内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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鰥寡孤独の始まり

36. 館の下見

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セイファー歴 756年 6月13日

セルジュとリベルトはバルタザークを伴ってリス領内を歩いていた。何のために居るのかと言うと、それはもちろん下見である。

「ここなんて良いんじゃ無い? 周囲の見晴らしも良くちょうど丘になっている。館を築くなら最適な場所だ」
「水場は近くにあった方が良いんじゃ無いか? 丘の上だと井戸は見込めないだろう」

セルジュとリベルトは館を築く場所で言い合いをしていた。バルタザークは連れて来られたは良いものの、何がどうなっているのか全くわからずにいた。

「ちょ、ちょ、ちょっと待て。お前たち、オレにもわかるように説明しろ」
「あれ? 説明してなかったっけ?」
「何も聞いてないな。何も。全く」

憤慨しているバルタザークにセルジュは軽く謝りながら今回の仕掛けの全容をバルタザークに説明した。

「ごめんごめん。じゃあ、今回の『腹立つリス領をぶっ壊そう計画』の説明をすると、リベルトがリス領に攻め込みます。以上」
「いや、それじゃあわかんねぇって。なんでオレまで連れて来られてるんだ?」
「それはバルタザークが我が隊の一◯名を率いて参戦するからだよ。バルタザーク隊の役目はジャッドを迎え撃つための防衛拠点の設営だ」

バルタザークは全く話についていくことができなかった。そもそもセルジュの説明が下手すぎるというのもあるが。バルタザークはセルジュの身体を押さえつけ、考えていることを洗いざらい白状させた。

「えっと、ジャッド=リスがボクたちに嫌がらせしてきているのは知ってるよね?」
「ああ。通行税の話だろ? それは知ってるぞ」
「うん。あの手この手を尽くしてもダメだった。でもだからと言って放っておくと我が領がジリ貧になってしまう。だから、先手を打つことにしたんだ。それがファート家に攻め取ってもらうと言う作戦だ」
「いや、それだとスポジーニが怒り狂うんじゃ無いのかい? それにその領土はファート家のものになるってことだろ?」


「いや、違う。リベルト自身のものにしてもらうんだ。つまり、リベルトを領主とした新しい家を興すんだ。そして直ぐにスポジーニ派に寝返ってもらう。そしてボクたちは手伝った報酬として少しだけ土地をもらう。これで万事解決だね」
「いや、それじゃあ南の辺境伯が黙ってないんじゃないのか?」
「話はつけてあるし、攻め込むとしたら父であるゲルブム卿が先鋒となるだろう。おそらくそれはできないはずだ」
「もし、やってきたら?」
「リベルトをうちに匿う。なんなら東辺境伯の元に匿ってもらっても良い。ボクたちは既にウィート領までの道を確保しているからね。どう転んでも美味しい話というわけさ!」

バルタザークはまさか六歳児の男の子がここまで考えているとは思わなかった。そして、再びセルジュを主君と仰ぎ見たことは間違いでなかったと確信することとなった。

「話は戻るけど、どこに館を立てるべきだろう」
「ここだな」

バルタザークはセルジュが広げていた地図のある一点を指し示した。それは占領する予定の北西にある平地であった。

「東のオレたちから攻められる心配はないだろう。南も同様と仮定する。となると、気になるのは北と西だ。ここに防衛拠点を築いて耐えてくれればオレたちかお前の親父さんが救援に来てくれるだろ」
「じゃあ、それで。疲れたしもう帰ろう」

セルジュはバルタザークの意見をすんなりと採用して現地の下見を終わらせた。帰途の最中にリベルトはセルジュに気になっていたことを質問した。

「ところでセルジュ、リス領に攻め入るのだろう? 大義名分はどうするんだ?」
「そんなもん必要ないよ。必要だから分捕る。こんな小さな戦なんて誰も気にしないさ」

セルジュは人が思っているほど周りに関心がないことを前世の時から知っていた。世間を揺るがす大事であれば流石に羊に草を喰ませている少年までその話題で持ち切りであるが、片田舎の小さな小競り合いなど誰も興味を持たないのだ。

「興味持たれないものに大義名分なんて要らないよ。時間の無駄ムダ。それに極論を言うと両方の辺境伯を納得させれば良いだけだからね。そこまで気に病む必要はないと思う」

今までの慣習にとらわれないセルジュの考え方にリベルトは思わず唸った。慣習には当時は必要だったのだろうが今となっては形骸化しているものも多い。その形骸化されたものをどう上手く省くかも必要な手腕だ。

「必要なら適当に大義名分をこじつけるけど?」
「ほんと、頼りになるよ」
「大船に乗ったつもりでいても良いよ」

この計画は雨の日の夜に実行する運びとなった。
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