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第10話 ナナコちゃんは特別なの?
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思い出すと胸がぎゅっと苦しくなる。
痛くて、ぞわぞわっともする。
これが恋の嫉妬なんだ。
わたし、ナナコちゃんに嫉妬してるから、こんなふうに胸の奥がきりきりってなっちゃうんだ。
――あの時。
わたしがふっと気配を感じて稲荷神社の中庭の方を見ると、緋勇くんとナナコちゃんが二人で仲良さげに笑い合ってほたるの光を指さしていた。
ナナコちゃんは、わたしとお兄ちゃんのおさななじみ。
ずっとずっとむかしっから、わたし、ナナコちゃんのことが大好きであこがれなのに。
こんな風に思っちゃうなんていけないよね。
それにナナコちゃんには銀翔さんっていう恋人がいる。
ナナコちゃんに一途に片思いしていたお兄ちゃんだってあきらめちゃうぐらい、ナナコちゃんと銀翔さんは仲むつまじいのに。
心のどこかで、緋勇くんがいくら思ってもナナコちゃんには気持ちが届くことなんかないんだって、そんな風に思っている自分もイヤなんだよね。
ナナコちゃんにいくら好きだって片思いしたって、緋勇くんの抱《かか》える好きはうちのお兄ちゃんみたいにきっと届かない。
銀翔さんがいるかぎり両想いにはならないって、いじわるな感情が出てくるのがすっごくイヤ。
✱✱✱
わたしは稲荷神社の和カフェに誘われてナナコちゃんと二人、桃のパフェを食べています。
隣りにすわるナナコちゃん。
女子から見ても、かわいい。わたしの憧れの幼なじみのお姉ちゃん。
薫お兄ちゃんのお嫁さんになって、わたしの本物のお姉ちゃんにならないかな~なんて思ってたこともあるよ。
ふしぎなあやかし側の世界の方の神社の境内。
風森の稲荷神社に来ると、社の後ろでナナコちゃんの持つふしぎな水晶玉が光って、わたしたちは人間世界じゃないかくりよにやってくる。
見た目は同じ風森の稲荷神社。でも、ふしぎふしぎ、雰囲気も違うし、こっちの神社を訪れるのはほとんどは人間じゃないんだよ。
あやかしって言われる存在、詳しくは妖怪とか幽体とかお化けとか……、生きている者も死んでしまっている者もいるらしいの。
神社の社の横に建つ和カフェは、お店の前に和風の竹で出来たベンチがあった。そばに大きな日よけの鮮やかな色の花の描かれた番傘が立ち、ベンチの上には赤い布がかかって丸い座布団が置いてある。
わたしとナナコちゃんは、そのベンチに並んで座っている。
ナナコちゃんは女子のわたしから見てもすっごく可愛い。
おしとやかで、明るくって。
それに、だれにでも優しい。お姉ちゃんみたいで、時にはママみたいでふわっといい匂いがして、ナナコちゃんのやわらかい笑顔に包まれる。
「ねえ、葵ちゃん。あのね、緋勇くんのことなんだけど……」
「えっ?」
今来ている稲荷神社の和カフェは人間向けの世界の方ではなく、あやかし世界の方だから、わたしは初めて来たけれど、働いているのは銀翔さんのお屋敷にいた妖怪さんたちだった。
小さい体の小鬼ちゃんや狛犬くんに狛兎さん、妖怪ぎつねの男の子や妖怪河童の女の子が店内を忙しく動き回っている。
そんな妖怪たち、どこかきゅーうんとする可愛さだ。
一生懸命で、にこにこしてて。
普通の人間《ひと》は来れない、あやかし和カフェ。
お客さまもさっきから見てると、妖怪とかわたしの見知らぬあやかしがたくさん来てる。
なかには大きなやかんとか鍋に顔がついているあやかしがいて、さっきナナコちゃんにそっと聞いたら、正体は付喪神っていう存在なんだって教えてもらった。
「ずばり言っちゃうとね。あのね、葵ちゃんは緋勇くんのことが好きなんでしょう? 雪菜から聞いたんだけどね。……葵ちゃん、もしかして私のことを気にしてる?」
――あっ。
ど、どうしよう。
そんなナナコちゃんに嫉妬してるとか、ナナコちゃん本人に指摘されるとは思っていなくってたじたじになる。
ぱくって桃を食べて、ナナコちゃんは微笑んだ。
「美味し~い」
