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鰥寡孤独の始まり
14. セルジュの初陣ー前哨ー
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セイファー歴 756年 2月26日
「セルジュ、もうすぐ敵が攻め込んでくるぞ」
バルタザークは執務室にノックもせずにズカズカと入り込むと、羊皮紙に目を通しているセルジュに向かって乱暴に言い放った。
「来たか」
「さきほど偵察兵が来ていたと報告があった。おそらく種蒔き前に攻め込むつもりだろう」
「予想よりだいぶ早かったね。こちらの兵力はバレた?」
セルジュの予想では侵攻があるのは九月ごろだと考えていた。もしくは畑の土を起こした5月過ぎのどちらかだと。
一○人程度で良いので傭兵を雇いたかったのだが今からではとても間に合わないだろう。そもそも今このタイミングではお金が足りない。
「どうだかな。警戒に当たらせていたのが十二歳のウェルグとボルグだったから兵は幼子しか居ないと考えているだろう」
「それは事実だからどうすることもできないね。みんなの練度は?」
「言ってまだ半年の訓練だからな。下の上というところだ」
「下の下じゃないだけマシだよ」
セルジュはドロテアを呼びつけると敵が迫っていることを伝え、領民に全ての食料を持って館へ来るようお願いをした。バルタザークは執務室の机の上の物を雑にどかすと、この村の地図を広げてセルジュに尋ねた。
「そういえば、何か策があると言ってたな」
「うん。ボクの考える作戦は単純だけど挟撃だ」
そう言って今自分たちがいる館を指差す。ここに村人全員を集めて防衛にあたるとバルタザークに説明する。それからセルジュは作戦の具体的な説明に入った。
「防衛にあたるのはボクと弓の訓練をした三十七人と弓が扱える狩人の二人だ。あと、できればそちらからも二人貸して欲しい」
「二人ならお安い御用だ。ジェイクとジョイをお前さんに渡そう」
「ありがとう。作戦だけど、まず村を全て放棄する。そして敵をこの館に釘付けにするからバルタザークには手勢一○名と近場に隠れて敵の背後をついて欲しい。そして、できれば敵将を生け捕りにするんだ」
「生け捕りか。それは中々骨が折れそうだな」
「無理なら殺して。最善が生け捕りで次善が討ち取り。最悪は全滅だ」
「それはわかったが、お前たちだけでこの館を防ぎきれるか?」
「それは領民と敵の数次第だね」
セイファー歴 756年 2月27日
「大将、偵察兵が戻ってきました」
「結果はどうだ?」
「傭兵は居ないようです。幼い兵が何名か居たとのこと」
ゲティスは戻ってきた偵察兵からの情報をリベルトに報告していた。その報告を聞いたリベルトは勝利を確信し、全軍に出撃の号令をかけた。出立の準備は既に整えてあるので、リベルト率いるファート軍は領都であるアルマナを即座に後にした。
セイファー歴 756年 3月1日
「隊長! 五百ルタール先に敵影が確認できました!」
兵士の一人がバルタザークに報告をする。確認できた敵影はおよそ百人。案の定、旗印は青地に大鷲のファート家のものであった。
「よし。じゃあ、お前はそのままセルジュに伝えに行ってくれ」
兵士は二つ返事で了承するとそのまま村の方へと走り去っていた。
「隊長、どうするんです?」
バルタザークの横に控えていたジェイクが尋ねる。
「このまますんなりと通すのは癪だからな。少し嫌がらせでもしていこうじゃないか」
「野営の準備、完了いたしました!」
兵士の一人がリベルトに報告した。ファート軍は村から一キロほど離れた何もない地で野営の準備を完了させた。ここで兵を一休みさせて明日の朝一番に突撃する予定である。
「ご苦労。では休むとしようか」
リベルトもゲルブム同様に暗愚な男ではなかった。そのため、兵士たちの士気と体調には常に気を配っていた。
リベルトは勝敗を決定づけるのは兵の数と士気の高さだと考えていたからだ。かのランチェスターも兵の数と質で攻撃力が決定されると一次法則で定義していたので、リベルトの考え方はあながち間違いではない。
そして、そのことを理解している人物がこの場にもう一人存在していた。
「て、敵襲! 敵襲!」
それはまさにファート軍にとって青天の霹靂であった。バルタザーク率いるアシュティア兵が手当たり次第に火矢を野営地に打ち込んだのである。これは、アシュティア領の地形をうまく活用した戦術であった。
アシュティア領はなだらかではあるが丘陵地帯である。アシュティア領を一番駆け回ってきたバルタザーク隊がその地形を把握していない訳がなかった。
ファート軍が何もない地だと思って野営していた場所は確かに見晴らしは良い。しかし丘陵のため、死角も多く存在していたのである。ファート軍はまんまとバルタザーク隊に接近を許してしまい、野営地を火の海へと変えられてしまったのであった。
「必要なものをまとめろ! ここを離れるぞ!」
ゲティスの判断は早かった。さすがは歴戦の雄である。本来であれば消火したいところではあったが周囲に水はなく、また、土も掘り起こす時間がなかった。それであればこの地から移動して安全を確保することが先決だと考えたからである。
