桜の木に寄り添う

月乃結海

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冷たい風

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少し風が冷たくて、肌寒い季節になっていた。
 都会では感じられない、空気感。

 花や木の香り漂う穏やで心地いい。
 空も広く感じて、私にはこの場所の方がいいのかもしれない。

「 そろそろ、みんなの所に戻ろう 」

 そうヒロキくんは言い、私の背後に回り車椅子を押し始めた。

 今日は、病院に行く予定だったけど私の脚が動くようになるには奇跡と言われている。
 辛い思いをするのなら、私はこのままでいいと思うようになっていた。

 今はもうこのままですごく幸せだから……

 私はもうこのままで大丈夫だよ。

 家の前まで来たら、玄関が開いた。

「 なつ、おかえり! 」

 こうちゃんは、私達を待ち構えていたように玄関を開けてくれた。

「 うん!帰ってきたよ、ただいま! 」

 久しぶりに帰るこの家は、何も変わる事もなく安心感でいっぱいだった。

「 やっぱり、落ち着くよー 」

 こうちゃんは、ご飯の支度をしてくれていた。
 あかりちゃんもその横にいて、何もなかったように、自然にお手伝いをしている。

「 いい匂い!ご飯何かなー 」

 笑顔でいられるこの家は、もうお母さんと一緒に住んでいた時とはまったく違う雰囲気になっている。
 やっぱり家は、住む人のカラーになっていくのだろう。

 カタカタカタ……

 私は、自分の部屋があった場所へ進むんだ。

 今はヒロキくんの部屋になっている。

 懐かしい……この窓。

 私はよくこの窓から外を眺めていた。
 この窓から見える桜の木は、とっても立派に見えるんだよ。

 ガラガラ

 久しぶりに窓を開けて覗いてみる。

 この窓から見える景色も何も変わることなく沢山の思い出が蘇る。

 風を感じられるこの場所。

 窓から入ってくる風は、冷たくて甘い香りがする気がした……
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