「……ナナコちゃん」
ナナコちゃんはにっこり笑いながら、わたしの言葉を待っていてくれる。
「ごめんね、ナナコちゃん。あの……もしかして不快な思いした? わたし、わたし。……緋勇くんのことが好きで。……本心はナナコちゃんに嫉妬してる。どうしよう、自分でもこんな気持ちを持っているのがイヤなの」
ナナコちゃんは「ううん」って言って頭を振った。
にっこりと笑うナナコちゃんが女神か天使みたいで、まぶしかった。
「緋勇くんは私にとって弟みたいなものかなあ。わたしと緋勇くんは、きっとちょっと特殊な関係だから。わたしはね、葵ちゃんも知ってのとおり神獣巫女ってもので、緋勇くんは他の神獣の子たちと一緒で家族みたいに思ってる。つながりとか絆とか、友達とも違う結びつきがあるから」
「ナナコちゃん……。心のまんまに言っても良い?」
「ふふっ。もちろん良いよ、どうぞ。こういうのって言わないで自分のなかにしまってしまうと、どんどん心のなかにためていくと積もり積もって苦しいもの。葵ちゃん、いつもみたいに私にはたくさんぶつけてくれて良いんだよ。私ね、葵ちゃんのことも妹みたいに思ってるよ? 薫と葵ちゃんとわたしと、小さい頃からよく遊んでる仲でしょ」
「わたし、わたし! ……ナナコちゃんがうらやましい。ナナコちゃんは緋勇くんの特別なの?」
ナナコちゃんの瞳がびっくりしていた。
それから、目を細めて、微笑んだ。
ゆっくりと抱きしめられたら、ナナコちゃんに抱きしめてもらったら。
なんだか、わたし、……ホッとしちゃった。
わたしはどうしてか泣いていた。
「えらいね~、葵ちゃんは。胸の中の本心を見つけ出して認めるって、勇気のいることだと思う」
「ふえっん……ひっく、ひっく。……怒らない? ナナコちゃん。わたし、わたし。……ふえぇんっ。勝手に嫉妬するだなんて」
わたしは止まらない泣き声に紛れて、話をするのがやっとだった。
「怒るわけないよ。私はうれしいもの。葵ちゃんが本音を私に打ち明けてくれたこと。それにね」
「……うん」
「そうだなあ、特別かあ。ごめんね、違うって言えないかも。それはね、神獣巫女である私と緋勇を含めた神獣のみんなが家族みたいな強いきずながあるから。宿命って言ったら良いのかな? 私ね、前世から銀翔とともに風森を守る神獣巫女なの。天から役目を授かって、銀翔やオロチや仲間たちと戦ってきた。これからも戦うと思う。……私は緋勇くんや龍太くんやスズネちゃん、薫を戦友として信頼してる」
「戦友……」
「特別って、たぶん、そういう意味では特別だけど。葵ちゃんの思ってる特別とは違うか。葵ちゃんの言ってるのは『大好きでしかたがない女の子、気になる女の子、守りたくなる女の子』ってことかな?」
「うん、……そうだと思う」
「じゃあ、私はね、緋勇くんの特別ではないと思う」
「ええっ!?」
「本人にきちんと聞いてみたら? 誰か好きな子はいますか? って。だってね、葵ちゃん。緋勇くんは前に私のことはお母さんみたいに思ってくれてるって言ってたよ」
「そ、そうなんだ」
あったかいナナコちゃんの胸のなかで、小さいころに戻ったみたいになる。
素直になる。
優しい人のあたたかいやわらかい肌のぬくもり、ぎゅっと抱きしめられた効果は、心のトゲトゲも無くなってしまうからすごいなあ。
ナナコちゃんは、ママみたいだ。
わたしのママもとっても優しい。
うん、わたしの周りにいる女の人はみんな、優しくて素敵で、あったかい。
お兄ちゃんの恋人の雪菜ちゃんも、雪女だけど心はとってもあたたかいもの。
わたしが転んで泣いたり、いじめっこに意地悪されると、決まってナナコちゃんかお兄ちゃんが優しく抱きしめてなぐさめてくれてた。
……それから、鬼のごとく怒った二人はいじめっこと対決してやっつけてくれちゃったりするんだけど。
今でもそこのところは、変わらない。
そういや、ナナコちゃんって、おしとやかな一面もあるけど、けっこう勇ましくってお転婆でもあるんだよね。
ナナコちゃんがよしよししてくれて、幼い子どもに戻ったみたいにわたしはぬくもりに安心していた。
「緋勇くんのこと、よろしくね。葵ちゃんがきっとあの子の心のなかの氷を溶かしていくんじゃないかって思うの」
