罪深き凡夫らの回旋

まる

文字の大きさ
上 下
37 / 40
第四章

N5

しおりを挟む

 二週間くらい、王子様のご来訪が途絶えた。
 一応ランディに聞いてみたら、「おまえが虐めたせいじゃないのか」と言われた。
「へえ……そうなんですか」
 何だか楽しくなった。
「……そんな嬉しそうな顔をするな」
 ランディが渋面を作る。
「だって……ふふ。二週間も、あんなエロくされた体を散々持て余して、きっと山ほどオナニーしても満たされずにこう、体の奥をじゅくじゅくさせながら一見涼しい顔で公務をこなしているかと思ったら……」
「聞きたくない聞きたくない」
 ランディが耳を塞いだ。
「ふははっ、その辺の男相手じゃどうにもなんない体なら、馬ででも試してみれば良いのに。多分すぐにいい具合になりますよ」
「その一歩手前くらいにされそうになってる俺にそんな話聞かせるな、気を使え!」
「結局聞いてたんですか」
「聞こえた!」
「大丈夫ですよ、基本的にランディはそこまでお尻が掘られたい人ではないようなので、例え掘られる相手の選択肢が私か馬くらいしかなくなっちゃっても問題ないですよ」
「馬の選択肢もないからな!?」
「やだ、私だけってことじゃないですか、股間が滾りますね。あ、でもサイズの話なら大型犬もそこそこいけるのかも……」
「いけないというかいきたくないし動物は全て選択肢に入らない!」
「亀頭球って知ってます?」
「なあ、少しは話を聞いてくれ。あと、それは知らんな……」
「犬のちんぽの根元にあって、穴に入れた後それが膨らんで栓になって抜けなくなるんです。あと射精がすごく長いらしいですね。お腹たぷんたぷんになりますね……」
 私は言いながら、ランディをじっと見つめた。
 今日も私の旦那様は大変格好良くて麗しく、品のある佇まいだ。生まれと育ちの良さが染みついている。
 ランディが私から離れるようにソファーの上で身を引いた。
「……何を妄想しているか伝わるんだが。……おまえは俺をもう少し大事にするべきだ」
 私は特に返事をせず、ランディを見つめたままでいた。
 ランディが益々身を引いた。
「……自分の夫が犬に犯されるなんて、普通は妻にとってもとんでもない精神的打撃だろうに……ああもうそんなに俺を見るな!」
「……ランディみたいに生まれも育ちも見た目も良くて品のある貴族で、貴族なのにちゃんと逞しくて剣も使えて騎士団の副団長で……以下略ですが要するに魅力の化け物みたいな人が、犬に犯されるって……。もう無理、腹が苦しいって泣き喚いても犬に言葉は通じませんから、それでもどぶどぶ注がれて、しつっこく犯され続けるんですね……はあはあ!」
「鼻息を荒くするな! おまえはそんなに俺を汚したいのか!?」
「汚したいです。犬飼ってもいいですか、とりあえずでっかいやつ」
「駄目だ!!!」





