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4.最終章
10. 魔獣の復活
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「まったく、国が大分安定してきたと思ったら、まさか神話級の魔獣の復活の日が近いとはな」
玉座にふんぞりかえりながらテオドールが呟いた。
その前には聖杯「ファントリウム」が置かれている。
「そのため、大神の力を持つものを集めていたのだろうが、随分面倒ごとを神は私に押し付けてくれたものだ」
と、うんざりした口調でぼやく。
「貴方にしては珍しいですね。愚痴だなんて」
隣に控えていたコロネがテオドールに言えば
「五月蝿い。お前のせいだ。何故そんな紋章を引き受けた?
これでお前は必ず前線にでて魔獣と戦わねばいけなくなったのだぞ?」
と、テオドールが不貞腐れる。
そう――ファントリウムを召喚する際、それと同時に、聖杯を使える者を選別するように大天使に迫られた。
その時、コロネが名乗りをあげてしまったのだ。
コロネの右腕には聖杯を使える資格を持つものに与えられる「神々の紋章」が刻まれている。
当のコロネは少し嬉しそうに
「これで貴方と同じですね。少しは心配する方の気持ちもわかってもらえましたか?」
と、微笑んだ。
「……まったく、お前は」
彼らしくなく不機嫌な様子を隠さないテオドールになぜかコロネは少し勝ち誇った表情になる。
いつも心配させられる立場だったのが、入れ替わった事がよほど嬉しいらしい。
もちろん、コロネとて半端な覚悟で引き受けたわけではないのだが。
そんな二人を遠くから見つめ、猫は大きくため息をついた。
純粋にテオドールと同じ立場になれたことを喜ぶコロネに、その紋章のせいで将来過酷な目にあう事を知っている猫の心中は複雑だった。
レオン達に拷問される光景がまた脳裏に蘇ってしまい吐きそうになる。
時々無性に過去のコロネをそのまま未来に連れていってしまいたくなる衝動に駆られる。
そんなことをすれば未来コロネと過去コロネの二人が消滅してしまうので絶対無理なのだが。
――頭ではわかっていても、気持ちはどうにもならない。
ああ――未来のコロネやリリ達に会いたいな。
などと思ってしまい、猫は頭を振った。
今は過去コロネの護衛に集中しないと。
猫は気持ちを切り替えるように、そのまま歩き出すのだった。
△▲△
「あ、猫さーーーん!!」
猫とコロネが城の闘技場で戦闘訓練中、元気よく声をかけられた。
二人がそちらに視線をうつせば、元気よく手を振るまだ若い金髪の人懐っこそうな男とその隣には茶髪の気の強そうな女が立っている。
「ああ、グレイにシルビア」
猫が二人の名を呼べば、二人は嬉しそうに微笑んだ。
二人とも大神の魂を内包するテオドール直属の騎士団。白銀騎士団の騎士だ。
「いいなー、またコロネさん修行つけてもらってるー。
今度うちらにも修行してくださいよ」
まだ若いグレイが頬を膨らませながら言えば
「仕方ない。愛の差だ!」
と、恥ずかしげもなく猫が胸をはっていう。
「うわぁ。またこの人恥ずかしげもなくそういう事言うし。
コロネさーん、猫さんの愛ちょっとでいいから俺にもわけてくださいー」
と、グレイ。
「ふふふふ。残念この愛はコロネ限定だから!」
「うわー。だから何でそういう恥ずかしいセリフ言えるかなこの人は」
「に、しても二人とも仕事終わったのか?」
修行してた手をとめ、猫がグレイと絡み出す。
コロネはやれやれと、ため息をついた。
コロネは時折シルビアから鋭い視線を投げかけられるが、気づかないふりをする。
猫は、見ての通り顔立ちもよく、長身で、そして強い。
何より、男性なのに妙に気がきくので、密かに女性達に人気なのはコロネも知っている。
そのせいか、時折嫉妬に似た視線を感じる事があるのだ。
シルビアもきっと猫に好意を抱いているのだろう。
猫に好意を寄せる女性が多すぎて、気にしていたらキリがない。
猫がはじめ、男色家を宣言して護衛についたせいで、コロネを好きだという設定はいまだそのままだ。
もう少しまともな理由で、護衛についてくれればよかったのにとコロネはため息をつく。
――ゾクリ。
一瞬、嫉妬や妬みなどではない、全身を氷つかせるかのような視線を感じ、コロネは辺を見回した。
シルビアはもう視線を猫にうつし、ニコニコしているし、猫も気づいてないのかグレイといまだ漫才に興じている。
猫が気付かなかったなら気のせいだろうか?
コロネが気配を探るが、怪しい気配などどこにもない。
「コロネ、グレイとシルビアも修行に混ざりたいらしいけどいいか?」
「あ、はい。かまいませんよ」
猫に聞かれ、コロネは頷いた。
「わーやった!コロネさん愛してるー!」
「ちょ!コロネは自分のだし!!」
と、また漫才を始め出す二人。コロネはちょっと仲の良さに嫉妬する。
自分も気の利いた冗談を言えるようになれば、もう少し猫との距離を縮められるのだろうかと。
もう、猫が来てくれてから1年経過したが、いまだ保護者と保護される側の立場はかわっていない。
猫はいつまでたってもコロネの母親的態度なのだ。
たかが一年で立場がかわれるとは思ってはいないが……。
猫が元の時代に戻ってしまう前に隣を歩けるくらいにはなりたいと、願ってしまう。
「コロネーどうしたー?