「えっ? わたしが? ナナコちゃんとか、仲間の神獣のみんなとかお兄ちゃんじゃなくって?」
「うん。私も緋勇くんのことは大好きだよ。だけど、私の大好きは葵ちゃんの持ってる大好きとは違う。分かるよね?」
「……うん」
「それから!」
「えっ?」
「葵ちゃんのことも、私はだーい好き」
「ナナコちゃんっ!」
しばらく赤ちゃんみたいに泣いて、抱きしめてもらったわたし。
不安はすっかり無くなった。
「いくらでも聞いてあげるから。不安なこととか、いっぱいお話しようね。葵ちゃん、……私もね、大好きな人は……あやかしだから。たぶん、いろんなこと分かってあげられると思う」
「そうだよね。……ナナコちゃんのカレは神様のお使いなんだもんね」
「うふふっ……。そうだよ~、私の相手は荘厳な狐の妖怪だからね? 葵ちゃんの大好きな緋勇くんはかっこいい朱雀で神々しい鳥だもの。そんな相手に恋した私たちって、すっごく素敵じゃない?」
わたしとナナコちゃんは笑いあった。
明るく楽しい大きな声で笑うと、どんなマイナスな感情も吹き飛んでいっちゃうみたい。
心が軽くなる。
「あっ……」
いつの間にか、ナナコちゃんの横には神の妖怪狐の銀翔さん、それにお兄ちゃんと雪菜ちゃんが座っていた。
あやかし稲荷神社の上に広がる空は清々しいほどに青く澄んだ晴天だった。
みんなが応援してくれる。
わたしの緋勇くんへの恋心。
人間と神獣だからって。
たとえ、彼が今は誰も見ていなくとも。
もしかしたら、緋勇くん。……ナナコちゃんには照れ隠しでああ言ってて。今はナナコちゃんを特別に思っていたとしても。
わたし、あきらめなくっていいんだ。
これから、きちんと向き合っていこう。
自分の気持ちに――。
それから、緋勇くんの抱えている悲しみとか、隠しているつらい気持ちに。
わたしにだって、彼のさびしい気持ちにちょっとは寄りそえると思うの。
大事なんだ、彼のことが。
出会ったばかりなのに、緋勇くんのことでいっぱいになる。
さびしげに笑う彼の笑顔、わたしが思いっきりほんとうに笑わせてあげられたら、どんなに嬉しいだろう。
痛くて、ぞわぞわっともする。
これが恋の嫉妬なんだ。
わたし、ナナコちゃんに嫉妬してるから、こんなふうに胸の奥がきりきりってなっちゃうんだ。
――あの時。
わたしがふっと気配を感じて稲荷神社の中庭の方を見ると、緋勇くんとナナコちゃんが二人で仲良さげに笑い合ってほたるの光を指さしていた。
ナナコちゃんは、わたしとお兄ちゃんのおさななじみ。
ずっとずっとむかしっから、わたし、ナナコちゃんのことが大好きであこがれなのに。
こんな風に思っちゃうなんていけないよね。
それにナナコちゃんには銀翔さんっていう恋人がいる。
ナナコちゃんに一途に片思いしていたお兄ちゃんだってあきらめちゃうぐらい、ナナコちゃんと銀翔さんは仲むつまじいのに。
心のどこかで、緋勇くんがいくら思ってもナナコちゃんには気持ちが届くことなんかないんだって、そんな風に思っている自分もイヤなんだよね。
ナナコちゃんにいくら好きだって片思いしたって、緋勇くんの抱《かか》える好きはうちのお兄ちゃんみたいにきっと届かない。
銀翔さんがいるかぎり両想いにはならないって、いじわるな感情が出てくるのがすっごくイヤ。
✱✱✱
わたしは稲荷神社の和カフェに誘われてナナコちゃんと二人、桃のパフェを食べています。
隣りにすわるナナコちゃん。
女子から見ても、かわいい。わたしの憧れの幼なじみのお姉ちゃん。
薫お兄ちゃんのお嫁さんになって、わたしの本物のお姉ちゃんにならないかな~なんて思ってたこともあるよ。
ふしぎなあやかし側の世界の方の神社の境内。
風森の稲荷神社に来ると、社の後ろでナナコちゃんの持つふしぎな水晶玉が光って、わたしたちは人間世界じゃないかくりよにやってくる。
見た目は同じ風森の稲荷神社。でも、ふしぎふしぎ、雰囲気も違うし、こっちの神社を訪れるのはほとんどは人間じゃないんだよ。
あやかしって言われる存在、詳しくは妖怪とか幽体とかお化けとか……、生きている者も死んでしまっている者もいるらしいの。
