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絶望と光
しおりを挟む…朝が来ると憂鬱だ…
また階段のどこかに断崖絶壁が現れるかと思うと、ため息が出た。
だが、目が覚めるということは生きているということ。
良行は当たり前のことに少しずつ感謝が出来るようになってきていた。
トゥルルルル
スマホが鳴った。こんな朝から誰だと思い。画面を見る。
「竜崎さん!」
「お…おはようございます」
「おう」
「どうしたんですか?こんな朝からなにかありました?」
「いや、ちょっと色々あってな、お前とはこれまでだ。これからは高辺んとこに連絡取るから」
「え?」
「じゃあな、ご苦労だった」
「…なんで…急に…なんで高辺」
どうでもいい話しだが、高辺という男は良行と敵対するチームの頭の男だ。
良行達は竜崎の後ろ楯をフル活用して、高辺のチームの人間を狩りまくっていたので、これを機に必ず報復に出てくるのは間違いない。
竜崎の”これまで“という言葉で、良行は自分の強力な後ろ楯が無くなったことを理解した。
同時に方々に幅を利かせて目茶苦茶やってきたことが頭を過った。
コイツはこれであらゆる方面から狙われて半殺しにされる。
正に自業自得、因果応報である。
「…これも…因果応報…か」
言いながら死神手帳を開いた。
「…ピラ…ニア」
…これかとため息をついた。
ピラニアとはかつて良行が考案したチームの集団で少人数を追い回して、いきなりボコるという暇つぶしにしていたリンチだった。
後ろ楯の無くなった良行に正にピッタリはまる因果応報になった。
憂鬱な面持ちで部屋を出る…。
今日はなぜか階段に崖は現れなかった。
喜んで声を上げないのは、昨日のことで、身体中が痛いからだった。
ゆっくりと階段がある喜びを噛みしめて降りる横を、妹の沙弥は素知らぬ顔で足早に降りていった。
家から出て、しばらくすると単車の音が聴こえた。
自分の趣向に合っている系の、常識的な人からしたら馬鹿丸出しに聞こえるアノ音だ。
「オラァ!!」
怒号と共に鉄パイプが炸裂する。
左腕で頭部を守りながら、良行は地面に転がった。
独特な仕様の単車が二台止まり、四人が鉄パイプを担いで降りてきた。
「なんだよ。ボコボコじゃねえか」
「もう誰かにヤられたかぁ?良行ちゃん」
「テメー。バックと切れたらしいじゃねぇか」
「覚悟できてんだろうなぁ」
一人が鉄パイプを眼前に差し出すと、良行は因果応報かぁ…と呟き、土下座をした。
「今まで…すいませんでした」
今までの良行なら手負いでも四人ほどなら、返り討ちにしていたが因果応報を考えると、とてもじゃないが前に出る気にはならなくなっていた。
良行の意外な行動に、四人は嘲り笑いながら鉄パイプを振り下ろす。
「すいませんで、済むわけねぇだろ!」
「オレ等、何回テメェ等にヤられたと思ってんだ!」
「反撃してみろ!オラァ!」
口々に罵声を浴びせて滅多打ちにし、転がる良行をスマホで撮影した。
「良行ちゃん。まだまだ続くぜ。ピラニア♪」
うずくまる良行を嘲笑い、四人は走り去って行った。
フラフラなりながら教室に着いた良行をクラスメイト達は、また暴れたのかと白い目で見ていた。
「良行!良行!」
「ヤられたよ…ピラニア!なんとかバックレて来たけど」
「なんで…あんな弱小チームが」
馬鹿2号、馬鹿3号が喚き散らしているところに、他のクラスの同種族の馬鹿共が息急き切って入って来た。
「おい!良行!竜崎さんと切れたってマジか」
その言葉に周りの馬鹿種族一同が唖然として、声を無くす。
「…ああ…すまん」
マジかよ!なんでだよ!どうすんだよ!等と自分が一番可愛い馬鹿共が喚き散らす。
その中でややマシな馬鹿が声をあげる。
「…でもよ!返し…行くんだろ?舐められたら終わりだぜ」
「いや…俺は…もう」
「はあ?なんでだよ!仲間がこれだけヤられてんだぞ!」
「…すまん」
良行の思いもよらぬ反応に周りの馬鹿共は報復を恐れて良行に詰め寄る。
「良行!」
「おい良行ぃ!」
