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第一話 忍者の姉弟

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 忍者の里に濃と光秀という美しい双子の姉弟《きょうだい》がいた。

 この忍者の里は、ずっと長い年月の間、織田家を守ってきていた。
 主君に忠実に仕える忍びの者達は、親から子へと忍法や心得、掟を伝承していく。

 濃と光秀ははっとするほどの魅力的な容姿でうり二つ。誰もを惹きつけてやまない宝石のような双眸を持ち合わせている。
 二人の違いが分かる者は、ごく僅《わず》かだった。
 姉の濃と弟の光秀は忍者の訓練に余念がない。
 どんな時も命をかけて君主を守ることが、この忍者の里の掟《おきて》なのだから。

「おいっ! 来てやったぞ」
 そこに溌剌《はつらつ》とし、火によく焼けた健康的な少年が、体躯《たいく》のしっかりとした黒馬《こくば》を走らせて、いつものようにやって来ていた。

 ――派手なお人だわ。
 濃は少年を見ていつも思う。
 豪快に笑う少年を、いつしか見つめ愛しく、心にそっと思いながら。

「姉上」
 弟の光秀は気づいていた。
 姉の濃があの少年に、恋心を抱いていることを。
 そしてその恋はきっと叶わぬこと、なのではないだろうかと。
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