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第四章
N6
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王子様のご来訪は再開された。
ランディに心当たりがあるか問われたので、笑って「立て直すなんて許せないんです」と答えた。
彼は複雑そうに私を見ていた。
「……あの時居た侍女は」
二度して落ち着いてから、ベッドの上に横たわった王子様が呟いた。
「何です」
「……ただの、侍女なのか?」
「どういう意味です」
ユーニスはありとあらゆる意味で「ただの侍女」ではないなあ、と考えつつ更なる説明を促す。
「……おまえと体の関係はあるのか?」
「ありますよ」
あっさりと認めると、王子様がぐっと唇を噛むような表情をした。
「……おまえは一体何人と関係を持っている?」
「さあ」
そんなに人数はいない。何しろこの体だ。
「でもそれは、あなたには関係ないでしょう。ランディに聞かれるならともかく」
王子様は何も言わずに顔を背けた。そして言う。
「……おまえは俺のものになど絶対になる気もないのに、俺を逃がそうともしない」
「あれぇ。あなたが私を逃がさないんじゃなかったです?」
私は笑う。
王子様は自分の腕で顔を隠すようにした。
「……むしろ、もう、逃げて欲しい。俺の手の届かない所に立ち去って欲しい」
「……あなたの手の届かない所って、どこですか。大国の第二王位継承者の手の届かない所なんて、あの世くらいしか思いつきませんけど。あぁ、死んで欲しいって言ってます? いいですよ」
私はベッドを出た。
ドアノブに手を掛けると、王子様が追い付いて私の手首を掴んだ。
「……どこに行く気だ」
「刃物を探しに、その辺の部屋まで」
「何を言っている。正気か」
「さあ。知りません」
折角だから頭からたっぷり血を浴びせてやろうと思っての刃物だった。首吊りは後の状態等色々嫌だった。
「……死んで欲しいなどと言ったつもりはない」
「そうですか」
「……死ぬくらいなら……俺のものに、なってくれ」
王子様の声が低く掠れる。
「残念ながら私にとっては死というものに、あなたが思うほどの価値はないです」
「それは、俺のものになるのは死ぬより無理だということか」
「そうなりますね」
無造作に頷くと王子様が小さく笑った。
「……おまえは本当に残酷だ。……そして俺は、そこまでのことをしたという訳か……」
「まあ……あなたの立場から考えて、私達のようなどこぞの一蛮族など、滅びようと何であろうとどうでも良く、何なら精々役に立ってもらおうか、程度の存在であるのは分かります」
王子様は何も言わない。ので、続けた。
「……そしてあなたも、私の立場から考えて、一族を滅ぼす指令を下した人物が憎いのは分かるでしょう」
「……ああ」
「結局私たちはあまりにも違う立場を生きているので、今更互いの有様を理解したところで何の足しにもならない訳です。何もかもはもう、そうなった。そうなってしまえばどうにもならない事実です。だからお互い、勝手に己の立場を生きましょう」
「……おまえの言いようはまるで、俺はおまえのことなど理解せずにその権力を以て好きなように追い詰めればいい、とも聞こえる」
「さあ……どうですかね」
「そしておまえも、俺が何をしようとも変わらず勝手に憎むから関係ない、と」
「はは。……あなたは以前、私が今言ったように考えていた筈。どこからおかしくなったのでしょうね」
問うように言うものの、知ってはいる。
恐らく私を本気で好きになった頃からだろう。
何だってまあ、こんな関係性の相手に、しかも精神の辺りが半壊している者にそうも惚れ込むのか……。その困難さがマゾの血をくすぐるのだろうか。可哀想に。
「……分かっていて聞くのだろう」
そう応じる王子様の目はやはり暗い。
「そうかもしれませんね」
私は軽く頷く。
それから、ふと思いついたことを口にした。
