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2章 人間領へ行くことになりました
28. 引継ぎ
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「コロネはそんなに嫌がらせを受けてる状態なのか?」
別室でリリと遊んでいたレヴィンに私は尋ねた。
結局あのあと、コロネは少し休むとそのまま寝てしまった。
まだ体調が本調子じゃないらしい。
「ええ、プレイヤーが追い出された途端今度は権力争いです。
彼らは理解しているのですよ。
だれが逆らっていい人物で誰が逆らってはいけない人物か。
だからこそ生き残れた連中ともいえますが」
「コロネだってそんなに甘いだけのタイプじゃないと思うんだけど」
「けれど厳粛で公正です。
罪のない人物を陥れるほど非情ではありません。
言うことに一理あれば、聞いてしまわれる。
結局はコロネ様もエルフなのですよ。
非情にはなりきれない」
レヴィンの言葉に私は口をつぐむ。
確かにコロネなら、意見にうなずける部分があれば尊重しそうな気もする。
「でも、意味がわからない。
私たちを追い出したらまた他のプレイヤーに乗っ取られるだけだろう?」
「そんなことをされて猫様は放っておけるのですか?」
レヴィンに問われ、私は押し黙った。
いや、放っておけないけどさ。
「放っておけないのでしょう?
彼らはそういった事も計算に入れているのですよ。
本気で敵対する気はないが、それなりの嫌がらせをしてくる微妙な距離をたもつ。
マルク様がいるかぎりはコロネ様がこの領土を見捨てないことを理解している。
エルフ領にいた猫様はわからないかもしれませんが、人間は醜く狡猾です。
彼らを信じてはいけません」
言う、レヴィンの顔は凄く真剣で。確かに一理あるのだけれど……。
「レヴィンはちょっと人間不審すぎやしないか?
人間全体がそうじゃないだろう?」
「ああ、そうですね。気のいい人間もいるでしょう。
マルク様のように。
ですがそんなものは一部にすぎません。
いままで人間がコロネ様をどれだけ困らせてきたか知らないから言えるのです」
「……何かあったのか?」
私が問えばレヴィンはにっこり頷いて
「それはもう。
コロネ様がお話にならないのなら私からはお話できませんが」
と、立ち上がった。
「さて、私もそろそろ、仕事に戻ります。
出来れば猫様も、コロネ様にこの領土はマルク様に任せて手を引くよう言っていただけると助かります」
「あー、うん。わかった」
私が言えばレヴィンは嬉しそうに微笑んで部屋をあとにするのだった。
△▲△
ちょっと、軽く考えすぎてたかな。
私はベッドに横たわりながら思考を巡らせていた。隣ではリリちゃんがスヤスヤと寝息をたてている。
暴れまわっているプレイヤーたちさえ倒してしまえば、結界も安全になるし、世界も平和になると思っていた。
そうしたら安心してコロネやリリを残していけると。
でも正直、倒した後の事などコロネに言われるまで何も考えていなかった。
コロネがいなかったら、きっと私は倒しました!はいさようなら!とその場を後にしていただろう。
そのあとの混乱など考えずに。
正直、倒したあとの後処理の方がよほど大変なのだ。
それを全部コロネに押し付けてしまったのを申し訳無く思う。
でも、私には手をだしてほしくないみたいだしなぁ。
まぁ、役にたてる自信もないけど。
日本でのうのうと生きていただけの私に貴族間同士のやりとりで役立てるわけもなく。
かといって他のプレイヤーのように直接力でねじ伏せるだけの度胸もない。
人がいいわけじゃない。単に臆病なだけなのだろう。
一度調子にのってしまったら、そのまま他のプレイヤーと同じ道を歩みそうで怖いだけなのだ。
