家に住み着いている妖精に愚痴ったら、国が滅びました

猿喰 森繁

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第1部

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「本人に会ったら聞いてみ、る、うわ、どうしたの?」
「見てみろ、亀裂だ」
「亀裂…?」

宿の主人から聞いていた時は、どれほどの深さがあれば通れなくなるほど、地面が裂けるのかと思ったが、確かにこれでは空でも飛ばなければ向こう岸に渡ることは出来ないだろう。
子どもが雑に引いた境界線のようだった。
どれほどの深さか、分からない。
あの国の周囲を囲むように地面が割れている。これでは、穴といってもいいくらいだ。

「確かにこれじゃあ通れないわね」
「瘴気もうっすら涌いているみたいだ。これが魔物の大量発生の理由だな」
「普通の人は、近づくことも出来ないわね…」

もしかしたら、あの周辺に瘴気でやられた人もいるかもしれない。
瘴気は、目に見えないから、分からないで近づいてしまう人もいる。あの国にいるのは、名ばかりの教会だ。瘴気を浄化する力を持った人は、いないのではないだろうか。
それに瘴気から身を守る結界だって、張れるかも分からない。
浄化や結界は魔法の一種ではあるけれど、魔力だけでは使えないと教わっている。
だとしたら、あの国で今、瘴気に対抗できる手段はあるのだろうか。

空が明るくなり、黒一色だった空に暖色が見えるようになってきた。
夜明けだ。
朝日に照らされて、ここからでも、あの国の象徴であるお城が見えてきた。
きれいだ。
いつだって、あのお城はきれいだった。

あの城を見ていると、なにだか自分がずっと惨めになった。美しい城に美しいこの国に、お前はふさわしくないと言われているようだった。
実際ふさわしくなかった。
もう二度とあの城を見ることはないと思って、出て行ったのに、後ろにやった城が、また目の前にある。

しかし、こうやってもう一度やって来ると、懐かしさと共に「こんなに小さかったかしら」とも思った。
威圧的なほどに大きく立派で美しかった城が、今は小さな気がした。聖女様がいる聖堂よりも、少しばかり小さく、ところどころ装飾が剥がれているために、みすぼらしく感じてしまった。

国も、こうやって見ると、なんて小さいことか。
魔力がない人間や少ない人間を差別し、見下し、追い出した結果が、排他的な考えを持った人間が寄り添った小さな国になってしまったのだろう。受け入れることに寛容な、聖女様のいる国とは違って、ここには顔見知りしかいないから、外部からやってきた人間はすぐ分かる。

「わたしこんな小さな世界で終わろうとしていたのね…」
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