内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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鰥寡孤独の始まり

26. 新たな拠点

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セイファー歴 756年 3月25日

セルジュは無事に自領へと戻り、この日は新しい領主館のための地縄張りをしていた。新しい領主館はモットアンドベイリー式の館にしようと考えていた。

モットアンドベイリー式とは簡単に説明するとアシュティア領の丘陵周辺の土を掘りだしてほりを作成し、その土で小山や丘に盛土をして頂上に櫓を組む砦のような館である。もちろん、この丘は防護柵か塀で囲み敵の侵入を阻む予定だ。

新たな館にも納屋と食糧庫も併設させる予定であった。それから購入したばかりの三頭のヤグィルも領主館で育てる予定だ。また、小さくても良いから畑も欲しいとセルジュは思っていた。

現在のアシュティア領の領民は二五〇名ほど。余裕を持って三〇〇名は入れるように地縄張りを行った。

「よし、こんなものかな」

セルジュが地縄張りを一段落させるとアシュティア村の方からジェイクとジョイが荷車を牽いてやってきた。

「おうセルジュ。久しぶりだな」
「やあジェイク。ジョイも」

昔の領主館に保存しておいた食料や資材を荷車に積み、こちらへと持って来てくれたようだ。

「アシュティア村の方はどうだ? 作業は進んでるか?」
「これが全く、全然だ。いまは十軒ほどできたぐらいのペースだよ。みんな畑を耕してるから遅々として進まないんだ」

そう答えたのはジョイ。両肩をすくめさせている。これで三割弱が完成したというところだろう。しかし村人がやらねばならないのは家造りよりも畑作りだ。食べるものが無ければ生きていくことも出来ない。これは正しい判断であったと思えた。

「じゃあ、みんなはどうしてるの?」
「ちょっと距離はあるがこれ幸いとお前が使ってた領主館と納屋を使って暮らしてるぜ。畑は言われた場所を耕してたぞ」
「そうか、それなら問題無いかな。畑優先で頼むと伝えておいてくれ」

そう言うとセルジュは自分で決めたほりに当たる場所を掘り始めた。再来月で六歳とは言え今から体力を作っておかないといけないという危機感はセルジュ自身も持ち合わせていた。

「オレたちも手伝うか?」
「いや、いい。二人はバルタザークの指示に従ってくれ」

セルジュはこの指示系統の問題でバルタザークにしこたま怒られた記憶があった。なので、セルジュは自身が指示を出せる兵が皆無の状態であった。兵の数を増やして近衛兵団を新設しても良いかもしれない。

セルジュが一人で作業をしていると日暮れ前にバルタザークたちがこちらへとやってきた。セルジュに新領主館の指示を求めてきたのでセルジュは告げた。また空堀からぼりからだ、と。

バルタザークたちが持ってきた資材の中にセルジュが戯れでつくった日乾煉瓦も含まれていた。セルジュは休憩ついでに日乾煉瓦と土で焚き火台をつくってみることにした。

バルタザークたちが一生懸命になって土を掘って丘を作っている中、セルジュもまた一生懸命になって焚き火台を作っていた。

何も遊んでいるわけではない。ここに館を築く以上、長期間滞在することになるのだ。食事くらいはしっかりしたものを用意してあげるべきだとセルジュは考えていたのだ。

「バルタザーク、みんなの練度はどれくらいだ?」
「まだまだだな。ジェイクとジョイの二人はそこら辺の奴らと同じくらいの強さだろうが、他はまだまだよ」
「そうか。じゃあ、まだ募兵はしなくて良いか」
「そうだな。今されると練度にバラつきがある二部隊を見なければならなくなる。それなら今のままだな」
「みんなが一人前になるには?」
「あと一年半は欲しい。それでも足りないくらいだ」
「わかった。焦らずに行くとしようか」

セルジュは頑張って空堀からぼりを造ってくれているみんなのために焚き火台を使って暖かい食事を用意するのであった。
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