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鰥寡孤独の始まり
28. 波乱の予感
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セイファー歴 756年 4月25日
大工からアシュティア村に必要な分の家ができたとの報告が入った。随分と早いと思われるかもしれないが基礎工事もしていないこの世界の建築なんぞこんなものである。
時を同じくしてアシュティア村の村長からもムグィラが順調に芽が出ているとの報告もあった。新しく開墾したため、畑は前回の広さと比較すると一人当たり七割くらいまで落ち込んでいるが収穫が期待できる分、みな冬は超えられそうだ。
コンコール村からも使いの者がやって来てムグィダが芽を出したようだ。グレピンも順調に育っているとのこと。セルジュはどちらの村も今のところは飢える心配がないようで心から安堵した。おそらく塩水選のお陰だろう。
そして新しい領主館の周辺情報も続々と集まってきた。調査したところによると南東へ四キロほど進んだ方向に川が流れているらしい。その川はグレン山脈から流れ出しており、新しく手に入れたコンコール地方を掠めてファート領へと流れているようだ。
そこでセルジュはコンコール地方を掠めていることを利用し、その地点から水不足解消のために堀まで水を引くことにした。もし、籠城となった場合でも水の確保が容易になるのは大きな利点である。つまり、空掘を水掘に変えようと言うのだ。
そしてそれは即ち土を掘ることを意味していた。
「また土堀りかよ! オレ兵士なのに土堀りしかしてねぇよ!」
「領土を豊かにするためだ。仕方ないだろ」
とはいえ水が通れば良いわけなので幅も深さもそれ程は無く、バルタザーク隊の全員で対処すると一週間もかからないとセルジュは見込んでいた。
セルジュは街道の整備こそ未だ手が付いていないが領主館としては何とか形になってきたと思っていた。そんな矢先にセルジュの元へ急報が入ってきた。
それは西の方で大きな戦が発生したという報であった。それはレグニス公爵派閥とジグムンド侯爵派閥の戦であり、総勢約三〇〇〇〇人がぶつかったとのこと。戦はジグムンド候爵の勝利であったが被害も大きく双方合わせて六〇〇〇人の死傷者を出した。
それが意味することは国がさらに荒れたということである。これはアシュティア領にとっては好材料でもあり不安材料でもあった。
まず、好材料の方は戦火によって難民が増えることである。本来であれば難民が増えることを好ましいとセルジュは考えるわけではない。
しかし、アシュティア領は富国施策を進めており、難民がアシュティア領まで流れて居着いてくれるのは大歓迎であった。
不安材料はこの戦を引き金にして戦火が飛び火したり、堪忍袋の尾が切れた者たちが反乱を起こす可能性が高まった点であろう。そうでなくても田畑を失った者たちがどういう行動に出るか、選択肢は少ないはずである。
セルジュは危機は好機とばかりにバルタザークをまだ建築途中の領主館に呼び出して今後の対応を話し合うことにした。
「バルタザーク。戦の話はもう聞いた?」
「おう、レグニスとジグムンドの話だろ? 兵力差的には不利だったにもかかわらず良く盛り返したな」
バルタザークはしきりに感心している。セルジュも戦の詳しい内容は気になってはいたが、まずは本題からである。
「この戦で路頭に迷った人たちが大勢出ただろう。優秀な人物を引き抜きたい。何か伝手は無いかな?」
「んー。オレはそんな顔が広い方ではないからな。ま、やるだけやってみる」
「ありがとう。この戦の余波はここまで届くと思う?」
セルジュの質問に対してバルタザークは難しい顔をした。バルタザークは優秀な男だ。下手に取り繕うよりも自身でわからないことは素直に白状したほうが良いことを彼自身が良く理解していた。
「わからん。ここまでは距離があるし、大抵の場合であれば途中で沈静化するだろう」
「ボクもそう思う。ただ、絶対はないから西方面は警戒しておいてくれ」
「あいよ」
