もう一度君と…

海津渚

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1-6 遠崎佳奈

絶対合わないと思ってた話。

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 話せた。普通に彼と…。
 第3回実行委員会の後、私は井原と普通の会話ができた。
 その達成感でいっぱいで、ずっと頭がぼーっとしていた。

「ねえ、佳奈、ちゃんと読んでる??」
「あ、うん!読んでるよー」
 前から思っていたけれど莉音ちゃんは少し強引だ。特に好きなことに対しては…。

 彼女が書いた小説をなるべく集中して読む。
 内容は失恋少女がイケメン男子に救われる話だ。このような話は楓も書いていたような気がする。楓に読んでもらった方が盛り上がるんじゃないかなと思う。
「どうだった??」
「良いと思うよ!!初めて書いたにしてはすごく上出来だと思う。」
「佳奈にそう言ってもらえてうれしい。」
 少女漫画のヒロインのような笑顔。私が男子だったら惚れているに違いない。

「この話のヒーロー、井原くんをモデルに書いたんだ~」
 誰にでも優しくてスポーツ全般できて、海外経験豊富でものすごくモテる、そんなヒーロー。
 これが彼女の想像上の井原なんだなーと思う。本当の彼は全然こんな感じじゃない。まあ、モテるということは認めるけれど…。
 
 中学の頃は私にいじわるばっかりしてきたし、陸上はやってたけどスポーツするよりはゲーマーだし、海外は1回しか行ったことないし。関わってない間に行ってたかもしれないけれど…。

「佳奈ってさ、井原くんと知り合いなんでしょ。この前誰かから聞いたんだけど~」
 朝陽と第2回実行委員会で1年の人にしか言ってないのに彼女が知っていることに背筋がぞっとする。
「うん、そうだよ。」
「どういうきっかけで会ったの?」
「えーっと、それは…。」


 中2の夏のこと。
 当時の私はとにかく学校が嫌いだった。
 帰国子女だった私は小学校からあまり学年になじめなかった。どこか別世界の人という扱いを受けていたのを覚えている。そのまま中学校に上がり、状況はそこまで変わらなかった。やっとのことで中1の時に友達が何人かできたが、その人たちと中2ではクラスが離れてしまって疎遠になってしまった。
 でも、唯一学校で楽しいと思えたこと、それは学校の放送委員会だった。
 当番制で昼の時間に給食の放送を行う。その日は放送室で給食を食べることができる。そう、教室にいなくてもいいのだ。それを目的に入ったが、それ以上に放送することの楽しさを感じた。全校生に自分の声が届いているという感覚がおもしろかった。当時の放送委員長もおもしろかったし。
 
 ある当番の日、知らない1年の男子がやってきた。明日だが当番を今日だと間違えてしまったらしい。
『給食持ってきたし、教室戻るのめんどくさいのでここで食べてもいいっすか。』
『あーいいよー』
 呑気な声で委員長が言う。
 全然良くないんだけど!!ただでさえ放送室狭いのに。それに知らない人と食べるって気まずいんだけど!
 無言のまま時間だけが流れる。
『1曲目は人気アイドル○○による△△です。2曲目は~』
  今日はアイドルメドレーか…あまりおもしろくないな。もっと洋楽とかがいいのに。

『アイドルってただ顔面がいいだけで音楽あんまりです。洋楽とか流してくださいよー』
 その1年の男子が不満そうに言う。
『それはアイドルファンに失礼だぞ。アイドル曲だって良いものいっぱいあるのに。』
『アイドルとか絶対裏しかないじゃん~』
『こらーだからそういうこと言わないのー』
 
 2人のやり取りを聞いて、こんなやつが1年にいるのかとあきれた。文句しか言わないじゃん。
 こんな人とは絶対合わないな…。生意気な年下なんて無理無理。

 ただ、洋楽においてはほんとに同意だったので、名前だけ知っておこうと思って当番表を見てみる。確か明日放送のはずだったから…。

 そこには[1年1組井原悠太]と書かれてあった。

 
 その後、体育祭予行練習の日に色々あって彼と再会した。そして、絶対合わないと思ってたのに、すれ違ったら話す程度にまで仲良くなり、気づけば…。ということなのである。

 ってそんなこと莉音ちゃんに言えるはずないじゃん!!
「委員会が同じだっただけだよー」
「ふーん。」
 そう誤魔化す私に気づいたのか、彼女は不審そうに私のことを見た。
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