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4.最終章
20.最後の戦い
しおりを挟むぐごごごごごごごご!!
物凄い風圧で、そこにいたはずの戦士達が飲み込まれていく。
なすすべなくもなく。
そして呑み込まれていくのは身体ではない――魂なのだ。
彼らの身体から魂が離脱し、そして魔王へと向かっていくその姿が私にははっきりと見えた。
『アルファーこれはどういうことだ!?』
『エルギフォスの狙いは最初から白銀騎士団の魂、いえ、正確にいえば大神の力です!!
魔王の身体では受け入れることはできませんが、セファロウスの身体ならその力を取り入れる事ができます!』
と、アルファーが私と守るように結界を貼りながら言う。
――いや、問題はそこじゃない。
『アルファーもミカエルもこの事を知っていてなぜ私に黙っていたか聞いているんだ!』
私が叫べば、アルファーもミカエルも黙り込む。
魂を吸い込むなんて予期せぬ攻撃にアルファーもミカエルもきちんと備えていた。
その証拠にアルファーは私を。ミカエルはコロネとテオドールををきちんと守り結界を張っている。
魂を守る結界など私は知らない。それなのに二人は前もって準備していたのだ。
「はーはっはっは!!異界の神ゼビウスそして大神ガブリエラを手に入れれば、私は神をも超える!
異界の神も、審判の御子も全て私が呑み込んでくれようぞ!!」
セファロウスの頭のてっぺんで、エルギフォスが歓喜の笑を浮かべながらベラベラ状況説明をしだす。
あああくそう!!このままじゃ、みんなの魂が呑み込まれてしまう!止めないと!!
私がアルファーの腕から逃れようとするが、アルファーに止められる。
「ダメです!!結界から出ればあなたも魂ごと呑み込まれてしまいます!!」
「でも!!みんなの魂が!!」
そう、私が修行をつけてあげたゼルク、カーシャ、ゴードン、サシャリアや他の子達。
短い期間だったが、それなりに情もあったし、彼らも自分を慕ってくれていた。
「みんなの魂を見捨てるなんて!私にはできはしない!!!」
言って飛び出そうとすれば、時すでに遅く。彼らの魂はセファロスの口の中へと飲み込まれ――ごくり。
魔獣が、それを呑み込んだ。
……嘘だ。
………嘘だ。嘘だ。
魂が消えていく感じが何故かわかった。ゼルクもカーシャもみんな。もう転生することすら許されない。
魂が消滅してしまったのだから。
ある意味死より残酷な現実がそこにはあった。
「許さない。絶対許さないっっ。
エルギフォスっっっっっつ!!」
怒りに任せてアルファーを払いのけ飛び出せば、エルギフォスがその動いを読んでいたのか私に向けて黒い槍を放っていた。
ああ、しまった。
何も考えていなかった。
怒りにまかせて飛び出してしまったため、何一つ私は対策をしていなかった。
防御体制をとることすらできず、私の身体は無情にもその黒い槍に貫かれ
――なかった。
貫かれたのは、何故か聖杯をもったまま、私の前に現れた未来コロネだったのだ。
――え。
咄嗟のことに思考が停止する。
ああ、意味がわからない。
エルギフォスを倒そうとしてアルファーを押しのけて。
けれどその動きが読まれてて、エルギフォスが私に槍を放った。
そしてそれを見ていたコロネが瞬間移動で身代わりになった。
あああ、そういうことか。
冷静さを欠いた私が招いたミスだ。
「――コロネっ!!!」
私が空中でコロネを受け取れば、そのコロネと私を守るように、アルファーとミカエルが私の前に立ち、エルギフォスと対峙する。
「ね…こ……すみま…せ…ん」
口から血を吐きながら、何故かコロネの第一声がそれだった。
「なんで、なんで謝ってるんだよ!?」
「つい……から…だがうごい…て……あな…たの…じゃま……」
言いかけて…ごばぁっと口からありえない量の血を吐き出す。
「いいから喋るな!!もういいからっ!!!!アルファーコロネを治してやってくれっ!!」
私がアルファーの背に叫べば、アルファーは視線もこちらにむけずに首を振った。
ああ、知っている。こちらの世界では回復の魔法は使えないのだ。
ファルティナさえいれば、純粋な天使の力で傷を癒せたかもしれない。
けれどアルファーはシステムのない世界では回復手段は持ち合わせていない。
そして、それは私も、ミカエルも同じだ。
私の異界の神の力――クリファとゼビウスの神力をこの傷の状態のコロネに注げば逆に悪化させていまう。
だれも、コロネを治せない。
嫌だ。おかしい。こんなのおかしい。
歴史ではコロネは無事なはずで。
将来魔王と審判の御子を取り込んで世界を救うはずなのだ。
こんなところで死ぬなんてことはありえない。
なのに。目の前のコロネは、生きているのが不思議なくらいで。
すでに手に力を入れることもできなくなったのか、その手がだらんと下がってしまう。
名を何度読んでも、真っ青になった顔の目は虚ろで。もう意識はないのだろう。
このままだと確実に死んでしまう。
ああ。覚悟ないのは自分だけだった。
歴史では大丈夫だったのだから皆無事なのだろうと勝手に思い込んでいた。
魔王コロネが何故私にだけ説明していなかったのか、わかった気がする。
そう、アルファーもミカエルも救おうとしたならば、みんなの魂を救う手段はいくらでもあったのだろう。
だけど、それではダメなのだ。救ってしまえば歴史は変わってしまう。
彼らを見殺しにするしか手段はなかったのだ。それが歴史通りなのだから。
いつかレヴィンに覚悟を聞かれた時。私は世界を敵に回しても、コロネやリリや守護天使を守ると宣言した。
でも、あんなの嘘だ。
結局はこの一年で仲良くなった子達の方に気をとられ、一番守りたかったはずのコロネをこんな目にあわせてしまった。
コロネを守るためなら、非情にもなろうと決めていたのに。
この二年の間に、最初の覚悟を忘れて、すっかり元の自分に戻ってしまっていた。
力に溺れて、覚悟なんて何一つできていなかったんだ。
大神を内包した魂を取り込んだセファロウスが眩く光、その姿を変えていく。
神々しいまでに光を放った、人型へと。
面影はどことなく、魔王を思わせるが――どこか、吸い込まれてしまった戦士達の面影もそこにはあった。
「ああ、いいぞ。これだ。神々の力と魔王の力。私はどちらも手に入れたのだ」
エルギフォスが笑を浮かべこちらを見ると――
「くっ!?」「アルファーくるぞ!!」
エルギフォスの攻撃にミカエルとアルファーが構えようとして
――ざんっ!!
無情にも二人の身体は――私の目の前でまっ二つに裂かれるのだった。
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