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夢と足跡

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 そこは中世にも、はたまた近世にも似た世界。魔法と工業を合わせた「魔工」という新しい技術が世を賑わせ、近代化の波が近づき新しい一歩を踏み出した時代。


「今あるこの世界が、技術が、人がもしも一瞬のうちに滅びてしまったら」
夕暮れがさしかかり、町の土塁や居住区の建物の壁に光が当たり、橙色に眩しく照らされる中、こぢんまりとした広場の椅子に座り一人の男はこんな考え事をしていた。私がこの国に来てから幾年かの月日が経ち、元々住んでいた場所の記憶も元はキャンバスに色濃く描かれ残っていたのに、すっかりこの風土の人々と親しみ、様々に湧き出て眼下に現れる新鮮な感覚たちに触れたことによって色褪せてしまった。

「ハインさん!こっちへどうぞ」

  随分と優しそうな顔の初老の叔父様が私へ向け声をかけた。私は回想する中若干と重くなった腰を上げ、呼び主の元へ歩いた。呼び主は軽い世間話をし始めては私に

「あれってどうなんですか」「これってそうなのですかね」と

色々疑問形で投げかけてくる。私はそこまで深く考えずに相槌をうったりして適当に返していく。しかし話続けていても相手からの好感も下がり顔色を悪くする。無論
たまには自分の中の書庫を元手に聞かれたモノへの答え(考え)と聞き主へ少しの
トリビアを張り付ける。
そうこうして、世間話を進めている内に、大きな城門の前にたどり着いた。
そう、今日はここの人々にとって歴史的なページの一つになるだろう重大な日。
ようやく完成した「首都魔工学舎(仮称)」の落成式兼一般お披露目の当日。

 光栄なことに私はその催事に呼ばれていたのだが、熟考と回想に傾倒していた余りに時間を忘れそれを見かねた叔父様が呼びに来て今に至るというわけだ。
門を通り抜けて少し大きめの小屋に入ると、少し時間には間に合わなかったのか中では町の賓客の皆様の祝辞が述べられていた。椅子に「ハイン」と少し雑目に書かれた紙が置いてある席に座った。腰を下ろし一息つけるかと思ったら

「最後はハイン殿からお言葉を頂戴したく思います」と司式が言った。

私は焦り気味に手に持っていた手帳の自由欄に「この国の後の者たちへ、技を無下にせず勉学に励んで正しく扱うことを常に心に持て。」と記して私は壇上へ向かった。

 後の時代、そんなことが書かれた手帳の一文を熱心に指でなぞっている少年がいた。この少年はいずれ「リヴィ」という男の父親となる者、だが今の彼にそれは知る由もない。時間が少し経つにつれ、なんだか周りの情景が定まらずフワフワぼんやり気味。そんな夢想を通じ若かりし頃にふけっている。

するとどこからか少し凛々しくも高い可愛い声で
「お父様ぁ」と聞こえてきた。

それと時を同じくして、木の床上をスタスタと軽い足取りで走ってくる音が聞こえたかと思った次の瞬間「ダァァン!」とすごい音をたて扉があいて自分の元にきた。

「走ってはいかんよ」とすこし注意をした後に
「ほら、いつもの挨拶」と言うと
「リオルヴィレヴィントンと申します」と

ゆっくりとしかしハキハキとしたペースで丁寧に見せた。

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