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いくつもの扉をくぐり、奥に奥に進むと、地下への階段に案内された。
「地下にあるの?」
「うん。足元暗いから気を付けて」
確かに国の守りとされている世界樹の苗木を隠すなら、城の地下に置いておくほうが安心するだろう。城の地下室なんて、少しだけワクワクする。地下の階段は、通路の幅は狭く、人、一人が通れるほどのものだった。仮に上に上がろうとした人がいても、すれ違うことは、難しいだろう。
「これが世界樹の……」
「そうだ。ヒメカがこれに愛を示すんだ」
階段を下りていくと、話声が聞こえる。
よく通る声に、聞き覚えがある。
「兄上」
案の定、声の主は、あの最初の部屋にいた女の子と、その女の子を連れて行った青年ご一行様だった。
「ウィルか。なんだ、その女を連れてきたのか」
「はい。サクラは聖女ですので、世界樹の苗木を見てほしくて」
「ふん。その女が聖女なわけがあるまい」
「…なぜそう言い切れるのですか?サクラは、聖女召喚の術で呼ばれた人です。聖女でなければ、あの場に来ることはなかった」
「裸で現れるような女が聖女なわけなかろうが!」
「……確かに?」
「それは、こちらがタイミングも考えずに無理やり呼んだからです。サクラだって裸で来たくて来たわけじゃありません。ですよね?」
「はい。まぁ。できれば、仕事が休みのお昼とかに呼んでほしかったですね」
「なにを言ってるんだ?時間指定なんて出来るわけないだろう」
「出来ないんですか?本当に試してみましたか?」
「試してはないが」
「じゃあ出来るかもしれないじゃないですか」
「確かに?」
「レイン。なに言いくるめられてるんですか」
青い髪の青年が呆れたように言った。私もそう思った。この人、意外と流されやすいのかもしれない。
「そうだよ!私は家に帰る途中で、ここに来たけど、まだお昼だったよ」
「あれ?じゃあ時間が違いますね。私は、深夜でした」
「え?」
「もしかして、日付も違ったりしますか?私は11月15日の深夜でした。日付は変わる前ですね」
「……2月25」
「へぇ。日付も時間も違う人が召喚されるんですね。面白い」
「それがなんだっていうんだ!召喚されたってことが重要だろうがっ!」
「じゃあ、召喚された私も重要になりますね」
「あっ!」
しまった、という顔になる赤い髪の青年。
おもしろいなぁ。自分で墓穴掘ってる。
「レイン。もう行きましょう。おいおい分かってくることです。どちらのほうが聖女にふさわしいかなんて」
「そ、そうだな!ヒメカ!今度は、城の外も案内しよう!今、面白い演劇が始まっていて、この国の歴史に関わる、初代国王と初代聖女の恋愛物語だ。きっとヒメカも気に入ると思う」
「うん。楽しみだなぁ。……ねぇ、あなたのお名前なんていうの?」
「私ですか?」
「うん」
この子、ぐいぐい来るなぁ。それに初対面のウィルに対しても敬語を使わずに来るし。
「ウィル・アルカデアと申します」
「ウィルね!」
にこっとヒメカちゃん?が笑った。可愛い。本当にアイドルみたいに顔がいい。
戸惑ったようにウィルが頷いていると、赤い髪の青年が焦れたように「ヒメカ!そんな末っ子は放っておいて、早く劇を見に行こう!」と叫んだ。
「じゃあ、またね。ウィル」
「はぁ……」
ヒメカちゃんは、私を見ることなくいってしまった。
自己紹介くらいしたかったな。同じ日本人なんだし。聖女とかわけわからない理由で呼び出された仲間だし。
しかし、あの子すごいな。肝が据わっているというか。もうあの信号機トリオになじんでいる様子だった。異世界なら、あれくらいグイグイいくほうがいいのかもしれないなぁ。
