43 / 91
鰥寡孤独の始まり
42. 顛末の行方
しおりを挟む
セイファー歴 756年 7月10日
セルジュは今回の件――セルジュ自身はジャッド事件と呼んでいるようだが――に関して全ての決着を付けようとしていた。
セルジュはまず、自領へと戻り新しくやってきた領民の居住地の差配をする。これが中々に大変な作業であった。セルジュ領へと移住するのは全部で十三家族と少数の少年少女。少年少女は不傾館で暮らしてもらうものとして、家族たちには家を与えねばならない。
これはもちろん無償と言う訳ではなく分割払いの有償だ。事前に承諾も得ている。十三家族の全てが過去に畑仕事に従事していたと言うものだから、セルジュは土地を確保しなければならなくなった。
空いている土地はアシュティア領内で最も北の土地、つまりは旧アシュティア村の北側だ。だが、それだとどうしても不傾館までの距離が遠くなってしまう。
次の候補地はコンコール村の北東だ。コンコール村は未だ村民が少なく十三家族の六十三名が加わると百三十八名になる。南北の村のバランスはとれているだろう。
街道を敷く予定の土地を省いて地図に畑の区割りを書き込んでいく。予め説明しておくがアシュティア村の土地が足りないわけではない。先程も記述した通り北側の土地は空いているし不傾館の周辺である中央の土地もまだまだ空いている。
ではなぜ中央の土地を使わないかと言うと不傾館周辺は戦火に合いやすいという理由が一つと集落から遠いという理由が一つである。納屋や食糧庫を備えている不傾館であれば構わないだろうが一般の家ではそうもいかない。助け合いが必要なのだ。
こうしてアシュティア領は中央よりやや北側にアシュティア村が存在し、南側にコンコール村が存在している。そして、その中心にセルジュの住まいである不傾館が鎮座しているというのが全体像となった。
「今から畑を耕すとなると作付けは夏過ぎからだな。となると買ってきたコイツはお預けでカブラとビーグを
育ててもらおう」
後の問題は少年少女だ。とりあえず少女たちはドロテアに任せることにした。少年たちはバルタザークに任せたいところではあったが、確実に身体がついて行かないだろう。まずは栄養状態を良くしてからだ。
それまではセルジュの雑用をジョゼとジャニスに手伝ってもらうことにした。主に家庭菜園の世話や家畜への餌などであるが。
「坊ちゃん、アタシらはどうすれば良いんだい?」
ヴェラが長椅子の上で横になりながら果実酒を嗜む。ヴェラは『私ら』と複数形を使っていたが、ダナは既に新しい移住者の家を建てにコンコール村へと向かった。
とは言え、ダナが戻ってきてヴェラの製鉄場なり何なりを作らないことにはヴェラの活躍の場は無い。セルジュはヴェラに「酒でも飲んでて」と言って領内の政務を滞りなく終わらせてからバルタザークとリベルトが居る拠点へと向かった。
「どう? リス軍に動きはあった?」
「最初は少しだけあったが、今となっては全くだ」
セルジュはリベルトたちと合流してバルタザークにこれまでの経緯を伺った。今は大人しいものである。
「あれ? リベルトは?」
「ああ。奴さんなら可愛い嬢ちゃんを連れて親父んとこ戻ってったぜ」
そう答えたのはゲティスだ。リベルトはお金の無心に行ったのだろう。ゲティスやセルジュが戻ってきたとはいえ、ここが安定しているわけではない。全てを終わらせに行くためにセルジュは皆を伴ってリス領の領都であるリスリルへと向かった。
リベルトの防衛拠点からリスリルまで距離があるわけではなく、すぐに到着することが出来た。そして、リスリルに入る前に兵士たちにはリス領の領民を襲わないように厳命を申し付けた。
ジャッドはすぐに見つかった。自分の館で逃げも隠れもせずに政務に励んでいたからである。そこでセルジュはバルタザールとゲティス以外の兵士を外で待たせることにした。
「なんだ? オレは忙しいんだ。要件なら手短に頼むぞ」
額に青筋を立てながらジャッドがこちらも見ずに言い放つ。努めて冷静に振舞っているようだ。
「カルディナス侯爵閣下からお手紙は届きましたか?」
「ちっ……ああ」
セルジュの問いに吐き捨てるように頷くジャッド。どうやらジャッドもことの顛末は理解しているようであった。それならば話は早い。
「ならば話が早いですね。領境を決めてとっとと停戦と行きましょう。境はそうですねぇ。素直に真っ直ぐ引きますか。それで良いですか?」
「構わん。要件はそれだけであろう。さっさと帰れ」
セルジュはジャッドの了承を得ることが出来たので予め用意しておいた書類に同意の署名をもらってから館の戸に手を掛けた。扉を開いて出る直前、セルジュは目の前に広がる空に向かってこう言った。
「下手な嫌がらせしなければ、こうはならなかったのに。全くもって愚かだねぇ」
セルジュたちが後にした館から陶器が割れるような音とともにジャッドの叫び声が響いたそうな。セルジュの発言はリス領とアシュティア領は地続きではなくなったので仕返しをするのが難しくなったことを考えての発言だったのだろう。
「じゃあ、ボクたちはロベルトたちから貰った土地を整備してウィート領への道をつなげるとしようか」
こうして、アシュティア領には束の間の|(・・・・)平穏が訪れたのであった。
