もう一度君と…

海津渚

文字の大きさ
上 下
37 / 41
1-6 遠崎佳奈

放課後の一室で

しおりを挟む
「佳奈、今日放課後開いてる?」
 金曜日、朝陽が私に聞いてきた。
「部活だよー」
「そうなんだけど、それ以外何かある?」
「ないよ。」
「文化祭の衣装試着しない?」
 朝陽っていつも急だな…。
「いいよ。」
「じゃあ今日いつもの会議室に授業終わったら行って!もう教室の予約はしてて、俺は衣装取りに行くから。」
「おけ。」
 伝統の衣装とはどんなものなんだろうか。気になる。

 放課後、朝陽に言われた通りの場所へ向かう。第2会議室に入るが誰もいない。
 薄暗く、不気味な空気が漂う。
 ふと机の上を見ると、
 [資料室の中で過去の衣装の写真あるかもしれないから探してほしい。]
と殴り書きされたものが書いてあった。
 資料室って確か会議室の隣にあったはず。私は廊下を出てその横にあった部屋を見る。
 資料室って入ったことないな。入ってもいいのだろうか。鍵は…かかってない。私は重い扉を開けて、中に入った。


「…か、佳奈…。」
「井原…!?」
 なぜ彼が。
「えっと、俺拓斗に頼まれて…、あの俺と一緒に実行委員やっている人なんだけど。衣装着て文化祭でモテたいから過去にどんな感じでみんな衣装着てたか調べてほしいって…言われまして…。」
「そ、そうなんだ。」
 同じ空間に2人きり。この前少しは話したけれど、まともな会話なんて久しぶりすぎて、心臓がバクバクでおかしくなりそうだった。
「……先輩は?」
「私も朝陽に衣装のこと調べて欲しいって言われて…。」

 ガチャガチャガチャ
 後ろの扉の鍵が閉まる音がした。
「え、待って。」
 ドアノブを回しても開かない、しかも内側から鍵を開けるところはなく…。
「閉じ込められたかも……。」
 なんで、そんなことが!!
「まじすか…。」
「とりあえず、朝陽に連絡するね。」
 私はスマホをつけると朝陽からメッセージが届いていることに気が付いた。
「1時間後に開けるからそれまでにちゃんと井原と話したいこと話してね~過去の写真は探して欲しい。井原には『鍵を持っている人が1時間後に戻ってくる』って伝えたらわかってくれると思うから。じゃあよろしく!!」
 まじかよ…。
 確か前…
『1回2人で話すべきだと思う。まかせて、俺がなんとかするから。』
って言ってたけれど…。閉じ込めなんて聞いてないよ!!

「鍵を持っている人が1時間後に戻ってくるらしい…。それまでは写真を探してほしいって言われた。」
「同じくです。」
 話す心の準備なんてできてないのに…!
「とりあえず写真を見つけるか。」
「はい。」

 写真はすぐに見つかった。[文化祭過去写真]と書かれた太いアルバムがおいてあったのだ。
 2人でアルバムをめくる。
 衣装の面を開いた瞬間、私たちは思わず笑ってしまった。
 そこに書かれた衣装は頭の大きいかえるの着ぐるみだったのだ。
 [天沢国際文化祭名物~アマガエルツインズ~]

「拓斗がこれを着てモテようと…ふふっ。」
 あの時と変わらない井原に、言わなきゃ、ちゃんと…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

婚約者

詩織
恋愛
婚約して1ヶ月、彼は行方不明になった。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...