私は酔いしれてしまうだけの力をもっているのだから。
リリちゃんはともかく、コロネや守護天使達は私にシステムで縛られているせいで逆らえない。
間違った道に進んでも誰一人止められる者がいないのである。
コロネに頼まれれば、城の連中を脅すくらい平気でやってやらなくもないけれど。
自分が強引に事を進めるのは違う気がする。
結局何もできない自分に私はため息をつくのだった。
△▲△
数日後。朝起きるとコロネはいそいそと旅支度を整えていた。
「ああ、おはようございます。猫様」
にっこり微笑むコロネに、私もそのままおはようと微笑んで
「帝国領から出ていいのか?」
と、私が聞けば
「はい。マルクに引継ぎは済ませました。
レヴィンがあれだけ強行にでたという事は、私がいなくても最低限はやっていけると判断したからでしょう。
あれは性格や行動に問題はありますがそれなりに優秀ですから」
と、コロネ。
どうやら私とリリがのんびりしている間に全部終わらせていたらしい。
にしても、口では何だかんだ言ってても最終的には信用されてるんだねレヴィンって。
ちょっと羨ましいっていうか何ていうか。
「猫様。
問題は聖水の方です。
まだ領民全員に配布するには量がたりません。
取り急ぎ重症化していたものに配布しましたが」
「重症化した人は大丈夫だったのか?」
「はい。全員完治したそうです」
「ああ、ならよかった。
じゃあ、コロネが言っていた聖水を集めるための部隊をエルフ達に頼まないとな」
「はい。そうですね」
「所でコロネ」
「はい?」
「どうせレベルをあげるならレヴィンも上げてやるか?」
私が言えば、コロネが一瞬すごく嫌そうな顔をする。
うん。コロネとレヴィンの関係性が今ひとつわからない。
信用してるのかとおもいきや、嫌いなのか?
「……ああ、そうですね。
それではマルクと他の私の密偵も一緒にレベルを上げていただいても宜しいでしょうか?
レベルが高ければ彼にそうそう嫌がらせもできないでしょう。
彼が不在の間は私がここに残ります」
「ああ、そうだな。マルクさんも何かの時のためにあげておいたほうがいいよな」
私が肯けばコロネはにっこり微笑むのだった。
別室でリリと遊んでいたレヴィンに私は尋ねた。
結局あのあと、コロネは少し休むとそのまま寝てしまった。
まだ体調が本調子じゃないらしい。
「ええ、プレイヤーが追い出された途端今度は権力争いです。
彼らは理解しているのですよ。
だれが逆らっていい人物で誰が逆らってはいけない人物か。
だからこそ生き残れた連中ともいえますが」
「コロネだってそんなに甘いだけのタイプじゃないと思うんだけど」
「けれど厳粛で公正です。
罪のない人物を陥れるほど非情ではありません。
言うことに一理あれば、聞いてしまわれる。
結局はコロネ様もエルフなのですよ。
非情にはなりきれない」
レヴィンの言葉に私は口をつぐむ。
確かにコロネなら、意見にうなずける部分があれば尊重しそうな気もする。
「でも、意味がわからない。
私たちを追い出したらまた他のプレイヤーに乗っ取られるだけだろう?」
「そんなことをされて猫様は放っておけるのですか?」
レヴィンに問われ、私は押し黙った。
いや、放っておけないけどさ。
「放っておけないのでしょう?
彼らはそういった事も計算に入れているのですよ。
本気で敵対する気はないが、それなりの嫌がらせをしてくる微妙な距離をたもつ。
マルク様がいるかぎりはコロネ様がこの領土を見捨てないことを理解している。
エルフ領にいた猫様はわからないかもしれませんが、人間は醜く狡猾です。
彼らを信じてはいけません」
言う、レヴィンの顔は凄く真剣で。確かに一理あるのだけれど……。
「レヴィンはちょっと人間不審すぎやしないか?
