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第1部
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強い風が下から吹き上げた。
内臓がふわりと浮き上がるような、この感覚にいつまでも慣れない。
飛ぶのは駄目でも浮くことだったら、出来るだろうと思って、魔法を使ってみるも、なかなか思うような高さまで浮くことが出来ない。これなら、ジャンプしたほうが高いのでは?と思ってしまうような高さしか浮くことが出来ない。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
疲れた。繰り返し魔法を使っていると、さすがに力を使い続けているせいで、体が疲労してくる。玉のような汗がぽたぽたと落ちる。
汗が、目に入り、痛くて、少しだけ泣いた。
馬は、ただじっと私の様子を見守り続けている。
なかなか乗れない私に苛立つ様子も飽きた様子も見せない。
動物にしては、明らかに不自然なくらいに。大人しい。
馬は、何もしてくれないが、人間と違って、待たせているというプレッシャーを感じないで済むのは、ありがたい。
もし、焦っていたら、魔法もうまくいかなかったかもしれないから。
ふわり、ふわりと浮きはするのに、馬の体が大きいせいで、なかなかうまくいかない。
何度挑戦してもうまくいかないことに、だんだん苛立ちが沸いてくる。
別に乗れなくてもいいのではないか。
そもそもどうして、この馬は私のもとにやって来たんだろう。
この馬に乗ることが出来たとして、それで隣の国に行ける補償なんて、どこにもない。行ったとして、ポッドがいるとも限らない。それに今更、どうしようというんだろうか。
今更、私があの国に行ったって、どうしようと…。
そんな考えが、次々と頭を流れていく。
それでも、私は魔法を使い続けて、なんとか馬の背中に乗ろうと、もがき続けた。
両親は、死んだと、王子は言った。
でも、あの国には、まだ妹がいる。
妹がしてきたことは、到底許せるものではない。彼女の性格を考えると、きっと私と会っても謝罪なんて一生しないだろうし、向こうは私になんて、会いたくないと考えているだろう。
もしくは、私がこの国の待遇を聞いたら、態度を変えて、蹴落とそうとするかもしれない。
妹は、邪魔な人間がいたら、基本的に排除するという考えの持ち主だったから、会うのは危険かもしれない。
魔法が使えるようになったとはいえ、まだ自分の体を守る手段だって、ろくにないのだから。攻撃されたら、けがをするかもしれない。
「う、わっ!」
突如、大きな風が下から吹き上げた。
私の体を高く浮き上がらせるには、十分なほどの強さだった。
「わ、わ、」
馬の体を余裕で越せるほどの高さまで浮き上がり、私はそのままなんとか馬の背中に体を乗せることが出来た。
「よ、いしょ」
「……」
こんなに苦労して、やっとできたのが、馬の背中に乗ることだなんて、ポッドに知られたら、笑われるかしら…。
内臓がふわりと浮き上がるような、この感覚にいつまでも慣れない。
飛ぶのは駄目でも浮くことだったら、出来るだろうと思って、魔法を使ってみるも、なかなか思うような高さまで浮くことが出来ない。これなら、ジャンプしたほうが高いのでは?と思ってしまうような高さしか浮くことが出来ない。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
疲れた。繰り返し魔法を使っていると、さすがに力を使い続けているせいで、体が疲労してくる。玉のような汗がぽたぽたと落ちる。
汗が、目に入り、痛くて、少しだけ泣いた。
馬は、ただじっと私の様子を見守り続けている。
なかなか乗れない私に苛立つ様子も飽きた様子も見せない。
動物にしては、明らかに不自然なくらいに。大人しい。
馬は、何もしてくれないが、人間と違って、待たせているというプレッシャーを感じないで済むのは、ありがたい。
もし、焦っていたら、魔法もうまくいかなかったかもしれないから。
ふわり、ふわりと浮きはするのに、馬の体が大きいせいで、なかなかうまくいかない。
何度挑戦してもうまくいかないことに、だんだん苛立ちが沸いてくる。
別に乗れなくてもいいのではないか。
そもそもどうして、この馬は私のもとにやって来たんだろう。
この馬に乗ることが出来たとして、それで隣の国に行ける補償なんて、どこにもない。行ったとして、ポッドがいるとも限らない。それに今更、どうしようというんだろうか。
今更、私があの国に行ったって、どうしようと…。
そんな考えが、次々と頭を流れていく。
それでも、私は魔法を使い続けて、なんとか馬の背中に乗ろうと、もがき続けた。
両親は、死んだと、王子は言った。
でも、あの国には、まだ妹がいる。
妹がしてきたことは、到底許せるものではない。彼女の性格を考えると、きっと私と会っても謝罪なんて一生しないだろうし、向こうは私になんて、会いたくないと考えているだろう。
もしくは、私がこの国の待遇を聞いたら、態度を変えて、蹴落とそうとするかもしれない。
妹は、邪魔な人間がいたら、基本的に排除するという考えの持ち主だったから、会うのは危険かもしれない。
魔法が使えるようになったとはいえ、まだ自分の体を守る手段だって、ろくにないのだから。攻撃されたら、けがをするかもしれない。
「う、わっ!」
突如、大きな風が下から吹き上げた。
私の体を高く浮き上がらせるには、十分なほどの強さだった。
「わ、わ、」
馬の体を余裕で越せるほどの高さまで浮き上がり、私はそのままなんとか馬の背中に体を乗せることが出来た。
「よ、いしょ」
「……」
こんなに苦労して、やっとできたのが、馬の背中に乗ることだなんて、ポッドに知られたら、笑われるかしら…。
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