36 / 74
第1部
75
しおりを挟む
そして、翌日。
やはりジェイフの姿はなかった。
よほど、私に言いたくないことがあるらしい。
「…なによ。お別れくらい言ってくれてもいいじゃない」
少しだけ私は、ふてくされた気持ちになって、身支度を済ませ、荷作りをしている間も、なんだかもやもやして、たまらなかった。
なにをそんなに言いたくなかったのかしら。
そんなにあの国に、なにかあるのかしら。
ポッドのことを私が、どんなに思っているか、知らないから、そうやって逃げられるのよ。
友人がいなくなったら、どんな気持ちになるか、想像つくだろうに…。
◇
「あぁ!聖女候補様。大変です」
「どうかなさいましたか?」
主人が、なにやら慌てている。
「隣の国との間に深い亀裂が出来ているそうです」
「亀裂?」
「とても渡れっこない。これじゃあ、あちらからも、こっちに来ることは、出来なそうだ。いったいどうしてこんなことに…」
「そんなに深いんですか?」
「えぇ。王族が持っている空を飛ぶ馬がありゃあ別ですが。普通の人間に渡るすべはありませんね。それに上空には、魔物が飛んでいると言ってますし…ああぁ、向こうには、弟夫婦が住んでるんです。こんなことになるなら、早く引っ越しをさせればよかった」
そんなに深い亀裂なのか。
それに魔物まで、いるなんて。
空を飛べる馬がいても、私に戦うすべがない。
とにかく一度、見に行ってみるしかない。
◇
「おい」
「ジェイフ」
とっくにどこかに逃げてしまったと思った。
ジェイフは「行くのかよ」と、つぶやいた。
「当たり前でしょう」
「お前、戦えるのか?」
「…それは、」
「戦えないのに、行っても魔物に食われておしまいだぞ」
「しかたないじゃない。おとなしく帰れって言うの?」
「おう」
「そんな…」
ここまで来たのに。
すぐ近くにポッドがいるのに。
どうして帰ることが出来るのだろうか。
「ポッドに生かしてもらった命だろ。大切にしろよ。あいつだって、こんなところで、魔物に食われたとでも知ったら、悲しむぞ」
「でも、私は行きたいの」
「わがままなお嬢ちゃんだな。もう、あの国は、駄目なんだよ。お上の遊び場になってるからな」
「あ、遊び場?それにお上って、神様のこと?」
「人間の言葉でいうとそうだな」
「いったい、なにが起きてるの?」
「あの男から聞いたろ。地面が裂けたって。もうあの土地の人間は、全員逃げられない。力も取り上げられた人間に何が出来る」
「そんな…神様たちは、どうする気なの?」
「言ったろ。遊ぶんだ」
「あ、遊ぶ?」
いまいち意味が分からない。
人間で遊ぶってどういうことなの?
神様っていうのは、慈悲深くて、人間を大切に思っているんじゃないの?
やはりジェイフの姿はなかった。
よほど、私に言いたくないことがあるらしい。
「…なによ。お別れくらい言ってくれてもいいじゃない」
少しだけ私は、ふてくされた気持ちになって、身支度を済ませ、荷作りをしている間も、なんだかもやもやして、たまらなかった。
なにをそんなに言いたくなかったのかしら。
そんなにあの国に、なにかあるのかしら。
ポッドのことを私が、どんなに思っているか、知らないから、そうやって逃げられるのよ。
友人がいなくなったら、どんな気持ちになるか、想像つくだろうに…。
◇
「あぁ!聖女候補様。大変です」
「どうかなさいましたか?」
主人が、なにやら慌てている。
「隣の国との間に深い亀裂が出来ているそうです」
「亀裂?」
「とても渡れっこない。これじゃあ、あちらからも、こっちに来ることは、出来なそうだ。いったいどうしてこんなことに…」
「そんなに深いんですか?」
「えぇ。王族が持っている空を飛ぶ馬がありゃあ別ですが。普通の人間に渡るすべはありませんね。それに上空には、魔物が飛んでいると言ってますし…ああぁ、向こうには、弟夫婦が住んでるんです。こんなことになるなら、早く引っ越しをさせればよかった」
そんなに深い亀裂なのか。
それに魔物まで、いるなんて。
空を飛べる馬がいても、私に戦うすべがない。
とにかく一度、見に行ってみるしかない。
◇
「おい」
「ジェイフ」
とっくにどこかに逃げてしまったと思った。
ジェイフは「行くのかよ」と、つぶやいた。
「当たり前でしょう」
「お前、戦えるのか?」
「…それは、」
「戦えないのに、行っても魔物に食われておしまいだぞ」
「しかたないじゃない。おとなしく帰れって言うの?」
「おう」
「そんな…」
ここまで来たのに。
すぐ近くにポッドがいるのに。
どうして帰ることが出来るのだろうか。
「ポッドに生かしてもらった命だろ。大切にしろよ。あいつだって、こんなところで、魔物に食われたとでも知ったら、悲しむぞ」
「でも、私は行きたいの」
「わがままなお嬢ちゃんだな。もう、あの国は、駄目なんだよ。お上の遊び場になってるからな」
「あ、遊び場?それにお上って、神様のこと?」
「人間の言葉でいうとそうだな」
「いったい、なにが起きてるの?」
「あの男から聞いたろ。地面が裂けたって。もうあの土地の人間は、全員逃げられない。力も取り上げられた人間に何が出来る」
「そんな…神様たちは、どうする気なの?」
「言ったろ。遊ぶんだ」
「あ、遊ぶ?」
いまいち意味が分からない。
人間で遊ぶってどういうことなの?
神様っていうのは、慈悲深くて、人間を大切に思っているんじゃないの?
291
お気に入りに追加
9,409
あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。