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顔を洗って、身支度を整えていると、ノックの音が聞こえた。
「サクラ。起きてる?」
ウィルの声だった。
私は扉を開けると、ウィルもまた少しだけ緊張しているのか、笑顔が硬い。
「おはよう。ウィル」
「おはよう。サクラ。よく眠れた?」
「もちろん。体調管理はバッチリ」
ウィルに片目をつむって笑って見せると、ウィルが目を見開いた。
「なんか、余裕そうだね。昨日は、あんなに戸惑ってたのに」
「意外とね。でも、外に出たら分かんないかも」
あはは。と笑うと、ウィルの肩の力が抜けた。
「そう。心強いな」
「当然。ウィルより年上だからね」
「……朝食また一緒にとってもいい?」
「もちろん!」
ウィルを部屋に招き、また私の部屋にウィルと私の分の朝食を用意してもらった。
「そういえば、あの4人はどうしてるの?」
「兄上は、ずいぶんと過保護でね。今日もまたどこかに遊びに行くと言っていた。パーティーに貴族のお茶会にも招待されたと言っていたかな」
「外堀を埋めていく作戦なのかな」
「今は、それどころじゃないというのにね。兄上は、全然わかってない」
先代が儚くなられてから、ずいぶんと経ったと言っていたが、その影響はどうやら、私が思っているよりも強いのかもしれない。具体的に、どう大変なのかは分からないが、それに対して自身の兄が遊んでいる(ように見えるだけなのかもしれないが)のであれば、思うところもあるのだろう。
「瘴気がほんの少し、この国の市民街に流れていたことがあったんだ」
「そうだったんだ。だったら」
瘴気の毒は、少量だけでも猛毒と聞く。それが市民街に流れたとしたら、大変なことではないか。
「流行り病で、ずいぶんと多くの人が死んだ。今だって、苦しんでいる人がいるというのに、兄上も、貴族たちもなにも思っていないみたいだ」
「その瘴気の毒が貴族たちが住んでいるところにも届くじゃないの?他人事じゃないのに?」
「貴族たちが住む場所は、城下近くだから、結界の力が届いているんだ。だから、他人事なんだよ」
「どこもお偉いさんの考えは同じなのねぇ」
「だから、僕はどうしても魔物を退治して少しでも瘴気の毒を薄くすることが出来ればって考えてる。魔物討伐に向かう兵士は、一般の出がほとんど。貴族出身は、まず来ない」
「それって大丈夫なの?」
「大丈夫。実戦経験は、どこよりも積んでる。体力も精神も貴族の騎士たちとは違う。たぶんなる理由が違うからなんだと思う」
「なる理由?」
「一般の兵士は、全員自分たちで志願しているんだ。国を守りたい、家族を守りたいとか、理由はいろいろあるけど。まぁ、給料がいいからという理由もあるかもね。でも、やっぱり努力しなくてもなれる貴族たちより、強いと思う。身分とか関係なく」
「ふぅん。でもウィルは、どうして前線で戦うの?王子様なんだから、怪我したら困るんじゃない?」
「僕は、魔法が使えるからね。それにサクラが引っ張り出されるのに、僕が城でお留守番出来るわけないよ」
「ちなみに実戦経験ってあるの?」
「……ちょっとだけ」
「自信なさそう……」
「まだ先代が存命の時に、少しだけ手伝ったことがあったんだ。でも、あの時は魔物も弱体化していたし、なにより先代の力が強かったから、僕は、ほとんど見学に近かったんだ」
「先代って王妃様だよね?王妃様も戦ったの?」
「戦うといっても剣をもって戦うとかじゃないんだ。そこにいるだけでも魔物が弱体化するから」
「なるほどデバフか~」
「サクラ。起きてる?」
ウィルの声だった。
私は扉を開けると、ウィルもまた少しだけ緊張しているのか、笑顔が硬い。
「おはよう。ウィル」
「おはよう。サクラ。よく眠れた?」
「もちろん。体調管理はバッチリ」
ウィルに片目をつむって笑って見せると、ウィルが目を見開いた。
「なんか、余裕そうだね。昨日は、あんなに戸惑ってたのに」
「意外とね。でも、外に出たら分かんないかも」
あはは。と笑うと、ウィルの肩の力が抜けた。
「そう。心強いな」
「当然。ウィルより年上だからね」
「……朝食また一緒にとってもいい?」
「もちろん!」
ウィルを部屋に招き、また私の部屋にウィルと私の分の朝食を用意してもらった。
「そういえば、あの4人はどうしてるの?」
「兄上は、ずいぶんと過保護でね。今日もまたどこかに遊びに行くと言っていた。パーティーに貴族のお茶会にも招待されたと言っていたかな」
「外堀を埋めていく作戦なのかな」
「今は、それどころじゃないというのにね。兄上は、全然わかってない」
先代が儚くなられてから、ずいぶんと経ったと言っていたが、その影響はどうやら、私が思っているよりも強いのかもしれない。具体的に、どう大変なのかは分からないが、それに対して自身の兄が遊んでいる(ように見えるだけなのかもしれないが)のであれば、思うところもあるのだろう。
「瘴気がほんの少し、この国の市民街に流れていたことがあったんだ」
「そうだったんだ。だったら」
瘴気の毒は、少量だけでも猛毒と聞く。それが市民街に流れたとしたら、大変なことではないか。
「流行り病で、ずいぶんと多くの人が死んだ。今だって、苦しんでいる人がいるというのに、兄上も、貴族たちもなにも思っていないみたいだ」
「その瘴気の毒が貴族たちが住んでいるところにも届くじゃないの?他人事じゃないのに?」
「貴族たちが住む場所は、城下近くだから、結界の力が届いているんだ。だから、他人事なんだよ」
「どこもお偉いさんの考えは同じなのねぇ」
「だから、僕はどうしても魔物を退治して少しでも瘴気の毒を薄くすることが出来ればって考えてる。魔物討伐に向かう兵士は、一般の出がほとんど。貴族出身は、まず来ない」
「それって大丈夫なの?」
「大丈夫。実戦経験は、どこよりも積んでる。体力も精神も貴族の騎士たちとは違う。たぶんなる理由が違うからなんだと思う」
「なる理由?」
「一般の兵士は、全員自分たちで志願しているんだ。国を守りたい、家族を守りたいとか、理由はいろいろあるけど。まぁ、給料がいいからという理由もあるかもね。でも、やっぱり努力しなくてもなれる貴族たちより、強いと思う。身分とか関係なく」
「ふぅん。でもウィルは、どうして前線で戦うの?王子様なんだから、怪我したら困るんじゃない?」
「僕は、魔法が使えるからね。それにサクラが引っ張り出されるのに、僕が城でお留守番出来るわけないよ」
「ちなみに実戦経験ってあるの?」
「……ちょっとだけ」
「自信なさそう……」
「まだ先代が存命の時に、少しだけ手伝ったことがあったんだ。でも、あの時は魔物も弱体化していたし、なにより先代の力が強かったから、僕は、ほとんど見学に近かったんだ」
「先代って王妃様だよね?王妃様も戦ったの?」
「戦うといっても剣をもって戦うとかじゃないんだ。そこにいるだけでも魔物が弱体化するから」
「なるほどデバフか~」
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