良行の彼女である馬鹿女が何事だと慌てて間に割って入った。
「ちょっと…やめなよ」
「コイツのせいで、俺等がこんな目に合ってんだ」
「はぁ?アンタ等、自業自得でしょ?何、言ってんの?散々、良行の下でやりたい放題だったじゃない」
「良行が下手打って竜崎さんのバック無くなったんだぞ!」
「えっ?」
「おかげで、俺達、このザマだ!」
「恵利!お前等だって、色んな女子に無茶してるじゃねぇか!どんだけ女子に恨み買ってるかわかってるか?」
言い合ってる馬鹿共に対して、良行は涙目で頭を下げた。
「やめてくれ…俺が…俺が全部悪いんだ」
「そうだよ!テメーが全部悪いんだ」
どいつもこいつも自分のことを棚に上げて言いたい放題に喚き散らし、教室を出て行った。
「私は良行の…味方だからね」
2号3号「…お…俺等も…な」
それからの良行は散々だった。
安全なのは家に居るときだけ。
通学中は余所の学校、チームの人間に襲われ、学校に行けばかつての友人達にハブられ、無視、嫌がらせが続いた…。
味方と言っていた馬鹿2号3号も素っ気なくなった。
通りすがりに殴られる、後ろから蹴られるなど日常茶飯事になった。
何日それが続いても、死神手帳からピラニアの文字は消えなかった…。
どんなに殴られても、蹴られても休まず学校へ行き、因果応報を受け入れる毎日…。
何日も何日も何日もそれが続く…。何度見ても一向にピラニアの文字は消えず、良行は生きた屍のように絶望していた。
「…このままじゃ…死んじまうぜ…」
それでもバイトには欠かさす行った。
おかげで手帳の左上に記されている121万3千円は順調に減らすことができていた。
無抵抗の日々が続いたある日…。
遂に我慢できずに反撃してしまい、一人を半殺しにしてしまった。
その後、10人掛かりで半殺しにされた。
その時、良行に一つの感情が芽生えた。
“因果応報を全うしたら、必ず皆殺しにしてやる”
己の過ちを後悔し、因果応報を受け入れて耐え忍ぶ思いから、復讐のために耐え忍ぶという憎悪に変化した瞬間だった。
その憎悪の思いは、顔に現れ、醸し出す雰囲気に現れた。
相変わらず外では襲われる日々は続いたが、学校に於いては良行のその雰囲気に殴りつけて来る者は居なくなった。
良行と言葉を交わすのは彼女の恵利くらいになった。
それでも日に日に素っ気なくなっていく恵利の態度に良行は何も言うことはできなかった。
近頃は崖が現れなくなっていた。
襲われてボロボロの良行にとってはかなり幸いしたことだった…。
それでもいつ現れるかわからない崖に足元を注意しながら歩いていた。
いつもの何気なく通っている通学路の踏切を渡り、線路のド真ん中で良行は久しぶりの絶望感で立ち尽くした。
踏み切りが崖でした( ´∀`)
「…こ…こんなところで…出るなんて…」
踏切で立ち尽くす良行の様子を、水晶玉で見ている死神シドは楽しそうにしている。
良行は焦るあまり、肝心なことを忘れかけていた。後ろに行けばいいと気づいて振り返る。
すると、後ろも崖でした( ´∀`)
「さあ…どうするよ?」
絶体絶命の状況で急加速する心拍数と共に、吹き出す冷や汗…。恥じも外聞もない、形振り構ってられない良行は手当たり次第に声をかけ続ける。
「お…お願いします!誰でもいいです!誰か!誰か俺と手を繋いでください!」
当然だが、スキンヘッドの厳つい高校生の喚きに耳を傾ける者など皆無だった。
「お願いします!」
「ちょっと…なに?やだ!」
「お願いします!!」
「…やめてください」
良行が立ち尽くす中、無情にも遮断機が降りてしまった。
カンカンと鳴り響く音が、まさに死へのカウントダウン。
良行の息は酷く荒れ、心臓が破裂しそうなほど爆音で木霊する。
「お願いします!お願いします!誰か!誰かぁ!!」
踏切内で喚いて動かない良行に気づいた周りの人間が、踏切を指差して声を上げだす。
「おい!やベェぞ!あれ!」
「自殺?!マジ!」
”プァーン”
汽笛と共に迫り来る電車に良行は涙を浮かべ、震えている。
「…はぁ…はぁ…もう…終わりだ…」
ガッ!!
