内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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閑話

冷たいゴハン計画

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アシュティア領の朝は早い。いや、むしろ過去現代問わずに農業従事者で朝が遅い者など居るのだろうか。セルジュも日が昇ると同時に起床した。

何故ここまで早く起きれるのかと言うと、陽が落ちるとすぐに眠りにつくからである。夜に作業をするには明かりを灯さねばならず、その燃料の確保だって毎日続けてしまえば馬鹿にならない量だ。

大きく伸びをして顔を洗い歯を磨く。そしてそのままセルジュは執務室へと向かって自分の机の上を見る。

「今日も今日とて仕事が溜まってるなぁ」

南北を繋ぐ街道の整備と新しく開通させるウィート領への街道の整備を早急に行わなければならない。なぜ父はこれを放置していたのかと疑問に思う。今となっては尋ねる術はないが。

それから今年の収穫の予想を立てて不足分や余剰分の扱いを決めなければならない。となると村長のところへと赴いて作物の生育状況を訪ねねばなるまいとも考えていた。

席について仕事にとりかかろる。が、どうにもやる気が起きない。これは焼けつくような暑さとお腹が空いているからだろうとセルジュは結論付けた。

その時、タイミングよくドロテアが朝食を運んできてくれた。いつも通り野菜とダンプリングの『暖かい』スープだ。どうしても野菜から出汁を効率的に取るには煮出すしかなく、それを冷たくする方法が無いのだ。

「今日も『熱い』なぁ」
「ええ。『暑い』ですね」

よく見るとドロテアは露出の多い恰好をしている。上半身は胸部だけを覆う布を纏い、下半身はミニのスカートと煽情的な恰好をしているのにセルジュにそう言った欲が湧かないのは身体が思考に追いついていないからだろう。

そう考えると前世の幼少のころに観ていたジャガイモ頭の幼稚園生は相当ませていたのだと今になってわかる。そんなことを考えていると朝食に手が付いていないことをドロテアに咎められ、仕方なくスープを口に運ぶのであった。

「ねぇ。ドロテア」
「なんです? 坊ちゃま」

食事の手を止めてドロテアに質問をする。これはセルジュの苦肉の引き延ばし策だ。この間に少しでも朝食が冷めてくれることを願う。

「今、村の全員がドロテアみたいな恰好をしているの?」
「え? ああ、はい。暑いですからね。その、変ですか?」
「いや、良く似合ってると思うよ」

セルジュはドロテアの回答を聞いて来年はベビーブームが到来するだろうと睨んでいた。

「私は良い大人なので隠すところは隠していますが、子どもたち何てほぼ全裸ですよ。坊ちゃまは暑くないんですか?」
「暑いけど、領主がそんな恰好をしていたら示しがつかないだろ」
「その姿の方が示しがつきませんよ」

セルジュは今日も今日とて机に突っ伏している。確かにこれではだらしがないと嗜められるのも仕方ないだろう。

「良し! 今日は冷たい食事を模索するぞ!!」

セルジュはまたもや思い付きで不傾館を飛び出して行ってしまった。もうドロテアは慣れたものである。いってらっしゃいませとセルジュを見送っていた。

涼を取る方法として考えられるのが風と水である。まずは風の方だが団扇や扇子を用いて風を送って涼しむ。しかし、これだと扇いでいる人間が披露して汗だくになってしまうだろう。

出来れば水、欲を言えば氷で涼を取りたい。まずは山だ。東に聳えているグレン山脈の頂上は夏だというのに白銀の箇所が散見される。アレは明らかに雪だろう。また、山頂に近づけば近づくほど気温は下がるので快適に過ごせるが向かうことが出来ないため却下だ。

次に思いつくのが滝だ。滝からは常に水が流れているため水そのものの温度が上がらない。また、常に空気が水滴の気化熱で冷やされるから涼しくなると言う訳だ。気化熱つながりでいくと打ち水も有効だ。

つまり、水を絶えず流し続ければ水温は上昇しにくいのだ。この水堀は溜まっているからいけない。なのでセルジュは川と水堀を繋ぐ水路を拡張することにした。己の安寧のために。

そうと決まってからのセルジュの行動は早かった。スコップを取り出して水路を深く掘っていく。足は水に浸かっているのに額からは大量の汗が吹き出る。

「おう、セルジュ。こんな暑い中、なにやってんだ?」
「大変ですね。お手伝いしましょうか」

そんな中、セルジュの前に現れたのはジェイクとジョルトの珍しい組み合わせであった。どうやら先程まで二人で稽古をしており、その稽古終わりに水浴びに来たようだ。セルジュはこれ幸いと二人に手伝いをお願いした。

すると、もちろんジョルトは二つ返事で快諾。ジェイクはジョルトが快諾したのを見ると慌てて手伝い始めたのだ。

「この水路を深く広くする作業は何の意味があるんだ?」

このジェイクの質問に「単にボクが涼を取りたいがため」とは口が裂けても言えないセルジュ。苦心しながらも言葉を口に出した。

「あー、水を入れなけないと堀の水が淀んで臭くなっちゃうからね。飲み水にも使ってるし、きれいな水をたくさん供給するために水路を深くしてるんだ」
「なるほどなー。セルジュは何でも知ってるのな!」

ジェイクはセルジュの言葉をあっさりと信用して水路を拡張していく。しかし、いくら三人いたとしても四キロにも及ぶ長い水路を一日だけで太くすることは不可能だ。そこでセルジュは一計を案じることにした。

「ジェイク。ちょっと暇してる子どもたちを連れてきてくんない?」
「え? あぁ、わかった」

ジェイクはすぐに子どもたちを連れてきてくれた。その数はざっと十数名。セルジュの計画はこうだ。この子どもたちに水遊びと称して作業をさせるという、なんとも子どもの純真さを逆手に取ったあくどい手法である。

「ボクとジョルトは子どもたちが遠くに行ってしまわないかの見張りね」
「承知しました」
「え? オレは?」
「ジェイクは子どもたちのさぎょ……遊んどいでよ」
「うぉっしゃぁー! ラッキー」

そう言ってジェイクは水路へと駆けだしていった。その様子を見ていたジョルトが一言。

「やっぱり馬鹿ですね、アイツ」

ジェイクの子どもたちを統率する能力のお陰で水路は無事に広くなった。それはセルジュにとって意外な発見であったようだ。
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