「あなたがもしリュリュと出会っていたら、私よりそちらを好きになったかもしれませんね」
暫しの沈黙の後、疲れたような重い声で王子様が訊ねてきた。
「……誰だそれは」
「私の姉というか兄というか……外見はそっくりですが、中身は大分、酷いですよ。今の私よりもっと酷い。汚して壊して堕として……そういうのが好きな、とっても罪深い人ですよ」
ヘルガちゃん、という呼び掛けがまた頭の中に鳴り響く。甘い声。私の体に触れる手も思い出し、ぞくりとした。その手は冷たい。
「……おまえとは、どういう関係だった?」
「だから、姉であり兄であり……」
きょとんとして答えかける私を、王子様がじっと見つめてきた。
腹の奥に、灰色のもやもやとした何かが立ち込め始める。気づくと言葉が途切れていた。
リュリュと、私の、関係……
色々あったが、その結果として「苦手」というどこかしら受け取れる幅の広い言葉を選択していた。
私は暫く黙りこくり、次の言葉を探した。
「……。……でも、もう死んじゃいましたから。……まるでそれまでにし続けたことの総決算に幾らか足したような目に遭って、殺されましたよ」
「集落が滅びた時にか」
「そうですね」
逆だったらどうなっていたろう、と考えた。
私のそんな死体を見たら、リュリュはどんな反応をしたろう。
驚いて、それで……その後は、想像がつかない。
目を眇めて「ふふ」と笑い掛けると、王子様はマクスウェルのようには言わなかった。ただ、やはり私を見つめているだけだった。
リュリュなら、この人をもっと苦しめるのだろうか。それともとっくに飽きて、どこかに立ち去っているだろうか。
最近は、良く彼女のことを思い出す。
マクスウェルに接触したせいだろうか。
彼はリュリュに何をされ、どういう感情を抱き、今は何を思っているか……
大体分かる気はする。
彼にとってリュリュは間違いなく化け物で魔物で悪魔だったのだろう。その妹であり、彼を犯した私もまたそうだろうと思う。
しかし私はこの国の伯爵夫人であり、彼の同盟者でもあるアレクサンダー殿下の元愛人との噂がある。出生を暴露してやった場合、えらくややこしいことになるのは確かだ。枢父にしても、そう簡単には潰せない化け物となり果てている。……が、決して潰せないという訳ではない。枢父の権力は大きい。
がんばって私をはめて殺せばいいのにな、とちょっと思う。彼の信じる、試練しか与えない神の名のもとに。そうしたら私は悪魔らしく、彼の心が引き裂かれて永遠に血を流し続けそうなくらいの呪いを吐いて死んでいってあげるというのに。
恐らく彼は私と話すことによって、リュリュの亡霊を抱えただろう。そうでなければ大した精神力だ。
願わくば、私を殺してその亡霊をも抱えて欲しいという話だ。所詮実際はリュリュも私も単なる塵芥となって消えて無くなるだけであり、彼の所になど何が残る筈がないとしても。
そしてリュリュも私も殺したところで、彼の純潔は二度と返って来ない。魔物に汚されて気持ち良くなっちゃった罪深い肉体を抱えたまま生きていく訳だ。たくさん抱えて可哀想に。
そこで少し、マクスウェルにさっさとお別れを告げてしまったことを後悔した。ぐだぐだと何度も顔を合わせてはその度に犯しまくって、私無しではいられないような卑猥な体にしてやれば良かった。
まあ、今目前に立っている王子様のように、だ。
「お互いただドアの前に突っ立っているのも間抜けですね」
私は肩を竦めた。そしてベッドに戻る。王子様も後から来た。
並んでベッドに入り、せっかくだからと手を伸ばして頬に触れると、嫌そうに顔を背けられた。
いつまでたっても結局かわいくない。
「……こちらを向いて下さい、アレックス」
そう言うと、びくっと肩が揺れた。
しかし渋々のように向けられた顔の眉間には皺が寄せられている。
「かわいくないですね」
「かわいいなどと言われたくもない」
「ふうん」
頷き、指先で唇を割る。歯に当たった。
「……口開けて下さい」
私を睨みながら、少しだけ歯が開いた。ので、そこに指を捻じ込んだ。