「走って!!!」
「…えっ…あ…」
良行の右手を力強く握った高校生くらいの女の子が声を上げた。
「早く!!私を殺す気?!」
手をしっかりと繋いだ二人は全速力で駆け出し、既のところで電車を躱して前屈みになり、転がるように踏切から脱出した。
九死に一生を得た良行は顔面蒼白で過呼吸気味に細かい呼吸を繰り返す。
「ハァ…ハァ…生きてて良かったね。自殺なんてやめなよ」
「…あ…ああっ……ありがとう…」
座り込んで大粒の涙を流す良行の肩をポンと叩いて、清々しい笑顔で彼女は立ち上がる。
「大袈裟。泣くくらいなら、本当に自殺なんてしちゃ駄目なんだからね」
一部始終を水晶玉で見ていたシドは、つまらなさそうに舌打ちをした。
「なんだよ。この小娘は~。邪魔するなよ。もう少しでコイツ小便漏らすところだったのに…。漏らしたら崖は消して走らせたのにさー」
呼吸を整えた良行は彼女の制服を見て呟いた。
「…その制服…」
「私…そこの高校なの。転校生で、今日からだけどね。アナタも同じ高校の人なの?」
「…あ…ああ…同じ高校」
「じゃあ一緒に行こうよ」
彼女は先刻の自殺未遂 (だと思っている) のことに敢えて触れず、初対面の良行を気遣うように他愛もない話しを延々としていた。
自分が帰国子女であることや、親の都合で転居が多く友達が作りにくいこと、好きな音楽のこと等…。しばらく歩いて学校に着くと…
校門から先が崖になっていた( ´∀`)
「ハッハッハッハッ!!どうするよ?会ったばかりの女に頼むかぁ?気持ち悪がられるぜぇ!お前に有利な人間関係は断たせてもらうよー」
立ち止まる様子を疑問に思った彼女はキョトンとして良行の顔を見上げる。
「あれ?どうしたの?」
「出会ったばかりで…その…」
「…何?」
「…手…手を繋いで…欲しいんだ」
「?…なんか…さっきも、そんなこと言ってなかった?なんか…わけあり?」
「…いや…その…」
ふーむ…と、しばらく沈黙の後、顔を上げ、良行の神妙な面持ちを見てなにかを察した様子の彼女は軽く頷いて手を差し出した。
「まあ…出会ったばかりの人間に言えないよね…。まあ、はい」
「え?」
「手…繋ぐんでしょう?」
屈託のない笑顔で差し出された左手を、良行は優しく握りしめた。
一歩、二歩、踏み出しても崖は消えなかった。
この時、良行は出会って間もない、素性も知らない自分に嫌な顔を一つせずに応えてくれた親切心に感謝して涙を流した。
「あ…ありがとう…ありがとう」
「なんで泣くの。大袈裟」
「誰?あの女」
良行の彼女である馬鹿女の友人数人が二人を見ていた…。
「変な女だな~。たまに居るんだよなぁーこういうヤツ。魂が綺麗な奴は此処の人間記録に載らないんだよなぁ。邪魔だな~。死神隠し罪が無いと手出しできないしなぁ」
水晶玉の前であぐらをかき、つまらなさそうに首を傾げる、死神シドだった…。
「じゃあね。私、職員室に行かなくちゃいけないから」
教室に着いた良行は誰とも会話することなく、最後部の窓際に佇んでいる。
程なくして、担任の教師が教室に入ってきた。
「転校生を紹介します」
ストレートのショートヘアーに童顔、整った顔立ちにブラウンの縁取りの眼鏡、清楚なイメージに加え、制服の胸元を押し上げる健康的なボディラインが男子の視線を釘付けにした。
「可愛いー!!」
歓声を上げる男子達に少し照れるような様子で黒板に氏名を書いた。
天使 奏羽
「あまつか そうは、と言います。え…と、好きなことは…音楽、読書…。あと…なんでしょう?」
教師のほうを見て首を傾げる奏羽を見て、呆れて苦笑いをする。
「先生が知るわけないでしょう」
転校生を温かく迎え入れる笑いが起こる中、奏羽は自己紹介の続きをする。
「母の転勤の都合で一年くらいしか居られませんが、皆さんよろしくお願いします」
天使ちゃーん!などと歓声が上がる中で、恵利を含む馬鹿女軍団はガン飛ばして舌打ちをしていた。
そんなことに気付きもせず、奏羽は教師に指示された真ん中辺りの席に行く途中で、窓際最後部に居て興味なさそうに外を見ている良行に気付いた。
「あれ?」
「…あ」
「良かったぁ!元気そうで!」
駆け寄って声を上げた奏羽に、クラスの皆は静まり返り、馬鹿女の恵利は睨み付けている。
微妙な空気を察した教師が席に着くように促した。
奏羽の隣に座っている生徒が小声で良行のことを教えて、あまり関わらないほうがいいと教えてくれた。
休み時間の度に人だかりの出来る奏羽のことを、今朝の出来事を思い出しながら良行は見ていた。
奏羽に視線を送る良行に対して、自ら距離を取り、冷たくしていた恵利が嫉妬心を剥き出しにして見つめていた。
放課後、皆が帰り仕度をしている最中、奏羽が良行のほうへ歩み寄って行く。
「鹿島 良行君♪」
「えっ…あ」
「一緒に帰ろ」
何でぇー!!!?とクラス中のほぼ全員が思ったであろう。
「な…なんで」
奏羽はニッコリ微笑むと、スッと顔を近づけて、ソッと耳打ちをした。
(…だって…手、繋ぐ人…必要なんでしょ?)
