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第二章「5年前の『拾都戦争』毒が巡るように」
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二兎、華四、霊七が『拾都』の最前線を任されている兵士と戦っている時、春紅、夏梅、秋鹿、冬儺は、山奥にある秋鹿の高級な調度品で飾られた屋敷の部屋で冬儺の淹れた上質な紅茶を飲みつつ、話し合いをしていた。
使用人は巻き添いを喰らわないように全員里に帰してある。
「で、どうしよっか?『九想典』は、もう『拾都』に攻めてきてるんでしょ?」
紅茶に大量の砂糖を入れながら夏梅は頷いた。
毒草を食べたり、身体に悪いことをしたりと、夏梅はまるで死に急いでいるようにも見える。
ズズズ、と紅茶を啜りながら、
「今は、兵士が、戦っている。動向を、見たい。だから、秋鹿」
夏梅は秋鹿を見つめ、秋鹿はゆらりと立ち上がり、応えるように頷く。
「ボクに任せて」
4人は秋鹿の案内の元、広い屋敷の廊下を渡り、離れにある座敷牢へ向かった。
座敷牢の中は、明るいパソコンのディスプレイで照らされていて、狂気や暗さよりも何処かのラボを思わせる。
「…本当にここが座敷牢かえ?」
「まぁ、名前だけ、座敷牢かな。冬儺は出入りも自由だし」
秋鹿は1番大きいディスプレイのパソコンの前に座ると、不安げな子供のように小声で、
「冬儺」
「あぁ」
それに応える冬儺の声はいつものように優しい。
秋鹿は、すっと息を吸い、
「『情報操作』」
と、呟き、目を閉じた。
すると、身体はだらんと弛緩して椅子の背もたれに寄り掛かった。
途端、座敷牢にいくつもあるディスプレイが灯り、『九想典』本部の映像が映し出された。
冬儺は、秋鹿と手を繋ぎ、
「『罪悪徒花』」
と、呟いた。
冬儺の右手がメキメキと音を立てて、鬼化していく。爪は鉤状になり、右腕が赤い鱗状の皮膚になる。右頭部には、鋭い角が生えた。
秋鹿の異能力『情報操作』は異能を使ってネット上に意識を移動させることが出来て、ハッキングはもちろん情報を書き換えることも可能だ。
だが、意識のない身体は無防備で実際に攻撃されても対応することが出来ない。
そこで、冬儺の異能力『罪悪徒花』が必要になる。
無防備な秋鹿の側で、半人半鬼と化した冬儺が守るのだ。
「冬儺、お前は鬼になっても男前でありんすなぁ」
何人もの男を花魁として落としてきた溜め息で春紅が呟く。
「そりゃどーも。春紅花魁に言われたら最高の褒め言葉だぜ」
苦笑する冬儺の声に重なるように、
「ちょっと、春紅さん、冬儺を誘惑しないで!…今、画面映ってるー?」
パソコンの横のスピーカーから呑気な秋鹿の声が聞こえた。ぐったりとしている秋鹿本体の口は動いていない。
「大丈夫だ、繋がってる」
「Wi-Fi安定しないんだよねぇ…山の中だと。途切れないことを祈るよ」
「何処から『九想典』を『視』てるんでありんすか?」
「えーと、誰かのスマホだよ。誰かは、今調べるね」
何処かのセンターに電話を掛けたかのように保留音が流れた後で、
「二兎!『丹色に染める』の二兎が置いてったスマホからだよ!」
「…二兎、スマホ置いて行きましたね」
五重が三弥砥が淹れた玄米茶を飲みながら、呆れた声で言った。
「仕方ないじゃろう、山の中で育った子だ。スマホが必要と感じたことがないからのう…」
九尾が苦笑すると、テント内の皆が笑う。
…それが、『四気』に筒抜けとも知らずに。