歯が指を挟む。噛まれたことを思い出して指を引き抜いた。
ふん、と笑われた。かわいくない。
なので布団を放るように引っぺがし、突然のことに驚いて目を見開く王子様の片足首を掴んで持ち上げる。
「な……」
横向きになって片足を上げる体勢を取らされた王子様が戸惑うようにこちらを見た。
私はその股の前に座り込み、手を足首から膝裏へと変えた。自分のペニスを取り出す。
腰を進め、まだ緩そうな……いや、使われたてなせいでいつもより更に緩そうなアナルに亀頭を押し付ける。
「何だいきなり……っ、う、っ」
ぐちゅ、と肉竿を腹の中に押し込まれ、王子様が呻く。
「いつもながら、簡単に入りますね」
「さっきまで何度も……っ、おまえが入れていたからだろうが、っ」
ぬちゅぬちゅと卑猥な音が王子様の声と絡む。
「んっ、あ」
王子様の声が艶めかしく揺れる。
ぐいっと奥まで挿し込むと、「ひ」と泣き声を漏らして精液を吐く。
「あう、ぅ……っ、待っ……」
「待ってもらえる訳ないって分かってるでしょう?」
そう言いながら、私は好き放題に王子様の内臓を掻き回した。
「脚、なっがいですよねー」
そんなどうでもいいことを言うと、王子様が強く眉を寄せて睨んできた。
「褒めてるのに」
笑いながら、ぶっすりと奥まで入れて中を満たしているペニスをぐりぐりと動かす。
「ひぅ、や、やめっ……あ、ぁぐ」
表情が泣き顔のように変化し、ぞくぞくした。
「ふふっ」
笑うと、また王子様が見上げて来る。
泣きそうにも見えるし、随分気持ち良さそうでもあり、悔しげでもあれば、私に対する複雑な気持ちが透けて見えるような気もした。しかし要は良く分からない。
良く分かる必要もないので、腰を動かす。
「あっ……ん、あっ、ぅ、あ」
王子様の口から漏れる喘ぎはエロい。
ずるんと引き抜くと、「ひぃっ」と鳴いてまた射精した。
私はぱたんと寝っ転がり、まだ勃起したままのそそり立つ肉柱を見て我ながらえぐいと思いつつ、王子様に言った。
「跨って」
「お……おれに、めいれい、する、な……っ」
まともに回らない呂律で、それでも可愛くないことを言ってくる。
「ふうん、じゃあいいです」
私が自分で凶悪な肉柱を掴んで扱き始めると、こちらを見た王子様が呻くように言う。
「しないとは、いっていない」
私が「面倒くせぇ」という顔をしつつ、「別にもういいです」とお断りすると、王子様が這い寄ってきた。
「だからいいですってば」
「すると言っているだろう……っ」
「何なんですか面倒くさい」
ついにそう言うと、王子様が少し悲しそうに口を噤んだ。というか、こんな流れになって私にそう思われない訳が無いだろう。分かっていてもプライドやら何やらとのせめぎ合いなのか何なのかは知らない。今日はまだ結構正気が残っている様子なので、そんなものかもしれない。
王子様は無言のまま跨ってきた。股間の物は萎えている。
それでもちゃんとペニスをアナルに押し当て、ゆっくりと腰を沈める。
「ん、ん……っ」
腰を震わせながら全て腹の中に収めると、自らの腹の辺りを手で押さえた。
「は……ぁっ……はぁ……」
息を弾ませてこちらを見る。
「動いて」
構わずにさっきと同じ口調で言うと、王子様は唇を噛むようにしたが、それでも言われた通りにしてきた。
ぬちゅ、ぬちゅ、といやらしい音を響かせて腰を上下させる。
「はぁっ……は……っ」
最初は吐息の音ばかりだったが、次第に乱れ始めた。
「あ……っ、ふ……っ、う」
いつの間にか股間の物も勃ち上がって、粘った汁を零している。
下から少し突き上げるようにすると、ビクッと体を揺らした。
「ぁあっ……」
濡れた眼差しが私に向けられる。
続けざまにぐいぐいとこちらで動くと、声が卑猥に崩れた。
「はう、ぁあ……っ、あ、んっ」
声が半ば裏返る。
「はぁっ、ぁう、あっ、ヘルガぁ……っ」
尻を振りながら、大変エロい声で私の名を呼ぶ。
「……何ですか、アレックス」
そう言ってみたら、王子様の声のエロさと切実さが増した。
