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殿下の突拍子もない言葉には、慣れてしまったから、もうどうにでもなれと思い直すことにしよう。

「殿下も用意があることでしょうし。では、出発は一週間後でよろしいですか?」
「ああ…いいか。絶対に一人で行くことは許さないからな」
「はいはい。かしこまりました」

念には念をと、渡されたのは、私がこの国を出ると、特大のアラームが鳴るように設定された魔法具である。

「ええ…」
「無理やり外そうとすれば、それもまたアラームが鳴る仕組みになっている」
「そんなん首輪みたいなものじゃないですか…」

犬、猫じゃあるまいし。
もしくは、犯罪者か?
国外逃亡を図ろうとしているわけでもないんだから、こんなものは必要ないのに。
というか、こんな魔法具があるのか。
いったい、これは何用なんだ。
そして、殿下もよくまぁ、こんな奇妙なものを持ち歩いていたものだ。

「ふむ。首輪か…」
「あの?殿下?」
「首輪はいいな!採用」
「だから、殿下なにが!?」
「魔術師たちに首輪型が作れないか聞いてみよう。安心しろ。俺のポケットマネーから作らせる」
「いや、なにも安心できる要素ありませんけど!首輪型の魔法具作らせようとする殿下とか、また面白おかしく新聞に書かれるから、やめてください!ってか、旅の準備してください」

ははは!とか高らかに笑いながら、廊下を颯爽と歩いていく殿下の後ろ姿を途方に見送る私と大臣の気持ちなんて、わかってないんだろうな…。

「あら。そこにいらっしゃるのは、第6聖女様じゃありませんか?」

この声は、殿下大好き。筆頭ストーカー聖女の第1聖女の声。
振り向きたくねぇ~。
しかし、振り向かないといけないときが、この世にはたくさんある。
ということで、しぶしぶと振りむくと、これまた嫌そうな顔をしている第1聖女様がいらっしゃる。

「殿下は、どこですの?」
「殿下は、颯爽と廊下を歩いて行かれましたよ」

あちらのほうに、と手で指し示せば、舌打ちを返された。
慣れているから、別に気にしていないが、聖女様が舌打ちしたなんて、国民に知られれば、ショックを覚える人もいるだろうな。
なにせ、聖女代表格の第1聖女様なのだから。

「またあなたは、抜け駆けですか」

彼女が見ているのは、私の国外逃亡阻止アラームだ。
え?まさかこれが欲しいのだろうか。

「なんの話ですか」
「…いやらしい女。そんなものを見せつけておいて、シラを切るつもり?…あぁ。それともわざとかしら」
「え?まさかこれが欲しいんですか?」

これ、首輪みたいなもんだけど。
暗に信用してないからな、って言われているようなもんだけど。
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