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1章 異世界に召喚されました
55話 リュートの過去
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「まさか、私の幻を打ち破るなんて……」
再び真っ白い世界に戻ると、リュートはいまだプカプカと浮いたまま気を失っており、頭上からマーニャの声が聞こえてくる。
「あんなものが効くと思った?
さっさと出てきたらどうなの?」
本気でぶん殴ってやりたい衝動を抑え、私が冷静を装って言えば、マーニャのクスクスした笑い声が聞こえ
「なんで?出ていく必要なんてないわ。
確かに出ていかなきゃ貴方たちを殺せないけど。
この世界に居る限り、貴方たちは何もできない。
死んだも当然なのよ?
この何もない空間で、人間の貴方の精神が何日もつかしら?」
と、上空からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
あー。そう来ましたか。確かにそれは効果的ではあるわ。
「とか言って本当は出て来れないだけでしょう?
出てこれるなら私が幻を見てる間に私を殺せばよかっただけだし。
あっちの世界で私にまっぷたつにされたから、私たちを殺せるほどの力が残っていない。
違う?
だから私たちに幻を見せて負の感情を集めようとした」
と、何となくカンでかまをかけてみれば……ぴくりと空気のようなものが動くのを感じる。
どうやら図星らしい。
何やら怒りに近いような感情が私に伝わり――
「う……ああ……」
ぷかぷか浮いてる状態のリュートが、苦悶に満ちた声をあげた。
「リュート!?」
「貴方は出てこれたみたいだけど、そっちのエルフは無理みたいねぇ?
ふふふふ。ああ、とっても負の感情が美味しい」
言うマーニャを無視して私はリュートに手を伸ばし
「起きてっ!!リュート王子っ!!」
と、私が彼に触れた瞬間。
彼の幻の世界に私も引きずり込まれた。
景色が一転し、何やら大人達に取り囲まれる幼いリュート王子の姿がそこにはある。
「王妃の立場にありながら、人間と駆け落ちするとは……なんとけがわらしい娘の子供
ああ。汚い」
「ああ、この子の母親?
近いうちにには処刑されるらしいわね。
この子も後見人がつかなければ一緒に死刑ね
国王陛下のお怒りはそれはもう、凄いですもの」
「後見人?見つかるわけがないだろう。
だれが国王陛下の怒りを買うのをわかっていて、この王子の後見人などになろうとするんだ」
「いいじゃない。どうせ生きていても、生き恥を晒すだけだわ。
人間と浮気した女との子供など、この国で生きていけるはずがないのですから」
大人達が、リュートに聞こえるようにワザと声を大きくして噂話をはじめ、リュートはただうずくまって耳をふさいでいた。
精神世界だからだろうか。
リュートの思考が伝わってくる。
人間と駆け落ちし、国王を裏切る大罪を犯した母への恨み。
それでも、生きて居てほしいと願ってしまう母への愛。
そしていままでは自分を次期国王に近い存在と、親しくしてくれていた者達が一斉に裏切り、自分をなじりはじめた事を、まだ小さな王子は受け入れられなかった。
全てが夢だと思いたかった。
自分はきっと殺される――。
母が駆け落ちしてから、国王である父が、自分を見る瞳がまるで汚物を見るかのような瞳にかわったことをリュートも知っていた。
リュートはあまりにも、国王が溺愛したリュートの母親に容姿が似すぎていたのだ。
それ故、今までは一番愛されていたが、母親が憎悪の対象になった今、その憎悪はリュートにも向いてしまっている。
もう、助からない。
リュートは小さな身体をがたがたと震わせ、恐怖に震えた。
絶望が彼を包み込む。
たぶん、私が幻の中でも高校の時の意識に戻らなかったのはコロネの魔道具のおかげだろう。
気休め程度にしかならないとは言っていたが、リュートが完全に意識が幼児期に戻っているところをみると、魔道具はかなり効果があったらしい。
とにかく、私がなんとかしてあげないと!
王子に私が手を伸ばそうとしたとき――景色が途端に変わる。
「貴方がリュートですか」
桜のような木の下で、リュートは声をかけられる。
見上げれば、そこにいたのは、まだ今よりずっと若い、コロネだった。
「あなたは……?」
子リュートが見上げて聞けば、コロネは表情を変える事なく
「コロネ・ファンバードです。
今日から貴方の後見人なりました。
貴方には私の元に来てもらいます」
と、自己紹介し、座り込んだ子リュートに手を伸ばす。
リュートはその名を知っていた。
大賢者と呼ばれる偉大なエルフだ。
「まさか大賢者様が……後見人ですか?
でもそんなことをすれば貴方まで」
殺されてしまうと言いかけて、リュートは言葉を呑んだ。
そんなことを言えば、誰かに密告されれば、リュートはもちろんコロネにも危険が及ぶかもしれないのだ。
「貴方が気にすることではありません。
利用できるものは何でも利用しないさい。
でなければこの先、生きてはいけませんよ。
それとも貴方はこのまま朽ち果てたいのですか?」
コロネに問われ、リュートは首をふった。嫌だ。まだ死にたくない。生きていたい。
やりたい事も、やれなかったこともいっぱいあるのだ。
と、まだ幼い王子は精一杯コロネに訴える。
「――なら、私の手をとりなさい。
貴方が成人するまでは私が貴方を守りましょう」
相変わらず無表情のコロネに子リュートは手を取るのを一瞬ためらい、意を決したかのように頷き、コロネの手を取ろうとした瞬間。
コロネが残酷な笑を浮かべ――
「まさか助けると思いましたか?