「ヘルガ……っ、ヘルガ、へるが……っ、ああ」
好きだ、という言葉が聞こえてくる気がした。
また、何だ馴れ馴れしい、とでも言えばいいのに。と思った。
ランディに心当たりがあるか問われたので、笑って「立て直すなんて許せないんです」と答えた。
彼は複雑そうに私を見ていた。
「……あの時居た侍女は」
二度して落ち着いてから、ベッドの上に横たわった王子様が呟いた。
「何です」
「……ただの、侍女なのか?」
「どういう意味です」
ユーニスはありとあらゆる意味で「ただの侍女」ではないなあ、と考えつつ更なる説明を促す。
「……おまえと体の関係はあるのか?」
「ありますよ」
あっさりと認めると、王子様がぐっと唇を噛むような表情をした。
「……おまえは一体何人と関係を持っている?」
「さあ」
そんなに人数はいない。何しろこの体だ。
「でもそれは、あなたには関係ないでしょう。ランディに聞かれるならともかく」
王子様は何も言わずに顔を背けた。そして言う。
「……おまえは俺のものになど絶対になる気もないのに、俺を逃がそうともしない」
「あれぇ。あなたが私を逃がさないんじゃなかったです?」
私は笑う。
王子様は自分の腕で顔を隠すようにした。
「……むしろ、もう、逃げて欲しい。俺の手の届かない所に立ち去って欲しい」
「……あなたの手の届かない所って、どこですか。大国の第二王位継承者の手の届かない所なんて、あの世くらいしか思いつきませんけど。あぁ、死んで欲しいって言ってます? いいですよ」
私はベッドを出た。
ドアノブに手を掛けると、王子様が追い付いて私の手首を掴んだ。
「……どこに行く気だ」
「刃物を探しに、その辺の部屋まで」
「何を言っている。正気か」
「さあ。知りません」
折角だから頭からたっぷり血を浴びせてやろうと思っての刃物だった。首吊りは後の状態等色々嫌だった。
「……死んで欲しいなどと言ったつもりはない」
「そうですか」
「……死ぬくらいなら……俺のものに、なってくれ」
王子様の声が低く掠れる。
「残念ながら私にとっては死というものに、あなたが思うほどの価値はないです」
「それは、俺のものになるのは死ぬより無理だということか」
「そうなりますね」
無造作に頷くと王子様が小さく笑った。
「……おまえは本当に残酷だ。……そして俺は、そこまでのことをしたという訳か……」
「まあ……あなたの立場から考えて、私達のようなどこぞの一蛮族など、滅びようと何であろうとどうでも良く、何なら精々役に立ってもらおうか、程度の存在であるのは分かります」
王子様は何も言わない。ので、続けた。
「……そしてあなたも、私の立場から考えて、一族を滅ぼす指令を下した人物が憎いのは分かるでしょう」
「……ああ」
「結局私たちはあまりにも違う立場を生きているので、今更互いの有様を理解したところで何の足しにもならない訳です。何もかもはもう、そうなった。そうなってしまえばどうにもならない事実です。だからお互い、勝手に己の立場を生きましょう」
「……おまえの言いようはまるで、俺はおまえのことなど理解せずにその権力を以て好きなように追い詰めればいい、とも聞こえる」
「さあ……どうですかね」
「そしておまえも、俺が何をしようとも変わらず勝手に憎むから関係ない、と」
「はは。……あなたは以前、私が今言ったように考えていた筈。どこからおかしくなったのでしょうね」
問うように言うものの、知ってはいる。
恐らく私を本気で好きになった頃からだろう。
何だってまあ、こんな関係性の相手に、しかも精神の辺りが半壊している者にそうも惚れ込むのか……。その困難さがマゾの血をくすぐるのだろうか。可哀想に。
「……分かっていて聞くのだろう」
そう応じる王子様の目はやはり暗い。
「そうかもしれませんね」
私は軽く頷く。
それから、ふと思いついたことを口にした。
「あなたがもしリュリュと出会っていたら、私よりそちらを好きになったかもしれませんね」
暫しの沈黙の後、疲れたような重い声で王子様が訊ねてきた。