「うん、角度的にもバッチリ皆映ってる。ここから二兎の内部データを辿って他の奴らのスマホから、めちゃくちゃにしてやる」
呑気な秋鹿に珍しく険を含んだ秋鹿の声がしたかと思うと、座敷牢内のパソコン全てにデータが映しだされた。
画面上には写真、『九想典』がやりとりしたメール、今後の作戦など様々な情報が。
「…やるじゃねぇか、秋鹿」
口の端に牙を見せながら、ヒュウと口笛を吹く冬儺。
「これで全部でありんすか?」
「九尾以外のデータは抜き取ったけど…九尾のだけはロックが厳重にしてあって、解除が難しいなぁ」
むむむ…と、悪戯を止められた子供のように唸る秋鹿。しかし、すぐ対処法を見つけ、
「一回、スマホを不能にしよう。そうしたら、もう指揮はできないからさ」
珍しく高揚した秋鹿の声がして、
「あは。どん底まで沈めてやるよ」
と、誰も触っていないキーボードがカタカタと不気味に動き出した。
「華四か、霊七から連絡はありませんか?」
八舞が負傷するであろう3人に渡す薬草を調合しながら、九尾が聞いた。
「そうじゃのう…今のところ、来てないのじゃが…」
九尾は、三弥砥の妻、イツが淹れたほうじ茶を飲みながら言った。
「『拾都』に着いたら、連絡することにしたのじゃが、まだ着いてはおらぬのか…?」
テント内に重い空気が流れる。九尾だけではなく、他の面々も不安げな顔をする。
伊織は思案顔でポリポリと頭を掻いていた。
「小生が、聞いてみましょうか?」
パソコンで締め切りの近い連載小説を書きながら、五重が問う。
「いい。わっちが聞いてみる」
九尾がスマホを手に取ると、突然、ビーッと警告音がスマホから鳴り響いた。
「なに!?」
思わず、スマホを取り落とした。
異常はそれだけで終わらなかった。
五重の小説が全て消え、幼児が聴くような軽快な音楽と共に画面が真っ暗に変わった。
他にいる面々のスマホからも警告音が鳴り響き始める。
「なんじゃ、なにが起きておる!?」
一気に『九想典』のテント内がパニックに陥る。
『座敷牢の狂人』によって『九想典』は毒が回るように侵食されつつあった。
使用人は巻き添いを喰らわないように全員里に帰してある。
「で、どうしよっか?『九想典』は、もう『拾都』に攻めてきてるんでしょ?」
紅茶に大量の砂糖を入れながら夏梅は頷いた。
毒草を食べたり、身体に悪いことをしたりと、夏梅はまるで死に急いでいるようにも見える。
ズズズ、と紅茶を啜りながら、
「今は、兵士が、戦っている。動向を、見たい。だから、秋鹿」
夏梅は秋鹿を見つめ、秋鹿はゆらりと立ち上がり、応えるように頷く。
「ボクに任せて」
4人は秋鹿の案内の元、広い屋敷の廊下を渡り、離れにある座敷牢へ向かった。
座敷牢の中は、明るいパソコンのディスプレイで照らされていて、狂気や暗さよりも何処かのラボを思わせる。
「…本当にここが座敷牢かえ?」
「まぁ、名前だけ、座敷牢かな。冬儺は出入りも自由だし」
秋鹿は1番大きいディスプレイのパソコンの前に座ると、不安げな子供のように小声で、
「冬儺」
「あぁ」
それに応える冬儺の声はいつものように優しい。
秋鹿は、すっと息を吸い、
「『情報操作』」
と、呟き、目を閉じた。
すると、身体はだらんと弛緩して椅子の背もたれに寄り掛かった。
途端、座敷牢にいくつもあるディスプレイが灯り、『九想典』本部の映像が映し出された。
冬儺は、秋鹿と手を繋ぎ、
「『罪悪徒花』」
と、呟いた。
冬儺の右手がメキメキと音を立てて、鬼化していく。爪は鉤状になり、右腕が赤い鱗状の皮膚になる。右頭部には、鋭い角が生えた。
