殺人鬼の懺悔参り

細雪あおい

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「紅い悪魔」からの手紙。

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 霊七が目覚めたのは、眠ってから翌日になってからだった。
眠りすぎで感じる倦怠感と、慣れない寝具で寝た時特有の身体の痛みがある。
「ん…」
 ベッドの上で、ストレッチをする。昨日無茶したせいで、身体の節々が痛い。伸びをしただけで激痛が走る。
 それだけ、無茶したということだ。
「僕、強いつもりだったんだけどなぁ…」
 あぐらをかいて呟く。神経を研ぎ澄ますと幸いなことに、七つの魂は落ち着いていた。
『九想典』くそうてんから支給されたスマホを見ると、昼過ぎだった。どおりで空腹を覚えるわけだ。
 痛む身体でそろりそろりとベットから降り、記憶を手繰って居間に向かった。
「…やぁ、霊七。目覚めたかい?」
 居間に円をかいて、何処から持ってきたのか、伊織、遺骸、二兎、そして、華四がTVゲームをしていた。
「あれ、八舞は?煙草もらおうと思ったんだけど」
「ああ、検体を調べるために本部に戻ったよ。あと、診察ね。医者は忙しいねぇ…でも、身を粉にして頑張るのは尊敬するね。彼らにしか出来ないことだから」
「伊織、負けるから早く走れ」
 レースゲームで伊織とチームを組んでいる二兎がイライラと伊織の背中を叩く。
「はいはい、後は華四、よろしく」
「…今ので大体判るんじゃないか?」
 何処で覚えたのか、ゲーマーでも真っ青になる程、華麗なコントローラー捌きで1位入賞した華四は青い目で霊七を見つめて、
「八舞は、医学的な処置として水分補給など、一般的なことは霊七にはしたそうだ。後は、身体に宿した魂の問題だ。遺骸ちゃんのためとはいえ、無茶をし過ぎた。空腹で飢えている時にドブ水を一気に飲んだようなものだ。だから、九尾様にも『拾都戦争』の時、咎められたんだ。しばらく休め。幸い、『九想典』会議はしばらくなさそうだ。だから、某も便乗してここにいるわけだよ」
 軽快な音楽と共にゲーム画面に花が咲いた。華四と組んでいた遺骸が勝ったらしい。
「遺骸ちゃんとも少し話をしたが、特段変わった点はないし、いい子じゃないか。礼儀もしっかりしている。まぁ、異能力さえなければ普通の可愛い子供だ」
「華四もそう思うよな。…煙草くれ」
 華四は黒いローブの懐から、缶に入った煙草を出すと、霊七は一本取り出し、いつの間にか修復されてる窓ガラス(窓ガラスの隅に『六衣特製⭐︎』と小さく刻印されていた)の横で換気をしつつ、一服し始めた。
「…華四の煙草、美味いな」
 ふーっと紫煙を外に吹き出しながら呟いた。
「三弥砥に頼んで作ってもらったんだ。大量生産は出来ないそうだがね」
「へぇ、僕も今度頼んでみようかな」
 メンソールが少し強いが、それが逆に喉に心地良い。昨日、八舞に渡されたものと味が少し似ている。
「一本だけだぞ?」
「判ってる」
 少し、惜しそうにふーっと長く息を吐くと、紫煙が窓の外へ導かれるように出て行った。
 室内では、伊織・二兎ペア、遺骸・華四ペアが今度はテレビゲームでブラックジャックをやっていた。
「伊織、どうする。このままでは「にと」達の負けだ。由々しき事態。顔に汚泥を塗るようなもの」
「さすがに、本気を出そうかねぇ…僕も負けているのは悔しいんだ」
 本気も何もブラックジャックは運を味方につけなくてはならないのだが、チップを破産ギリギリまで出す伊織・二兎ペア。
 こういう人間がカジノに行くと目も当てられない状態になるのだ。
「華四、遺骸はやり方判らないよ…」
「見てれば判るよ、大丈夫」
 のどかな空気が流れているのを感じる。まるで、何事もなかったかのようだ。




 その時、九尾は八舞と話していた。
「九尾様、やはり、あの子は…」
「わっちもそう思う。遺骸は『拾都』じゅうとが『遺した』武器ではない。『九想典』に『送り込まれた』のじゃ」
 場所は、『九想典』本部にある八舞の診察室だった。
 可愛らしいぬいぐるみや幼児が遊ぶような玩具、さらに淡いピンク色の壁紙を埋め尽くすように手紙がたくさん貼られていた。手紙は、あどけない子供が描いた八舞の似顔絵だったり、まだ字を覚えたばかりの子供からの感謝の手紙だったりと、今の緊迫感をまるで感じさせない内容だった。
 パソコンには遺骸の身長、体重などのデータから、霊七が命がけでとった血液検査の結果などが映されていた。
「『拾都戦争』の時に居た『四気』しきを覚えていますか?」
「忘れるわけがないじゃろう」
 九尾の声に怒気が帯びる。
三弥砥みやとの嫁だったイツを殺した集団じゃ。あの時の三弥砥は目も当てられんかった。許すことも、忘れることも出来んわ」
 九尾の長い金髪がパチパチと電気を含んで広がる。
「その『四気』が」
 一度、言葉を飲んでから八舞は言う。
「…また動き始めたと聞きました。トップの『春を売る』の『春紅』はるべにが『九想典』宛てにこれを。私の診察室に届きました」
 書類ケースから出した習字で使うような半紙には、赤々とした色の墨でこう書かれていた。


『わちきらの仲間、気に入ってくれんしたか?可愛い子でありんしょう?
 今度、受け取りに行きんす。マァ、茶飲み話でもしんしょう?では。 
                                春紅』


 九尾の美しい顔が怒りで歪む。
「八舞、『九想典』の皆に用心するように言うのじゃ。春紅は、情報屋じゃから、こっちのことなど、手に取るように判る。万が一じゃが」
 そこで息を深く吐くと、
「また『拾都戦争』が起こるかも知れぬの…」
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