「……誰だそれは」
「私の姉というか兄というか……外見はそっくりですが、中身は大分、酷いですよ。今の私よりもっと酷い。汚して壊して堕として……そういうのが好きな、とっても罪深い人ですよ」
ヘルガちゃん、という呼び掛けがまた頭の中に鳴り響く。甘い声。私の体に触れる手も思い出し、ぞくりとした。その手は冷たい。
「……おまえとは、どういう関係だった?」
「だから、姉であり兄であり……」
きょとんとして答えかける私を、王子様がじっと見つめてきた。
腹の奥に、灰色のもやもやとした何かが立ち込め始める。気づくと言葉が途切れていた。
リュリュと、私の、関係……
色々あったが、その結果として「苦手」というどこかしら受け取れる幅の広い言葉を選択していた。
私は暫く黙りこくり、次の言葉を探した。
「……。……でも、もう死んじゃいましたから。……まるでそれまでにし続けたことの総決算に幾らか足したような目に遭って、殺されましたよ」
「集落が滅びた時にか」
「そうですね」
逆だったらどうなっていたろう、と考えた。
私のそんな死体を見たら、リュリュはどんな反応をしたろう。
驚いて、それで……その後は、想像がつかない。
目を眇めて「ふふ」と笑い掛けると、王子様はマクスウェルのようには言わなかった。ただ、やはり私を見つめているだけだった。
リュリュなら、この人をもっと苦しめるのだろうか。それともとっくに飽きて、どこかに立ち去っているだろうか。
最近は、良く彼女のことを思い出す。
マクスウェルに接触したせいだろうか。
彼はリュリュに何をされ、どういう感情を抱き、今は何を思っているか……
大体分かる気はする。
彼にとってリュリュは間違いなく化け物で魔物で悪魔だったのだろう。その妹であり、彼を犯した私もまたそうだろうと思う。
しかし私はこの国の伯爵夫人であり、彼の同盟者でもあるアレクサンダー殿下の元愛人との噂がある。出生を暴露してやった場合、えらくややこしいことになるのは確かだ。枢父にしても、そう簡単には潰せない化け物となり果てている。……が、決して潰せないという訳ではない。枢父の権力は大きい。
がんばって私をはめて殺せばいいのにな、とちょっと思う。彼の信じる、試練しか与えない神の名のもとに。そうしたら私は悪魔らしく、彼の心が引き裂かれて永遠に血を流し続けそうなくらいの呪いを吐いて死んでいってあげるというのに。
恐らく彼は私と話すことによって、リュリュの亡霊を抱えただろう。そうでなければ大した精神力だ。
願わくば、私を殺してその亡霊をも抱えて欲しいという話だ。所詮実際はリュリュも私も単なる塵芥となって消えて無くなるだけであり、彼の所になど何が残る筈がないとしても。
そしてリュリュも私も殺したところで、彼の純潔は二度と返って来ない。魔物に汚されて気持ち良くなっちゃった罪深い肉体を抱えたまま生きていく訳だ。たくさん抱えて可哀想に。
そこで少し、マクスウェルにさっさとお別れを告げてしまったことを後悔した。ぐだぐだと何度も顔を合わせてはその度に犯しまくって、私無しではいられないような卑猥な体にしてやれば良かった。
まあ、今目前に立っている王子様のように、だ。
「お互いただドアの前に突っ立っているのも間抜けですね」
私は肩を竦めた。そしてベッドに戻る。王子様も後から来た。
並んでベッドに入り、せっかくだからと手を伸ばして頬に触れると、嫌そうに顔を背けられた。
いつまでたっても結局かわいくない。
「……こちらを向いて下さい、アレックス」
そう言うと、びくっと肩が揺れた。
しかし渋々のように向けられた顔の眉間には皺が寄せられている。
「かわいくないですね」
「かわいいなどと言われたくもない」
「ふうん」
頷き、指先で唇を割る。歯に当たった。
「……口開けて下さい」
私を睨みながら、少しだけ歯が開いた。ので、そこに指を捻じ込んだ。
歯が指を挟む。噛まれたことを思い出して指を引き抜いた。
ふん、と笑われた。かわいくない。
