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第1部

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そして、翌日。
やはりジェイフの姿はなかった。
よほど、私に言いたくないことがあるらしい。

「…なによ。お別れくらい言ってくれてもいいじゃない」

少しだけ私は、ふてくされた気持ちになって、身支度を済ませ、荷作りをしている間も、なんだかもやもやして、たまらなかった。
なにをそんなに言いたくなかったのかしら。
そんなにあの国に、なにかあるのかしら。
ポッドのことを私が、どんなに思っているか、知らないから、そうやって逃げられるのよ。
友人がいなくなったら、どんな気持ちになるか、想像つくだろうに…。



「あぁ!聖女候補様。大変です」
「どうかなさいましたか?」

主人が、なにやら慌てている。

「隣の国との間に深い亀裂が出来ているそうです」
「亀裂?」
「とても渡れっこない。これじゃあ、あちらからも、こっちに来ることは、出来なそうだ。いったいどうしてこんなことに…」
「そんなに深いんですか?」
「えぇ。王族が持っている空を飛ぶ馬がありゃあ別ですが。普通の人間に渡るすべはありませんね。それに上空には、魔物が飛んでいると言ってますし…ああぁ、向こうには、弟夫婦が住んでるんです。こんなことになるなら、早く引っ越しをさせればよかった」

そんなに深い亀裂なのか。
それに魔物まで、いるなんて。
空を飛べる馬がいても、私に戦うすべがない。
とにかく一度、見に行ってみるしかない。



「おい」
「ジェイフ」

とっくにどこかに逃げてしまったと思った。
ジェイフは「行くのかよ」と、つぶやいた。

「当たり前でしょう」
「お前、戦えるのか?」
「…それは、」
「戦えないのに、行っても魔物に食われておしまいだぞ」
「しかたないじゃない。おとなしく帰れって言うの?」
「おう」
「そんな…」

ここまで来たのに。
すぐ近くにポッドがいるのに。
どうして帰ることが出来るのだろうか。

「ポッドに生かしてもらった命だろ。大切にしろよ。あいつだって、こんなところで、魔物に食われたとでも知ったら、悲しむぞ」
「でも、私は行きたいの」
「わがままなお嬢ちゃんだな。もう、あの国は、駄目なんだよ。お上の遊び場になってるからな」
「あ、遊び場?それにお上って、神様のこと?」

「人間の言葉でいうとそうだな」
「いったい、なにが起きてるの?」
「あの男から聞いたろ。地面が裂けたって。もうあの土地の人間は、全員逃げられない。力も取り上げられた人間に何が出来る」
「そんな…神様たちは、どうする気なの?」
「言ったろ。遊ぶんだ」
「あ、遊ぶ?」

いまいち意味が分からない。
人間で遊ぶってどういうことなの?
神様っていうのは、慈悲深くて、人間を大切に思っているんじゃないの?
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