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鰥寡孤独の始まり
35. 下準備
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セイファー歴 756年 6月5日
ジョルトがモパッサを連れてコンコール村へと帰ってきた。
「大切な話があると聞いてやってきたのですが、何でしょう」
モパッサは相変わらず長い髪をかき上げてこちらを見つめている。そろそろ結ぶか切るかしたらどうかとセルジュは思っていた。
「いやね、少し小競り合いを起こそうかと」
「ほう?」
モパッサの目が細まる。そしてそのまま深く腰を下ろすように座り直してからセルジュに言葉の続きを促した。
「ご存知の通り、ジャッド=リスのせいで領の交通が悪くなって仕方ありません。なので、ちょっとそこを攻め取ってしまおうかと」
「だが、同派閥同士の争いは原則として禁止されているはずだが」
「ええ。ですので、攻め落とすのはリベルト殿にお願いしようかと。もちろん、我々も一枚噛ませてもらいますが」
「だが、それをするとスポジーニは黙っていないだろう」
「おそらくは。なので、リベルト殿には直ぐにスポジーニ派に寝返ってもらおうかと」
ここまでを一問一答形式で説明するとモパッサは言葉を区切り、なるほどと小さく呟いてから自身の考えをセルジュに説明した。
「それでこちらは静観に徹しろ、ということか。だが、こちらとしては大きな損失だぞ?」
「損失? 何を損していると言うのですか?」
事実、南辺境伯側は何一つ損をしていない。強いて挙げるとすればファート士爵の嫡男がいなくなるくらいだ。だが、その嫡男も次期当主の座を辞しているため痛手と言うわけでもない。
「それよりも『絶対的東辺境伯派』の人間の領地に『仕方なく東辺境伯派』の人間の領地が生まれるのはそちらにとってもプラスになるのでは?」
セルジュの指摘する点は間違いではなかった。それはモパッサも理解できていたのだが、何よりも一番恐ろしいのは六歳の子どもがそれを意見したことだ。
「わかった。貴殿の言う通りに静観することにしよう。やはり貴殿は素晴らしい。 何としてでも我が主人の派閥に入って欲しくなったぞ」
「ボク自身は別にスポジーニ閣下に恩があるわけではないのですが、ダドリックさんには色々と便宜を図ってもらってるので、あの方の目が黒いうちはスポジーニ派で居ようと考えてます」
「……なるほど。その言葉に二言はありませんな?」
前髪の間から鋭い目つきでセルジュに問うモパッサ。セルジュはもちろんと二つ返事で即答した。その回答を聞いたモパッサは上機嫌になり――といっても端からそれは見分けがつかないのだが――ジョルトに「良い仕事だった」と一言褒めてからコンコール村を後にした。
「よし、これで両方の辺境伯とも話はついたな」
セルジュはリス領を切り崩すための下準備を着々と進行させるのであった。
ジョルトがモパッサを連れてコンコール村へと帰ってきた。
「大切な話があると聞いてやってきたのですが、何でしょう」
モパッサは相変わらず長い髪をかき上げてこちらを見つめている。そろそろ結ぶか切るかしたらどうかとセルジュは思っていた。
「いやね、少し小競り合いを起こそうかと」
「ほう?」
モパッサの目が細まる。そしてそのまま深く腰を下ろすように座り直してからセルジュに言葉の続きを促した。
「ご存知の通り、ジャッド=リスのせいで領の交通が悪くなって仕方ありません。なので、ちょっとそこを攻め取ってしまおうかと」
「だが、同派閥同士の争いは原則として禁止されているはずだが」
「ええ。ですので、攻め落とすのはリベルト殿にお願いしようかと。もちろん、我々も一枚噛ませてもらいますが」
「だが、それをするとスポジーニは黙っていないだろう」
「おそらくは。なので、リベルト殿には直ぐにスポジーニ派に寝返ってもらおうかと」
ここまでを一問一答形式で説明するとモパッサは言葉を区切り、なるほどと小さく呟いてから自身の考えをセルジュに説明した。
「それでこちらは静観に徹しろ、ということか。だが、こちらとしては大きな損失だぞ?」
「損失? 何を損していると言うのですか?」
事実、南辺境伯側は何一つ損をしていない。強いて挙げるとすればファート士爵の嫡男がいなくなるくらいだ。だが、その嫡男も次期当主の座を辞しているため痛手と言うわけでもない。
「それよりも『絶対的東辺境伯派』の人間の領地に『仕方なく東辺境伯派』の人間の領地が生まれるのはそちらにとってもプラスになるのでは?」
セルジュの指摘する点は間違いではなかった。それはモパッサも理解できていたのだが、何よりも一番恐ろしいのは六歳の子どもがそれを意見したことだ。
「わかった。貴殿の言う通りに静観することにしよう。やはり貴殿は素晴らしい。 何としてでも我が主人の派閥に入って欲しくなったぞ」
「ボク自身は別にスポジーニ閣下に恩があるわけではないのですが、ダドリックさんには色々と便宜を図ってもらってるので、あの方の目が黒いうちはスポジーニ派で居ようと考えてます」
「……なるほど。その言葉に二言はありませんな?」
前髪の間から鋭い目つきでセルジュに問うモパッサ。セルジュはもちろんと二つ返事で即答した。その回答を聞いたモパッサは上機嫌になり――といっても端からそれは見分けがつかないのだが――ジョルトに「良い仕事だった」と一言褒めてからコンコール村を後にした。
「よし、これで両方の辺境伯とも話はついたな」
セルジュはリス領を切り崩すための下準備を着々と進行させるのであった。
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