こうして領の対応方針を定めたのではあったが、その翌日に意外な人物がセルジュの元を訪ねてきた。
大工からアシュティア村に必要な分の家ができたとの報告が入った。随分と早いと思われるかもしれないが基礎工事もしていないこの世界の建築なんぞこんなものである。
時を同じくしてアシュティア村の村長からもムグィラが順調に芽が出ているとの報告もあった。新しく開墾したため、畑は前回の広さと比較すると一人当たり七割くらいまで落ち込んでいるが収穫が期待できる分、みな冬は超えられそうだ。
コンコール村からも使いの者がやって来てムグィダが芽を出したようだ。グレピンも順調に育っているとのこと。セルジュはどちらの村も今のところは飢える心配がないようで心から安堵した。おそらく塩水選のお陰だろう。
そして新しい領主館の周辺情報も続々と集まってきた。調査したところによると南東へ四キロほど進んだ方向に川が流れているらしい。その川はグレン山脈から流れ出しており、新しく手に入れたコンコール地方を掠めてファート領へと流れているようだ。
そこでセルジュはコンコール地方を掠めていることを利用し、その地点から水不足解消のために堀まで水を引くことにした。もし、籠城となった場合でも水の確保が容易になるのは大きな利点である。つまり、空掘を水掘に変えようと言うのだ。
そしてそれは即ち土を掘ることを意味していた。
「また土堀りかよ! オレ兵士なのに土堀りしかしてねぇよ!」
「領土を豊かにするためだ。仕方ないだろ」
とはいえ水が通れば良いわけなので幅も深さもそれ程は無く、バルタザーク隊の全員で対処すると一週間もかからないとセルジュは見込んでいた。
セルジュは街道の整備こそ未だ手が付いていないが領主館としては何とか形になってきたと思っていた。そんな矢先にセルジュの元へ急報が入ってきた。
それは西の方で大きな戦が発生したという報であった。それはレグニス公爵派閥とジグムンド侯爵派閥の戦であり、総勢約三〇〇〇〇人がぶつかったとのこと。戦はジグムンド候爵の勝利であったが被害も大きく双方合わせて六〇〇〇人の死傷者を出した。
それが意味することは国がさらに荒れたということである。これはアシュティア領にとっては好材料でもあり不安材料でもあった。
まず、好材料の方は戦火によって難民が増えることである。本来であれば難民が増えることを好ましいとセルジュは考えるわけではない。
しかし、アシュティア領は富国施策を進めており、難民がアシュティア領まで流れて居着いてくれるのは大歓迎であった。
不安材料はこの戦を引き金にして戦火が飛び火したり、堪忍袋の尾が切れた者たちが反乱を起こす可能性が高まった点であろう。そうでなくても田畑を失った者たちがどういう行動に出るか、選択肢は少ないはずである。
セルジュは危機は好機とばかりにバルタザークをまだ建築途中の領主館に呼び出して今後の対応を話し合うことにした。
「バルタザーク。戦の話はもう聞いた?」
「おう、レグニスとジグムンドの話だろ? 兵力差的には不利だったにもかかわらず良く盛り返したな」
バルタザークはしきりに感心している。セルジュも戦の詳しい内容は気になってはいたが、まずは本題からである。
「この戦で路頭に迷った人たちが大勢出ただろう。優秀な人物を引き抜きたい。何か伝手は無いかな?」
「んー。オレはそんな顔が広い方ではないからな。ま、やるだけやってみる」
「ありがとう。この戦の余波はここまで届くと思う?」
セルジュの質問に対してバルタザークは難しい顔をした。バルタザークは優秀な男だ。下手に取り繕うよりも自身でわからないことは素直に白状したほうが良いことを彼自身が良く理解していた。
「わからん。ここまでは距離があるし、大抵の場合であれば途中で沈静化するだろう」
「ボクもそう思う。ただ、絶対はないから西方面は警戒しておいてくれ」
「あいよ」
こうして領の対応方針を定めたのではあったが、その翌日に意外な人物がセルジュの元を訪ねてきた。
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