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鰥寡孤独の始まり
11. 集めて備えて
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セイファー歴 755年 11月15日
肌を刺すような冷たい風がアシュティア領内で吹き荒れている頃、セルジュが丹精込めて育てたビーグとカブラが実りの時期を迎えた。
しかし、今期は収穫ではなく種を増やす目的での栽培なので味の確認まではできない。それでも痩せた土地で見事に育てることが出来たセルジュはある種の満足感を感じていた。
「これで来年は収穫が期待できそうな量の種を確保できたぞ」
セルジュはこの事実に対して浮かれてはいたが、直ぐに大きなため息を吐いた。彼を悩ます今度の悩みはお金であった。そう、資金が底を尽き始めていたのである。
手元にあったのは父の見舞金と執務室にしまってあったお金だけだ。それに対し、領民を増やして兵を育てている彼の懐はもはや破産寸前であった。それもこれもバルタザークがジェイクとジョイ以下十名の装備一式を強請ったからである。
お陰でセルジュの元に残ったのはたった銀貨八枚だけであった。これならば商人の方が裕福だろう。ただセルジュは悲観していなかった。
今期は税も免除されており移民たちの家も完成している。既に出費は払い終えたのだ。そう思いながら領民の陳情に目を通すと、風車の老朽化やパン窯の不調などお金が飛んでいきそうな内容ばかりでセルジュは再び頭を垂れるのであった。
「落ち込んでいても仕方が無いか」
セルジュは館の横に併設されている納屋へと行き、資材を確認する。そこには材木や煉瓦、藁や石などが積まれていた。
とは言え在庫量にはばらつきがあり、藁は収穫したばかりなので大量にあったが材木や煉瓦は残りが少なくなっていた。
これから資材をたくさん消費すると考えたセルジュはバルタザークの元へと向かった。バルタザークは相変わらず体力づくりのために皆を走らせている。今日はセルジュに強請って手に入れたフル装備で走らせているため一段と身体が重そうだ。
「バルタザーク、少し良い?」
体力づくりをしている兵士たちに目を付けたセルジュはバルタザークに一石二鳥な提案を申し入れ、バルタザークはそれを受け入れたのであった。
「ほら! どんどん木を伐れ! まだまだ足りないぞぉ!」
今、走らされていた彼らは槍の代わりに斧を持っていた。そう体力づくりと称して木材を集めるよう依頼したのである。これで資材が貯まりそうだとセルジュはほくそ笑んでいた。
「バルタザーク。兵の半分を借りて良いか?」
「良いが、なにするんだ?」
「それはね。地面を掘らせるんだ」
セルジュは六人を連れ立って館へと戻ってきた。そして館に入るために必要な道だけを残して全員に堀を掘らせたのだ。それも人一人がすっぽりと入るだけの深さを。
そうして出てきた粘土状の土を使ってセルジュは簡単な日乾の煉瓦を作ろうとしていた。この時期は無理だろうが、納屋で寝かせておいて春夏に表に出しておけば乾燥して立派な煉瓦になるだろう。
「掘り起こした土は館の前へと集めておいてくれ」
そう指示を出すとセルジュも兵士たちだけにやらせるわけにはいかないと、穴掘りへと身を投じたのであった。
セイファー歴 755年 12月10日
アシュティア領内でも雪の気配が高まってきた。風の冷たさは激しさを増し、暖を取らないと凍え死にしてしまいそうだ。
「なんとか雪が降る前に掘を完成させることが出来たな」
幅と深さが共に人一人分ある堀が完成した。後は掘り起こした土で敵の侵入を妨げる土壁を作れば完成だ。堀があるので作る必要もないかもしれないが、念には念を入れるのがセルジュだ。
こちらも雪が降る前に完成させたいところではあるが、六人でそれは難しいだろうとセルジュも考えていた。
「中々立派な館になってきたじゃねぇか」
バルタザークが今日も今日とて木材を納屋へ運びに兵たちを連れてきた。お陰で納屋の中は木材で一杯である。
「丁度良いところに戻って来たね。これから土壁を作りたいのだがバルタザークにお願いして良い?」
「おう、任せとけ」
「それで土壁なんだけど館の入り口に向かって狭まるように作ってもらいたいんだ」
セルジュは手頃な棒を拾って地面にハの字を描く。エントランスから見ると、だんだん広がっていく仕様の土壁だ。そして土壁を堀の手前まで作った後は、そのまま屋敷を取り囲むように一周してもらう。
「わかった、やってみよう」
そう言うとバルタザークは兵を素早く纏め上げ、その場でテキパキと指示を出し始めた。やはり餅は餅屋だとセルジュは己の未熟さを痛感していた。
指示を出し終わったバルタザークの元へと歩みよってセルジュは疑問に思っていた質問を投げ掛けた。
「ゲルブム卿はどれくらいの人員で攻めてくると思う?」
「規模から考えると百から百五十ってとこだろうな。下手をすると二百もあり得るぞ」
「そうだよね。ボクも同じ考えだよ」
「何か考えはあるのかい?」
バルタザークが挑発的な質問をセルジュに投げかけた。セルジュはそれを考えるのがバルタザークの役目だろうと言いたいところではあったが、それをグッと堪えて質問に答えた。
「うーん、あると言えばある。けど、上手く行くかはこれからって感じ」
そう言うとセルジュは土壁の作成をバルタザークに任せ、今まさに運ばれてきた材木を使って何やら作り始めた。
正方形の木と長方形の木を組み合わせただけのもの。一見すると立て札のように見えるが、それは的であった。それを量産するセルジュ。