セルジュは今回の件――セルジュ自身はジャッド事件と呼んでいるようだが――に関して全ての決着を付けようとしていた。
セルジュはまず、自領へと戻り新しくやってきた領民の居住地の差配をする。これが中々に大変な作業であった。セルジュ領へと移住するのは全部で十三家族と少数の少年少女。少年少女は不傾館で暮らしてもらうものとして、家族たちには家を与えねばならない。
これはもちろん無償と言う訳ではなく分割払いの有償だ。事前に承諾も得ている。十三家族の全てが過去に畑仕事に従事していたと言うものだから、セルジュは土地を確保しなければならなくなった。
空いている土地はアシュティア領内で最も北の土地、つまりは旧アシュティア村の北側だ。だが、それだとどうしても不傾館までの距離が遠くなってしまう。
次の候補地はコンコール村の北東だ。コンコール村は未だ村民が少なく十三家族の六十三名が加わると百三十八名になる。南北の村のバランスはとれているだろう。
街道を敷く予定の土地を省いて地図に畑の区割りを書き込んでいく。予め説明しておくがアシュティア村の土地が足りないわけではない。先程も記述した通り北側の土地は空いているし不傾館の周辺である中央の土地もまだまだ空いている。
ではなぜ中央の土地を使わないかと言うと不傾館周辺は戦火に合いやすいという理由が一つと集落から遠いという理由が一つである。納屋や食糧庫を備えている不傾館であれば構わないだろうが一般の家ではそうもいかない。助け合いが必要なのだ。
こうしてアシュティア領は中央よりやや北側にアシュティア村が存在し、南側にコンコール村が存在している。そして、その中心にセルジュの住まいである不傾館が鎮座しているというのが全体像となった。
「今から畑を耕すとなると作付けは夏過ぎからだな。となると買ってきたコイツはお預けでカブラとビーグを
育ててもらおう」
後の問題は少年少女だ。とりあえず少女たちはドロテアに任せることにした。少年たちはバルタザークに任せたいところではあったが、確実に身体がついて行かないだろう。まずは栄養状態を良くしてからだ。
それまではセルジュの雑用をジョゼとジャニスに手伝ってもらうことにした。主に家庭菜園の世話や家畜への餌などであるが。
「坊ちゃん、アタシらはどうすれば良いんだい?」
ヴェラが長椅子の上で横になりながら果実酒を嗜む。ヴェラは『私ら』と複数形を使っていたが、ダナは既に新しい移住者の家を建てにコンコール村へと向かった。
とは言え、ダナが戻ってきてヴェラの製鉄場なり何なりを作らないことにはヴェラの活躍の場は無い。セルジュはヴェラに「酒でも飲んでて」と言って領内の政務を滞りなく終わらせてからバルタザークとリベルトが居る拠点へと向かった。
「どう? リス軍に動きはあった?」
「最初は少しだけあったが、今となっては全くだ」
セルジュはリベルトたちと合流してバルタザークにこれまでの経緯を伺った。今は大人しいものである。
「あれ? リベルトは?」
「ああ。奴さんなら可愛い嬢ちゃんを連れて親父んとこ戻ってったぜ」
そう答えたのはゲティスだ。リベルトはお金の無心に行ったのだろう。ゲティスやセルジュが戻ってきたとはいえ、ここが安定しているわけではない。全てを終わらせに行くためにセルジュは皆を伴ってリス領の領都であるリスリルへと向かった。
リベルトの防衛拠点からリスリルまで距離があるわけではなく、すぐに到着することが出来た。そして、リスリルに入る前に兵士たちにはリス領の領民を襲わないように厳命を申し付けた。
ジャッドはすぐに見つかった。自分の館で逃げも隠れもせずに政務に励んでいたからである。そこでセルジュはバルタザールとゲティス以外の兵士を外で待たせることにした。
「なんだ? オレは忙しいんだ。要件なら手短に頼むぞ」
額に青筋を立てながらジャッドがこちらも見ずに言い放つ。努めて冷静に振舞っているようだ。
「カルディナス侯爵閣下からお手紙は届きましたか?」
「ちっ……ああ」
セルジュの問いに吐き捨てるように頷くジャッド。どうやらジャッドもことの顛末は理解しているようであった。それならば話は早い。
「ならば話が早いですね。領境を決めてとっとと停戦と行きましょう。境はそうですねぇ。素直に真っ直ぐ引きますか。それで良いですか?」
「構わん。要件はそれだけであろう。さっさと帰れ」
セルジュはジャッドの了承を得ることが出来たので予め用意しておいた書類に同意の署名をもらってから館の戸に手を掛けた。扉を開いて出る直前、セルジュは目の前に広がる空に向かってこう言った。
「下手な嫌がらせしなければ、こうはならなかったのに。全くもって愚かだねぇ」
セルジュたちが後にした館から陶器が割れるような音とともにジャッドの叫び声が響いたそうな。セルジュの発言はリス領とアシュティア領は地続きではなくなったので仕返しをするのが難しくなったことを考えての発言だったのだろう。
「じゃあ、ボクたちはロベルトたちから貰った土地を整備してウィート領への道をつなげるとしようか」
こうして、アシュティア領には束の間の|(・・・・)平穏が訪れたのであった。
0
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる