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鰥寡孤独の始まり
37. リベルトの旗揚げ
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セイファー歴 756年 6月26日
待ちに待った待望の雨が降った。今年は快晴続きで全くと言って良いほど雨が降らなかった。これは農作物にも深刻な影響が出るほどの日照りであったがしかし、やっと雨が降ったのだ。
「長かったがやっと雨が降った。さっさと砦を設営しちまうぞ」
「「「おお!」」」
バルタザークの掛け声に反応したのはバルタザーク隊十三名とリベルトのその配下三十一名であった。その三十一名の中にはゲティスの姿が見て取れた。
ゲティスは自身のせいでもある失態をリベルト一人に背負わせては武人の名折れと言ってゲルブムにリベルトに付いて行きたいと申し出ていたのだ。
ゲルブムもリベルト一人だと心配ということもあり、ゲティスが付いてくれるのならば安心というものであった。
日が沈んでからのリベルト・バルタザーク連合軍の動きは早かった。それもそのはず、場所は下見をしており、また日照りによって待たされていた間は何度もシミュレーションをしていたのだ。
直ぐに砦の建設予定地まで荷車を引きながら走って向かうと、みんなで一斉に地面を掘り出した。雨を含んだ土は重かったが、その代わりに成形はしやすく、砦を築くための小山はあっという間に築くことができた。
そのまま小山に簡易的ではあるが家を建てる。といっても正方形の、いわゆる豆腐ハウスという家だ。それは大きな木箱と言われればその通りである。
それからは隊を二つに分けて片方を休憩させてもう片方は木柵の準備と、何とか気づかれる前に形を整えるべく作業を急がせた。
幸い、ジャッド=リスの嫌がらせのお陰でリス領の東側に訪れる人は少なく、ジャッドたちに気づかれる前に砦を構築することができた。あとはこの砦を元に肉付けして強固な砦に仕上げていく予定だ。
「お、空が明るんできやがったな」
ゲティスが陽の光を感知する。そしてそれに応えるかのように雨も止んでしまったのだ。それを確認したリベルトはゲティスに次の命令を下した。
「ゲティス、兵を一〇名連れてファート領から食糧を運んできてくれ」
「あいよ、大将!」
ゲティスが隊を離れてからも作業は続いた。砦を強固なものにしようと考えたらやれることは腐る程ある。櫓の建設に食料庫と武器庫の用意。柵を伸ばして領堺として、さらにその柵も二重にする予定だ。
この防衛拠点の構築作業は幸いなことに翌日になってもジャッドに伝わることはなかった。
セイファー歴 756年 6月30日
ジャッドがようやく重い腰を上げてリベルトの元へとやってきた。拠点の構築から五日も経ったおかげで防備は万全である。
「その方、ここがジャッド=リス領としっての所行か!」
「悪いがこの地は先日からリベルト=ベルフのベルフ領だ! 其方こそ速やかに立ち去れっ!!」
リベルトは父方のファート姓ではなく母の名であるベルフを姓に冠した。これは父から独立したことを暗に宣言していたのだ。リベルトが母の名を名乗ったお陰でジャッドはこのリベルトが何処の馬の骨かわからなくなってしまった。
だが、この目の前のリベルトという男がどこの誰であろうとジャッドの領土を侵害していることは間違いのない事実。痺れを切らしたジャッドは今まで貯めていた大枚をはたいて雇った傭兵『泥の雷』五〇名に攻撃の合図を出した。
「かかれーっ!」
傭兵たちがリベルト目掛けて突進してきた。しかし、リベルトはそれを冷静に受け止めていた。戦闘の指揮に関してはバルタザークに一任している。そして、バルタザークの手腕に関してはリベルト自身が身を持っていて実感していた。
「まだだぞ。十分に引き付けろ……ってぇー!」
バルタザークの掛け声で一斉に矢を放つ。攻め手と守り手がほぼ同数の場合、セオリー通りに守れば砦が落ちることはないとバルタザークは確信していた。問題は搦め手があった場合であるが、今のところそれは杞憂のようだ。
「こっちから打って出る必要はないぞ。遠くから数を減らしていけ!」
矢やら石やらをジャッド軍に向かって投げていると、向こうも打つ手なしになったのかすごすごと帰って行った。元より戦意の低い傭兵たちである。決死の覚悟なぞ持ち合わせていないだろう。
ジャッドだけは「こら、逃げるな! 戦え! さっさと奴らを追い出せ!!」などと喚いていたが、それだけで止められるはずもないだろう。
戦闘はあっけなく終結した。十二分に準備をしたリベルトたちに対して全くの準備不足だったジャッド軍。まさに段取り八分とはこのことだろう。
朝過ぎに始まった戦も昼前に終わるという早さである。リベルトは死傷者が居ないことを確認すると、兵士たちに少しばかりの休息を与えてから作業を開始させた。
今度の作業は今現在、手に入れた領土の東側に集落を作るための土台を作る作業だ。それは家を建てるための木材を用意したり水を確保するための井戸を作ったりである。
「リベルトさま、ジャッド=リスはあのままで宜しいので?」
「構わないさ。きっと今頃オレの親友が何とかしているはずだ」