なので布団を放るように引っぺがし、突然のことに驚いて目を見開く王子様の片足首を掴んで持ち上げる。
「な……」
横向きになって片足を上げる体勢を取らされた王子様が戸惑うようにこちらを見た。
私はその股の前に座り込み、手を足首から膝裏へと変えた。自分のペニスを取り出す。
腰を進め、まだ緩そうな……いや、使われたてなせいでいつもより更に緩そうなアナルに亀頭を押し付ける。
「何だいきなり……っ、う、っ」
ぐちゅ、と肉竿を腹の中に押し込まれ、王子様が呻く。
「いつもながら、簡単に入りますね」
「さっきまで何度も……っ、おまえが入れていたからだろうが、っ」
ぬちゅぬちゅと卑猥な音が王子様の声と絡む。
「んっ、あ」
王子様の声が艶めかしく揺れる。
ぐいっと奥まで挿し込むと、「ひ」と泣き声を漏らして精液を吐く。
「あう、ぅ……っ、待っ……」
「待ってもらえる訳ないって分かってるでしょう?」
そう言いながら、私は好き放題に王子様の内臓を掻き回した。
「脚、なっがいですよねー」
そんなどうでもいいことを言うと、王子様が強く眉を寄せて睨んできた。
「褒めてるのに」
笑いながら、ぶっすりと奥まで入れて中を満たしているペニスをぐりぐりと動かす。
「ひぅ、や、やめっ……あ、ぁぐ」
表情が泣き顔のように変化し、ぞくぞくした。
「ふふっ」
笑うと、また王子様が見上げて来る。
泣きそうにも見えるし、随分気持ち良さそうでもあり、悔しげでもあれば、私に対する複雑な気持ちが透けて見えるような気もした。しかし要は良く分からない。
良く分かる必要もないので、腰を動かす。
「あっ……ん、あっ、ぅ、あ」
王子様の口から漏れる喘ぎはエロい。
ずるんと引き抜くと、「ひぃっ」と鳴いてまた射精した。
私はぱたんと寝っ転がり、まだ勃起したままのそそり立つ肉柱を見て我ながらえぐいと思いつつ、王子様に言った。
「跨って」
「お……おれに、めいれい、する、な……っ」
まともに回らない呂律で、それでも可愛くないことを言ってくる。
「ふうん、じゃあいいです」
私が自分で凶悪な肉柱を掴んで扱き始めると、こちらを見た王子様が呻くように言う。
「しないとは、いっていない」
私が「面倒くせぇ」という顔をしつつ、「別にもういいです」とお断りすると、王子様が這い寄ってきた。
「だからいいですってば」
「すると言っているだろう……っ」
「何なんですか面倒くさい」
ついにそう言うと、王子様が少し悲しそうに口を噤んだ。というか、こんな流れになって私にそう思われない訳が無いだろう。分かっていてもプライドやら何やらとのせめぎ合いなのか何なのかは知らない。今日はまだ結構正気が残っている様子なので、そんなものかもしれない。
王子様は無言のまま跨ってきた。股間の物は萎えている。
それでもちゃんとペニスをアナルに押し当て、ゆっくりと腰を沈める。
「ん、ん……っ」
腰を震わせながら全て腹の中に収めると、自らの腹の辺りを手で押さえた。
「は……ぁっ……はぁ……」
息を弾ませてこちらを見る。
「動いて」
構わずにさっきと同じ口調で言うと、王子様は唇を噛むようにしたが、それでも言われた通りにしてきた。
ぬちゅ、ぬちゅ、といやらしい音を響かせて腰を上下させる。
「はぁっ……は……っ」
最初は吐息の音ばかりだったが、次第に乱れ始めた。
「あ……っ、ふ……っ、う」
いつの間にか股間の物も勃ち上がって、粘った汁を零している。
下から少し突き上げるようにすると、ビクッと体を揺らした。
「ぁあっ……」
濡れた眼差しが私に向けられる。
続けざまにぐいぐいとこちらで動くと、声が卑猥に崩れた。
「はう、ぁあ……っ、あ、んっ」
声が半ば裏返る。
「はぁっ、ぁう、あっ、ヘルガぁ……っ」
尻を振りながら、大変エロい声で私の名を呼ぶ。
「……何ですか、アレックス」
そう言ってみたら、王子様の声のエロさと切実さが増した。
「ヘルガ……っ、ヘルガ、へるが……っ、ああ」
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