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第1部

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「それにしても静かね」

夜明け前だからだろうか。
町は、静まり返っている。
夜だから、大半の人は眠っているのかもしれないが、それでもここまで静かなのはおかしい気がした。
私は、なぜだか分からないが、ずっと嫌な予感ばかりがして、落ち着かない。
遅くまでやっているはずの酒場も朝が早いパン屋や鍛冶屋も、すべての明かりが消えていた。看板すら置かれていない。
今日は、祝日でも休日でもないなんでもない日なのだから、おかしい。

「夜が明ける…」

頭上で光り輝いていた星は、いつのまにか消え、代わりに朝日が昇ろうとしていた。

「……」

暗くなっていたから、分からなかった。
町は、ずいぶんと破壊されていた。
屋根がめくれ、室内が丸見えな家。
道路もめちゃくちゃで、人が歩くには、苦労しそうだ。
がれきが所々落ちているし、明かりも壊れている。
この国の待ち合わせスポットと言われていた大通りの噴水も、今は壊れ、水がだらだらと流れていた。

「町が、もうこんなに壊れているなんて…。これは、妖精のしわざ?それとも神様のしわざなのかしら」
「どっちもだろうな」
「…本当に静かね。あ、あっちの方向に向かってもらってもいいかしら?」

人の気配どころか妖精の気配までしない。
この国から人間はいなくなったと言われたほうが、まだわかるものだ。
私は、ユニコーンに指示をして、自分の家まで行くことにした。


「なにがあるんだ?」
「私の家」

私の家は、広場から離れた場所にある。
王が住む城を含む、貴族たちが住む高級住宅地からは遠く、平民たちが暮らしている地区からも離れているところだった。
屋敷は、私の先祖が建てたものなので、なぜ国の中心から離れた場所に家を建てたのかは分からない。一応、人嫌いだったから。人見知りだったからではないかと言われているが、実際はどうだったのだろうか。
そのころは、少しばかり金銭的に余裕があったそうで、おかげで祖父や父が建てようとしても、無理なくらいに内装も広さも国の中では、立派な部類にあると父が昔、妹に自慢していた。

「でも、もう少しきれいに出来ないの?それに家具も古臭いし。これじゃあお友達が呼べないわ。恋人も」
「お前。もう恋人を作ったのか。お父さんにも紹介しておくれ」
「ふふ。あなたと私の娘だもの。そりゃあモテるに決まってるじゃない」

なんて言ってたこともあったっけ。
妹は、どこに行くにも不便で、古臭い自分の家を嫌っていた。
使用人たちは買い物がしづらいと文句があったくらい、少しばかり町から離れていた。
父と母も、家を売りたがっていたようだが、この家を売ったところでそこまで高い値段はつかないらしい。そのうえ、新しく家を買っても、ここまで広い家を建てられないということで、この家で我慢するしかないとため息をついているところを見たことがある。

それにしても、上から見てもそこまで道が変わっていなくて安心した。
空を飛んでいても、自分がずっと歩いていた道を忘れることはない。
嫌なこともあったし、つらい思いも悲しい思いもたくさんしたのに、どこか物悲しく、苦しい気持ちだ。これが懐かしいという気持ちなのかしら。

「嫌な思い出が多くあった場所でも懐かしいと思えるものなのかしらね」
「懐かしい…。人間は、その感情が好きと聞いたが」
「好き…というか、…どうなんだろう」
「妖精には理解できない感情だな」
「昔の故郷を見たりしても何も思わないってこと?でも、妖精って人間よりずっと長生きなんだから、出会いも別れもたくさん経験してるんじゃないの?」
「まぁな」
「じゃあ長い間あっていなかった友達とか、昔住んでいた町とかを見ても何も思わないの?」
「んー。別に」
「そう」

人間と妖精では時間の感覚も違うと聞いているから、そういうものなのかもしれない。
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