人間全体がそうじゃないだろう?」
「ああ、そうですね。気のいい人間もいるでしょう。
マルク様のように。
ですがそんなものは一部にすぎません。
いままで人間がコロネ様をどれだけ困らせてきたか知らないから言えるのです」
「……何かあったのか?」
私が問えばレヴィンはにっこり頷いて
「それはもう。
コロネ様がお話にならないのなら私からはお話できませんが」
と、立ち上がった。
「さて、私もそろそろ、仕事に戻ります。
出来れば猫様も、コロネ様にこの領土はマルク様に任せて手を引くよう言っていただけると助かります」
「あー、うん。わかった」
私が言えばレヴィンは嬉しそうに微笑んで部屋をあとにするのだった。
△▲△
ちょっと、軽く考えすぎてたかな。
私はベッドに横たわりながら思考を巡らせていた。隣ではリリちゃんがスヤスヤと寝息をたてている。
暴れまわっているプレイヤーたちさえ倒してしまえば、結界も安全になるし、世界も平和になると思っていた。
そうしたら安心してコロネやリリを残していけると。
でも正直、倒した後の事などコロネに言われるまで何も考えていなかった。
コロネがいなかったら、きっと私は倒しました!はいさようなら!とその場を後にしていただろう。
そのあとの混乱など考えずに。
正直、倒したあとの後処理の方がよほど大変なのだ。
それを全部コロネに押し付けてしまったのを申し訳無く思う。
でも、私には手をだしてほしくないみたいだしなぁ。
まぁ、役にたてる自信もないけど。
日本でのうのうと生きていただけの私に貴族間同士のやりとりで役立てるわけもなく。
かといって他のプレイヤーのように直接力でねじ伏せるだけの度胸もない。
人がいいわけじゃない。単に臆病なだけなのだろう。
一度調子にのってしまったら、そのまま他のプレイヤーと同じ道を歩みそうで怖いだけなのだ。
私は酔いしれてしまうだけの力をもっているのだから。
リリちゃんはともかく、コロネや守護天使達は私にシステムで縛られているせいで逆らえない。
間違った道に進んでも誰一人止められる者がいないのである。
コロネに頼まれれば、城の連中を脅すくらい平気でやってやらなくもないけれど。
自分が強引に事を進めるのは違う気がする。
結局何もできない自分に私はため息をつくのだった。
△▲△
数日後。朝起きるとコロネはいそいそと旅支度を整えていた。
「ああ、おはようございます。猫様」
にっこり微笑むコロネに、私もそのままおはようと微笑んで
「帝国領から出ていいのか?」
と、私が聞けば
「はい。マルクに引継ぎは済ませました。
レヴィンがあれだけ強行にでたという事は、私がいなくても最低限はやっていけると判断したからでしょう。
あれは性格や行動に問題はありますがそれなりに優秀ですから」
と、コロネ。
どうやら私とリリがのんびりしている間に全部終わらせていたらしい。
にしても、口では何だかんだ言ってても最終的には信用されてるんだねレヴィンって。
ちょっと羨ましいっていうか何ていうか。
「猫様。
問題は聖水の方です。
まだ領民全員に配布するには量がたりません。
取り急ぎ重症化していたものに配布しましたが」
「重症化した人は大丈夫だったのか?」
「はい。全員完治したそうです」
「ああ、ならよかった。
じゃあ、コロネが言っていた聖水を集めるための部隊をエルフ達に頼まないとな」
「はい。そうですね」
「所でコロネ」
「はい?」
「どうせレベルをあげるならレヴィンも上げてやるか?」
私が言えば、コロネが一瞬すごく嫌そうな顔をする。
うん。コロネとレヴィンの関係性が今ひとつわからない。
信用してるのかとおもいきや、嫌いなのか?
「……ああ、そうですね。
それではマルクと他の私の密偵も一緒にレベルを上げていただいても宜しいでしょうか?
レベルが高ければ彼にそうそう嫌がらせもできないでしょう。
彼が不在の間は私がここに残ります」
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