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第1話 出会い
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わたしのはじめて恋した相手が、困り顔で言った。
「泣くな、葵。なあ? 泣くなよ。オレ、お前が泣いてるとさ、どうしたらいいのか分からなくなるだろ」
彼の綺麗な瞳がわたしを見つめている。
茶色に少し赤い色素を含んで。
……きれい。
美しい宝石みたいに輝いているんだね。
彼との出会いは光っていた。
まちがいなく、わたしは彼に心を奪われてしまったんだ。
◇◆◇
ねえ、知ってる?
この世の中にはね、ふしぎなあやかしがいるんだ。
風森町に住んでいるのは、わたし達が普段見えている存在だけじゃないんだよ?
わたしの出会った、ちょっと無愛想な転校生は半分そちら側の血を受け継いでるんだ。
ぱっと見は、普通の男の子。
でも、わたしには、いつもピンチを助けてくれるすごいヒーローなんだよ。
◇◆◇
真夏が近づいています。
町にはセミの鳴き声がし始めているよ。
ここは風森町。
わたしの住む町は、海も山も川も森もある自然たっぷりな場所だよ。
朝、小学校に登校すると、わたしは元気いっぱい教室まで階段を昇っていた。
友達や、クラスメートたちの笑い声や先生の声が響いています。
今日の一時間目は体育だったよね。
教室に行ったら、体育着に着替えなくっちゃ。
いつもの風景。
いつもの学校。
なんてことない日常の、一コマ。
でも……。
――あ、れ?
どこからか、声がする。
知ってる子の声じゃない、小さい子の声だ。
「【あそぼー!】」
「【こっちへおいでー】」
どこからともなく聞いたことのない歌と無数の声が聞こえて、まわりを見わたしてみると、なぜかわたし以外にだれもいなくなっていた。
けらけらと笑う声と、女の子の歌声がずっとしてる。
「だれなの? わたしを元いた場所に帰して」
「【いやだ】」
「【いや! いやだ。だめだよ、カエサナイヨっ!】」
とつぜん、あたりが暗くなる。
目の前は真っ暗で、なんにも見えない。
どうしよう、どうしよう。
「怖いっ! 怖いよ」
助けて。だれか助けて。
「た、助けて!」
わたしは真っ暗闇のなかで、手や足を動かしてみるけど、空中に浮いているみたいに、なにも先に当たらない。
階段も壁も床も、ない。
空中に浮かんだブランコの下に伸びた足が、どこにも着地しない感覚だ。
「【いっしょにイコウヨ!】」
黒い布みたいのがわたしにおおいかぶさってくる。
不快感と、息苦しさを感じて、わたしは恐怖におそわれ、パニックになった。
「きゃーっ!」
じぶんであげた叫び声が耳にキンキンとひびいた。
「おまえら、いい加減にしろ!」
そのとき、声がした。
知らない男の子の声だ。
ギャーッと声が次々上がって、黒い布みたいなのがわたしの上からなくなった。
重たい力でおさえこまれていたのが、急に軽くなった。
(はあーっ、良かった。助かった)
「人間を怖がらせて遊ぶんじゃねえよ。悪ふざけもたいがいにしろよな」
真っ暗だった目の前に明るい朱い光が灯った。
「おまえ、だいじょうぶか?」
その子にわたしはお姫様抱っこされていることに気づいて、恥ずかしくなった。
「妖怪にねらわれるだなんて。おまえもついてねえなあ」
この子が、……助けてくれたんだ。
わたしは恥ずかしさも忘れて、見とれていたの。
だって、かれの背中には燃えるきれいな羽根が生えていたから。
天使?
この子って、本物? まぼろしなの?
わたし、もしかして夢を見ているのかな?