 犬は絶対に飼わない!! と言い捨ててランディが登城してしまったので、あらぬ妄想によって滾り切った欲望をどうにかすべく、一応遠慮して昼過ぎになってから、執務室を訪問した。
 城へは先日王子様と遭遇して以来行っていなかった。今回も単身ではやはり問題かと、侍女の格好をさせたユーニスを連れて行った。
 しかしランディはおらず、筋肉ダルマ先輩に素っ気なく「お留守です」と言われて終わった。
 こちらも予約している訳ではないし、そんなこともあって当然ではあるが、ランディが私の行動を読んで逃げた可能性は大いにあった。
「どうされますか、奥様」
「そうだね……」
 何となく見返すと、ユーニスが可愛い顔に笑みを浮かべ、にっこりとした。
「……僕とします?」
 小声でそう囁いてきた。
 彼は勿論私の目的も知っていたらしい。
「じゃあ、そうしようかな」
 私は頷き、王城内に点在する空き部屋を探すことにした。
 昔より空き部屋は減っていて、鍵も良くかけられているとはユーニスの言だった。
「二ヶ月くらい前でしょうかね。賊が空き部屋に潜んでいたらしくて」
「へえ」
「旦那様が捕まえたそうですが」
「ランディ、すごいね」
「普通守られる側のご身分なのに、すごいですよね」
「そうだね」
 私はそういう話もランディからは聞かされない。
 実に徹底している。
 信用がないにも程があるな、と少し笑ってしまった。しかしそれでいいし、確かに私には関係のない話だ。
 そしてユーニスの案内で空いているらしき部屋に連れて行かれた。
 しかし廊下の時点で一つ気付く。
「この辺りって……アレクサンダー殿下所有の区画じゃないの?」
「そうですね。しかし王城内はどこかしらどなたかに、もしくは何かに属してますから。それ程気になさらなくても大丈夫かと」
「そういうもの?」
「です。あ、あそことかですね」
 ユーニスが掌を上に向け、揃えた指先で一つの扉を示す。
 彼は歩きながらささっと懐から針金を出すと、ドア前に立つなり鍵穴に突っ込んであっという間に開けた。
「開きまし……、ん?」
 ドア前でこちらを向こうとしたユーニスが動きを止めた。
 私はそこに歩み寄り、ドアノブに手を掛けた。
「あ。奥様、待っ……」
 ユーニスに制止される間もなく、私の手はもう扉を開けていた。
 開けると、こう、密やかかつ秘めやかな、女性の喘ぎ声が。
「……しまった」
 完全にドアをオープンしてしまった私は呻いた。
 似たようなことを考える者は絶対に居るという話だろう。
 いや。と言うか。
 ドレスの裾をからげた御婦人が跨っている相手というのが。
「……無礼な」
 低い声で言われ、目が合う。
「……済みません。でも、見張りを立てるとかした方が良いですよ……」
 途中、確かに番兵も居たのだが、ユーニスが何事か囁くと通してくれた。そして、その彼らは見張りでは無かった。
「ここは俺が所有している場所だ」
 椅子に腰かけた王子様が、険のある目つきと険のある声で言う。
「そうですけど、だからこそむしろ何もわざわざこんな所で……危ないですよ」
 何だか私は困ってしまい、そんなことをもそもそと呟く。
 ユーニスも横で困った顔をして「確認を怠って済みません」と呟いている。よっぽどしたかったのかもしれない。だったらちゃんと他の機会に……とつい別のことを考えた。
 王子様が、はあっと苛立たしげに息を吐き、女性を膝から下ろした。その女性は見る間に身繕いすると、横に控えた。王子様も素早く下衣を直している。
 ふと顔を上げたユーニスが呟いた。
「……あ。元騎士団の方」
「そうなの?」
 少し俯いている女性には覚えがなかった。美しい人なので、見ていれば覚えていると思う。違う騎士団に居た人かもしれない。そうなるともう、私には分からない。
 そして改めて王子様の女の趣味を理解した。
 あれだ。やっぱり強い女が好きなのだろう。物理的な意味で。あと、でっかいおっぱい。
 分かり易いー! と私は噴き出すのを堪えた。
「自分の身くらい自分で守れる」
「そんなプロを舐めた発言しちゃいけませんよ」
 暗殺者だとかそういう者らの搦め手のスキルは、私のような兵士には良く分からない。戦って勝てるかどうかも分からない。思いもよらない隙を突かれてコロッとやられそうな気はする。王子様は確かに強いが、結局は彼だって私と同じ延長線上にいるタイプの人だ。