出会ったばかりの自分に対して、奏羽の気遣ってくれている行動に良行の胸が高鳴った。
それを察知した恵利が間に割って声を荒げる。
「ちょっと!アンタ!」
「はい?」
「良行はアタシの彼氏なの!」
「…そうなんですか。知らなくて…ごめんなさい。あの…お願いがあるんです」
「は?何?」
「…良行君と…きちんと手を繋いであげてください」
「はぁ?!アンタに言われなくたってね、手ぐらい繋ぐから!!」
呆然とする良行の手を強引に引いて恵利は教室を出て行った。
その様子を微笑えんで見送る奏羽に隣の席の女子は驚いている。
「奏羽って物好きだね…」
「そうかな?以前の彼は知らないけど、今の良行君はカワイイと思うけど」
二人は一緒に帰ろうかと教室を後にした。
数人の女子も一緒に帰ろうと付いてきた。
「…確かに最近は大人しいけどね。何か仲間とも揉めてハブられてるみたいだし」
「そうなんだ…なんか…気になるね」
「…はぁ…本当に物好きだね。でも気をつけなよ。恵利は嫉妬深いから」
「うん。ありがとう」
ニッコリ微笑んだ奏羽の顔を覗き込んだ数人の女子が揃って声を上げる。
「奏羽って本当、可愛くって天使みたい」
「大袈裟。でも転校する先々で名字は絶対イジられるんだよ~」
「変わってる名字だよね~。天使って書いて、あまつかって」
他愛もない会話をして下校していく奏羽を睨む恵利の友人、馬鹿女共と…
天使 奏羽?!いや…まさか…なぁーなどと呟いて、またもや水晶玉を見て首を傾ける死神シドだった…。
連日にわたって襲ってきていた連中が少しずつ減ってきた。
良行が以前に襲撃していた粗方の人間は、ほとんど報復に来ていたのと、繰り返し来ていた連中も飽きてきているのだろう。
それでも学校での陰湿な行為によるストレスを抱え、登下校に襲われては殴られる日々は続いた。
それでもピラニアの文字は消えてはくれなかった。
疲労を蓄積しながらバイトの帰りに、缶コーヒーでも買おうかとコンビニに入った。
買い物を済ませて、出るところで良行の足が止まった。
コンビニの出入口が崖でした( ´∀`)
良行はコンビニの出入口で、行き交う人に声をかけ続ける。
「お願いします…誰か…手を繋いでください!」
不審に思った客が店員を呼び良行のところに集まってきた。
「お客様…」
「…すいません。…手を繋いでくれるだけでいいんです」
警察を呼んでと言う店員に対して、違うんですと言い続ける良行に聞き覚えのある声が聴こえた。
「良行君!」
地獄に仏と言わんばかりの奏羽の登場に思わず良行は目を潤ませた。
「何やってるの?!もしかして…手?」
奏羽は店員に友達なんですと説明し、謝罪をしてコンビニを出た。
手を繋いだまま路地の裏辺りで断崖絶壁が消えたので、ここで大丈夫と頭を下げた。
「ありがとう…何回も…本当にありがとう」
「もう、すぐ泣くね。大袈裟」
袖で涙を拭い立ち去ろうとする良行を奏羽は止めた。
「ねえ、私で良かったら聞くよ。だっておかしいもん…。手を繋がないと先に進めないーなんて」
良行は思い詰めた表情で、奏羽を見つめ、重い口を開いて語りだした。
「頭がおかしいと思われるかもしれないけど…」
死神シドに出会い、死神隠しを運良く躱し、自分の悪行を精算するための因果応報の受け入れのこと、不意に現れる崖のこと、猶予が一年間であること、達成できなければ結果的に死神隠しによって殺されること…全てを打ち明けた。
突拍子もない話しを聞かされた奏羽は呆然としている。
「……崖…ねぇ」
「じゃあ……あの踏切の時は…」
「…崖があったんだ」
「…自殺しようとしてたわけじゃないんだね」
「校門も、さっきのコンビニも?」
