【コイカレ朱雀!】私の大好きな初恋の彼は朱雀の子。不思議なあやかし稲荷神社に住んでいる。

満景美月(みかげみづき)

文字の大きさ
上 下
9 / 15

第8話 緋勇くんのいたずらな笑顔

しおりを挟む
 緋勇くんのおうちの稲荷神社から帰ってきて、わたしはお兄ちゃんの部屋に呼ばれた。
 神妙な顔したお兄ちゃん。ゆっくりじっくり話をしようって。

 お兄ちゃんの恋人で雪女の雪菜ちゃんも、うちに寄ってくれて。
 3人でお話をしたの。

「葵さ、俺たちになにが聞きたい?」
「えっ、なにがって……。うーん、たくさん銀翔さんから話を聞いたから、そんなに聞きたいことないかなあ」
「葵ちゃん。ソレ、ほんと?」

 雪菜ちゃんの可愛いくりくりの大きな瞳で見つめられると、なんにもうそをつけなくなる。
 にこにこな雪菜ちゃんの笑顔、かくしごとできないなあって思うの。
 だって、雪菜ちゃんはもうわたしのお姉ちゃんみたいなものだから、ずっと心をゆるしてきたもん。

「えっと……。お兄ちゃんは雪菜ちゃんと結婚しても……。そのっ、ふ、二人の子供が産まれたらお兄ちゃん死んじゃうんでしょ!?」

 ちょっとしりめつれつになっちゃった。
 だけど、……通じたみたいで。
 雪菜ちゃんとお兄ちゃんにいっせいに抱きしめられてた。

「……それはだれにも分かんねえけど」
「あのね、私は薫と二人だけでずっといられるなら、なにもいらないんだ。将来、私は薫と結婚する気満々だけど、薫が死ぬかも知れないなら、子供は諦めてるんだよ。……ごめんね、葵ちゃんはまだ小学生なのに、私たちの未来のことまで心配してくれてるんだね」
「うん。……あ、あとね。……緋勇くんや龍太くんやスズネちゃんもそうなんだよね?」
「そうだろうなあ。ついでにナナコと銀翔とこだって、将来生まれる子供は半妖だからいろいろ面倒なことも多いだろう」

 そこで、ふふふっと雪菜ちゃんが笑った。

「葵ちゃん。緋勇のことね、好きなら好きでいいと思うよ」
「えっ! ええっ!? ……バレバレなんだ?」
「うん、バレバレ。そんな葵ちゃんが私ね、かわいいなあと思う」
「お、俺は兄として許さねえからな。小学生で色恋とか、彼氏とか彼女とかまだ早いっ!」
「よっく言うよ~。薫は小学生のときはナナコのことが好きだったでしょ?」
「そそ、そんなん忘れた! っていうか、もうナナコのことは破れた初恋で過去で。今は、雪菜が好きで付き合ってんだから関係ねえだろうが」
「ははっ、……ちゃっかりお兄ちゃんと雪菜ちゃんったら、いちゃいちゃしてるぅ。……ありがとう、二人とも励ましてくれて。わたし、部屋に戻るねー」

 お兄ちゃんはめちゃくちゃおこってて、ずっとカンカンだった。
 わたしに好きな子が出来たからって。
 もうっ、お兄ちゃんは妹のわたしを溺愛しすぎ。
 嬉しいけど、反面困るよ~。
 お兄ちゃんは周りのお友達とかによく「お前はシスコンだな」って言われちゃってるの。
 まったく、お兄ちゃんってば恥ずかしくないのかな?
 
 雪菜ちゃんをおうちに送っていく時も、二人はわたしのことで言い合ってるみたいだったけど。

 みんな、ありがとう。
 心配して、応援してくれるけど、根本的なところが抜けてるんだよなあ。

 わたしは緋勇くんが好き。
 でも――。
 きっと、緋勇くんはなんの取り柄もないわたしなんか好きになんかならないよ。

 だってだってね、わたし見ちゃったんだ。
 銀翔さんと話したあと、稲荷神社の池でほたるを見つけあってる緋勇くんたちを見た。
 緋勇くんとナナコちゃんと龍太くんとスズネちゃん。
 はしゃいで笑い声が響いてて、とっても仲が良さそうで……。

 緋勇くんは笑いながらずっとナナコちゃんを見つめていた。
 嬉しそうに。
 わたしはちくちくと痛む胸が苦しかった。

 ――緋勇くん、あんな素敵な笑顔をわたしにも向けてくれる日が来るのだろうか?