「おいっ、しっかりしろ! だいじょうぶか?」
怖かったショックでわたしは気を失っちゃった。
「おいっ!」
彼とのこの出会いはわたしのなんてことないふつうの世界を変えいく。
あやかしの不思議への体験の入り口にすぎなかったんだ。
それから、わたしの初めての恋。
この夏、わたしと神獣朱雀の子の大冒険がはじまる。
「泣くな、葵。なあ? 泣くなよ。オレ、お前が泣いてるとさ、どうしたらいいのか分からなくなるだろ」
彼の綺麗な瞳がわたしを見つめている。
茶色に少し赤い色素を含んで。
……きれい。
美しい宝石みたいに輝いているんだね。
彼との出会いは光っていた。
まちがいなく、わたしは彼に心を奪われてしまったんだ。
◇◆◇
ねえ、知ってる?
この世の中にはね、ふしぎなあやかしがいるんだ。
風森町に住んでいるのは、わたし達が普段見えている存在だけじゃないんだよ?
わたしの出会った、ちょっと無愛想な転校生は半分そちら側の血を受け継いでるんだ。
ぱっと見は、普通の男の子。
でも、わたしには、いつもピンチを助けてくれるすごいヒーローなんだよ。
◇◆◇
真夏が近づいています。
町にはセミの鳴き声がし始めているよ。
ここは風森町。
わたしの住む町は、海も山も川も森もある自然たっぷりな場所だよ。
朝、小学校に登校すると、わたしは元気いっぱい教室まで階段を昇っていた。
友達や、クラスメートたちの笑い声や先生の声が響いています。
今日の一時間目は体育だったよね。
教室に行ったら、体育着に着替えなくっちゃ。
いつもの風景。
いつもの学校。
なんてことない日常の、一コマ。
でも……。
――あ、れ?
どこからか、声がする。
知ってる子の声じゃない、小さい子の声だ。
「【あそぼー!】」
「【こっちへおいでー】」
どこからともなく聞いたことのない歌と無数の声が聞こえて、まわりを見わたしてみると、なぜかわたし以外にだれもいなくなっていた。
けらけらと笑う声と、女の子の歌声がずっとしてる。
「だれなの? わたしを元いた場所に帰して」
「【いやだ】」
「【いや! いやだ。だめだよ、カエサナイヨっ!】」
とつぜん、あたりが暗くなる。
目の前は真っ暗で、なんにも見えない。
どうしよう、どうしよう。
「怖いっ! 怖いよ」
助けて。だれか助けて。
「た、助けて!」
わたしは真っ暗闇のなかで、手や足を動かしてみるけど、空中に浮いているみたいに、なにも先に当たらない。
階段も壁も床も、ない。
空中に浮かんだブランコの下に伸びた足が、どこにも着地しない感覚だ。
「【いっしょにイコウヨ!】」
黒い布みたいのがわたしにおおいかぶさってくる。
不快感と、息苦しさを感じて、わたしは恐怖におそわれ、パニックになった。
「きゃーっ!」
じぶんであげた叫び声が耳にキンキンとひびいた。
「おまえら、いい加減にしろ!」
そのとき、声がした。
知らない男の子の声だ。
ギャーッと声が次々上がって、黒い布みたいなのがわたしの上からなくなった。
重たい力でおさえこまれていたのが、急に軽くなった。
(はあーっ、良かった。助かった)
「人間を怖がらせて遊ぶんじゃねえよ。悪ふざけもたいがいにしろよな」
真っ暗だった目の前に明るい朱い光が灯った。
「おまえ、だいじょうぶか?」
その子にわたしはお姫様抱っこされていることに気づいて、恥ずかしくなった。
「妖怪にねらわれるだなんて。おまえもついてねえなあ」
この子が、……助けてくれたんだ。
わたしは恥ずかしさも忘れて、見とれていたの。
だって、かれの背中には燃えるきれいな羽根が生えていたから。
天使?
この子って、本物? まぼろしなの?
わたし、もしかして夢を見ているのかな?
「おいっ、しっかりしろ! だいじょうぶか?」
怖かったショックでわたしは気を失っちゃった。
「おいっ!」
彼とのこの出会いはわたしのなんてことないふつうの世界を変えいく。
あやかしの不思議への体験の入り口にすぎなかったんだ。
それから、わたしの初めての恋。
この夏、わたしと神獣朱雀の子の大冒険がはじまる。
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