もう少し広い闘技場にいくぞー?」
猫に声をかけられて、コロネは、はっとする。
「は、はい!今行きます!」
言って、慌てて猫の背を追いかけるのだった。
玉座にふんぞりかえりながらテオドールが呟いた。
その前には聖杯「ファントリウム」が置かれている。
「そのため、大神の力を持つものを集めていたのだろうが、随分面倒ごとを神は私に押し付けてくれたものだ」
と、うんざりした口調でぼやく。
「貴方にしては珍しいですね。愚痴だなんて」
隣に控えていたコロネがテオドールに言えば
「五月蝿い。お前のせいだ。何故そんな紋章を引き受けた?
これでお前は必ず前線にでて魔獣と戦わねばいけなくなったのだぞ?」
と、テオドールが不貞腐れる。
そう――ファントリウムを召喚する際、それと同時に、聖杯を使える者を選別するように大天使に迫られた。
その時、コロネが名乗りをあげてしまったのだ。
コロネの右腕には聖杯を使える資格を持つものに与えられる「神々の紋章」が刻まれている。
当のコロネは少し嬉しそうに
「これで貴方と同じですね。少しは心配する方の気持ちもわかってもらえましたか?」
と、微笑んだ。
「……まったく、お前は」
彼らしくなく不機嫌な様子を隠さないテオドールになぜかコロネは少し勝ち誇った表情になる。
いつも心配させられる立場だったのが、入れ替わった事がよほど嬉しいらしい。
もちろん、コロネとて半端な覚悟で引き受けたわけではないのだが。
そんな二人を遠くから見つめ、猫は大きくため息をついた。
純粋にテオドールと同じ立場になれたことを喜ぶコロネに、その紋章のせいで将来過酷な目にあう事を知っている猫の心中は複雑だった。
レオン達に拷問される光景がまた脳裏に蘇ってしまい吐きそうになる。
時々無性に過去のコロネをそのまま未来に連れていってしまいたくなる衝動に駆られる。
そんなことをすれば未来コロネと過去コロネの二人が消滅してしまうので絶対無理なのだが。
――頭ではわかっていても、気持ちはどうにもならない。
ああ――未来のコロネやリリ達に会いたいな。
などと思ってしまい、猫は頭を振った。
今は過去コロネの護衛に集中しないと。
猫は気持ちを切り替えるように、そのまま歩き出すのだった。
△▲△
「あ、猫さーーーん!!」
猫とコロネが城の闘技場で戦闘訓練中、元気よく声をかけられた。
二人がそちらに視線をうつせば、元気よく手を振るまだ若い金髪の人懐っこそうな男とその隣には茶髪の気の強そうな女が立っている。
「ああ、グレイにシルビア」
猫が二人の名を呼べば、二人は嬉しそうに微笑んだ。
二人とも大神の魂を内包するテオドール直属の騎士団。白銀騎士団の騎士だ。
「いいなー、またコロネさん修行つけてもらってるー。
今度うちらにも修行してくださいよ」
まだ若いグレイが頬を膨らませながら言えば
「仕方ない。愛の差だ!」
と、恥ずかしげもなく猫が胸をはっていう。
「うわぁ。またこの人恥ずかしげもなくそういう事言うし。
コロネさーん、猫さんの愛ちょっとでいいから俺にもわけてくださいー」
と、グレイ。
「ふふふふ。残念この愛はコロネ限定だから!」
「うわー。だから何でそういう恥ずかしいセリフ言えるかなこの人は」
「に、しても二人とも仕事終わったのか?」
修行してた手をとめ、猫がグレイと絡み出す。
コロネはやれやれと、ため息をついた。
コロネは時折シルビアから鋭い視線を投げかけられるが、気づかないふりをする。
猫は、見ての通り顔立ちもよく、長身で、そして強い。
何より、男性なのに妙に気がきくので、密かに女性達に人気なのはコロネも知っている。
そのせいか、時折嫉妬に似た視線を感じる事があるのだ。
シルビアもきっと猫に好意を抱いているのだろう。
猫に好意を寄せる女性が多すぎて、気にしていたらキリがない。
猫がはじめ、男色家を宣言して護衛についたせいで、コロネを好きだという設定はいまだそのままだ。
もう少しまともな理由で、護衛についてくれればよかったのにとコロネはため息をつく。
――ゾクリ。
一瞬、嫉妬や妬みなどではない、全身を氷つかせるかのような視線を感じ、コロネは辺を見回した。
シルビアはもう視線を猫にうつし、ニコニコしているし、猫も気づいてないのかグレイといまだ漫才に興じている。
猫が気付かなかったなら気のせいだろうか?
コロネが気配を探るが、怪しい気配などどこにもない。
「コロネ、グレイとシルビアも修行に混ざりたいらしいけどいいか?」
「あ、はい。かまいませんよ」
猫に聞かれ、コロネは頷いた。
「わーやった!コロネさん愛してるー!」
「ちょ!コロネは自分のだし!!」
と、また漫才を始め出す二人。コロネはちょっと仲の良さに嫉妬する。
自分も気の利いた冗談を言えるようになれば、もう少し猫との距離を縮められるのだろうかと。
もう、猫が来てくれてから1年経過したが、いまだ保護者と保護される側の立場はかわっていない。
猫はいつまでたってもコロネの母親的態度なのだ。
たかが一年で立場がかわれるとは思ってはいないが……。
猫が元の時代に戻ってしまう前に隣を歩けるくらいにはなりたいと、願ってしまう。
「コロネーどうしたー?
もう少し広い闘技場にいくぞー?」
猫に声をかけられて、コロネは、はっとする。
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