【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと

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兄のアルノルド視点(ちょっと残酷注意)

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 妹が、婚約破棄された。
 それを聞いたときアルノルドが考えたのは、今の王家の断絶だった。
 ロザーナ公爵家の娘であるマリエの価値を、まったく理解していない。自分たちが何のために生きているのか、誰によって生かされているのか。それを知らない者たちに、生きている価値などないと考えた。
 無能ならば無能なりに使える駒であればいいものを、自分自身の価値を見誤り、廃棄するしかない塵に身を落としたのは、妹の婚約者であったグリーダだ。
 だが、彼は父が選んだマリエの伴侶であり、未来の国王候補であった。問題は多いが、それなりに利用価値はあったはず。それがなぜ、このような事態になったのだろうか。
 もし父が見誤ったのならば、すみやかに引退してもらうべきか。
 そう考えて調べてみた結果、浮かび上がってきたのはひとりの女性だった。
 子爵家の令嬢であるリィーナというその女性は、どうやらかなり野心家のようで、グリーダに近寄り、彼に取り入ろうとしていた。
 あれほど単純な男を操るのは、簡単だと思ったのだろう。
 それでも、グリーダに付きまとうだけなら、問題はなかった。あの程度の女が側にいても、妹を脅かすことなどできない。
 だが彼女は何を血迷ったのか、グリーダの関心を引くために妹の名を出したのだ。
 それを聞いたとき、アルノルドは優しげに見える美貌に、ひどく冷酷な笑みを浮かべた。
(ああ、まだこの国にも生きている価値のない塵が存在していたか)
 この国のため、この国の王妃となるマリエのために、塵はきちんと廃棄しなければならない。
 報告してきた者が青ざめた顔をして震えていたが、アルノルドはさらにリィーナという女のことを詳しく調べるように命じた。
 ああいう者は、失敗したと悟ればすぐに逃亡しようとするはずだ。
 もちろん逃げ場などないし逃すつもりもないが、余計な手間を掛けさせられるとつい苛立って、すぐにでも処分してしまいそうになる。妹の名を利用した代償は、きちんと支払わせるべきだというのに。
 リィーナを暗闇に閉ざされた地下牢に閉じ込めたあとは、第一王子であったグリーダの処遇を決めなくてはならない。
 彼は、あのリィーナにあっさりと騙されて、妹に婚約破棄を突き付けた。
 それだけでも廃棄処分は確定だが、何を勘違いしたのか、自分がマリエに愛されていると思っているらしい。さすがに妹も、グリーダが社交辞令も理解していない馬鹿だとは思わなかったようだ。
 そこまで無能では、リィーナのことがなくとも、いずれ問題を起こしていたかもしれない。やはり父の見込み違いではないかと思われる。
 だが、幸いにもマリエと、次の婚約者候補である第二王子エイダはうまくいっているようだ。
 エイダはグリーダや国王とは違い、今の自分たちの境遇をよく理解している。だからマリエのことも大切にするだろうと思っていたが、思っていた以上に誠実なようで、マリエも彼のことを気に入ったようだ。
 初々しいやりとりをしているふたりを微笑ましく見守っていると、処分を決めるまで保留にしていたグリードが、監視をすり抜けてこちらに向かっているという情報が届いた。
 馬鹿の監視もできない衛兵など、存在する価値はない。事前に取り押さえたとはいえ、グリーダはあのふたりに襲いかかろうとしたのだ。
 グリーダはもちろん、無能な衛兵も処分しなくてはならないだろう。
 アルノルドの表情を見てそれを察した衛兵たちに、グリーダはすぐに取り押さえられた。彼は、マリエがエイダを庇うように前に出た姿を見て、かなりの衝撃を受けたようだ。なぜだ、お前は俺を愛しているはずだと呟く彼は、いまだに現実を受け入れることができないのだろう。
 マリエとエイダが仲睦まじく過ごしている姿を見せることが、グリーダには一番の罰だったようだ。
 塵はすみやかに焼却処分を、と思っていたアルノルドだったが、ふたりが正式に結婚するまで、その様子をじっくりと見せたほうがよさそうだと思い直す。
 ふたりの様子を、垣間見ることができるような場所に幽閉する。
 もちろん、二度とふたりに危害を加えることがないように、叫ぶことも動くこともできないように、きちんと処理した上で。
 エイダが今の心意気を忘れずにマリエを大切にしてくれるのなら、王家は存続していても構わないだろう。アルノルドはそう結論を出したが、父はエイダの母親である王妃の出身国を警戒しているようだ。
 あの国は、国力はたいしたことはないが歴史は長く、教会の権力が強い。
 さらに数百年に一度に聖女という存在が現れて、聖女が存在する間は、国は繁栄すると言われているようだ。
 去年、その聖女が現れたらしい。
 聖女を得たその国は今、勢いに乗っている。
 エイダにその国の王家の血が流れていることもあり、この国にも過度な干渉をしてくる可能性があるというのだ。
(聖女か。はたして本物か、それとも単なる傀儡か。……興味深いな)
 調べてみると、聖女が現れる前の年は、不作であったり政策の失敗などがあったりして、国力が著しく低下していることが多いようだ。聖女という傀儡を利用して、国力の回復を図っている可能性が高い。だが、長い歴史の中には 本物としか思えない聖女も存在したようだ。
 今の聖女はどちらなのか。
 そう思っていたところに、聖女が偽物だと国を追われ、この国に逃亡してきたという情報が入った。
 その聖女に会ってみるかと思ったのは、この国の王妃となる妹のためだ。父が警戒しているようにこの国に干渉してくるようなら、排除しなくてはならない。
 そしてアルノルド自身、聖女という存在に興味を抱いていた。
 彼女の存在がこの国にとって、妹にとってどのような価値があるか。それを見定めなくてはならない。
 アルノルドは、グリーダの処置を終えたと報告してきた衛兵に、優美に微笑む。
 彼が震えるほど怯えているのは、グリーダの様子を見たからか、それとも彼を逃がしてしまった自分たちの、これからのことを思ってなのか。
 これから作られるマリエのための王国に、使えない者は必要ない。彼らを下がらせ、側近に新しい衛兵の選出を命じると、窓の外に目を向ける。
 少し離れた庭園では、妹のマリエとエイダが恒例のお茶会をしている。エイダに向けるマリエの、恋する乙女のような顔を見て、アルノルドは優しく微笑んだ。













全六話で完結となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!





次回偽予告。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」
 (始まりません)
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みんなの感想(120件)

猫まんま
2025.02.22 猫まんま

続きません。の話し読みたいので是非、頑張ってください。健気な聖女様と腹黒なお兄様…とっても楽しみです。

解除
毒島醜女
2025.02.01 毒島醜女

寝取り女すら引かせるバカさとは…

いずれ腹黒お兄様とくっつく聖女様には、その、ガンバ💪

解除
くるみ
2025.01.30 くるみ

オススメから読みに来ました。

グリーダの末路、叫べず動けずって、まさか喉をつぶされ人間だるまに?😱😱😱
腹黒で残酷なお兄様、実は妹溺愛型でしたか。
次期国王となるエイダはこのお兄様の顔色をうかがいながら生きていくわけね😅…ストレス禿げにご注意を🧪💊💉

偽予告…読みたいので頑張って執筆してください。

解除

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