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テレンスから慰謝料として贈られた宝石はとても美しく、価値のある物だった。
売っても膨大な金額になるだろうし、装飾品に加工しても、美しいものができるだろう。
それをどう使うのかは、すべて父に任せることにした。
アデラは父の指示通りに、しばらくは夜会にも出ず、静かに過ごしている。
今は、噂好きの友人たちを相手にするのも煩わしい。
ときどき手紙が届くが、その好奇心丸出しの文面には、思わず笑ってしまう。
(でも、彼女たちが噂を広めてくれたお陰でもあるのよね)
それを期待して話したとはいえ、効果は思っていた以上だった。それに、いつまでもレナードのことを引き摺っていると思われるのも困る。
アデラは父に許可を取り、ひさしぶりに友人を招いて、お茶会をすることにした。
招待状を送ると、驚くほどの速さで出席の返事が来て、戸惑ったくらいだ。
もちろん噂にも興味があるようだが、アデラのことを心配していてくれたらしい。
彼女たちからアデラは、レナードとシンディーのその後と、テレンスの過去を聞くことになる。
友人を招いて開いたお茶会の日は、とても晴れていた。
自分の部屋に招こうと思っていたアデラは、晴れ渡った空を見て、庭でお茶会をしようと思い立つ。
ちょうど薔薇が咲いていて、とても綺麗だった。
侍女も急な変更にも関わらず、ひさしぶりの来客に張り切って準備してくれた。
やがて最初の馬車が到着したかと思うと、友人たちが次々と訪ねてきた。
「思っていたよりも元気そうで、よかったわ」
招いた全員にそう言われて、さすがにアデラも困ったように笑うしかない。
「私は大丈夫よ。最初から、あのふたりには協力していたのだから」
知っているでしょう? と言って笑ってみせる。
レナードとシンディーが恋人同士だということは知っていたと説明していたし、むしろふたりのために動いていたと思わせていた。
だがアデラがそう言うと、彼女たちは複雑そうに顔を見合わせている。
「どうしたの?」
不思議に思ったが、いつまでも立ち話をしているわけにはいかない。
とりあえず庭に案内して、予定通りお茶会をすることにした。
咲き乱れる美しい薔薇に、町で評判のお菓子。
ティガ帝国から取り寄せた香りの良い紅茶に、しばらくは近状報告などの雑談をして過ごした。
アデラは自分が参加しなかった夜会の様子や、社交界での噂などを聞く。
やはり噂は、オラディ伯爵家のことが多かったようだ。
とくに伯爵家の元当主が騙されて、罪人を伯爵夫人にしてまったことは、大きな話題となっていたらしい。
「その話は、私もお父様に聞いて初めて知ったの。もうレナードとの婚約を解消したあとだったから……」
もちろん最初からすべて知っていたが、そう言って困惑してみせる。
「でも、それでもレナードは、シンディーさんとの愛を貫いたのね。彼女と一緒に家を出たと聞いて、安心したわ」
そう言うと、友人たちは顔を見合わせて、気遣うようにアデラに尋ねる。
「あのふたりがあれからどうなったのか。全然知らなかったの?」
「……ええ」
あのふたりの結婚は、支援を条件にテレンスの命じたこと。
レナードもシンディーもそれほど本気ではなく、ただ恋愛ごっこを楽しんでいたことは知っている。
だが、それからどうなったのかは、まったく知らなかった。
「ふたりは町で、仲良く暮らしていると思うわ」
だって、真実の愛で結ばれているふたりですもの。
そう言って笑うと、友人のひとりは複雑そうに言う。
「それが……」
「何かあったの?」
友人は同情するような顔で、それでも饒舌に語ってくれた。
「レナード様は彼女を連れて、町で暮らし始めたそうよ。でも今までと同じような暮らしをしていたら、すぐに資金がなくなってしまったらしいの」
大きな家に、侍女も何人か雇おうとしたらしい。
伯爵家の子息だったレナードからしてみれば、それでも充分に小さい家だったし、使用人も最低限だった。
だがテレンスからの援助は、餓えない程度のものでしかなかった。
屋敷を購入するだけで一年間の援助金をすべて使い果たしてしまい、彼は伯爵家に戻ってさらに援助を頼んだ。
もちろん、それに応じてくれるようなテレンスではない。
会うこともできずに執事に追い出されて、今度は父親に手紙を出したらしい。
だが父親からの返信はなかった。
体調不良で休養しているという噂だったが、おそらくテレンスによって、これ以上騒ぎを起こさないように幽閉されているのだろう。
レナードの手紙は、父親には届かなったに違いない。
たちまち追い詰められたレナードは、結局家を手放して、シンディーとともに町のはずれの古びた小さな家で暮らすことになった。
もともと町で暮らしていたシンディーはまだ平気だったようだが、貴族の子息であるレナードが、そんな暮らしに耐えられるはずがない。
レナードは、こうなったのはシンディーのせいだと罵った。
そしてシンディーは、働きもせずに文句ばかり言うレナードを恨んだ。
ふたりの仲は次第に険悪になり、近所迷惑になるくらいの喧嘩が毎日続いた。
その結果、伯爵家の次男だったレナードと違い、平民の生活に慣れていたシンディーは、さっさとレナードを捨てて、他の男と暮らし始めたらしい。
