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鰥寡孤独の始まり
08. 握髪吐哺の実り
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セイファー歴 755年 7月18日
セルジュは今日も館の改築に精を出していた。今日は防備を固めるために館周辺の木を切って見晴らしを良くしている最中であった。
もちろん、この作業は一人では無理なので、いつもの悪友二人にも手伝ってもらっていた。切った木はそのまま防護柵へと姿を変える予定である。
それを遠くから見ていた男が居た。背が高く、見た目から武人であるという事を表現しているガッシリとした身体つき。顔には無精ひげを生やしており、実年齢よりも確実に上にみられるであろう顔立ちをしていた。
その男性は三人――主にセルジュを――の様子を満足いくまで眺めると彼らの元へと歩み寄った。
「お前さんがアシュティア領主のセルジュかい?」
「はい、そうですが……貴方は?」
「オレはバルタザーク。ダドリックのおっさんから紹介されてやって来た者だ、と言えばわかるか?」
このバルタザークと名乗った男はダドリックから紹介されてやって来た青年であった。バルタザークが一通の手紙をセルジュに差し出す。差出人はダドリックである。セルジュは手紙の封を切ってその場で読み始めた。
手紙の内容はバルタザークについてであった。バルタザークは御年二十四歳で以前は東辺境伯の騎士団に所属していたらしい。
腕が立つので将来を見込まれていたのだが、癖が強い性格が災いして上官と反りが合わずにそのまま退団。それを勿体無いと惜しんだダドリックがセルジュのところへと紹介したという経緯だ。
「なるほど。まずは中へどうぞ」
応接間へとバルタザークを案内する。もちろん悪友二人も一緒だ。セルジュはバルタザークを貴賓席へと通し、自身は未だ座り慣れない領主席に浅く座る。悪友二人はセルジュの後ろに立っていた。
「ダドリックさんからの手紙に大体の事情は書かれていました。ですが、なぜ我が家に?」
「馬鹿で面倒な上司が居ねーからな。過ごしやすいと思ったわけよ」
バルタザークは荒い口調で言い放つ。目上の人物に敬語を、という概念は持ち合わせていないようであった。
ただ、セルジュもバルタザークにそのような小事を求めているわけではない。そう言った点でいうと、この二人の相性は悪くないことが推測できた。
「ですが、ここには私と言う上官が居ますよ。まだ幼く扱いには難しいところがあると思いますが」
「自分で言うかねぇ。お前の賢さはダドリックの親父から聞いてるよ。だが、そうだなぁ。……もし、オレがお前さんの家臣となったら、どう使う?」
このバルタザークの質問にセルジュは腕を組んだまま小考し、こう言い切った。
「わからない」
この回答は意外だったのか、バルタザークは少し面食らった表情をしていた。セルジュとしては会って数刻も経っていない人間をおいそれと評価できないと判断したのだ。
ただ、それはバルタザークの求めている答えではないということも承知していたので、それをバルタザークに伝えた上でセルジュは自分の意見を伝えた。
「とまあ、色々と語りましたが好きにさせるつもりです。報告と連絡、相談を徹底して目的さえ達してくれれば口煩くは言いませんよ」
それを伝えるとバルタザークの口角が大きく跳ね上がった。どうやらセルジュはバルタザークが満足いく回答を伝えることが出来たようだ。
「その言葉だけもらえりゃ充分だ。ここで世話になりたいと思う。よろしく頼む」
バルタザークは鶏口となるも牛後となるなかれと考えているようだ。組織の歯車となれない人間はその方が良いだろう。
「それは有り難い。こちらこそ、お願いしたいのですが……」
セルジュはダドリックが紹介する人材に間違いはないだろうと考えていた。その人材が向こうから頭を下げて加わりたいと申し出てくれたのは素直に嬉しい出来事なのだが、問題は給金である。
ご存知の通りアシュティア家にはお金がない。あげられる領地もないので無いもの尽くしである。セルジュはその事実を素直にバルタザークに伝えると、バルタザークは指を二本立てた。
「オレが求めるのは二つ。衣食住の保障と戦だ。どうだ?」
どうやらこのバルタザークと言う男は戦の中に己の価値を見出すタイプの人間だったようだ。セルジュはこの条件に対し前者はすぐに提供できると判断した。
問題は後者だ。確かに眼前にまで迫ってきている戦があるが、その後の予定を聞かれると無いに等しい。いや、無いと断言したいと願っていた。
「わかりました。よろしくお願いします」
しかし、セルジュはこの条件を二つ返事で快諾した。後の戦に関しては今考えても詮無きことと考えていた。
もし出て行かれたらその時はその時である。セルジュ自身に領主としての魅力が無かったとして諦めるしかないだろう。
「よし、じゃあ契約成立だな。オレのことはバルタって呼んでくれ。呼び捨てで構わないぞ」
「わかった。じゃあバルタ、最初にやってもらう仕事だけど」
セルジュはそこで一度、言葉を区切ると後ろで締まりがなく緩く突っ立っている二人を指名してからバルタザークに告げた。
「この二人を立派な武人に育て上げてくれ。もちろん、やり方は全て任せるよ」
