17 / 91
鰥寡孤独の始まり
16. セルジュの初陣ー決着ー
しおりを挟む
ゲティスは直ぐに後ろで起こった出来事を即座に把握した。そのため、目の前の子ども二人を討ち取ろうと決めにかかるのだが、討ち取れないでいた。良い仕事をしていたのが二階に配置されていた狩人たちであった。
ジェイクやジョイが危なくなるとすかさず援護射撃をしてゲティスの邪魔をしていたのである。いくら達人のゲティスと言えど二人がかりの兵士に援護射撃が二人では打つ手がなしと言ったところだろう。
そして、ゲティスを苦しめる最大の要因が焦りであった。ゲティスがセルジュを討ち取らないとバルタザークがリベルトを討ち取ってしまうと考えたからである。
焦りは判断を誤らせるとは良く言ったもので目の前のジェイクとジョイ、それからセルジュの幼い見た目に騙されたゲティスはオレなら簡単に一捻りできると思い込んでしまったのだ。
それでも四人がかりと互角に相対しているゲティスは相当の猛者と言っても過言ではないだろう。このゲティスの判断が、明暗を分けてしまった。
「お前たちの大将は生け捕った。大人しく武器を捨てろ!」
大声で叫んだバルタザークの方を見るとリベルトが肩に担がれていた。こうなってしまってはどうすることもできないとゲティスは大人しく武器を捨て、それを見た周囲のファート軍の兵士たちも大人しく投降することとなった。
時は遡ること五分前。バルタザーク隊は背後からリベルト隊に襲い掛かっていた。兵の練度という点ではリベルト隊に一日の長があったのだが、兵の数ではバルタザーク隊の方が有利であった。
リベルトの近衛兵たちはバルタザークを止めに行きたかったのだが、バルタザーク隊の槍が鬱陶しく対処に遅れていた。バルタザークは事前に子飼いの兵士たちに「勝たなくて良い、負けるな。そして二人一組を常に維持しろ」と言いつけておいたのである。
「お前が大将だな。オレはアシュティアの……将軍、バルタザークだ」
「アシュティアに将軍がいたのは驚きだ。私はファート軍の大将であるリベルト=ファートである」
バルタザークはこの名前と容貌で一瞬で理解した。目の前の大将は士爵家に連なる人間だと。バルタザークは槍を逆に持ち、リベルトに素早い一撃を繰り出す。
それをなんとか剣でいなしながら、袈裟斬りで反撃を仕掛けるリベルト。バルタザークは驚きつつバックステップで躱し、自身に奢りがあったことを反省した。
「なぜ槍を逆に持っている?」
「だって逆に持たないと死んじゃうでしょ? 君が」
この一言で頭に血がのぼったリベルトがバルタザーク目掛けて突っ込んできた。バルタザークは一対一の環境を作り出してくれた部下たちに感謝をしながらリベルトの突きを躱して鳩尾に重い一撃を叩き込んだ。
こうしてアシュティア防衛戦が幕を閉じたのであった。
「うおぉぉぉっ! やったぜ領主さま!」
領民たちは勝鬨をあげて浮かれていた。バルタザークとその部下十二名は勝って兜の緒を締めよといわんばかりに敵兵の捕縛と治療に当たっていた。
それを済ましてから館の中に隠れていた領民たちを解放する。すると領民たちも敵兵の捕縛と治療を手伝い、その後に真っ直ぐに我が家へと戻った。しかし、そこには何も残っていなかった。正確には黒焦げになった木材が散在しているだけであった。
それでも村人たちの顔は沈んでいなかった。それもそのはず、ファート軍の被害が死者八人に負傷者八十六人だったのに対し、アシュティア軍は誰一人として死なずに負傷者十二人で済んだのだから。
それにセルジュに言われた通り、全ての食料を館に運び込んでいたので飢え死にする心配もない。畑に関しても土を起こす前の侵略であったので大きな問題にはならなかった。
「無くなっちまったのは残念だけど、家なんてまた建てりゃあいいさね」
領民たちはそう言って腹から声を出して笑うと踵を返して館に戻り、防護柵や納屋に眠ってある材木を根こそぎ持っていった。
セルジュもこの火急の事態に対し、納屋を解放しビビダデとモドラムに建築資材を手配するよう連絡を飛ばしたのである。
「問題はお金だなぁ」
セルジュは力なく横たわっているファート兵の一人を見つめながらそう呟いた。
「も、もうしあげます! リベルトさまの軍、全滅にございます!」
激突があった日の夜、ゲルブムは軍監として内緒で派遣されていた兵士の凶報を耳にした。そしてその報告を信じることができずにいた。いや、信じたくないとゲルブムは思っていた。
これがゲティスだけの出兵であればゲルブムもそこまで動転はしなかっただろう。だが今回は嫡男であるリベルトが軍を率いているのだ。しかも相手は格下、これで動転するなと言う方が難しいだろう。
「それは誠か! リベルトは……ゲティスはどうなった!?」
ゲルブムは伝令の兵士に詰め寄る。もちろんゲルブムはリベルトの安否を心配していたのだが、それでは兵士に示しがつかないと思い直してゲティスの安否を取る形とした。
「リベルトさま、ゲティスさま共に捕虜となってございます」
それを聞いてゲルブムは大きく息を吐いた。捕虜にしたということは交渉のカードとして使うということを暗示しており、それはつまり殺さないということを意味していたからである。
「至急、バーグを呼べ」
「はっ!」
