたい。まずは山だ。東に聳えているグレン山脈の頂上は夏だというのに白銀の箇所が散見される。アレは明らかに雪だろう。また、山頂に近づけば近づくほど気温は下がるので快適に過ごせるが向かうことが出来ないため却下だ。
次に思いつくのが滝だ。滝からは常に水が流れているため水そのものの温度が上がらない。また、常に空気が水滴の気化熱で冷やされるから涼しくなると言う訳だ。気化熱つながりでいくと打ち水も有効だ。
つまり、水を絶えず流し続ければ水温は上昇しにくいのだ。この水堀は溜まっているからいけない。なのでセルジュは川と水堀を繋ぐ水路を拡張することにした。己の安寧のために。
そうと決まってからのセルジュの行動は早かった。スコップを取り出して水路を深く掘っていく。足は水に浸かっているのに額からは大量の汗が吹き出る。
「おう、セルジュ。こんな暑い中、なにやってんだ?」
「大変ですね。お手伝いしましょうか」
そんな中、セルジュの前に現れたのはジェイクとジョルトの珍しい組み合わせであった。どうやら先程まで二人で稽古をしており、その稽古終わりに水浴びに来たようだ。セルジュはこれ幸いと二人に手伝いをお願いした。
すると、もちろんジョルトは二つ返事で快諾。ジェイクはジョルトが快諾したのを見ると慌てて手伝い始めたのだ。
「この水路を深く広くする作業は何の意味があるんだ?」
このジェイクの質問に「単にボクが涼を取りたいがため」とは口が裂けても言えないセルジュ。苦心しながらも言葉を口に出した。
「あー、水を入れなけないと堀の水が淀んで臭くなっちゃうからね。飲み水にも使ってるし、きれいな水をたくさん供給するために水路を深くしてるんだ」
「なるほどなー。セルジュは何でも知ってるのな!」
ジェイクはセルジュの言葉をあっさりと信用して水路を拡張していく。しかし、いくら三人いたとしても四キロにも及ぶ長い水路を一日だけで太くすることは不可能だ。そこでセルジュは一計を案じることにした。
「ジェイク。ちょっと暇してる子どもたちを連れてきてくんない?」
「え? あぁ、わかった」
ジェイクはすぐに子どもたちを連れてきてくれた。その数はざっと十数名。セルジュの計画はこうだ。この子どもたちに水遊びと称して作業をさせるという、なんとも子どもの純真さを逆手に取ったあくどい手法である。
「ボクとジョルトは子どもたちが遠くに行ってしまわないかの見張りね」
「承知しました」
「え? オレは?」
「ジェイクは子どもたちのさぎょ……遊んどいでよ」
「うぉっしゃぁー! ラッキー」
そう言ってジェイクは水路へと駆けだしていった。その様子を見ていたジョルトが一言。
「やっぱり馬鹿ですね、アイツ」
ジェイクの子どもたちを統率する能力のお陰で水路は無事に広くなった。それはセルジュにとって意外な発見であったようだ。
0
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる