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1章 異世界に召喚されました
71話 高所恐怖症
しおりを挟む「うあああああ!???」
瞬間移動で移動中、私に担がれたリュート王子が情けない声をあげた。
あれから、リュート王子に王族しか使えない転移の魔方陣で移動させてもらい、ほとんどの都市や神殿と聖樹に罠の設置は終わらせたのだ。
コロネにもらった【浮石】のブレスレッドのおかげで、空中すら自在に瞬間移動で移動できるようになり、移動が恐ろしく速くなった。
前回は大勢で移動していたため、瞬間移動が使えずやたら時間が掛かったが、今回はザンダグロムにもお留守番してもらってるので二人だけなので滅茶苦茶速い。
ただ、どうやらこの王子、高所恐怖症だったらしい。
木々のない場所の方が視界がよく、空中を移動しまくってるのだが、情けない声をあげて私にしがみついている。
「ね、猫さまっ!!もう次で最後の都市です!!一度休憩しませんか!?」
真っ青になりながら言うリュートに
「あと一箇所ならさっさと終わらせようか」
と、私はあえてスルーした。人をカマにかけた罰だ。我慢しなさい。
王子ががっくりとうなだれているのがわかったが、無視だ、無視。
こうして、リュート王子と全ての集落と聖樹に罠を張り巡らせるのが終了するころにはどっぷりと日が暮れていた。
「し、死ぬかと思いました……」
いつもの都市の神殿に戻り、一息ついたところで王子がぜぇぜぇと言いながらぽつりともらす。
うん、はやく終わらせたくてマッハでやったから、そりゃ王子にはきつかっただろう。
しかし、こちらにカマをかけた仕返しをまだしていなかったので、今回はその御仕置きなので我慢してもらおう。
「お疲れさまです。リュート王子」
私がにっこり笑顔で言うと王子は苦笑いしながら執事に紅茶を運ばせる。
少し休みましょうと、王子は笑って私に紅茶を差し出した。
一通り、罠についてリュート王子にお礼を言われたあと、
「ところで猫様。以前から一度お聞きしたかったのですが」
「うん?」
「師匠とは……どういった関係なのでしょうか?」
「どうって……?」
「はい。恋仲かどうかということです」
ぶふぅ!?
リュートの言葉にあやうく私は紅茶を吐きそうになる。
「こ、こ、恋仲!?」
「はい。クランベールが逢い引きをしているのを目撃したと。
嬉しそうに報告してきました」
「ちょ!?あれは違うから!!単に祭りを見に行っただけだから!!」
「ですが女性の姿だったと」
「当たり前だろ!!この格好のままだと身長高すぎてプレイヤーってバレバレじゃないか!!」
「ああ、なるほど。そういう理由でしたか……」
リュートは頷くと、少し寂しそうに微笑んだ。
いやいやいや、ありえん。まじありえない。
コロネと付き合うとか!?だってあれ変態だよ!?まごうことなき変態だよ!
……いや、私のせいなんだけどさ!
そもそもコロネが私を好きなのはシステムのせいだし!!
システムが解けた途端タイプじゃありませんとか言われる可能性もあるわけだし!!
私があわあわしていると。
「猫様っ!!!大変です!!!」
何故か噂の当の本人が瞬間移動で私の前に現れるのだった。
慌てた様子のコロネとザンダグロムを背負ったリリが瞬間移動で私の前に現れる。
三人ともグラッドさんの家にいたはずなのだが、慌てて神殿に駆けつけたようだ。
そういえば念話とパーティーチャットつなぐの忘れてた。
「な、どうした?」
私が慌てて言えば
「偵察に送っていた密偵から緊急の連絡がはいりました。
コルネリアの砦に大量の魔物が進軍しています!
すでに砦のすぐ近くまできているようです!」
「まさかそんな!?最近の偵察ではなにもなかったはずです!?
そんな大量の魔物がどこから!?」
コロネの言葉にリュートの顔を青くしながら立ち上がった。
コルネリアの砦というとあれか。
エルフの国のサウスヘルブのある大森林に近いところにある砦だ。
ゲーム中も行けるエリアだったので、よくヴァンパイア倒しに砦には出向いたが、確かにあそこが攻め込まれれば、あまりよろしくない状況になるだろう。
コロネとリュートが慌てるのも仕方ない。
「レヴィンからの連絡なので間違いありません。彼は優秀ですから。
彼の話では、たった一日で急に魔物が近くの山脈に出現したらしいとの事です」
と、コロネが言えば
「もしかしたら最近匿われたというラスティア王国の姫君が狙いかもしれませんね」
今度はリュートが顎に手を添えた。
「ラスティア王国の姫君?」
「はい。『死霊都市ネクロミロス』を支配するプレイヤーに見初められてしまい、エルフの国に亡命を願い出ている姫君です。
もしかして彼女を狙って攻撃を仕掛けてきたのかもしれません」
「それじゃあ、あれか。
僕のハーレムに加わらない女は殺してしまえってことなのか?」
私が聞けばリュートが苦笑いしながら
「端的に言えばそうなります」
と、肯定した。
まったく女々しいというかなんというか。
「まぁ、エルフの国にも関係あるし、このまま放置もできないな。
リュート王子、ザンダグロムを残していくから森の防衛は任せる。
ザンダグロムもそれでいいか?」
私が問えば
「イエス・マスター」
と、何故か額に超合金と子供の文字で落書きされたザンダグロムが頷いた。
……グラッドさんの家で子供たちにおもちゃにされていたらしい。
「よしコロネ、助けに行くけど、何か問題はあるか?」
「……いえ、問題ありません。私からもお願いします」
「リリも行く!砦まで瞬間移動で競争!」
あ、遊びじゃないのよリリちゃん。
やたら張り切っているリリちゃんに一抹の不安を覚えるが、とりあえず放ってはおけない。
「よーっし!それじゃあそろそろプレイヤー討伐に行くぞ!
いい加減、好き勝手し放題にこちらも我慢の限界だったし。
きっちりがっちりうちのコロネに手を出したことを死ぬほど後悔させてやる」
「うん!コロネのカタキうつ!!コロネの死は無駄にしない!!」
と、リリ。何やらわけのわからないリリの考えるカッコイイポーズ(?)を決める。
……うん。そういえば最近は夜寝る前に、私と一緒に漫画読んでたわ。
きっとそれに影響されたのだろう。
順調に、中二病なところが私に似つつある。
……どうしよう。そんなところまで似なくてもいいのだけど。
「いや、その……一応生きています……」
困ったように、リリにコロネが抗議の声をあげるが
「こういうのは雰囲気が大事!」
あっさり却下された。
こうして、私達はリュートに転移させてもらい、エルフの森を抜け、コルネリアの砦に向かうのだった。
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