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39話 女は黙って拳で語る

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「教団が堕天使に乗っ取られたのは、パンドラの箱と呼ばれる箱が開いた事からはじまります」

 と、アリーシャの家に全員で避難し、ベッドに寝かされた状態でヴェラルドさんが私達に語り始めました。

 こんにちは。神殿でいろいろやってしまった感がある、セレス・キャラデュース(10歳)です。
 あれから神殿であったことが外に洩れぬように、結界を張って入れないようにした後、私達はアリーシャの家に戻りました。セディスが物凄い目で私に何か言いたそうでしたが、アリーシャと手をつないで離れずにいたのでなんとか怒られるのは避けられました。
 問題を先送りにしただけの気もしますが、嫌な事は後に回すタイプなのでまったく問題ありません。

「パンドラの箱?」

 ギリシャ神話は関係ないのに安直なネーミングセンスだなと思いながら私が問えばヴェラルドさんが頷きます。

「はい。神殿の奥深くに収められていた聖なる箱と呼ばれていた箱です。
 その箱には天界に通じる扉があり、中には神の使徒-―天使様達が眠っていると我らラムウ教の神官は代々それを守ってまいりました。

 ですが――そこに封印されていたのは、天使ではなく堕天使でした。

 彼らは教団の神官達を次々と食い殺し、残されたのは私とアリーシャ様だけでした」

「何故、あなた達二人を残したのでしょうか?」

 と、今度はセディスが聞きます。

「それは私にもわかりません。ですが私は神殿の業務時間は、彼らに絶対的服従をし、業務時間外はアリーシャ様を育てる事を条件に生き永らえました」

「そこがよくわかりませんね。何故アリーシャを貴方に育てさせたのでしょう?」

 クライム君が言うので

「おそらく、光属性のアリーシャを堕天使グレンデェイル復活に捧げるためです」

 と、私が答えました。
 そう、断片的ではありますが私もこのイベントを思い出しました。
 ヴェラルドさんだけを生かし、アリーシャを育てさせたのは光属性の11歳の少女を生贄に捧げるためです。
 善意でも、何でもありません。ただ堕天使達に必要な事だったからです。
 ヴェラルドさんに虐待行為をしたのは人間を見下している堕天使達のたんなる趣味。悪質極まりありません。


「堕天使グレンディエル!?天使でありながら魔族に加勢したといわれるあの大天使!?」

「はい。セディス世界地図はもっていますか?」

「はい、持っています」

「でしたらまずロファエル大陸の線路を書き込んでみてください」

「はい」

 言われてセディスが地図を書き込みます。

「確か、線路は大陸の内側をぐるりと一周していたと思いましたが……まさか?」

「そうです。今大陸で使われている魔道具が何故現代人には扱いきれないのか。
 何故技術が継承されなかったのか。
 その答えがこれです。この線路にあります。汽車の通路を固定して路線を後から変更されてしまわないようにです」

 と、ゲームの中で勇者の仲間で知識人のエルフの大賢者がペラペラと説明した事を自分の知識のように言って見せます。
 決して知的キャラを演じたかったわけではありません。
 ただたんに、ゲームの世界と伝えるのが難しいだけです。
 いまちょっと私クライム君っぽい知的キャラかも? 
 などと思ってはいません。はい。断じて。

「この線路そのものが……魔法陣?」

「はい。そしてここからは推測ではありますが――この路線の内側の魔法陣の中の国々の人間の魂を捧げて、堕天使の復活をもくろんでいるのかと」

「って、セレス様、聖王国も魔法陣の円内……」

「はい。そうです」

 セディスの問いに私は答えました。
 
 私は何故こんな大事な事を忘れていたのでしょう。
 今時魔王が最終ボスのRPGなど逆に絶滅危惧種になっていたはずです。
 大体後ろで何かがいるはずなのです。

 それが堕天使です。

 魔王達に殺戮行為をさせ、堕天使を復活させる。
 聖王国が犠牲になったのはそういう事です。

 魔王を使って聖王国や周辺国を滅ぼして人間の魂を糧にし、最後にアリーシャを生贄として復活したのが堕天使グレンディエル。

 つまり――私から大事な者をすべて奪おうとする元凶です。
 父や母、兄たちに国の人々。そしてアリーシャ。
 こいつが存在する限り彼らに脅威がおよびます。

「ではすぐにでも線路を……」

「その必要はありません」

「え?」

「私のアリーシャを生贄にしようとし、あまつさえ我が故郷を生贄に捧げようなど私が許しません。
 封印されて動けない力の弱いうちに滅するまで」

「や、相変わらず凄い事言ってるの理解してますか?」

 ジャンが突っ込んでくるので私は皆に背を向けます。
 
 顔を見てしまうと緊張してしまうのでもう皆の顔は見ません。

「やれるかやれないかではないのです。

 私がやらなければいけないのです」

 と、決め気味に私が言えばーー

「「流石セレス様!!」」と王族コンビ。
「まぁ、セレスならやっちゃううんだろうな」
「だよねー」と、リカルドとリーチェ。
「私信じてる!!」と、アリーシャ。

「や、この流れおかしいから!?絶対おかしいからっ!?
 みんな感覚マヒしてるから!?
 下手に刺激すれば復活するかもしれないんですよっ!?
 誰か止めてっ!?」

 と、セディス。

「「信じております」」と涙ながらに敬礼する護衛s。

 その護衛sの後ろではセディスが「お前らもかーー!?」と絶叫しております。

 とりあえず封印されている場所は、ゲームの知識が正しければ神殿からいける地下でした。
 滅してきましょう。粉々に。

「し、しかし堕天使が封印されているであろう地下の扉は固く閉ざされているはずです。
 神官が封印を解かないと……」

 ヴェラルドさんが言うので私は微笑みました。

「大丈夫です。私にはこれがあります」

 と、拳(物理)を見せれば

「あ、え?……え?……あ、は、はぁ……」

 と、なんと反応していいのかわからないといった困った顔をされます。
 セディスがやっと普通の反応!!っと感動していますが、そんな事はどうでもいいのです。

 女は黙って拳で語る。

 扉が開かぬというのなら扉を迂回して大地事えぐりとり、壁を突破すればいいだけの話。
 むしろ結界ごとぶち破る。物理で。
 私は颯爽(当社比)と歩きだすのでした。
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