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第1部

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城の人たちが、私の姿を見て挨拶をしてくる。
普段であれば、私も一人、一人に頭を下げて挨拶をしていたが、今はそれも惜しい。
目を合わせて軽く頭を下げて挨拶をしていく。
そして、ついに城の祭壇で、聖女様を見つけることができた。

「聖女様」
「エミリア。どうしました?そんなに急いで…なにかありましたか?」
「わ、私にペガサスを貸してくださいませんか?」

隣の国に徒歩で行くには、遠すぎる。
それに今は、瘴気も噴出して、魔物も出ているらしい。
護衛を連れて行かないと、生身で行くには、危険すぎる。

「まぁ。どうしてですか?」
「わ、私、隣の国に行きたいんです!」
「…どうして?」
「私の友人が、いるかもしれないんです…私は、彼に会わなくてはいけないんです」
「エミリア」

聖女様は、私を痛ましいと思っているのか、悲しそうな目で見つめてくる。

「エミリア。その相談は、受け取れません。今、隣の国は、とても危険な状態にあります。神々が、かの地に罰を与えるというお告げをもらいました」
「え…じゃ、じゃあ…あの国は、どうなるのですか?」
「近い将来、滅びることは間違いありません。今、あの国だけではなく、周囲の地域もとても不安定な状態にあります。瘴気はあふれ、強い魔物の出現も確認できました。世界中で、今、あそこには接近禁止命令が出されているのです」
「そ、そんな…でも、私、どうしても行きたいんです」
「エミリア。いい加減になさい。あなたは、なぜ、ここにいるのか。来ることになったのか、思い出しなさい」

これまで見たこともない聖女様の鋭い視線と表情に、私はうつむいてしまう。
分かっている。私は、ただ、神様の気まぐれで、ここに来ることができた。
でも、それはポッドが、私のために神様に頼み込んでくれたからだ。
そうでなければ、私は今もあの国にいた。
そして、きっと部屋でぼんやりと国が死んでいくのを見ながら、一緒に死んでいたに違いない。

「それにペガサスは、王族の持ち物です。私たちが勝手に使えるものではありません」
「仮に使おうとしたら?」
「まず、言うことを聞かないでしょうね。王族と主の命令しか、聞かない生き物ですから」
「……」
「時が来るのを待ちなさい。大丈夫。きっとあなたの友人は、帰ってきます。あなたがよい子にしてさえいれば」
「良い子…?」

良い子ってなに?
こうやって、待つしかできないの?
そうやっていれば、ポッドは来てくれるの?
それに、妹は…。

待っていても何も変わらないことを私は、知っている。
だからといって、ポッドがいない今、私にいったい何ができるのだろう。
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