これがアシュティア家の存亡をかけたセルジュの作戦の一つであった。
肌を刺すような冷たい風がアシュティア領内で吹き荒れている頃、セルジュが丹精込めて育てたビーグとカブラが実りの時期を迎えた。
しかし、今期は収穫ではなく種を増やす目的での栽培なので味の確認まではできない。それでも痩せた土地で見事に育てることが出来たセルジュはある種の満足感を感じていた。
「これで来年は収穫が期待できそうな量の種を確保できたぞ」
セルジュはこの事実に対して浮かれてはいたが、直ぐに大きなため息を吐いた。彼を悩ます今度の悩みはお金であった。そう、資金が底を尽き始めていたのである。
手元にあったのは父の見舞金と執務室にしまってあったお金だけだ。それに対し、領民を増やして兵を育てている彼の懐はもはや破産寸前であった。それもこれもバルタザークがジェイクとジョイ以下十名の装備一式を強請ったからである。
お陰でセルジュの元に残ったのはたった銀貨八枚だけであった。これならば商人の方が裕福だろう。ただセルジュは悲観していなかった。
今期は税も免除されており移民たちの家も完成している。既に出費は払い終えたのだ。そう思いながら領民の陳情に目を通すと、風車の老朽化やパン窯の不調などお金が飛んでいきそうな内容ばかりでセルジュは再び頭を垂れるのであった。
「落ち込んでいても仕方が無いか」
セルジュは館の横に併設されている納屋へと行き、資材を確認する。そこには材木や煉瓦、藁や石などが積まれていた。
とは言え在庫量にはばらつきがあり、藁は収穫したばかりなので大量にあったが材木や煉瓦は残りが少なくなっていた。
これから資材をたくさん消費すると考えたセルジュはバルタザークの元へと向かった。バルタザークは相変わらず体力づくりのために皆を走らせている。今日はセルジュに強請って手に入れたフル装備で走らせているため一段と身体が重そうだ。
「バルタザーク、少し良い?」
体力づくりをしている兵士たちに目を付けたセルジュはバルタザークに一石二鳥な提案を申し入れ、バルタザークはそれを受け入れたのであった。
「ほら! どんどん木を伐れ! まだまだ足りないぞぉ!」
今、走らされていた彼らは槍の代わりに斧を持っていた。そう体力づくりと称して木材を集めるよう依頼したのである。これで資材が貯まりそうだとセルジュはほくそ笑んでいた。
「バルタザーク。兵の半分を借りて良いか?」
「良いが、なにするんだ?」
「それはね。地面を掘らせるんだ」
セルジュは六人を連れ立って館へと戻ってきた。そして館に入るために必要な道だけを残して全員に堀を掘らせたのだ。それも人一人がすっぽりと入るだけの深さを。
そうして出てきた粘土状の土を使ってセルジュは簡単な日乾の煉瓦を作ろうとしていた。この時期は無理だろうが、納屋で寝かせておいて春夏に表に出しておけば乾燥して立派な煉瓦になるだろう。
「掘り起こした土は館の前へと集めておいてくれ」
そう指示を出すとセルジュも兵士たちだけにやらせるわけにはいかないと、穴掘りへと身を投じたのであった。
セイファー歴 755年 12月10日
アシュティア領内でも雪の気配が高まってきた。風の冷たさは激しさを増し、暖を取らないと凍え死にしてしまいそうだ。
「なんとか雪が降る前に掘を完成させることが出来たな」
幅と深さが共に人一人分ある堀が完成した。後は掘り起こした土で敵の侵入を妨げる土壁を作れば完成だ。堀があるので作る必要もないかもしれないが、念には念を入れるのがセルジュだ。
こちらも雪が降る前に完成させたいところではあるが、六人でそれは難しいだろうとセルジュも考えていた。
「中々立派な館になってきたじゃねぇか」
バルタザークが今日も今日とて木材を納屋へ運びに兵たちを連れてきた。お陰で納屋の中は木材で一杯である。
「丁度良いところに戻って来たね。これから土壁を作りたいのだがバルタザークにお願いして良い?」
「おう、任せとけ」
「それで土壁なんだけど館の入り口に向かって狭まるように作ってもらいたいんだ」
セルジュは手頃な棒を拾って地面にハの字を描く。エントランスから見ると、だんだん広がっていく仕様の土壁だ。そして土壁を堀の手前まで作った後は、そのまま屋敷を取り囲むように一周してもらう。
「わかった、やってみよう」
そう言うとバルタザークは兵を素早く纏め上げ、その場でテキパキと指示を出し始めた。やはり餅は餅屋だとセルジュは己の未熟さを痛感していた。
指示を出し終わったバルタザークの元へと歩みよってセルジュは疑問に思っていた質問を投げ掛けた。
「ゲルブム卿はどれくらいの人員で攻めてくると思う?」
「規模から考えると百から百五十ってとこだろうな。下手をすると二百もあり得るぞ」
「そうだよね。ボクも同じ考えだよ」
「何か考えはあるのかい?」
バルタザークが挑発的な質問をセルジュに投げかけた。セルジュはそれを考えるのがバルタザークの役目だろうと言いたいところではあったが、それをグッと堪えて質問に答えた。
「うーん、あると言えばある。けど、上手く行くかはこれからって感じ」
そう言うとセルジュは土壁の作成をバルタザークに任せ、今まさに運ばれてきた材木を使って何やら作り始めた。
正方形の木と長方形の木を組み合わせただけのもの。一見すると立て札のように見えるが、それは的であった。それを量産するセルジュ。
これがアシュティア家の存亡をかけたセルジュの作戦の一つであった。
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