遠くから二人の悲鳴が聞こえてきたのは言うまでもないだろう。
セルジュは今日も館の改築に精を出していた。今日は防備を固めるために館周辺の木を切って見晴らしを良くしている最中であった。
もちろん、この作業は一人では無理なので、いつもの悪友二人にも手伝ってもらっていた。切った木はそのまま防護柵へと姿を変える予定である。
それを遠くから見ていた男が居た。背が高く、見た目から武人であるという事を表現しているガッシリとした身体つき。顔には無精ひげを生やしており、実年齢よりも確実に上にみられるであろう顔立ちをしていた。
その男性は三人――主にセルジュを――の様子を満足いくまで眺めると彼らの元へと歩み寄った。
「お前さんがアシュティア領主のセルジュかい?」
「はい、そうですが……貴方は?」
「オレはバルタザーク。ダドリックのおっさんから紹介されてやって来た者だ、と言えばわかるか?」
このバルタザークと名乗った男はダドリックから紹介されてやって来た青年であった。バルタザークが一通の手紙をセルジュに差し出す。差出人はダドリックである。セルジュは手紙の封を切ってその場で読み始めた。
手紙の内容はバルタザークについてであった。バルタザークは御年二十四歳で以前は東辺境伯の騎士団に所属していたらしい。
腕が立つので将来を見込まれていたのだが、癖が強い性格が災いして上官と反りが合わずにそのまま退団。それを勿体無いと惜しんだダドリックがセルジュのところへと紹介したという経緯だ。
「なるほど。まずは中へどうぞ」
応接間へとバルタザークを案内する。もちろん悪友二人も一緒だ。セルジュはバルタザークを貴賓席へと通し、自身は未だ座り慣れない領主席に浅く座る。悪友二人はセルジュの後ろに立っていた。
「ダドリックさんからの手紙に大体の事情は書かれていました。ですが、なぜ我が家に?」
「馬鹿で面倒な上司が居ねーからな。過ごしやすいと思ったわけよ」
バルタザークは荒い口調で言い放つ。目上の人物に敬語を、という概念は持ち合わせていないようであった。
ただ、セルジュもバルタザークにそのような小事を求めているわけではない。そう言った点でいうと、この二人の相性は悪くないことが推測できた。
「ですが、ここには私と言う上官が居ますよ。まだ幼く扱いには難しいところがあると思いますが」
「自分で言うかねぇ。お前の賢さはダドリックの親父から聞いてるよ。だが、そうだなぁ。……もし、オレがお前さんの家臣となったら、どう使う?」
このバルタザークの質問にセルジュは腕を組んだまま小考し、こう言い切った。
「わからない」
この回答は意外だったのか、バルタザークは少し面食らった表情をしていた。セルジュとしては会って数刻も経っていない人間をおいそれと評価できないと判断したのだ。
ただ、それはバルタザークの求めている答えではないということも承知していたので、それをバルタザークに伝えた上でセルジュは自分の意見を伝えた。
「とまあ、色々と語りましたが好きにさせるつもりです。報告と連絡、相談を徹底して目的さえ達してくれれば口煩くは言いませんよ」
それを伝えるとバルタザークの口角が大きく跳ね上がった。どうやらセルジュはバルタザークが満足いく回答を伝えることが出来たようだ。
「その言葉だけもらえりゃ充分だ。ここで世話になりたいと思う。よろしく頼む」
バルタザークは鶏口となるも牛後となるなかれと考えているようだ。組織の歯車となれない人間はその方が良いだろう。
「それは有り難い。こちらこそ、お願いしたいのですが……」
セルジュはダドリックが紹介する人材に間違いはないだろうと考えていた。その人材が向こうから頭を下げて加わりたいと申し出てくれたのは素直に嬉しい出来事なのだが、問題は給金である。
ご存知の通りアシュティア家にはお金がない。あげられる領地もないので無いもの尽くしである。セルジュはその事実を素直にバルタザークに伝えると、バルタザークは指を二本立てた。
「オレが求めるのは二つ。衣食住の保障と戦だ。どうだ?」
どうやらこのバルタザークと言う男は戦の中に己の価値を見出すタイプの人間だったようだ。セルジュはこの条件に対し前者はすぐに提供できると判断した。
問題は後者だ。確かに眼前にまで迫ってきている戦があるが、その後の予定を聞かれると無いに等しい。いや、無いと断言したいと願っていた。
「わかりました。よろしくお願いします」
しかし、セルジュはこの条件を二つ返事で快諾した。後の戦に関しては今考えても詮無きことと考えていた。
もし出て行かれたらその時はその時である。セルジュ自身に領主としての魅力が無かったとして諦めるしかないだろう。
「よし、じゃあ契約成立だな。オレのことはバルタって呼んでくれ。呼び捨てで構わないぞ」
「わかった。じゃあバルタ、最初にやってもらう仕事だけど」
セルジュはそこで一度、言葉を区切ると後ろで締まりがなく緩く突っ立っている二人を指名してからバルタザークに告げた。
「この二人を立派な武人に育て上げてくれ。もちろん、やり方は全て任せるよ」
遠くから二人の悲鳴が聞こえてきたのは言うまでもないだろう。
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