秋鹿の異能力『情報操作』は異能を使ってネット上に意識を移動させることが出来て、ハッキングはもちろん情報を書き換えることも可能だ。
だが、意識のない身体は無防備で実際に攻撃されても対応することが出来ない。
そこで、冬儺の異能力『罪悪徒花』が必要になる。
無防備な秋鹿の側で、半人半鬼と化した冬儺が守るのだ。
「冬儺、お前は鬼になっても男前でありんすなぁ」
何人もの男を花魁として落としてきた溜め息で春紅が呟く。
「そりゃどーも。春紅花魁に言われたら最高の褒め言葉だぜ」
苦笑する冬儺の声に重なるように、
「ちょっと、春紅さん、冬儺を誘惑しないで!…今、画面映ってるー?」
パソコンの横のスピーカーから呑気な秋鹿の声が聞こえた。ぐったりとしている秋鹿本体の口は動いていない。
「大丈夫だ、繋がってる」
「Wi-Fi安定しないんだよねぇ…山の中だと。途切れないことを祈るよ」
「何処から『九想典』を『視』てるんでありんすか?」
「えーと、誰かのスマホだよ。誰かは、今調べるね」
何処かのセンターに電話を掛けたかのように保留音が流れた後で、
「二兎!『丹色に染める』の二兎が置いてったスマホからだよ!」
「…二兎、スマホ置いて行きましたね」
五重が三弥砥が淹れた玄米茶を飲みながら、呆れた声で言った。
「仕方ないじゃろう、山の中で育った子だ。スマホが必要と感じたことがないからのう…」
九尾が苦笑すると、テント内の皆が笑う。
…それが、『四気』に筒抜けとも知らずに。
「うん、角度的にもバッチリ皆映ってる。ここから二兎の内部データを辿って他の奴らのスマホから、めちゃくちゃにしてやる」
呑気な秋鹿に珍しく険を含んだ秋鹿の声がしたかと思うと、座敷牢内のパソコン全てにデータが映しだされた。
画面上には写真、『九想典』がやりとりしたメール、今後の作戦など様々な情報が。
「…やるじゃねぇか、秋鹿」
口の端に牙を見せながら、ヒュウと口笛を吹く冬儺。
「これで全部でありんすか?」
「九尾以外のデータは抜き取ったけど…九尾のだけはロックが厳重にしてあって、解除が難しいなぁ」
むむむ…と、悪戯を止められた子供のように唸る秋鹿。しかし、すぐ対処法を見つけ、
「一回、スマホを不能にしよう。そうしたら、もう指揮はできないからさ」
珍しく高揚した秋鹿の声がして、
「あは。どん底まで沈めてやるよ」
と、誰も触っていないキーボードがカタカタと不気味に動き出した。
「華四か、霊七から連絡はありませんか?」
八舞が負傷するであろう3人に渡す薬草を調合しながら、九尾が聞いた。
「そうじゃのう…今のところ、来てないのじゃが…」
九尾は、三弥砥の妻、イツが淹れたほうじ茶を飲みながら言った。
「『拾都』に着いたら、連絡することにしたのじゃが、まだ着いてはおらぬのか…?」
テント内に重い空気が流れる。九尾だけではなく、他の面々も不安げな顔をする。
伊織は思案顔でポリポリと頭を掻いていた。
「小生が、聞いてみましょうか?」
パソコンで締め切りの近い連載小説を書きながら、五重が問う。
「いい。わっちが聞いてみる」
九尾がスマホを手に取ると、突然、ビーッと警告音がスマホから鳴り響いた。
「なに!?」
思わず、スマホを取り落とした。
異常はそれだけで終わらなかった。
五重の小説が全て消え、幼児が聴くような軽快な音楽と共に画面が真っ暗に変わった。
他にいる面々のスマホからも警告音が鳴り響き始める。
「なんじゃ、なにが起きておる!?」
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