ファート軍は幸か不幸かこの夜襲で死傷者は出なかったものの、大切な糧秣を燃やされてしまったのであった。
「セルジュ、もうすぐ敵が攻め込んでくるぞ」
バルタザークは執務室にノックもせずにズカズカと入り込むと、羊皮紙に目を通しているセルジュに向かって乱暴に言い放った。
「来たか」
「さきほど偵察兵が来ていたと報告があった。おそらく種蒔き前に攻め込むつもりだろう」
「予想よりだいぶ早かったね。こちらの兵力はバレた?」
セルジュの予想では侵攻があるのは九月ごろだと考えていた。もしくは畑の土を起こした5月過ぎのどちらかだと。
一○人程度で良いので傭兵を雇いたかったのだが今からではとても間に合わないだろう。そもそも今このタイミングではお金が足りない。
「どうだかな。警戒に当たらせていたのが十二歳のウェルグとボルグだったから兵は幼子しか居ないと考えているだろう」
「それは事実だからどうすることもできないね。みんなの練度は?」
「言ってまだ半年の訓練だからな。下の上というところだ」
「下の下じゃないだけマシだよ」
セルジュはドロテアを呼びつけると敵が迫っていることを伝え、領民に全ての食料を持って館へ来るようお願いをした。バルタザークは執務室の机の上の物を雑にどかすと、この村の地図を広げてセルジュに尋ねた。
「そういえば、何か策があると言ってたな」
「うん。ボクの考える作戦は単純だけど挟撃だ」
そう言って今自分たちがいる館を指差す。ここに村人全員を集めて防衛にあたるとバルタザークに説明する。それからセルジュは作戦の具体的な説明に入った。
「防衛にあたるのはボクと弓の訓練をした三十七人と弓が扱える狩人の二人だ。あと、できればそちらからも二人貸して欲しい」
「二人ならお安い御用だ。ジェイクとジョイをお前さんに渡そう」
「ありがとう。作戦だけど、まず村を全て放棄する。そして敵をこの館に釘付けにするからバルタザークには手勢一○名と近場に隠れて敵の背後をついて欲しい。そして、できれば敵将を生け捕りにするんだ」
「生け捕りか。それは中々骨が折れそうだな」
「無理なら殺して。最善が生け捕りで次善が討ち取り。最悪は全滅だ」
「それはわかったが、お前たちだけでこの館を防ぎきれるか?」
「それは領民と敵の数次第だね」
セイファー歴 756年 2月27日
「大将、偵察兵が戻ってきました」
「結果はどうだ?」
「傭兵は居ないようです。幼い兵が何名か居たとのこと」
ゲティスは戻ってきた偵察兵からの情報をリベルトに報告していた。その報告を聞いたリベルトは勝利を確信し、全軍に出撃の号令をかけた。出立の準備は既に整えてあるので、リベルト率いるファート軍は領都であるアルマナを即座に後にした。
セイファー歴 756年 3月1日
「隊長! 五百ルタール先に敵影が確認できました!」
兵士の一人がバルタザークに報告をする。確認できた敵影はおよそ百人。案の定、旗印は青地に大鷲のファート家のものであった。
「よし。じゃあ、お前はそのままセルジュに伝えに行ってくれ」
兵士は二つ返事で了承するとそのまま村の方へと走り去っていた。
「隊長、どうするんです?」
バルタザークの横に控えていたジェイクが尋ねる。
「このまますんなりと通すのは癪だからな。少し嫌がらせでもしていこうじゃないか」
「野営の準備、完了いたしました!」
兵士の一人がリベルトに報告した。ファート軍は村から一キロほど離れた何もない地で野営の準備を完了させた。ここで兵を一休みさせて明日の朝一番に突撃する予定である。
「ご苦労。では休むとしようか」
リベルトもゲルブム同様に暗愚な男ではなかった。そのため、兵士たちの士気と体調には常に気を配っていた。
リベルトは勝敗を決定づけるのは兵の数と士気の高さだと考えていたからだ。かのランチェスターも兵の数と質で攻撃力が決定されると一次法則で定義していたので、リベルトの考え方はあながち間違いではない。
そして、そのことを理解している人物がこの場にもう一人存在していた。
「て、敵襲! 敵襲!」
それはまさにファート軍にとって青天の霹靂であった。バルタザーク率いるアシュティア兵が手当たり次第に火矢を野営地に打ち込んだのである。これは、アシュティア領の地形をうまく活用した戦術であった。
アシュティア領はなだらかではあるが丘陵地帯である。アシュティア領を一番駆け回ってきたバルタザーク隊がその地形を把握していない訳がなかった。
ファート軍が何もない地だと思って野営していた場所は確かに見晴らしは良い。しかし丘陵のため、死角も多く存在していたのである。ファート軍はまんまとバルタザーク隊に接近を許してしまい、野営地を火の海へと変えられてしまったのであった。
「必要なものをまとめろ! ここを離れるぞ!」
ゲティスの判断は早かった。さすがは歴戦の雄である。本来であれば消火したいところではあったが周囲に水はなく、また、土も掘り起こす時間がなかった。それであればこの地から移動して安全を確保することが先決だと考えたからである。
ファート軍は幸か不幸かこの夜襲で死傷者は出なかったものの、大切な糧秣を燃やされてしまったのであった。
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