内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

inu

文字の大きさ
上 下
12 / 91
鰥寡孤独の始まり

11. 集めて備えて

しおりを挟む
セイファー歴 755年 11月15日

肌を刺すような冷たい風がアシュティア領内で吹き荒れている頃、セルジュが丹精込めて育てたビーグとカブラが実りの時期を迎えた。

しかし、今期は収穫ではなく種を増やす目的での栽培なので味の確認まではできない。それでも痩せた土地で見事に育てることが出来たセルジュはある種の満足感を感じていた。

「これで来年は収穫が期待できそうな量の種を確保できたぞ」

セルジュはこの事実に対して浮かれてはいたが、直ぐに大きなため息を吐いた。彼を悩ます今度の悩みはお金であった。そう、資金が底を尽き始めていたのである。

手元にあったのは父の見舞金と執務室にしまってあったお金だけだ。それに対し、領民を増やして兵を育てている彼の懐はもはや破産寸前であった。それもこれもバルタザークがジェイクとジョイ以下十名の装備一式を強請ったからである。

お陰でセルジュの元に残ったのはたった銀貨八枚だけであった。これならば商人の方が裕福だろう。ただセルジュは悲観していなかった。

今期は税も免除されており移民たちの家も完成している。既に出費は払い終えたのだ。そう思いながら領民の陳情に目を通すと、風車の老朽化やパン窯の不調などお金が飛んでいきそうな内容ばかりでセルジュは再び頭を垂れるのであった。

「落ち込んでいても仕方が無いか」

セルジュは館の横に併設されている納屋へと行き、資材を確認する。そこには材木や煉瓦、藁や石などが積まれていた。

とは言え在庫量にはばらつきがあり、藁は収穫したばかりなので大量にあったが材木や煉瓦は残りが少なくなっていた。

これから資材をたくさん消費すると考えたセルジュはバルタザークの元へと向かった。バルタザークは相変わらず体力づくりのために皆を走らせている。今日はセルジュに強請って手に入れたフル装備で走らせているため一段と身体が重そうだ。

「バルタザーク、少し良い?」

体力づくりをしている兵士たちに目を付けたセルジュはバルタザークに一石二鳥な提案を申し入れ、バルタザークはそれを受け入れたのであった。



「ほら! どんどん木を伐れ! まだまだ足りないぞぉ!」

今、走らされていた彼らは槍の代わりに斧を持っていた。そう体力づくりと称して木材を集めるよう依頼したのである。これで資材が貯まりそうだとセルジュはほくそ笑んでいた。

「バルタザーク。兵の半分を借りて良いか?」
「良いが、なにするんだ?」
「それはね。地面を掘らせるんだ」

セルジュは六人を連れ立って館へと戻ってきた。そして館に入るために必要な道だけを残して全員にほりを掘らせたのだ。それも人一人がすっぽりと入るだけの深さを。

そうして出てきた粘土状の土を使ってセルジュは簡単な日乾の煉瓦を作ろうとしていた。この時期は無理だろうが、納屋で寝かせておいて春夏に表に出しておけば乾燥して立派な煉瓦になるだろう。

「掘り起こした土は館の前へと集めておいてくれ」

そう指示を出すとセルジュも兵士たちだけにやらせるわけにはいかないと、穴掘りへと身を投じたのであった。



セイファー歴 755年 12月10日

アシュティア領内でも雪の気配が高まってきた。風の冷たさは激しさを増し、暖を取らないと凍え死にしてしまいそうだ。

「なんとか雪が降る前に掘を完成させることが出来たな」

幅と深さが共に人一人分あるほりが完成した。後は掘り起こした土で敵の侵入を妨げる土壁を作れば完成だ。ほりがあるので作る必要もないかもしれないが、念には念を入れるのがセルジュだ。

こちらも雪が降る前に完成させたいところではあるが、六人でそれは難しいだろうとセルジュも考えていた。

「中々立派な館になってきたじゃねぇか」

バルタザークが今日も今日とて木材を納屋へ運びに兵たちを連れてきた。お陰で納屋の中は木材で一杯である。

「丁度良いところに戻って来たね。これから土壁を作りたいのだがバルタザークにお願いして良い?」
「おう、任せとけ」
「それで土壁なんだけど館の入り口に向かって狭まるように作ってもらいたいんだ」

セルジュは手頃な棒を拾って地面にハの字を描く。エントランスから見ると、だんだん広がっていく仕様の土壁だ。そして土壁をほりの手前まで作った後は、そのまま屋敷を取り囲むように一周してもらう。

「わかった、やってみよう」

そう言うとバルタザークは兵を素早く纏め上げ、その場でテキパキと指示を出し始めた。やはり餅は餅屋だとセルジュは己の未熟さを痛感していた。

指示を出し終わったバルタザークの元へと歩みよってセルジュは疑問に思っていた質問を投げ掛けた。

「ゲルブム卿はどれくらいの人員で攻めてくると思う?」
「規模から考えると百から百五十ってとこだろうな。下手をすると二百もあり得るぞ」
「そうだよね。ボクも同じ考えだよ」
「何か考えはあるのかい?」

バルタザークが挑発的な質問をセルジュに投げかけた。セルジュはそれを考えるのがバルタザークの役目だろうと言いたいところではあったが、それをグッと堪えて質問に答えた。

「うーん、あると言えばある。けど、上手く行くかはこれからって感じ」

そう言うとセルジュは土壁の作成をバルタザークに任せ、今まさに運ばれてきた材木を使って何やら作り始めた。

正方形の木と長方形の木を組み合わせただけのもの。一見すると立て札のように見えるが、それは的であった。それを量産するセルジュ。

これがアシュティア家の存亡をかけたセルジュの作戦の一つであった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

黒の創造召喚師

幾威空
ファンタジー
※2021/04/12 お気に入り登録数5,000を達成しました!ありがとうございます! ※2021/02/28 続編の連載を開始しました。 ■あらすじ■ 佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡してしまう。しかも、神様の「手違い」によって。 そんな継那は神様から転生の権利を得、地球とは異なる異世界で第二の人生を歩む。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...