ゆっくりと頷いた良行は涙目で呟く。
「信じられないよね、こんな話し」
死神界の自宅の水晶玉で良行を見ている死神シドは実に楽しそうに空中を旋回している。
「当たり前だ!馬鹿だなぁ~!コイツが馬鹿で良かった!これで邪魔者は居なくなる。楽しくなって来たぞー」
と、思ったのも束の間。
「うん…。わかった。信じる…。信じるよ!だって私しか知らないんでしょう?」
「ウッソだろう…なんだよーこの小娘…萎えるわ」
「一人で辛かったね。明日からは私が良行君を迎えに行くから」
言いながら、目を潤ませる奏羽を見て良行が驚いている。
「…なんで…君が…泣くんだ」
「…だって…本当にそんな状況で…一人で…って思ったら…。因果応報っていうのは助けられないけど、崖は…私が助けるよ」
「ありがとう…君は…光だ…本当に…本当に…天使みたいだ」
「もうー。大袈裟。一緒に学校行き帰りするだけじゃない」
手を繋いで歩いて行く二人を見ているシドは首を搔きむしって叫び上げる。
「ううわあああ!!カユイ!カユイ!なんだ、なんなんだ!こんなメルヘンな展開ありえないだろう。なんだよー、もー、なんだこの小娘。苦手だわー俺」
翌日から奏羽が迎えに来た。
門柱のインターホンを鳴らすと、妹の沙弥が慌ただしく出てきた。
「おはよー!今日、早いねって…アレ?誰?」
「おはようございます。良行君のクラスメイトの天使 奏羽 (あまつか そうは) と言います。良行君を迎えに来ました」
「えっ?!ちょっ…ちょっと…あ…少しお待ちくだ…さい」
「お母さーん!!大変!目茶苦茶可愛い人が馬鹿を迎えに来てるー」
沙弥の驚いた声が外まで丸聞こえだった。
その響きはリンキンパークのワンステップクローザーのサビくらいだった。
その声に飛び起きた良行は、マッハで身支度をして部屋を出たところの階段で声を上げた。
お母さん!お母さん!と叫ぶ様子を察知した奏羽は駆け出して、良行の家に入った。
「おはようございます。失礼します」
階段の上で動けない良行を見て靴を脱ぎ、リビングから顔を出す母親と沙弥に会釈をして階段を登る。
「今、そっちに行くね。良行君」
二人は手を繋いで一階までゆっくりと降りる。
「…本当に来ると思ってなくて」
「なんで?迎えに行くって言ったじゃない」
「…ありがとう」
目を潤ませる良行に奏羽は「大袈裟」と返した。
いつものように10分ほどかけて階段を降り、手を繋いだまま再度母親と沙弥に頭を下げた。
「朝からお騒がせしてしまって、すみません。ご迷惑でなければ明日から毎日、良行君を迎えに来たいんです」
口をポカーンと開けて頷く二人を横目に「い…行こう」と促す良行の手を取り奏羽は深く頭を下げて玄関を出た。
「宝くじ…」
「…当たるかも」
二人はしばらく呆然としていた。
死神界で様子を見ていた死神シドは無言で痙攣していた。
-放課後-
奏羽が目障りな恵利は久しぶりに良行の相手をしてやろうかと声をかける。
「良行!帰ろう」
「あ…いや…」
「良行君。帰ろう」
「ごめん…恵利。俺…天使 (あまつか) と…帰るから」
「良行君。奏羽でいいよ」
ギラリと睨みつける恵利を横目に、良行は奏羽と足早に教室を出ていった行った。
…手を繋いで。
その光景が意味することは誰が見てもわかるものだった。
恵利の友人、馬鹿女数人が出ていった行った二人を見据えて口を開く。
「ちょっと!恵利!いいの?あの女」
恵利は激しい嫉妬心と憎悪で唇を噛みしめ、端からは血が滲んでいた。
「…あま…つか…そうは…」
…続く。
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