売っても膨大な金額になるだろうし、装飾品に加工しても、美しいものができるだろう。
それをどう使うのかは、すべて父に任せることにした。
アデラは父の指示通りに、しばらくは夜会にも出ず、静かに過ごしている。
今は、噂好きの友人たちを相手にするのも煩わしい。
ときどき手紙が届くが、その好奇心丸出しの文面には、思わず笑ってしまう。
(でも、彼女たちが噂を広めてくれたお陰でもあるのよね)
それを期待して話したとはいえ、効果は思っていた以上だった。それに、いつまでもレナードのことを引き摺っていると思われるのも困る。
アデラは父に許可を取り、ひさしぶりに友人を招いて、お茶会をすることにした。
招待状を送ると、驚くほどの速さで出席の返事が来て、戸惑ったくらいだ。
もちろん噂にも興味があるようだが、アデラのことを心配していてくれたらしい。
彼女たちからアデラは、レナードとシンディーのその後と、テレンスの過去を聞くことになる。
友人を招いて開いたお茶会の日は、とても晴れていた。
自分の部屋に招こうと思っていたアデラは、晴れ渡った空を見て、庭でお茶会をしようと思い立つ。
ちょうど薔薇が咲いていて、とても綺麗だった。
侍女も急な変更にも関わらず、ひさしぶりの来客に張り切って準備してくれた。
やがて最初の馬車が到着したかと思うと、友人たちが次々と訪ねてきた。
「思っていたよりも元気そうで、よかったわ」
招いた全員にそう言われて、さすがにアデラも困ったように笑うしかない。
「私は大丈夫よ。最初から、あのふたりには協力していたのだから」
知っているでしょう? と言って笑ってみせる。
レナードとシンディーが恋人同士だということは知っていたと説明していたし、むしろふたりのために動いていたと思わせていた。
だがアデラがそう言うと、彼女たちは複雑そうに顔を見合わせている。
「どうしたの?」
不思議に思ったが、いつまでも立ち話をしているわけにはいかない。
とりあえず庭に案内して、予定通りお茶会をすることにした。
咲き乱れる美しい薔薇に、町で評判のお菓子。
ティガ帝国から取り寄せた香りの良い紅茶に、しばらくは近状報告などの雑談をして過ごした。
アデラは自分が参加しなかった夜会の様子や、社交界での噂などを聞く。
やはり噂は、オラディ伯爵家のことが多かったようだ。
とくに伯爵家の元当主が騙されて、罪人を伯爵夫人にしてまったことは、大きな話題となっていたらしい。
「その話は、私もお父様に聞いて初めて知ったの。もうレナードとの婚約を解消したあとだったから……」
もちろん最初からすべて知っていたが、そう言って困惑してみせる。
「でも、それでもレナードは、シンディーさんとの愛を貫いたのね。彼女と一緒に家を出たと聞いて、安心したわ」
そう言うと、友人たちは顔を見合わせて、気遣うようにアデラに尋ねる。
「あのふたりがあれからどうなったのか。全然知らなかったの?」
「……ええ」
あのふたりの結婚は、支援を条件にテレンスの命じたこと。
レナードもシンディーもそれほど本気ではなく、ただ恋愛ごっこを楽しんでいたことは知っている。
だが、それからどうなったのかは、まったく知らなかった。
「ふたりは町で、仲良く暮らしていると思うわ」
だって、真実の愛で結ばれているふたりですもの。
そう言って笑うと、友人のひとりは複雑そうに言う。
「それが……」
「何かあったの?」
友人は同情するような顔で、それでも饒舌に語ってくれた。
「レナード様は彼女を連れて、町で暮らし始めたそうよ。でも今までと同じような暮らしをしていたら、すぐに資金がなくなってしまったらしいの」
大きな家に、侍女も何人か雇おうとしたらしい。
伯爵家の子息だったレナードからしてみれば、それでも充分に小さい家だったし、使用人も最低限だった。
だがテレンスからの援助は、餓えない程度のものでしかなかった。
屋敷を購入するだけで一年間の援助金をすべて使い果たしてしまい、彼は伯爵家に戻ってさらに援助を頼んだ。
もちろん、それに応じてくれるようなテレンスではない。
会うこともできずに執事に追い出されて、今度は父親に手紙を出したらしい。
だが父親からの返信はなかった。
体調不良で休養しているという噂だったが、おそらくテレンスによって、これ以上騒ぎを起こさないように幽閉されているのだろう。
レナードの手紙は、父親には届かなったに違いない。
たちまち追い詰められたレナードは、結局家を手放して、シンディーとともに町のはずれの古びた小さな家で暮らすことになった。
もともと町で暮らしていたシンディーはまだ平気だったようだが、貴族の子息であるレナードが、そんな暮らしに耐えられるはずがない。
レナードは、こうなったのはシンディーのせいだと罵った。
そしてシンディーは、働きもせずに文句ばかり言うレナードを恨んだ。
ふたりの仲は次第に険悪になり、近所迷惑になるくらいの喧嘩が毎日続いた。
その結果、伯爵家の次男だったレナードと違い、平民の生活に慣れていたシンディーは、さっさとレナードを捨てて、他の男と暮らし始めたらしい。
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