「黙れ。おまえに指図される覚えはない」
「ま、そうですね」
 私は肩を竦めた。
 それから、視線に気づいた。
 さっきまで王子様とセックスしていた元騎士らしき美貌の御婦人が私を見ていた。
 敵意ではないにしろ少し咎めるような、そして何か不思議なものを見るような、そんな目で。
 良く考えればそれはそうだろう。敬語こそ使っているものの、ほぼ対等に近いような口調と態度だった。びっくりしたせいでその辺り失念していた。
 これは、ウォルステンホルム夫人はアレクサンダー殿下の元愛人、という説を濃厚にしたか……もしくは私を「ウォルステンホルム夫人」と認識していなかったとしても、やたら馴れ馴れしい女だけど誰だ、とは思うだろう。
「うーん。では、失礼いたしました、私は下がります」
 今更取り繕っても仕方ないが、とりあえず逃げよう、と思ってそう言った。
「……待て」
 何と引き留められた。
 そして王子様は、元騎士の御婦人に言う。
「……おまえは下がれ」
 すると元騎士の御婦人は深く礼をし、「畏まりました」と素早く身を翻した。私は慌てて道を開け、そこで丁寧に会釈され申し訳なくなった。
「……続ければいいじゃないですか、私は下がると言ってるんですから」
「……黙れ」
「はあ」
「……何故俺の前に現れる」
「え。別に狙った訳じゃないですよ。私がわざわざあなたに会いに来る訳ないでしょう」
「そうだ。おまえが俺にわざわざ会いに来る筈など無い」
「ええ」
「……俺はもうおまえに会わないつもりだった」
 その辺りで、ユーニスがこそこそと部屋を出て行き、静かにドアを閉めた。
 気まずくなったのか、見張りをしてくれる気なのか。
「そうですか」
「……そうだ」
「残念でしたね。まさかこんな偶然で遭遇するとは」
 私はつかつかと王子様に歩み寄った。
 ぐい、と顎を掴んで持ち上げる。
「……俺に触れるな」
「振り払えばいいのに」
 そう言うと、振り払われた。
 私はふふっと笑い、身を屈めて王子様の股間に触れた。
「っ、よせ、何を……」
 服の上から軽く擦っただけで簡単に勃起する。
「っ……う……」
 王子様が呻く。
「嫌なら振り払えばいいのに。こんな簡単に股間濡らしてないで」
 私の言いようが気に食わなかったらしく、王子様がギッと私を睨み、手を引き剥がした。本気になれば確かに力は強い。
「ふふ」
 ついまた笑い、今度は口に人差し指と中指を差し込む。
 顔を顰められたので、舌を撫でながら言ってやる。
「嫌なら噛めばいいのに?」
 するとがりっと噛んできた。結構本気で。
「痛いですね。血、出ましたよ」
 言いながら、その血を王子様の唇に擦り付ける。
 一度抜いた指をまた口腔内に入れ、歯茎を撫でて上顎の裏を撫でる。
 するとまた噛まれる。
 流石に少し嫌になってきた。
 指を引き抜く。
「……触るな」
 王子様が低く言う。
 私は王子様の膝に跨った。
「……勝手に乗るな」
 その言葉は無視した。
 ここでも挑発して、振り払われてすてーんとなるのはちょっと嫌だったからだ。
 シャツの前を毟って開け、ずるっと肘までずり下げる。
 露出した整った上半身に身を寄せ、首筋を舐め、乳首を摘まむ。
「っ、やめ」
「振り払ったら乳首千切れますよ」
 耳元に囁き、ぎゅっ、と指先に力を入れる。
「……く」
 耳に舌を入れて中を舐めると、体を揺らした。耳朶を噛み、耳の裏も舐める。
 乳首から手を離して脇腹を撫で上げると、そのタイミングで突き飛ばされた。すてーん、より被害は大きかった。思い切り尻もちをついたので、大変尻が痛くなった。
 立ち上がると、少し息を乱している王子様の下衣を掴んで乱暴に前を開ける。ボタンが吹っ飛び、恐らく開閉機能が壊れる。高価そうなお洋服だが知らない。
「何を、するっ」
「うるさいですね」
 つい、口で口を塞いだら、唇も噛まれた。
「いちいち、血ぃ出るほど噛みますね……」
 凶暴な女子みたいな反応だ。ぶん殴って来ない。まあ、彼は私を女だと思っている筈だから、殴り難いのだとして……中途半端な抵抗がこうなっているのかもしれない。
「……おまえが、俺に触らなければ、良いことだ」
「まー……それは確かに」
 言いながら、勃起はしているペニスを掴み、そのまま扱く。