穢わらしい女の子を?」
言ってリュートを突如現れた黒い穴へと突き落とすのだった。
再び真っ白い世界に戻ると、リュートはいまだプカプカと浮いたまま気を失っており、頭上からマーニャの声が聞こえてくる。
「あんなものが効くと思った?
さっさと出てきたらどうなの?」
本気でぶん殴ってやりたい衝動を抑え、私が冷静を装って言えば、マーニャのクスクスした笑い声が聞こえ
「なんで?出ていく必要なんてないわ。
確かに出ていかなきゃ貴方たちを殺せないけど。
この世界に居る限り、貴方たちは何もできない。
死んだも当然なのよ?
この何もない空間で、人間の貴方の精神が何日もつかしら?」
と、上空からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
あー。そう来ましたか。確かにそれは効果的ではあるわ。
「とか言って本当は出て来れないだけでしょう?
出てこれるなら私が幻を見てる間に私を殺せばよかっただけだし。
あっちの世界で私にまっぷたつにされたから、私たちを殺せるほどの力が残っていない。
違う?
だから私たちに幻を見せて負の感情を集めようとした」
と、何となくカンでかまをかけてみれば……ぴくりと空気のようなものが動くのを感じる。
どうやら図星らしい。
何やら怒りに近いような感情が私に伝わり――
「う……ああ……」
ぷかぷか浮いてる状態のリュートが、苦悶に満ちた声をあげた。
「リュート!?」
「貴方は出てこれたみたいだけど、そっちのエルフは無理みたいねぇ?
ふふふふ。ああ、とっても負の感情が美味しい」
言うマーニャを無視して私はリュートに手を伸ばし
「起きてっ!!リュート王子っ!!」
と、私が彼に触れた瞬間。
彼の幻の世界に私も引きずり込まれた。
景色が一転し、何やら大人達に取り囲まれる幼いリュート王子の姿がそこにはある。
「王妃の立場にありながら、人間と駆け落ちするとは……なんとけがわらしい娘の子供
ああ。汚い」
「ああ、この子の母親?
近いうちにには処刑されるらしいわね。
この子も後見人がつかなければ一緒に死刑ね
国王陛下のお怒りはそれはもう、凄いですもの」
「後見人?見つかるわけがないだろう。
だれが国王陛下の怒りを買うのをわかっていて、この王子の後見人などになろうとするんだ」
「いいじゃない。どうせ生きていても、生き恥を晒すだけだわ。
人間と浮気した女との子供など、この国で生きていけるはずがないのですから」
大人達が、リュートに聞こえるようにワザと声を大きくして噂話をはじめ、リュートはただうずくまって耳をふさいでいた。
精神世界だからだろうか。
リュートの思考が伝わってくる。
人間と駆け落ちし、国王を裏切る大罪を犯した母への恨み。
それでも、生きて居てほしいと願ってしまう母への愛。
そしていままでは自分を次期国王に近い存在と、親しくしてくれていた者達が一斉に裏切り、自分をなじりはじめた事を、まだ小さな王子は受け入れられなかった。
全てが夢だと思いたかった。
自分はきっと殺される――。
母が駆け落ちしてから、国王である父が、自分を見る瞳がまるで汚物を見るかのような瞳にかわったことをリュートも知っていた。
リュートはあまりにも、国王が溺愛したリュートの母親に容姿が似すぎていたのだ。
それ故、今までは一番愛されていたが、母親が憎悪の対象になった今、その憎悪はリュートにも向いてしまっている。
もう、助からない。
リュートは小さな身体をがたがたと震わせ、恐怖に震えた。
絶望が彼を包み込む。
たぶん、私が幻の中でも高校の時の意識に戻らなかったのはコロネの魔道具のおかげだろう。
気休め程度にしかならないとは言っていたが、リュートが完全に意識が幼児期に戻っているところをみると、魔道具はかなり効果があったらしい。
とにかく、私がなんとかしてあげないと!
王子に私が手を伸ばそうとしたとき――景色が途端に変わる。
「貴方がリュートですか」
桜のような木の下で、リュートは声をかけられる。
見上げれば、そこにいたのは、まだ今よりずっと若い、コロネだった。
「あなたは……?」
子リュートが見上げて聞けば、コロネは表情を変える事なく
「コロネ・ファンバードです。
今日から貴方の後見人なりました。
貴方には私の元に来てもらいます」
と、自己紹介し、座り込んだ子リュートに手を伸ばす。
リュートはその名を知っていた。
大賢者と呼ばれる偉大なエルフだ。
「まさか大賢者様が……後見人ですか?
でもそんなことをすれば貴方まで」
殺されてしまうと言いかけて、リュートは言葉を呑んだ。
そんなことを言えば、誰かに密告されれば、リュートはもちろんコロネにも危険が及ぶかもしれないのだ。
「貴方が気にすることではありません。
利用できるものは何でも利用しないさい。
でなければこの先、生きてはいけませんよ。
それとも貴方はこのまま朽ち果てたいのですか?」
コロネに問われ、リュートは首をふった。嫌だ。まだ死にたくない。生きていたい。
やりたい事も、やれなかったこともいっぱいあるのだ。
と、まだ幼い王子は精一杯コロネに訴える。
「――なら、私の手をとりなさい。
貴方が成人するまでは私が貴方を守りましょう」
相変わらず無表情のコロネに子リュートは手を取るのを一瞬ためらい、意を決したかのように頷き、コロネの手を取ろうとした瞬間。
コロネが残酷な笑を浮かべ――
「まさか助けると思いましたか?
穢わらしい女の子を?」
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