 緋勇くんってたぶん……、そうだ、きっと。
 ナナコちゃんのことが好きなんだと思う。

 そうなんだろうなって思ったら、胸がますます苦しかった。


        ✱✱✱


 朝、学校に来たら、大人気の風城3兄妹の周りにはたくさんのクラスメートが群がっていた。
 実際は緋勇くんたちは、銀翔さんも入れて義理の4兄妹ってことになるんだけど。
 学校では『風城3兄妹』ってあだなみたいなのが定着しちゃった。

 でも、窓際に座る緋勇くんは話しかけられても、ぼそぼそっと返事をひとことふたこと返すぐらい。

 龍太くんは対象的ににこにこ王子様キャラで対応して、スズネちゃんはぴょんぴょん跳ねながら楽しそうにみんなと話してる。

「おはよう」
「……うっす」

「おはよう、葵ちゃん」
「おはよー! 葵!」

 わたしは聞こえるかな~? って思いながらもみんなに挨拶すると、となりの席の緋勇くんがいちばんに「うっす」ってちいさく言ってくれたのが意外だった。ちゃんと聞こえたよ。
 龍太くんとスズネちゃんもこちらに来て。

 席に座っていた緋勇くんはひじを付きながら、ジロリとわたしを見上げる。

「おまえ、なんで待ってなかったんだよ」
「えっ?」
「薫には言ってあったんだ。聞いてただろ? みんなで学校に登校しようって。俺はおまえの護衛なんだぞ。しっかも、先に出ておいて俺らより遅く学校に着くってどういうことだ?」

 緋勇くんの顔が怒ってた。
 わたしはなんとなく、緋勇くんとナナコちゃんが一緒にいるとこを見たくなかった。
 だから、そっと先に学校に行ったんだけど。

「うーん。どうしてか、学校に行くのに道に迷っっちゃって。いつもと同じ道なのに、あははっ、ドジでしょう? ……ごめんね、緋勇くん。わたしのこと心配してくれてたんだ?」
「はあっ!? し、心配なんかしてねえし!」
「……緋勇は素直じゃないねえ。あのね、葵。葵のことすっごく心配してたんだよ」
「えっ?」
「みんな! わたしも緋勇も龍太も、あとみんなみんな」

 スズネちゃんは涙でうるうるとした目で、わたしをまっすぐ見つめてる。

「まあまあ。葵ちゃんだって一緒に登校したい子がいたりするんでしょう?」
「そういうことは我慢するなり……、まあそういうやつがいるならそいつも一緒に行けばいい。……はっきり言っておく。おまえ、間違いなく狙われてんだからな」

 どきっとした。
 緋勇くんの瞳が燃えるように朱く染まっている。
 怒ってるんだ。
 わたしは叱られて、泣きそうになった。

「ごめんなさい」
「葵。今朝、通学路で、お前に取り憑りつこうと待ち構えていたもののけがいたんだぞ。気をつけろよな? 一人になるな。……俺が祓って退治しておいたが、いつでも狙われてるって警戒しろ」
「も、もののけ?」
「妖怪とも違う、まがまがしい存在だ。俺はお前を見守っていたし、薫も銀翔も式神を飛ばしてお前になにかあった時は報《しら》せを受けることになってる」
「緋勇くんがわたしをっ? だって緋勇くんの方が先に教室に来てたじゃない!」
 
 ついつい声が大きくなってしまって、龍太くんがしーっと口の前に人差し指を立ててウインクしてる。

「ご、ごめん……」
「ばあか。葵、お前、俺が朱雀って鳥だって忘れたのか? 校門に入ってからすぐ空を飛んで先回りしたんだよ。窓からさっと教室に入ったんだぜ」

 緋勇くんはイジワルな顔で笑った。
 からかってる!
 小声でさらにわたし達は会話をつづける。

「だめじゃない。緋勇くんの神獣の姿を誰かに見られちゃったら大変なことになるんだよ?」
「大騒ぎになるだろうって? 変身の時は体の周りに結界張ってるし。それに俺の朱雀の姿はふつうのやつには見えないから。あれ? 言わなかったっけ?」

 い、いじわる~!
 緋勇くんって、わたしをからかって楽しそうに笑ってる。
 にかあっと不敵に笑う。
 実はけっこういたずらが好きな男の子なのかな?

「ぷはははっ。葵、そんな怒んなって。かわいいけど変な顔」
「怒ってないもん」

 あっ、あれ?
 緋勇くん、わたしのこと……、かわいいって言った?
 聞き間違いかな……。

「あーっ! 葵と緋勇、ちょっと仲良しになったあっ!」
「「なってないっ」」
「葵、顔が赤いよ。くすくす……照れてるぅ」
「スズネちゃん、わたし照れてないって!」
「ふふっ。この調子なら、二人は心配いらなそうだね」
「なにが心配いらねえだよ。龍太は達観しやがって」
「うん。達観もしますよ。ボクは年長者ですからね」

 緋勇くんとわたしと、スズネちゃんと龍太くん。
 こうやって四人で話しているとすっごく楽しい。

 わたしはのしかかる運命とか、怖いもののけとかの存在をちょっとの時間忘れてた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...