殺人鬼の懺悔参り

細雪あおい

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第四章「5年前の『拾都戦争』目標確認」

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 いきなり上空から表れた冬儺ふゆな夏梅なつうめを怪訝そうな顔をした華四かしだったが、すぐに事態を把握し、
「お前ら、『四気しき』か?」
「はっ、そう言ってんだろ。その耳は飾りか?」
 挑発するように冬儺は吐き捨て、パキリと拳を鳴らして言った。華四は、身構え
「何が目的で『九想典くそうてん』に盾を突き、邪魔をする?」
「決まってんだろ、気に入らないからだよ」
 華四のこめかみに青筋が浮かぶ。
「…頭の悪い子」
 夏梅がローブをバサリと脱ぎ、スカートとキャミソールの薄着になる。
「悪い子、には、お仕置き」
 そして、ポツリとしかし、はっきりと聞こえる言葉で
飴玉賭博キャンディ・ポイズン
 と呟いた。華四は笑うと、
「ああ、その能力は知ってるよ。毒を扱うんだろう?でも、隣の君が無事なら毒など大したことはないのかな?」
「お前、馬鹿じゃねぇの?」
 冬儺は、秋鹿には絶対見せない絶対零度の瞳で、
「夏梅の毒はな、『四気』には効かねぇんだよ」
「…『レヴェル3』
 途端、地面に膝をつき、華四の顔が苦痛に歪むと、真っ赤な血を吐いた。
 夏梅の異能力、『飴玉賭博キャンディ・ポイズン』は夏梅の周囲に蜘蛛の巣の如き毒の結界を張り、毒姫として育った体内に持っている毒を出すのだ。
 毒は、『レヴェル』と言う単位数字が大きいほど強くなる。
 最小限では、肌に痛みを感じる程だが、毒のレヴェルを最大にすると、跡形もなく骨までドロドロに溶かす。
常に毒草を食んでいるのは、この為だ。何処にいても毒を見つけると、迷いなく口に含む。
 高級な魚の毒はデザートに。野草の根っこに含まれる毒は前菜だ。
「…っ」
 血を自分のローブで拭う華四を見て、夏梅が、
「お洋服、を汚すなんて、最悪。あとで、ママに、怒られても、知らない」
「さぁ、華四。今から本部おうちに帰るか?それとも、俺らの魂を狩るか?」
「何が…目的だ?」
「ここで喋るほど、俺らはおしゃべりな九官鳥じゃないんでな」
「『レヴェル4』」
 毒がじわりじわりと華四の体内に廻り、華四の身体が痙攣を始める。
 『氷河変化ギル・ジャッジ』を発動させたくても集中力も蝕まれているため、魂を狩る為の大鎌『無黒むくろ』を召喚することが出来ない。
 そこへ不敵に笑う冬儺が加勢する。
 たっ、と跳躍すると、華四の頭に飛び蹴りを喰らわせた。
 冬儺は秋鹿の側にいない為、異能力は発動出来ないが、身体は鍛え抜いている為、普段通りでも威力は強い。
 華四はもろに蹴りを受け、近くの倉庫の壁に吹き飛び、声にならない声を発して動かなくなった。
「あれ、もう終わりか?」
 冬儺は、瞬きをすると、首を回しながら、華四の元へ行き、息を確かめる。
「…夏梅、死神って呼吸すんの?」
「知ら、ない」
 呆れたように夏梅は言うと、
「華四の周り、毒を張ったままにしとく。これで、誰も、近づけさせない」
 毒の結界を強めて、夏梅は自分の白い髪を抜くと地面に置いた。
 すると、髪の毛を中心にぞぞぞぞと言う音と共に魔方陣が展開していく。それは、ぐったりしている華四まで覆い、ぐったりしている華四の顔にも毒々しい赤で魔方陣が浮かび上がった。
「すげぇじゃん、夏梅。でも、他の奴らに見つかったらどーすんだよ」
「魔方陣は遠くからは見えない。近づいて、見える頃には、毒に侵される」
「…怖い女だな」
 冬儺は、先程夏梅が毒が必要以上に溢れない為に着ていたローブを拾うと、
「帰るぞ。秋鹿と春紅さんがお待ちだ」

「やるねぇ、夏梅」
 夏梅が『レヴェル3』、『レヴェル4』で消費した毒を秋鹿からもらった毒草で補いながら、夏梅は頷いた。
「『レヴェル4』なんて、余裕。まだいけた」
「いいさ、徐々に、で」
 『情報操作コントロール・プログラム』を使わず、普通にカタカタとパソコンのキーボードを打ちながら秋鹿が言った。
「で、秋鹿は何をしてるんでありんすか?」
「ああ、これ?」
 タンッと決定のボタンを打って言った。
「夏梅の毒草をネットで買ってるの。ショッピング感覚で楽しいよ」
「ほー。こんなに毒がありんすか」
 一般なトリカブトから、混ぜると毒素を出すもの、さらには南国にありそうな蛍光ピンクの葉っぱだったりと、種類は多く、見てるだけなら楽しめそうだ(注意書きを見ると服毒するのは遠慮したいが)。
 ページには、生産者の顔が載っている。春紅は画面をスクロールすると、
「あ」
 少女のような声を上げた。
「どうしたの?」
「…この殿方は『九想典』の三弥砥みやとでありんすなぁ」
「知ってるの?」
「知り合いも何も…」
 春紅は頬を赤らめると、
「わちきの想い人やわ」
「へぇ」
 意外そうな顔で秋鹿は目をパチクリとさせ、カタカタとキーボードを打つと、
「じゃあ、次は三弥砥に逢いに行こう」
 そう言って、椅子から立ち上がった。
「ふふふ、春紅さんの愛は重いよ?」
 と、苦笑した。
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