神社の社の横に建つ和カフェは、お店の前に和風の竹で出来たベンチがあった。そばに大きな日よけの鮮やかな色の花の描かれた番傘が立ち、ベンチの上には赤い布がかかって丸い座布団が置いてある。
わたしとナナコちゃんは、そのベンチに並んで座っている。
ナナコちゃんは女子のわたしから見てもすっごく可愛い。
おしとやかで、明るくって。
それに、だれにでも優しい。お姉ちゃんみたいで、時にはママみたいでふわっといい匂いがして、ナナコちゃんのやわらかい笑顔に包まれる。
「ねえ、葵ちゃん。あのね、緋勇くんのことなんだけど……」
「えっ?」
今来ている稲荷神社の和カフェは人間向けの世界の方ではなく、あやかし世界の方だから、わたしは初めて来たけれど、働いているのは銀翔さんのお屋敷にいた妖怪さんたちだった。
小さい体の小鬼ちゃんや狛犬くんに狛兎さん、妖怪ぎつねの男の子や妖怪河童の女の子が店内を忙しく動き回っている。
そんな妖怪たち、どこかきゅーうんとする可愛さだ。
一生懸命で、にこにこしてて。
普通の人間《ひと》は来れない、あやかし和カフェ。
お客さまもさっきから見てると、妖怪とかわたしの見知らぬあやかしがたくさん来てる。
なかには大きなやかんとか鍋に顔がついているあやかしがいて、さっきナナコちゃんにそっと聞いたら、正体は付喪神っていう存在なんだって教えてもらった。
「ずばり言っちゃうとね。あのね、葵ちゃんは緋勇くんのことが好きなんでしょう? 雪菜から聞いたんだけどね。……葵ちゃん、もしかして私のことを気にしてる?」
――あっ。
ど、どうしよう。
そんなナナコちゃんに嫉妬してるとか、ナナコちゃん本人に指摘されるとは思っていなくってたじたじになる。
ぱくって桃を食べて、ナナコちゃんは微笑んだ。
「美味し~い」
「……ナナコちゃん」
ナナコちゃんはにっこり笑いながら、わたしの言葉を待っていてくれる。
「ごめんね、ナナコちゃん。あの……もしかして不快な思いした? わたし、わたし。……緋勇くんのことが好きで。……本心はナナコちゃんに嫉妬してる。どうしよう、自分でもこんな気持ちを持っているのがイヤなの」
ナナコちゃんは「ううん」って言って頭を振った。
にっこりと笑うナナコちゃんが女神か天使みたいで、まぶしかった。
「緋勇くんは私にとって弟みたいなものかなあ。わたしと緋勇くんは、きっとちょっと特殊な関係だから。わたしはね、葵ちゃんも知ってのとおり神獣巫女ってもので、緋勇くんは他の神獣の子たちと一緒で家族みたいに思ってる。つながりとか絆とか、友達とも違う結びつきがあるから」
「ナナコちゃん……。心のまんまに言っても良い?」
「ふふっ。もちろん良いよ、どうぞ。こういうのって言わないで自分のなかにしまってしまうと、どんどん心のなかにためていくと積もり積もって苦しいもの。葵ちゃん、いつもみたいに私にはたくさんぶつけてくれて良いんだよ。私ね、葵ちゃんのことも妹みたいに思ってるよ? 薫と葵ちゃんとわたしと、小さい頃からよく遊んでる仲でしょ」
「わたし、わたし! ……ナナコちゃんがうらやましい。ナナコちゃんは緋勇くんの特別なの?」
ナナコちゃんの瞳がびっくりしていた。
それから、目を細めて、微笑んだ。
ゆっくりと抱きしめられたら、ナナコちゃんに抱きしめてもらったら。
なんだか、わたし、……ホッとしちゃった。
わたしはどうしてか泣いていた。
「えらいね~、葵ちゃんは。胸の中の本心を見つけ出して認めるって、勇気のいることだと思う」
「ふえっん……ひっく、ひっく。……怒らない? ナナコちゃん。わたし、わたし。……ふえぇんっ。勝手に嫉妬するだなんて」
わたしは止まらない泣き声に紛れて、話をするのがやっとだった。
「怒るわけないよ。私はうれしいもの。葵ちゃんが本音を私に打ち明けてくれたこと。それにね」
「……うん」
「そうだなあ、特別かあ。ごめんね、違うって言えないかも。それはね、神獣巫女である私と緋勇を含めた神獣のみんなが家族みたいな強いきずながあるから。宿命って言ったら良いのかな? 私ね、前世から銀翔とともに風森を守る神獣巫女なの。天から役目を授かって、銀翔やオロチや仲間たちと戦ってきた。これからも戦うと思う。……私は緋勇くんや龍太くんやスズネちゃん、薫を戦友として信頼してる」
