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鰥寡孤独の始まり
31. ダドリックの苦悩
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セイファー歴 756年 5月5日
まだ五月の初めだというのに今日も今日とて暑い日が続く中、新しい領主館が完成した。
「こりゃもう館っていうか砦だな」
完成した領主館を見上げながらバルタザールが独り言ちる。そしてバルタザールがこの館に名称を付けようと言い出した。
正直、セルジュは気乗りしていなかった。というのも、この館を大々的に公表したくはなかったからである。
しかし、バルタザールが指摘した『領主館が三つもあっては呼び名に困る』というのは至極尤もな意見であった。コンコール村と旧アシュティア村、それからここの合計三つの領主館が存在する。
「仕方ない。じゃあ、なんか良い名称はある?」
「そうだなぁ。難攻不落であることを願って不沈館ってのはどうだ?」
「んー。『ちん』って響きが可愛くない」
「じゃあ傾くことのない館で不傾館でどうだ?」
「まぁ、それなら……」
こうして新しく建てられた館は不傾館と名付けられた。それからセルジュは館の整備を進め始めた。いくら水堀があるとはいえ水を保存するための樽は必須だ。ほかにも炊事場、それから食料を保存する食糧庫に武器庫も用意する必要がある。
そして、なんとか不傾館は日の目を見ることができたのであった。
そのころ、ダドリックは困っていた。何に頭を悩ましているのかというと、答えは一つしかない。南で燻っているアシュティア領とリス領に関してであった。
ダドリック個人の見解としては明らかに法外な値段をとっているリス領の税を元に戻させるのが正しいと感じているのだが、それを行ってしまうと大貴族による一地方領主への介入となってしまう。
もし、介入を行ってしまえば、これが前例となってしまうだろう。そして、我が主もそれを嫌って許可を出さないことも目に見えていた。
物は試しとスポジーニ東辺境伯に直訴してみたところ。
「たかが成り上がりの騎士の領地、捨て置け。我々が手を加えることはまかりならん。これでアシュティアが離脱すれば恩知らずとの誹りを受けよう。そうなれば堂々とアシュティア領に攻め入るだけよ」
スポジーニ東辺境伯が下した結論は手出し無用。つまりそれはアシュティア領の寝返りを意味していた。スポジーニ東辺境伯はアシュティアが誹りを受けると考えているようであったが、ダドリックの見解は異なっていた。
親が守ってくれないとき、子もまたそれに付き従う必要はない、と世間の支持を得る離脱となる可能性が高いとダドリックは見ていたのだ。
「それだけは何としてでも離反だけは阻止せねば。さもないと次々と離脱が起きかねん」
ダドリックが何の解決策も出せないまま約束の期限が刻一刻と迫っていた。
まだ五月の初めだというのに今日も今日とて暑い日が続く中、新しい領主館が完成した。
「こりゃもう館っていうか砦だな」
完成した領主館を見上げながらバルタザールが独り言ちる。そしてバルタザールがこの館に名称を付けようと言い出した。
正直、セルジュは気乗りしていなかった。というのも、この館を大々的に公表したくはなかったからである。
しかし、バルタザールが指摘した『領主館が三つもあっては呼び名に困る』というのは至極尤もな意見であった。コンコール村と旧アシュティア村、それからここの合計三つの領主館が存在する。
「仕方ない。じゃあ、なんか良い名称はある?」
「そうだなぁ。難攻不落であることを願って不沈館ってのはどうだ?」
「んー。『ちん』って響きが可愛くない」
「じゃあ傾くことのない館で不傾館でどうだ?」
「まぁ、それなら……」
こうして新しく建てられた館は不傾館と名付けられた。それからセルジュは館の整備を進め始めた。いくら水堀があるとはいえ水を保存するための樽は必須だ。ほかにも炊事場、それから食料を保存する食糧庫に武器庫も用意する必要がある。
そして、なんとか不傾館は日の目を見ることができたのであった。
そのころ、ダドリックは困っていた。何に頭を悩ましているのかというと、答えは一つしかない。南で燻っているアシュティア領とリス領に関してであった。
ダドリック個人の見解としては明らかに法外な値段をとっているリス領の税を元に戻させるのが正しいと感じているのだが、それを行ってしまうと大貴族による一地方領主への介入となってしまう。
もし、介入を行ってしまえば、これが前例となってしまうだろう。そして、我が主もそれを嫌って許可を出さないことも目に見えていた。
物は試しとスポジーニ東辺境伯に直訴してみたところ。
「たかが成り上がりの騎士の領地、捨て置け。我々が手を加えることはまかりならん。これでアシュティアが離脱すれば恩知らずとの誹りを受けよう。そうなれば堂々とアシュティア領に攻め入るだけよ」
スポジーニ東辺境伯が下した結論は手出し無用。つまりそれはアシュティア領の寝返りを意味していた。スポジーニ東辺境伯はアシュティアが誹りを受けると考えているようであったが、ダドリックの見解は異なっていた。
親が守ってくれないとき、子もまたそれに付き従う必要はない、と世間の支持を得る離脱となる可能性が高いとダドリックは見ていたのだ。
「それだけは何としてでも離反だけは阻止せねば。さもないと次々と離脱が起きかねん」
ダドリックが何の解決策も出せないまま約束の期限が刻一刻と迫っていた。
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