内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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鰥寡孤独の始まり

42. 顛末の行方

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セイファー歴 756年 7月10日

セルジュは今回の件――セルジュ自身はジャッド事件と呼んでいるようだが――に関して全ての決着を付けようとしていた。

セルジュはまず、自領へと戻り新しくやってきた領民の居住地の差配をする。これが中々に大変な作業であった。セルジュ領へと移住するのは全部で十三家族と少数の少年少女。少年少女は不傾館で暮らしてもらうものとして、家族たちには家を与えねばならない。

これはもちろん無償と言う訳ではなく分割払いの有償だ。事前に承諾も得ている。十三家族の全てが過去に畑仕事に従事していたと言うものだから、セルジュは土地を確保しなければならなくなった。

空いている土地はアシュティア領内で最も北の土地、つまりは旧アシュティア村の北側だ。だが、それだとどうしても不傾館までの距離が遠くなってしまう。

次の候補地はコンコール村の北東だ。コンコール村は未だ村民が少なく十三家族の六十三名が加わると百三十八名になる。南北の村のバランスはとれているだろう。

街道を敷く予定の土地を省いて地図に畑の区割りを書き込んでいく。予め説明しておくがアシュティア村の土地が足りないわけではない。先程も記述した通り北側の土地は空いているし不傾館の周辺である中央の土地もまだまだ空いている。

ではなぜ中央の土地を使わないかと言うと不傾館周辺は戦火に合いやすいという理由が一つと集落から遠いという理由が一つである。納屋や食糧庫を備えている不傾館であれば構わないだろうが一般の家ではそうもいかない。助け合いが必要なのだ。

こうしてアシュティア領は中央よりやや北側にアシュティア村が存在し、南側にコンコール村が存在している。そして、その中心にセルジュの住まいである不傾館が鎮座しているというのが全体像となった。

「今から畑を耕すとなると作付けは夏過ぎからだな。となると買ってきたコイツはお預けでカブラとビーグを
育ててもらおう」

後の問題は少年少女だ。とりあえず少女たちはドロテアに任せることにした。少年たちはバルタザークに任せたいところではあったが、確実に身体がついて行かないだろう。まずは栄養状態を良くしてからだ。

それまではセルジュの雑用をジョゼとジャニスに手伝ってもらうことにした。主に家庭菜園の世話や家畜への餌などであるが。

「坊ちゃん、アタシらはどうすれば良いんだい?」

ヴェラが長椅子の上で横になりながら果実酒を嗜む。ヴェラは『私ら』と複数形を使っていたが、ダナは既に新しい移住者の家を建てにコンコール村へと向かった。

とは言え、ダナが戻ってきてヴェラの製鉄場なり何なりを作らないことにはヴェラの活躍の場は無い。セルジュはヴェラに「酒でも飲んでて」と言って領内の政務を滞りなく終わらせてからバルタザークとリベルトが居る拠点へと向かった。



「どう? リス軍に動きはあった?」
「最初は少しだけあったが、今となっては全くだ」

セルジュはリベルトたちと合流してバルタザークにこれまでの経緯を伺った。今は大人しいものである。

「あれ? リベルトは?」
「ああ。奴さんなら可愛い嬢ちゃんを連れて親父んとこ戻ってったぜ」

そう答えたのはゲティスだ。リベルトはお金の無心に行ったのだろう。ゲティスやセルジュが戻ってきたとはいえ、ここが安定しているわけではない。全てを終わらせに行くためにセルジュは皆を伴ってリス領の領都であるリスリルへと向かった。

リベルトの防衛拠点からリスリルまで距離があるわけではなく、すぐに到着することが出来た。そして、リスリルに入る前に兵士たちにはリス領の領民を襲わないように厳命を申し付けた。

ジャッドはすぐに見つかった。自分の館で逃げも隠れもせずに政務に励んでいたからである。そこでセルジュはバルタザールとゲティス以外の兵士を外で待たせることにした。

「なんだ? オレは忙しいんだ。要件なら手短に頼むぞ」

額に青筋を立てながらジャッドがこちらも見ずに言い放つ。努めて冷静に振舞っているようだ。

「カルディナス侯爵閣下からお手紙は届きましたか?」
「ちっ……ああ」

セルジュの問いに吐き捨てるように頷くジャッド。どうやらジャッドもことの顛末は理解しているようであった。それならば話は早い。

「ならば話が早いですね。領境を決めてとっとと停戦と行きましょう。境はそうですねぇ。素直に真っ直ぐ引きますか。それで良いですか?」
「構わん。要件はそれだけであろう。さっさと帰れ」

セルジュはジャッドの了承を得ることが出来たので予め用意しておいた書類に同意の署名をもらってから館の戸に手を掛けた。扉を開いて出る直前、セルジュは目の前に広がる空に向かってこう言った。

「下手な嫌がらせしなければ、こうはならなかったのに。全くもって愚かだねぇ」

セルジュたちが後にした館から陶器が割れるような音とともにジャッドの叫び声が響いたそうな。セルジュの発言はリス領とアシュティア領は地続きではなくなったので仕返しをするのが難しくなったことを考えての発言だったのだろう。

「じゃあ、ボクたちはロベルトたちから貰った土地を整備してウィート領への道をつなげるとしようか」

こうして、アシュティア領には束の間の|(・・・・)平穏が訪れたのであった。
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