「っ、くっ」
 王子様が呻く。
 そのまま射精させると、少しだけ体から力が抜けた。ずるっと下衣を引き下げ、太股を掴んで引く。背凭れを背が少しずり落ちる。
「よせ……っ」
 王子様が呻いたが、無視して指を滑らせ、ペニスをまた掴む。
「っ、」
 陰嚢を揉みながら会陰も撫でる。
「ぁ、なっ……」
 手の中でまた勃起する肉棒の感覚に、ふと、自分が何故こんなことを一生懸命しているのか、馬鹿馬鹿しくなった。抵抗されるのは興奮しなくもないのだが、タイミングもあるし色々痛い。
 馬鹿馬鹿しくなりながらも、一応体勢的に可能ではあったので、先走りに濡れた指を強引に尻の間に潜らせてアナルに入れた。
「あ……っ」
 不自由なまま少し掻き回したが、ますます馬鹿馬鹿しくなってきたので、手を離して立ち上がった。
 王子様は息を乱し、少し上気した顔で戸惑うように私を見上げた。
「そうですね」
「な、何……が、だ」
「そんなに触られたくないって言われてるのに、私は何をしているのかっていう話で」
「っ……」
「触られたくないんですよね?」
「そうだ……触、るな……」
 その声には先刻より力がない。
 試しに、もう一度噛むか口に指を入れてみた。
「ん、っ」
 歯が当たった。
 少し食い込んだまま歯は動かなかったので、舌を探った。指で摘み、くにくにと弄う。
 そのうち歯が緩んだ。
 口中を撫で回し、舌の裏も撫でる。
「ん、ん」
 微かに、王子様が鼻にかかった息を漏らした。
 やがて、躊躇いがちに舌が指に絡みついてきた。
 唾液を纏わせて私の指を舐め、吸い始める。
 王子様は私を見上げている。目の鋭さは薄れている。
 傷に舌が這わされた。
 指を引き抜くと、唾液が糸を引いた。
「ヘルガ……」
 また控えめながら、その声は艶を帯び始めている。
 私が黙って見下ろしていると、その目に不安げな色が滲んだ。
「触られたくないんですよね?」
 またそれを問い掛ける。
「……おまえが、煽る、から……」
 答えになっていない答えが返された。
 また口に指を入れると、はぁっと喘ぎながら舌を絡めてきた。
「抱いて欲しいですか?」
 訊ねても、王子様は眉を寄せただけだった。しかし舌の中央をつっと撫でると、やっと小さく頷いた。
 態度はそこまででは無いものの、目はひどく物欲しげに私を見ていた。
 引き抜こうとする指に吸い付いてきたので、口から出すと、ちゅぷっと音がした。
「……抱いて、欲しい……」
 王子様はついに声を上ずらせてそう訴えてきた。
「この部屋ってベッドは……」
 私が室内を見回すと、王子様が言う。
「どこでもいい、どんな、体位でも、するから」
 崩れたな、と思う。折角立て直したのにね、とも思う。
「そうですか。じゃあそこの壁に手を突いて脚開いて」
「……わかった……」
 王子様が全部放棄したような声で肯った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

季節がめぐる片想い

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

祓い屋と憑き人と犬

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:31

悪役令嬢にオネエが転生したけど何も問題がない件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:3,143

sweet!!

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:1,350

北畠の鬼神

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,321

とある少年たちの一コマ

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ぽっちゃり令嬢に王子が夢中!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:1,482

男子育成センター ~男が貴重な世界で~

BL / 連載中 24h.ポイント:447pt お気に入り:188

処理中です...