軍監はそのまま下がってバーグを呼びに行った。ゲルブムはイスに深く腰を落とすと大きな溜息を吐き出して天井を見上げていた。
ジェイクやジョイが危なくなるとすかさず援護射撃をしてゲティスの邪魔をしていたのである。いくら達人のゲティスと言えど二人がかりの兵士に援護射撃が二人では打つ手がなしと言ったところだろう。
そして、ゲティスを苦しめる最大の要因が焦りであった。ゲティスがセルジュを討ち取らないとバルタザークがリベルトを討ち取ってしまうと考えたからである。
焦りは判断を誤らせるとは良く言ったもので目の前のジェイクとジョイ、それからセルジュの幼い見た目に騙されたゲティスはオレなら簡単に一捻りできると思い込んでしまったのだ。
それでも四人がかりと互角に相対しているゲティスは相当の猛者と言っても過言ではないだろう。このゲティスの判断が、明暗を分けてしまった。
「お前たちの大将は生け捕った。大人しく武器を捨てろ!」
大声で叫んだバルタザークの方を見るとリベルトが肩に担がれていた。こうなってしまってはどうすることもできないとゲティスは大人しく武器を捨て、それを見た周囲のファート軍の兵士たちも大人しく投降することとなった。
時は遡ること五分前。バルタザーク隊は背後からリベルト隊に襲い掛かっていた。兵の練度という点ではリベルト隊に一日の長があったのだが、兵の数ではバルタザーク隊の方が有利であった。
リベルトの近衛兵たちはバルタザークを止めに行きたかったのだが、バルタザーク隊の槍が鬱陶しく対処に遅れていた。バルタザークは事前に子飼いの兵士たちに「勝たなくて良い、負けるな。そして二人一組を常に維持しろ」と言いつけておいたのである。
「お前が大将だな。オレはアシュティアの……将軍、バルタザークだ」
「アシュティアに将軍がいたのは驚きだ。私はファート軍の大将であるリベルト=ファートである」
バルタザークはこの名前と容貌で一瞬で理解した。目の前の大将は士爵家に連なる人間だと。バルタザークは槍を逆に持ち、リベルトに素早い一撃を繰り出す。
それをなんとか剣でいなしながら、袈裟斬りで反撃を仕掛けるリベルト。バルタザークは驚きつつバックステップで躱し、自身に奢りがあったことを反省した。
「なぜ槍を逆に持っている?」
「だって逆に持たないと死んじゃうでしょ? 君が」
この一言で頭に血がのぼったリベルトがバルタザーク目掛けて突っ込んできた。バルタザークは一対一の環境を作り出してくれた部下たちに感謝をしながらリベルトの突きを躱して鳩尾に重い一撃を叩き込んだ。
こうしてアシュティア防衛戦が幕を閉じたのであった。
「うおぉぉぉっ! やったぜ領主さま!」
領民たちは勝鬨をあげて浮かれていた。バルタザークとその部下十二名は勝って兜の緒を締めよといわんばかりに敵兵の捕縛と治療に当たっていた。
それを済ましてから館の中に隠れていた領民たちを解放する。すると領民たちも敵兵の捕縛と治療を手伝い、その後に真っ直ぐに我が家へと戻った。しかし、そこには何も残っていなかった。正確には黒焦げになった木材が散在しているだけであった。
それでも村人たちの顔は沈んでいなかった。それもそのはず、ファート軍の被害が死者八人に負傷者八十六人だったのに対し、アシュティア軍は誰一人として死なずに負傷者十二人で済んだのだから。
それにセルジュに言われた通り、全ての食料を館に運び込んでいたので飢え死にする心配もない。畑に関しても土を起こす前の侵略であったので大きな問題にはならなかった。
「無くなっちまったのは残念だけど、家なんてまた建てりゃあいいさね」
領民たちはそう言って腹から声を出して笑うと踵を返して館に戻り、防護柵や納屋に眠ってある材木を根こそぎ持っていった。
セルジュもこの火急の事態に対し、納屋を解放しビビダデとモドラムに建築資材を手配するよう連絡を飛ばしたのである。
「問題はお金だなぁ」
セルジュは力なく横たわっているファート兵の一人を見つめながらそう呟いた。
「も、もうしあげます! リベルトさまの軍、全滅にございます!」
激突があった日の夜、ゲルブムは軍監として内緒で派遣されていた兵士の凶報を耳にした。そしてその報告を信じることができずにいた。いや、信じたくないとゲルブムは思っていた。
これがゲティスだけの出兵であればゲルブムもそこまで動転はしなかっただろう。だが今回は嫡男であるリベルトが軍を率いているのだ。しかも相手は格下、これで動転するなと言う方が難しいだろう。
「それは誠か! リベルトは……ゲティスはどうなった!?」
ゲルブムは伝令の兵士に詰め寄る。もちろんゲルブムはリベルトの安否を心配していたのだが、それでは兵士に示しがつかないと思い直してゲティスの安否を取る形とした。
「リベルトさま、ゲティスさま共に捕虜となってございます」
それを聞いてゲルブムは大きく息を吐いた。捕虜にしたということは交渉のカードとして使うということを暗示しており、それはつまり殺さないということを意味していたからである。
「至急、バーグを呼べ」
「はっ!」
軍監はそのまま下がってバーグを呼びに行った。ゲルブムはイスに深く腰を落とすと大きな溜息を吐き出して天井を見上げていた。
0
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる