殺人鬼の懺悔参り

細雪あおい

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『九想典』

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 「九想典」とは、「拾都戦争」で拾都を奪還した九人の賢者のからなる組織である。
 当時の政府は金銭面も医療面も外交面も腐り切っていてまるで幼稚な子供に玩具として国を与え、自分勝手に遊ばせているようだった。他国からもナイフを投げるような勢いで酷評され、国民から政府への抗議の声が止むことはなかった。
 「拾都戦争」は5年前に起き、3年前に終息した。
 「拾都戦争」後の拾都は、赤黒い血の染みこんだ石畳は撤去され、煉瓦や瓦斯灯で明るく新しくなった都市部と、まだ自然が残してあり野性の動物も暮らして居る森林部に分かれている。
 
 今、「これこそ美しいのではないか」と言えるほどの拾都を作るために、その政府を根っこから改革する為に、国民の幸せのために動いたのである。
 
「九想典」は名前の数が大きくなる程、地位が高くなる仕組みだ。

 一、「独り善がり」唯一。孤児院を経営している28歳の女性だ。孤児院の経営だけではなく、伊織の住居も確保したり、何かしら世話を焼いてくれ、頼りになることも多い。「拾都戦争」に参加し、行き場をなくした子供を全員養っている。誰かへの好意を自己満で行うことがあるので「独り善がり」と呼ばれることもあるようだ。

 二、「丹色に染める」二兎にと。幼い頃から剣戟を強制的に叩きこまれている。頼まれた相手を「丹色(赤)に血で染める」。赤い着物を着て居る日本人形のような見た目は可愛らしい女の子の暗殺者。「九想典」の中では一番幼く、19歳の女の子だ。赤い着物に、使っている日本刀は幼い頃から使っている「絡繰」(からくり)。「絡繰」は形を変えることが出来る上、毒薬を仕込み、自然死に見せ掛けて殺すことも出来る。拾都戦争も参加した。当時はまだ幼かったが足手纏いになることはなかった。

 三、「雅味を好む」三弥砥みやと。「九想典」ではただ一人の男性だ。年齢は32歳。森林部に住んでいて、拾都と他国の取り引きで売り買いされる作物や家畜と共に、自分で作った檜の家でのほほんと暮らしている好好爺。「雅味(風流)を好む」為、センスの良い食べ物を作るのが趣味でよく作っては近所にお裾分けする。その為、都市を知らない近所の子供には喜ばれる。
 が、隠れて、二兎が使う毒薬や他の面々が使う薬草も作っている。火薬を生成するのもお手の物。
 「拾都戦争」で最愛の奥さんを失ったが後妻は全く考えておらず、再婚は一生しないと決めている三十路。

 四、「死を司る」華四かし。女性で黒髪と黒いローブが似合う29歳の青い目の死神。「拾都戦争」も参加し、当時は「死を司る」本来の仕事以上に人の魂を狩った。人の命を狩るのは六衣が作った最高傑作の大鎌「無黒(むくろ)」。伊織が持っている鎌よりも精密に作られて柄にある銀細工は圧巻の一言以外、思い当たらない程、緻密。これを見ることが出来るのは死が近付いている人間のみ。例外として、たまに華四の気まぐれで顕現させることも出来る。仕事終わりの三弥砥と酒呑み仲間でもある。いくら呑んでも潰れないので、蟒蛇のようだ。

 五、「反故を書く」五重いつえ。「反故(役に立たない)を書く」為、売れない小説を書き、収入が安定しないので、兼業で中学校の女性教師をやっている23歳。小説はライトノベル。だいたいがバトルもの(参考になる人物が周りにたくさんいるので)。
 「拾都戦争」の時は、眠らずに計画書や物資の減り具合の管理、など、三弥砥と共に裏方として戦った。
 紙とペンがあれば、無限に戦うことが出来る。故に、敵に回すと厄介。
 偽造文書などはお手の物。呪咀を書き、力は弱いが、呪い殺すことも出来る。
 それでも、紙幣の偽造は絶対にしない。自分の価値を落としてしまうと判っているからである。

 六、「無限に作る」六衣むい。長い黒髪の毛先を瞳と同じピンク色に染め、長年の機械油が染み込んだオーバーオールを着てい20歳の女性。「無限に作る」という言葉通り、なんでも作ってしまう。初めて作ったのは、子供が遊ぶような剣。近所の子供達に与えたが、本物の刃を付けてしまったのを言い忘れた為、慌てて伝えに空き地に走ると、血みどろの惨劇になっていた。
 昼夜問わず夢中で作る為、生産性は良いものの、疲れがピークに達し、一番重要な時に倒れることもあるので、武器製作時は周りに住む仲間が様子を見に行かなければならない。
 拾都戦争では、武器はもちろん、足りない物資も栄養ドリンク片手に眠らず作り続けるという離れ技を使ったこと彼女が、一番功績を残したのではないのではあろうか。
 夜目が効くため、深夜に拾都を歩くのが日課。派手な見た目で、しょっちゅう絡まれるが、本人はあまり気にしていない。いざとなったら、二兎を呼べば良いだけだからである。

 七、「七つの魂を持つ」霊七れいな。実家での扱いが悪すぎてグレて拾都に来た口寄せの22歳の不良娘。ピアス狂で、耳はもちろん、身体中にピアスをつけている。本来は口寄せではなく、ピアススタジオでピアッサーになろうと思っていたので、ピアッサーの資格を持っている。ちなみに、口寄せは実家にある本で学んだ為、普通のいたこやゆたとは違う。体内に「七つの魂を持つ」故、式神としても使えるし、自分に憑依させることも出来るところが彼女が万能である所以だ。拾都戦争も参戦して、二兎、華四と共に最前線で戦った。
 実家からは、拾都戦争の活躍を称える電話が鳴り止まなかったので、そのケータイを解約して、画面をバキバキに割り、三弥砥に焼いてもらった程、実家が嫌いなのである。
 華四の青い目に憧れていろんな種類の青いコンタクトレンズを買い漁っているらしい。

 八、「病を操る」八舞やまい。青光りする黒い髪を伸ばし、左目の下に泣き黒子のある30歳の女医。「九想典」本部で内科や、外科を問わず、全ての科の診療をしている。薬は三弥砥が作った薬草を使っている。
 拾都戦争の時から、あまり眠れていない(これが医者の不養生だろうか?)ので、目の下のクマは酷くなる一方。三弥砥の焚く五右衛門風呂に浸かるのが、世間を忘れ、心が休まるひと時。
 八舞は人間の痛覚や皮膚の細胞、傷であれば切り口の様子、病気で言ったら病原菌の特定など、まるで「病を操る」かのごとく判る。痛覚を避けて注射、必要であれば点滴をする為、子供からは「痛くない」と喜ばれることが多い。診察室には、病気を完治した子供達からの手紙やぬいぐるみの贈り物で溢れている。

 九、「杞憂で終わらす」九尾きゅうび。「九想典」の創設者であり、トップ。
 年齢や性別は未だに不明。1番幼いようで、1番老獪。狐を思わせる様な金色の目に腰までの長い金髪。鳳凰の扇子で口元を隠して笑う。
 能力は他の能力者を全て組み合わせたかの如く、全知全能と言っても良い。
 特出している能力は、何があっても時を戻すことが出来るので、全ての不安を「杞憂で終わらす」ことが出来るのである。
 だからと言って、簡単に時を戻せるわけではないのが難点。やはり、多少縛りが課せられるようだ。
 よく、「九想典」本部の最上階で三弥砥の作った紅茶と菓子で拾都の都民と茶会を開き、意見を聞く。
 「九想典」トップとはいえ、偉そうな態度は一切取らない。
 年齢や、性別も判らないが、「九想典」の誰一人として嫌な顔はしない。
 九尾こそがトップに立つべき人間だと思っている為、性別や年齢など、そんなことは些末であるからだ。

 以上が、「九想典」の賢者達の情報である。彼らは恐らく歴史に残る異端の部位に入るであろう。
 だが、考えて欲しい。
 「権力」という一時の玩具を与えられ偉ぶる政府と、「異能力」という揺るがない力を持ち政府の改革を掲げる彼らの考えと一体どちらが異端だろうか?
 答えは、彼らの行く道についていった先にあるのだ。
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