「戦友……」
「特別って、たぶん、そういう意味では特別だけど。葵ちゃんの思ってる特別とは違うか。葵ちゃんの言ってるのは『大好きでしかたがない女の子、気になる女の子、守りたくなる女の子』ってことかな?」
「うん、……そうだと思う」
「じゃあ、私はね、緋勇くんの特別ではないと思う」
「ええっ!?」
「本人にきちんと聞いてみたら? 誰か好きな子はいますか? って。だってね、葵ちゃん。緋勇くんは前に私のことはお母さんみたいに思ってくれてるって言ってたよ」
「そ、そうなんだ」
あったかいナナコちゃんの胸のなかで、小さいころに戻ったみたいになる。
素直になる。
優しい人のあたたかいやわらかい肌のぬくもり、ぎゅっと抱きしめられた効果は、心のトゲトゲも無くなってしまうからすごいなあ。
ナナコちゃんは、ママみたいだ。
わたしのママもとっても優しい。
うん、わたしの周りにいる女の人はみんな、優しくて素敵で、あったかい。
お兄ちゃんの恋人の雪菜ちゃんも、雪女だけど心はとってもあたたかいもの。
わたしが転んで泣いたり、いじめっこに意地悪されると、決まってナナコちゃんかお兄ちゃんが優しく抱きしめてなぐさめてくれてた。
……それから、鬼のごとく怒った二人はいじめっこと対決してやっつけてくれちゃったりするんだけど。
今でもそこのところは、変わらない。
そういや、ナナコちゃんって、おしとやかな一面もあるけど、けっこう勇ましくってお転婆でもあるんだよね。
ナナコちゃんがよしよししてくれて、幼い子どもに戻ったみたいにわたしはぬくもりに安心していた。
「緋勇くんのこと、よろしくね。葵ちゃんがきっとあの子の心のなかの氷を溶かしていくんじゃないかって思うの」
「えっ? わたしが? ナナコちゃんとか、仲間の神獣のみんなとかお兄ちゃんじゃなくって?」
「うん。私も緋勇くんのことは大好きだよ。だけど、私の大好きは葵ちゃんの持ってる大好きとは違う。分かるよね?」
「……うん」
「それから!」
「えっ?」
「葵ちゃんのことも、私はだーい好き」
「ナナコちゃんっ!」
しばらく赤ちゃんみたいに泣いて、抱きしめてもらったわたし。
不安はすっかり無くなった。
「いくらでも聞いてあげるから。不安なこととか、いっぱいお話しようね。葵ちゃん、……私もね、大好きな人は……あやかしだから。たぶん、いろんなこと分かってあげられると思う」
「そうだよね。……ナナコちゃんのカレは神様のお使いなんだもんね」
「うふふっ……。そうだよ~、私の相手は荘厳な狐の妖怪だからね? 葵ちゃんの大好きな緋勇くんはかっこいい朱雀で神々しい鳥だもの。そんな相手に恋した私たちって、すっごく素敵じゃない?」
わたしとナナコちゃんは笑いあった。
明るく楽しい大きな声で笑うと、どんなマイナスな感情も吹き飛んでいっちゃうみたい。
心が軽くなる。
「あっ……」
いつの間にか、ナナコちゃんの横には神の妖怪狐の銀翔さん、それにお兄ちゃんと雪菜ちゃんが座っていた。
あやかし稲荷神社の上に広がる空は清々しいほどに青く澄んだ晴天だった。
みんなが応援してくれる。
わたしの緋勇くんへの恋心。
人間と神獣だからって。
たとえ、彼が今は誰も見ていなくとも。
もしかしたら、緋勇くん。……ナナコちゃんには照れ隠しでああ言ってて。今はナナコちゃんを特別に思っていたとしても。
わたし、あきらめなくっていいんだ。
これから、きちんと向き合っていこう。
自分の気持ちに――。
それから、緋勇くんの抱えている悲しみとか、隠しているつらい気持ちに。
わたしにだって、彼のさびしい気持ちにちょっとは寄りそえると思うの。
大事なんだ、彼のことが。
出会ったばかりなのに、緋勇くんのことでいっぱいになる。
さびしげに笑う彼の笑顔、わたしが思いっきりほんとうに笑わせてあげられたら、どんなに嬉しいだろう。
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