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第四章
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リュリュと実家の滞在が被った。
前回は一年くらい前だったか。
夕食時、向かいの彼女を眺めて、「うーん、苦手だ」と改めて思う。
ほとんど同じ顔なのだが、鏡を覗いている気はしない。
「なーにぃ?」
視線に気づいたらしく、問われた。
リュリュの喋り方は、粘り気がある。何でこんな喋り方になったんだろ、と疑問に思ったりもする。
「別に……」
「そお?」
リュリュが笑い、逆にじいっと見つめられた。
居心地が悪かった。私はさっと視線を逸らし、食事に集中した。
ヨエルもリュリュとはあまり話さないが、理由は私と違う。彼は以前恋人を寝取られてから、ずっとリュリュを毛嫌いしている。
私のような幾らか漠然とした苦手意識ではない。いや、私も付き合っている人を取られたことは有る。その時は腹が立ったのでぶん殴った。
ぶん殴られて素直に壁に激突したリュリュは、顔を上げた時には私に笑い掛けてきた。
意味が分からず眉を寄せていると、「でもそんなに好きだった訳じゃないでしょ……?」と妙にしっとりとした口調で訊ねられ、思わず「まあそうだけど」と毒気の抜けた返事をしていた。
「じゃあ、いいじゃないのよ」
「良くないよ」
「どうしてぇ?」
「どうしてって……」
「寂しいなら私が相手してあげるわよぉ?」
そう言いながら、リュリュが歩み寄ってきた。足取りはしっかりしている。
「は?? あんた何を言って……」
「私をぎったんぎったんに犯していいわよ? ヘルガちゃんの子なら産んであげる」
「い、意味が、分からない」
ぞくりとしたのは同じ血を持ちながら平気でそう言い放つ姉の得体の知れなさへの……恐怖だろう。多分。
多分……。
「そもそも、自分とほぼ同じ顔と体相手に勃起しないし」
「物理的にでも勃たせて跨ってあげるのに」
「やめてよ。……本当に意味分からないから」
て言うより、困る、と言って彼女に背を向けた。
「えー。……ざぁんねぇん」
リュリュが笑いながらそう言うのが聞こえた。
……私が「じゃあ」と言ったなら、本気でぎったんぎったんに抱かれる気でいたのだろうか。
リュリュの破天荒な言動にはいつも困惑させられた。
そして、実家だとその破天荒なのと二段ベッドの上下で眠らなければならないのだ。
落ち着かないことこの上ない。
部屋は、私とリュリュが使っていた頃と変わらない。そのままにしてくれているようだ。しかし懐かしさを感じるより……落ち着かないことこの上ない。
私はさっさとベッドに入り、予定より早く出立しようかと考えていると、リュリュが部屋に入ってきた。
目が合った。
ので逸らした。
「起きてたのねえ」
声を掛けられはしたが無視していると、リュリュが服を脱ぎ始めた。
「何で脱ぐの!?」
つい黙っていられずに声を上げると、リュリュがにやりと笑った。
「寝巻に着替えるからに決まってるでしょぉ」
下着一枚でそう言う。
リュリュは白い薄手のワンピースのようなものを身に着けると、私が寝ている二段ベッドの下に潜り込んできた。
「何で!」
思わず声を荒げる私の上に、みしっとリュリュが乗る。
「襲いやしないわよぉ」
「……だったら何する気なの、これ」
「そうねえー。折角だから」
そこでいきなり、リュリュの顔が接近した。
唇が重ねられる。何だか、ぶちゅっと。妙に色気なく。
「ふふっ」
顔を覗かれる。
げんなりしていると、また唇が降ってきた。
今度は、思い切り舌を入れられた。
一瞬……ほんの一瞬だけ謎の躊躇をしてから、次には容赦なく突き飛ばした。
「……あんた、よくもまあ」
「そうね」
リュリュはもぞりとその場で座り直し、妙に楽しげに笑ってこちらを見た。
「そうねじゃなくて。……ほんとに孕むまで犯すよ?」
「いいわよぉ」
楽しげな返事を貰ってしまった。
「少しは躊躇しなさいよ」
私は溜息を吐いた。しかしリュリュは相変わらず楽しそうだった。
「私のこと孕ませて良いし、そしたら元気な子を産んであげるけど、責任取って結婚してねえ」
「出来ないからね。例えば身元を偽ってどっかの国に行ったとしたって、顔同じすぎるからね。そもそも私ら、外見だけだと女同士に見えるし」
「まー、そうよねえ。チンコサイズおかしいけど」
ははっ、とリュリュが笑う。
「……まあね」
「でも私、これ見て一瞬青ざめる顔、好きなのよねえ」
「悪趣味」
「……冷静に見たら青ざめるようなもん、自分の中に入ってるって自覚させるとぉ、いい反応するじゃない?」
リュリュが目を眇め、唇の片端を上げる。悪そうな顔だった。
「私、バージン好きなのよねえ。女でも、まあ、男でも」
「……あんたに目ぇつけられた人に同情するわ。……初めてでこんなもん突っ込まれるのはつらいでしょうよ」
「つらそうなのがいいのよ。慣れられちゃったら飽きるわあ」
「相変わらずゲスいね」
「そうよ。私はそうなの。ヘルガちゃんとは違うのよ」
まるで歌うように、リュリュが言う。
「私は私、ヘルガちゃんはヘルガちゃん……」
それから不意に首を傾げた。かくん、と。
「もし私達が一緒だったら、どんな人だったかしらねえ……」
「一緒って?」