なんて、階段を上がっていくヒメカちゃんを私は見送った。
「地下にあるの?」
「うん。足元暗いから気を付けて」
確かに国の守りとされている世界樹の苗木を隠すなら、城の地下に置いておくほうが安心するだろう。城の地下室なんて、少しだけワクワクする。地下の階段は、通路の幅は狭く、人、一人が通れるほどのものだった。仮に上に上がろうとした人がいても、すれ違うことは、難しいだろう。
「これが世界樹の……」
「そうだ。ヒメカがこれに愛を示すんだ」
階段を下りていくと、話声が聞こえる。
よく通る声に、聞き覚えがある。
「兄上」
案の定、声の主は、あの最初の部屋にいた女の子と、その女の子を連れて行った青年ご一行様だった。
「ウィルか。なんだ、その女を連れてきたのか」
「はい。サクラは聖女ですので、世界樹の苗木を見てほしくて」
「ふん。その女が聖女なわけがあるまい」
「…なぜそう言い切れるのですか?サクラは、聖女召喚の術で呼ばれた人です。聖女でなければ、あの場に来ることはなかった」
「裸で現れるような女が聖女なわけなかろうが!」
「……確かに?」
「それは、こちらがタイミングも考えずに無理やり呼んだからです。サクラだって裸で来たくて来たわけじゃありません。ですよね?」
「はい。まぁ。できれば、仕事が休みのお昼とかに呼んでほしかったですね」
「なにを言ってるんだ?時間指定なんて出来るわけないだろう」
「出来ないんですか?本当に試してみましたか?」
「試してはないが」
「じゃあ出来るかもしれないじゃないですか」
「確かに?」
「レイン。なに言いくるめられてるんですか」
青い髪の青年が呆れたように言った。私もそう思った。この人、意外と流されやすいのかもしれない。
「そうだよ!私は家に帰る途中で、ここに来たけど、まだお昼だったよ」
「あれ?じゃあ時間が違いますね。私は、深夜でした」
「え?」
「もしかして、日付も違ったりしますか?私は11月15日の深夜でした。日付は変わる前ですね」
「……2月25」
「へぇ。日付も時間も違う人が召喚されるんですね。面白い」
「それがなんだっていうんだ!召喚されたってことが重要だろうがっ!」
「じゃあ、召喚された私も重要になりますね」
「あっ!」
しまった、という顔になる赤い髪の青年。
おもしろいなぁ。自分で墓穴掘ってる。
「レイン。もう行きましょう。おいおい分かってくることです。どちらのほうが聖女にふさわしいかなんて」
「そ、そうだな!ヒメカ!今度は、城の外も案内しよう!今、面白い演劇が始まっていて、この国の歴史に関わる、初代国王と初代聖女の恋愛物語だ。きっとヒメカも気に入ると思う」
「うん。楽しみだなぁ。……ねぇ、あなたのお名前なんていうの?」
「私ですか?」
「うん」
この子、ぐいぐい来るなぁ。それに初対面のウィルに対しても敬語を使わずに来るし。
「ウィル・アルカデアと申します」
「ウィルね!」
にこっとヒメカちゃん?が笑った。可愛い。本当にアイドルみたいに顔がいい。
戸惑ったようにウィルが頷いていると、赤い髪の青年が焦れたように「ヒメカ!そんな末っ子は放っておいて、早く劇を見に行こう!」と叫んだ。
「じゃあ、またね。ウィル」
「はぁ……」
ヒメカちゃんは、私を見ることなくいってしまった。
自己紹介くらいしたかったな。同じ日本人なんだし。聖女とかわけわからない理由で呼び出された仲間だし。
しかし、あの子すごいな。肝が据わっているというか。もうあの信号機トリオになじんでいる様子だった。異世界なら、あれくらいグイグイいくほうがいいのかもしれないなぁ。
なんて、階段を上がっていくヒメカちゃんを私は見送った。
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