そう言ってリベルトも井戸を作るために兵士たちに交じって一生懸命に土を掘り始めた。そして、アシュティア領もこうやって支配していけば良かったのかと一人後悔をしていたのであった。
待ちに待った待望の雨が降った。今年は快晴続きで全くと言って良いほど雨が降らなかった。これは農作物にも深刻な影響が出るほどの日照りであったがしかし、やっと雨が降ったのだ。
「長かったがやっと雨が降った。さっさと砦を設営しちまうぞ」
「「「おお!」」」
バルタザークの掛け声に反応したのはバルタザーク隊十三名とリベルトのその配下三十一名であった。その三十一名の中にはゲティスの姿が見て取れた。
ゲティスは自身のせいでもある失態をリベルト一人に背負わせては武人の名折れと言ってゲルブムにリベルトに付いて行きたいと申し出ていたのだ。
ゲルブムもリベルト一人だと心配ということもあり、ゲティスが付いてくれるのならば安心というものであった。
日が沈んでからのリベルト・バルタザーク連合軍の動きは早かった。それもそのはず、場所は下見をしており、また日照りによって待たされていた間は何度もシミュレーションをしていたのだ。
直ぐに砦の建設予定地まで荷車を引きながら走って向かうと、みんなで一斉に地面を掘り出した。雨を含んだ土は重かったが、その代わりに成形はしやすく、砦を築くための小山はあっという間に築くことができた。
そのまま小山に簡易的ではあるが家を建てる。といっても正方形の、いわゆる豆腐ハウスという家だ。それは大きな木箱と言われればその通りである。
それからは隊を二つに分けて片方を休憩させてもう片方は木柵の準備と、何とか気づかれる前に形を整えるべく作業を急がせた。
幸い、ジャッド=リスの嫌がらせのお陰でリス領の東側に訪れる人は少なく、ジャッドたちに気づかれる前に砦を構築することができた。あとはこの砦を元に肉付けして強固な砦に仕上げていく予定だ。
「お、空が明るんできやがったな」
ゲティスが陽の光を感知する。そしてそれに応えるかのように雨も止んでしまったのだ。それを確認したリベルトはゲティスに次の命令を下した。
「ゲティス、兵を一〇名連れてファート領から食糧を運んできてくれ」
「あいよ、大将!」
ゲティスが隊を離れてからも作業は続いた。砦を強固なものにしようと考えたらやれることは腐る程ある。櫓の建設に食料庫と武器庫の用意。柵を伸ばして領堺として、さらにその柵も二重にする予定だ。
この防衛拠点の構築作業は幸いなことに翌日になってもジャッドに伝わることはなかった。
セイファー歴 756年 6月30日
ジャッドがようやく重い腰を上げてリベルトの元へとやってきた。拠点の構築から五日も経ったおかげで防備は万全である。
「その方、ここがジャッド=リス領としっての所行か!」
「悪いがこの地は先日からリベルト=ベルフのベルフ領だ! 其方こそ速やかに立ち去れっ!!」
リベルトは父方のファート姓ではなく母の名であるベルフを姓に冠した。これは父から独立したことを暗に宣言していたのだ。リベルトが母の名を名乗ったお陰でジャッドはこのリベルトが何処の馬の骨かわからなくなってしまった。
だが、この目の前のリベルトという男がどこの誰であろうとジャッドの領土を侵害していることは間違いのない事実。痺れを切らしたジャッドは今まで貯めていた大枚をはたいて雇った傭兵『泥の雷』五〇名に攻撃の合図を出した。
「かかれーっ!」
傭兵たちがリベルト目掛けて突進してきた。しかし、リベルトはそれを冷静に受け止めていた。戦闘の指揮に関してはバルタザークに一任している。そして、バルタザークの手腕に関してはリベルト自身が身を持っていて実感していた。
「まだだぞ。十分に引き付けろ……ってぇー!」
バルタザークの掛け声で一斉に矢を放つ。攻め手と守り手がほぼ同数の場合、セオリー通りに守れば砦が落ちることはないとバルタザークは確信していた。問題は搦め手があった場合であるが、今のところそれは杞憂のようだ。
「こっちから打って出る必要はないぞ。遠くから数を減らしていけ!」
矢やら石やらをジャッド軍に向かって投げていると、向こうも打つ手なしになったのかすごすごと帰って行った。元より戦意の低い傭兵たちである。決死の覚悟なぞ持ち合わせていないだろう。
ジャッドだけは「こら、逃げるな! 戦え! さっさと奴らを追い出せ!!」などと喚いていたが、それだけで止められるはずもないだろう。
戦闘はあっけなく終結した。十二分に準備をしたリベルトたちに対して全くの準備不足だったジャッド軍。まさに段取り八分とはこのことだろう。
朝過ぎに始まった戦も昼前に終わるという早さである。リベルトは死傷者が居ないことを確認すると、兵士たちに少しばかりの休息を与えてから作業を開始させた。
今度の作業は今現在、手に入れた領土の東側に集落を作るための土台を作る作業だ。それは家を建てるための木材を用意したり水を確保するための井戸を作ったりである。
「リベルトさま、ジャッド=リスはあのままで宜しいので?」
「構わないさ。きっと今頃オレの親友が何とかしているはずだ」
そう言ってリベルトも井戸を作るために兵士たちに交じって一生懸命に土を掘り始めた。そして、アシュティア領もこうやって支配していけば良かったのかと一人後悔をしていたのであった。
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