問い掛けたが、リュリュは答えなかった。
ただ、私を見つめていた。
前回は一年くらい前だったか。
夕食時、向かいの彼女を眺めて、「うーん、苦手だ」と改めて思う。
ほとんど同じ顔なのだが、鏡を覗いている気はしない。
「なーにぃ?」
視線に気づいたらしく、問われた。
リュリュの喋り方は、粘り気がある。何でこんな喋り方になったんだろ、と疑問に思ったりもする。
「別に……」
「そお?」
リュリュが笑い、逆にじいっと見つめられた。
居心地が悪かった。私はさっと視線を逸らし、食事に集中した。
ヨエルもリュリュとはあまり話さないが、理由は私と違う。彼は以前恋人を寝取られてから、ずっとリュリュを毛嫌いしている。
私のような幾らか漠然とした苦手意識ではない。いや、私も付き合っている人を取られたことは有る。その時は腹が立ったのでぶん殴った。
ぶん殴られて素直に壁に激突したリュリュは、顔を上げた時には私に笑い掛けてきた。
意味が分からず眉を寄せていると、「でもそんなに好きだった訳じゃないでしょ……?」と妙にしっとりとした口調で訊ねられ、思わず「まあそうだけど」と毒気の抜けた返事をしていた。
「じゃあ、いいじゃないのよ」
「良くないよ」
「どうしてぇ?」
「どうしてって……」
「寂しいなら私が相手してあげるわよぉ?」
そう言いながら、リュリュが歩み寄ってきた。足取りはしっかりしている。
「は?? あんた何を言って……」
「私をぎったんぎったんに犯していいわよ? ヘルガちゃんの子なら産んであげる」
「い、意味が、分からない」
ぞくりとしたのは同じ血を持ちながら平気でそう言い放つ姉の得体の知れなさへの……恐怖だろう。多分。
多分……。
「そもそも、自分とほぼ同じ顔と体相手に勃起しないし」
「物理的にでも勃たせて跨ってあげるのに」
「やめてよ。……本当に意味分からないから」
て言うより、困る、と言って彼女に背を向けた。
「えー。……ざぁんねぇん」
リュリュが笑いながらそう言うのが聞こえた。
……私が「じゃあ」と言ったなら、本気でぎったんぎったんに抱かれる気でいたのだろうか。
リュリュの破天荒な言動にはいつも困惑させられた。
そして、実家だとその破天荒なのと二段ベッドの上下で眠らなければならないのだ。
落ち着かないことこの上ない。
部屋は、私とリュリュが使っていた頃と変わらない。そのままにしてくれているようだ。しかし懐かしさを感じるより……落ち着かないことこの上ない。
私はさっさとベッドに入り、予定より早く出立しようかと考えていると、リュリュが部屋に入ってきた。
目が合った。
ので逸らした。
「起きてたのねえ」
声を掛けられはしたが無視していると、リュリュが服を脱ぎ始めた。
「何で脱ぐの!?」
つい黙っていられずに声を上げると、リュリュがにやりと笑った。
「寝巻に着替えるからに決まってるでしょぉ」
下着一枚でそう言う。
リュリュは白い薄手のワンピースのようなものを身に着けると、私が寝ている二段ベッドの下に潜り込んできた。
「何で!」
思わず声を荒げる私の上に、みしっとリュリュが乗る。
「襲いやしないわよぉ」
「……だったら何する気なの、これ」
「そうねえー。折角だから」
そこでいきなり、リュリュの顔が接近した。
唇が重ねられる。何だか、ぶちゅっと。妙に色気なく。
「ふふっ」
顔を覗かれる。
げんなりしていると、また唇が降ってきた。
今度は、思い切り舌を入れられた。
一瞬……ほんの一瞬だけ謎の躊躇をしてから、次には容赦なく突き飛ばした。
「……あんた、よくもまあ」
「そうね」
リュリュはもぞりとその場で座り直し、妙に楽しげに笑ってこちらを見た。
「そうねじゃなくて。……ほんとに孕むまで犯すよ?」
「いいわよぉ」
楽しげな返事を貰ってしまった。
「少しは躊躇しなさいよ」
私は溜息を吐いた。しかしリュリュは相変わらず楽しそうだった。
「私のこと孕ませて良いし、そしたら元気な子を産んであげるけど、責任取って結婚してねえ」
「出来ないからね。例えば身元を偽ってどっかの国に行ったとしたって、顔同じすぎるからね。そもそも私ら、外見だけだと女同士に見えるし」
「まー、そうよねえ。チンコサイズおかしいけど」
ははっ、とリュリュが笑う。
「……まあね」
「でも私、これ見て一瞬青ざめる顔、好きなのよねえ」
「悪趣味」
「……冷静に見たら青ざめるようなもん、自分の中に入ってるって自覚させるとぉ、いい反応するじゃない?」
リュリュが目を眇め、唇の片端を上げる。悪そうな顔だった。
「私、バージン好きなのよねえ。女でも、まあ、男でも」
「……あんたに目ぇつけられた人に同情するわ。……初めてでこんなもん突っ込まれるのはつらいでしょうよ」
「つらそうなのがいいのよ。慣れられちゃったら飽きるわあ」
「相変わらずゲスいね」
「そうよ。私はそうなの。ヘルガちゃんとは違うのよ」
まるで歌うように、リュリュが言う。
「私は私、ヘルガちゃんはヘルガちゃん……」
それから不意に首を傾げた。かくん、と。
「もし私達が一緒だったら、どんな人だったかしらねえ……」
「一緒って?」
問い掛けたが、リュリュは答えなかった。
ただ、私を見つめていた。
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